
陳水扁総統が馬英九・次期総統と会談
陳水扁総統は4月1日、台北賓館で馬英九・次期総統と会談し、約1時間にわたって外交、両岸関係等について意見交換した。総統府からは陳唐山・総統府秘書長、林徳訓・総統弁公室主任が、馬次期総統側からは詹春柏・国民党副主席、詹啓賢・馬蕭弁公室執行総幹事が同席した。
このなかで、陳総統は「『一つの中国』の解釈を各自が表明する」とした「92年のコンセンサス」を両岸対話の基礎とすることは受け入れられないとの考えを示した。陳総統は「92年のコンセンサス」には、①「92年のコンセンサス」の事実が存在したかどうかが不明確、②「92年のコンセンサス」の具体的な内容が如何なるものか不明確、③「92年のコンセンサス」をもし協議再開の基礎とした場合、未来の発展と起こり得る変化が不明確――の「3つの不明確」があることを指摘し、これらの点に注意が必要であることを馬次期総統に伝えた。
陳総統は、李登輝前総統および辜振甫・海峡交流基金会董事長(会長)、当時交渉にあたった許恵祐氏などがいずれも「92年のコンセンサス」は存在しないと明言していることや、当時の蘇起・元行政院大陸委員会主任委員が2000年4月に創造したもので事後承認したものであることを挙げ、事実的に疑問があるものを協議再開の基礎とするには問題があるとの認識を示した。
さらに陳総統は、「中共(中国共産党)は『一つの中国、一つの台湾』に反対しているだけでなく、『二つの中国』にも反対している。もしも『一つの中国』の『解釈を各自が表明』してよいというのなら、『二つの中国』を承認すことと変わらない。これはきわめて厳粛な問題であり、一人よがりの願望ではならず、注意する必要がある」と指摘した。
陳総統は「中共が欲しいのは『解釈を各自が表明』することではなく、『一つの中国』である。われわれが必要なのは『解釈を各自が表明』することであるが、それが得られなかった場合、かれらの『一つの中国』に引きずり込まれてしまう」と述べ、馬次期総統が提起している「台湾を主体とし、国民に対して有利」とする指導原則に背くのではないかとの懸念を示した。
これに対し、馬次期総統は「『一つの中国の解釈を各自が表明する』については、われわれの憲法は、そもそも『一つの中国憲法』である。われわれの憲法が制定されたとき、中共の政権はまだできていなかった。われわれは1946年12月25日に憲法を制定したのだ」と指摘し、「当時、第二の中国はなかったのであり、当然ながら『一つの中国』の憲法である。但し、この『中国』は当然ながらわれわれの『中華民国』を指す」と強調した。
馬次期総統は「もし、われわれが『一つの中国』は受け入れるが、われわれの『一つの中国』は『中華民国』を指すと言えば、かれら(中共)は気分を害するかもしれない。かれらは中華民国はすでに滅亡したと認識しており、いま『中華民国史』を編纂している。これまでにおいて前の代の王朝の歴史を編纂することは、その王朝が終わったことを意味する。われわれは『すみませんが、まだ終わっていない』と言いたい」との考えを示した。
馬次期総統は、各国が中華人民共和国と国交を樹立する際のコミュニケに関して、「コミュニケの内容の第一点は『中華人民共和国を中国唯一の合法政府である』と承認させることであるが、重要なのは中共の台湾に対する主権の見解を示す第二点であり、これには多くのモデルがある」と述べ、米国の「認識する」(acknowledge)、カナダの「留意する」(take note of)、日本の「理解し、尊重する」など多くの見解があるほか、1972年の米中コミュニケでは英語の「acknowledge」を中国語で「承認」と訳しており、これを英語に再翻訳すると「recognize」になることから「一つの名詞の解釈をそれぞれが表明」していることを指摘した。
そのうえで、馬次期総統は「われわれも例外ではない。この話をした意味は、われわれ中華民国の主権を犠牲にしたり、国民の利益を犠牲にするものではなく、われわれがはっきりしているのは『一つの中国の解釈を各自が表明する』ことであり、この『一つの中国』は『中華民国』なのである」と強調した。
また、馬次期総統は「相互承認」、「相互否定」、「相互否定せず」の概念に関して、「『相互否定』は台湾から言えば、動員戡乱(反乱平定)時期条款のあったときのやり方であり、われわれはかれら(中共)を『共匪』(共産党の匪賊)と呼び、かれらはわれわれを『蒋幇』(蒋介石一味)と呼んでいたように、一種の対立状態である」と述べ、「李登輝総統の任期中に動員戡乱時期を終結し、この時代になるとわれわれはかれらについて『中共政権』または『大陸当局』という用語を使用するようになり、かれらを『匪賊』とみなすことはなくなった。これは、ある程度の事実上の承認がはじまったことを意味するものである」と説明した。
そのうえで、馬次期総統は「現在のこの時代に、以前の位置づけを維持するというのも難しいことだ。しかし双方が承認しあうというのは、さらに不可能なことである。われわれの憲法では認められない。中国大陸の1982年の憲法でも認められないことだ。では、どうすればよいか。最もよい方法は双方が『相互否定しない』ことであり、相互否定しない方法はいわゆる『agree to disagree』(合意できないことに合意する)ことである。われわれは異なる見解が存在することを認めあい、このテーマを棚上げすることで、われわれはその他の切迫したテーマから意見交換を進めることができる」との認識を示した。
