全民健康保険―台湾の経験
中華民国行政院衛生署
署長 邱文達
一、はじめに
世界保健機関(WHO)は、保健介護システムの設置をきわめて重視しており、2010年度版『世界保健報告書』の内容も「国民皆保健」をテーマとしています。今年のWHO年次総会も「国民皆保険を目指して(Towards Universal Coverage)」がテーマであり、世界各国が整備された国民健康保険システム構築の必要性について、普遍的なコンセンサスがあることを示しています。
台湾の全民(国民)健康保険制度は、スタートして18年が経ち、国内外から高く評価されています。米国のABCニュースや公共テレビ(PBS)ではいずれも、台湾の全民健康保険制度について単独取材の番組を製作したことがあり、米国のCNNでも今年、台湾、英国、スイスの健康保険の医療制度について報道し、わが国の全民健康保険制度の成果を高く評価しています。2011年には、全民健康保険制度について、世界50カ国以上もの国の代表団が、台湾へ視察に訪れました。
二、全民健康保険について
台湾は全民健康保険制度のスタート前、40%以上の国民が健康保険に未加入でした。7年間にわたる計画期間を経て、全民健康保険制度は1995年3月1日にスタートしました。これは、単一保険者の制度を採っており、財務的に運営自体の中で収支をまかなう社会保険であり、その保険料は政府、雇用主、被保険者の3者が共同で負担しており、現在は99.6%が加入しています。
全民健康保険は、各被保険者に対して、完全な医療サービスを提供するものであり、受診、入院、東洋医、歯科、分娩、リハビリ、家庭での介護、慢性精神疾患のリハビリなどの項目が含まれています。被保険者は、国内にある2万5000カ所以上もの医療施設で診療を受ける権利があり、必要時にはただちに医療サービスを受けることができます。
三、最近における改革
全民健康保険制度の実施から長い年月が経過し、政府は現在の同制度の検討を行い、「第二世代保険」の改革方案を提出しました。この改革は、収入面の公平性および収支の連動を重視しており、個人の非給与所得および配当金などがある場合には、その2%を補充保険料として徴収するというものです。改革方案は2013年に実施を予定しており、その際には一般の保健料の比率が引き下げられ、給与所得者の負担が軽減されると共に、保険料負担の公平性が高まり、さらなる社会正義が実施されることになります。
実際においては、仕事に責任をもって真摯に取り組み、誠実で熱心に働く台湾の医療従事者各位が、全民健康保険制度成功の最大の要因であり、偉大なる医療従事者各位に最高の敬意と感謝の意を表する次第です。
長年にわたり、被保険者に手の届く、低価格で効果的な医療サービスを重視してきたため、台湾は現在、医療従事者の人員不足および労働負担過多の問題に直面しており、政府は医療の従事者および環境の改革に全力を上げて取り組んでいます。
四、結論
台湾の健康保険制度の成功は、全国民の加入、適正な医療の質、医療を受ける際の利便性など目標をクリアしたことにあります。また、医療費のコントロールも良好であり、国民の医療保険総支出は、台湾の国内総生産(GDP)のわずか6.9%です。整備された情報システムの協力により、健康保険制度運用の行政コストについても、健康保険の医療支出の1.5%を占めるのみです。2011年の年末までに、健康保険料の補助を受けた社会的弱者は307万人でした。社会的弱者が健康保険システムに入ることにより、国民は病気で貧しくなることはなく、貧しいことにより病気になることもなくなりました。これらの長所により、健康保険が台湾で最も成功したインフラ建設の1つとなったのであり、世論調査においても同制度の満足度は88.6%に達しました。
健康保険制度も含め、台湾の多くの医療・衛生の成果は国際社会において評価され、台湾は2009年よりWHO年次総会のオブザーバーにもなり、より一層広範且つ密接に国際的な衛生協力へ参加する新しい契機が開かれたのでした。台湾はWHOのプラットフォームを通して、わが国の経験を国際社会と喜んで分かち合い、世界の人々の健康水準を共に引き上げていく所存です。しかし、残念なことに、台湾がWHO年次総会のオブザーバーとなってから今日まで、WHOの実質的参加への深化には、まだ顕著な進展がありません。2011年5月には、メディアがWHO内部の機密文書を公にし、それによると、WHOの組織内部では、台湾を不当に矮小化し、台湾が同総会への出席に対して多くの制限を設たことが明らかとなり、わが国国民の不満および国際社会の厳重なる注視を引き起こしました。台湾は多数回にわたり、WHOの事務局に対し、同文書およびそれが示した偏った政治的意図について、抗議の意を明らかにするとともに、受け入れることができないという厳正な立場を表明しました。私はこの場において、国際社会に支持を呼びかけるものであり、WHOの事務局が台湾の要求に応え、台湾がWHO年次総会出席の形式を、WHOのその他の会議、メカニズム、情報の提供および文書の中にまで拡大し、台湾の意義ある参加を確保し、尊厳あるWHOへの参加ができるよう呼びかける次第です。
《2012年5月25日》