馬次期総統は「中華民国は主権独立国家である。現在の主要な領土は台湾、澎湖、金門、馬祖である。この立場は非常に明確である」と強調し、「われわれはそんなに簡単に長年にわたって守ってきた主権を放棄したりはしない。われわれは必ず主権を守る。命を賭けて守る」と強調した。
また、馬次期総統は「われわれは双方が満足できなくても、双方が共に受け入れられる方法を見つけ出すべきだ。例えば世界貿易機関(WTO)に加盟したときの名称は『台澎金馬個別関税領域』だったが、これはわれわれの望むものかというと、当然望むものではない。しかしわれわれに別の方法があったのか。『台湾』を用いることはできず、『中華民国』も許されない。では、どうすればよいか。われわれはWTOに加盟することが重要なのか、それとも名称にこだわるほうが重要なのか。これはわれわれが理性的に選択しなければならないところである」と語った。
米国のブッシュ大統領と中国の胡錦濤・国家主席の電話会談に関して、中国・新華社の英語版が「One China, but each side is entitled to give different interpretations.」(中国は一つである。但し、双方は異なる解釈ができる)と報じたことに対して、馬次期総統は「こうした展開は、進歩だと言わざるを得ない」と指摘し、台米中にコンセンサスがあれば、未来の武力衝突の可能性を減少させることができるとの考えを示した。
「92年のコンセンサス」を基礎にした両岸交渉に関して、馬次期総統は「われわれが今後速やかに対岸と直航、観光客開放、貿易経済、さらには平和協定等、多くの交渉を展開するにあたり、いずれも試されることである。もしかれら(中共)が『“一つの中国”の各自による解釈は許さない』と言うのなら、『すみませんが、交渉はしない』と言えばよい。これは、簡単なことだ。なぜなら交渉することができないからだ。しかし、コンセンサスがあるというなら、交渉すべきか。私は交渉すべきだと考える」との認識を語った。
馬次期総統は陳総統との対中政策の違いについて、「私は、われわれのいずれもが台湾を愛していると信じている。しかし、大陸に対するアプローチが異なるのだ。今度は私の出番が回ってきた。私に試させてほしい。もし、かれらの立場が変わったら、われわれは交渉しない。どのようになろうとも、われわれの最低ラインである主権と尊厳は守る」と強調した。
これに対し陳総統は、「今日の台湾または中華民国と、中華人民共和国は事実上、二つの独立した、互いに隷属しない国家であり、これは動かすことのできない事実だと私は信じている。どうして私が『海峡両岸はそれぞれ別の国である』と言ったかというと、われわれのいわゆる『一つの国』は、『中華民国』であれ『台湾』であれ、絶対に『中華人民共和国』には属していないからだ。私は、あなたも台湾は中華人民共和国の一部であるなどとは言わないと信じているが、かれら(中共)は『台湾は中国の一部』であり、『台湾は中華人民共和国の一省』であり、『地方政府』であると主張している」と指摘した。
馬次期総統が「92年のコンセンサス」を基礎に両岸対話を再開する意向であることに対して、陳総統は「あなたが試してみたいというなら、私は反対しない。ただし、実際には非常に慎重に注意しなければならない」と念を押し、中国と接触する際には「主権」、「民主」、「平和」、「対等」の4原則を遵守するよう求めた。
「台湾海峡の現状」について陳総統は、「75%の台湾住民が『台湾は主権国家であり中国の一部ではない』と認識している。『中国の一部に属する』と認識しているのは3%だけであり、きわめて低い。同様に、わが国の領土の主権範囲はどこまでかと問えば、85%が『台湾、澎湖、金門、馬祖に限られ、中国大陸は含まない』と認識している。『中国大陸を含む』と認識しているのは約10%程度ときわめて低い。あなたはインタビューで中華民国は中国大陸を含むと明言したが、それなら今日のチベットやモンゴルの問題にも向き合わなければならない。モンゴル共和国は主権国家であり、しかも国連加盟国である。同様にチベット問題は抗議と鎮圧が国際社会の注目を集め、人々はきわめて関心を高めている。今日、われわれがチベット亡命政府に対してどのように関心を示し、声援を送るべきかの点に関しても、われわれは民主主義グループの一員として台湾政府と2,300万国民が世界と歩調を合わせなければならない」との認識を示した。
最後に陳総統は「中華民国」と「台湾」の関係について、「蒋介石・蒋経国父子の時代に『大陸にある中華民国』(中華民國在大陸)から『台湾に移った中華民国』(中華民國到台灣)となり、李登輝前総統の時代に『台湾にある中華民国』(中華民國在台灣)となった。私の任期になってからわれわれは『中華民国はすなわち台湾である』(中華民國就是台灣)と言った。しかしながら、あなたの政権になると今度はひっくりかえって『台湾はすなわち中華民国である』(台灣就是中華民國)となり、『台湾はすなわち中華民国である』というだけならまだよいが、さらに『中華民国は中国大陸を含む』と言ったり、台湾が中国大陸を含むなど、興味深いものである」と指摘した。しかしながら、陳総統は馬次期総統を最大限尊重する考えを示した。
写真提供:中央社
【総統府 2008年4月1日】