馬英九総統2013年元旦祝辞
馬英九総統は1月1日、総統府の大講堂で中華民国102年(2013年)の開国記念日および元旦の祝賀式典を主宰し、「奮起して行動し、未来を変えよう」と題する祝辞を述べた。
以下はその全文である。
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今日は中華民国102年(2013年)の開国記念日です。昨年を振り返りますと、世界経済の不景気がわれわれに厳しい試練を与えました。私は皆様に「ご苦労様でした。皆様の頑張りがあったからこそ、われわれは無事、この大変な一年を乗り切ることができました」と申し上げます。いま、世界経済はようやく復活の兆しが見えてきました。新しい1年を見通せば、台湾の経済情勢は昨年より必ずもっとよくなることでしょう。経済の回復が始まるこのときに、われわれはこのタイミングをうまく把握して、改革を加速し、奮起して行動すべきであり、次の4つの厳しい試練に対する答えを以下に示してまいりたいと思います。
1つ目の試練は、世界の産業競争がより一層激化することです。これまで、われわれのハイテク産業は、電子・情報・通信等の製品に大きく集中し、重要技術の取得を非常に高価な国外からの特許授権に依存していました。それでも、これらの産業は高い品質管理とコストコントロールの能力で、高効率の委託生産体系を確立し、国際サプライチェーンの中の重要な一環となりました。そしていま、グローバルな経済環境の変化にともない、各国の産業間の競争はますます激しくなり、われわれのこのような委託生産モデルは困難な状況に陥りつつあります。
2つ目の試練は、地域自由貿易ブロックの形成が加速していることです。東南アジア諸国連合(ASEAN)が主導する「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)の交渉が、今年始めに正式にスタートします。これは人口30億人、世界の総生産額の4分の1を占める世界最大の自由貿易圏を構築する構想です。そのほか、中国大陸と日本、韓国も今年3月か4月に「北東アジア自由貿易協定」の交渉を正式にスタートさせます。米国も、よりハードルの高い「環太平洋連携協定」(TPP)を積極的に推進しています。これらの地域経済統合の列車に乗りこむことができるかどうかが、わが国の経済・貿易の陣地を拡大できるかどうかのカギとなるのです。
3つ目の試練は、人材育成と産業ニーズの重大な不均衡です。われわれの大学・大学院教育は急速に発展してきましたが、学術と実務は密接に結びつくべきものであり、改善が待たれるところです。一方では、高学歴人材の就業が難しくなっており、大学卒業生の給与も横ばい状態が続いています。その一方で、産業界では研究開発と基礎技術の人材不足が続いています。産学間のこのような落差が今後も続けば、わが国の未来の発展が重大な影響を受けることになります。
4つ目の試練は、少子化と人口高齢化がもたらす年金問題です。過去10年間、台湾の少子化問題は急速に悪化しており、年間30万人だった新生児は年間約20万人まで落ち込みました。台湾は現在、およそ3人の現役世代で1人の老人・子どもを扶養していますが、15年後には、この数字が、およそ2人の現役世代で1人の老人・子どもを扶養する計算となり、その社会的負担は非常に重いものとなります。そのため、各種退職年金制度に潜在的な莫大な財政赤字が発生することになり、全民(国民)健康保険の財務状況の悪化も予測されます。これらの問題は直ちに差し迫るものではありませんが、事前に向き合っておかねば、将来の解決が一層困難となります。
これらの長期的に累積する構造的な難題に対し、政府は必ず、労働者をサポートし、企業を導き、全国民が困難を克服できるよう全力で取り組んでまいります。これらの難しい構造転換および制度改革の問題を処理することは、拍手されることはほとんどありません。しかし政府は国民に対して、子孫に対して、歴史に対して責任ある態度を示さなければなりません。必ずやるべきことを果たし、困難を克服し、台湾の持続可能な基礎を築いていきます。
まず、私が改めて申し上げたいのは、われわれは新しい価値の創造を通して、台湾の産業構造の転換を進め、台湾を国際サプライチェーンの重要部品と精密設備の提供者となり、グローバル経済・貿易体系の中において取って代わることのできない地位を築き上げなければならないということです。
私が最近、基層の市民を訪ねたとき、多くの成功例を観察し、台湾人の豊かな生命力を目撃しました。例えば、桃園県中壢の東培工業公司は、台湾の精密機械の重要部品(軸受)における最大の専門メーカーであり、外国企業の製品が台湾で長期にわたり独占していた状態の打破に成功したのみならず、自社のブランドでグローバル的な販売にも成功しています。新北市瑞芳の佰龍機械公司は世界第3位の布針織機メーカーで、国内外に数百件の特許を所有しており、自社創作の製品ブランドを世界に向けて販売しています。雲林県虎尾工業区の元翎精密工業公司は、世界ランキング第2位の小型高圧ボンベのメーカーで、世界でも数少ない自動車エアバッグのガス発生器メーカーです。政府は現在、「中堅企業躍進プロジェクト」を積極的に推進しており、このような重要な技術力と国際市場における競争力を持った傑出したメーカーを育成しようとしています。一般の人々はあまりご存知ないかもしれませんが、これらのメーカーは台湾の経済体系における「隠れたチャンピオン」なのです。
今後の政府の産業政策は、地元の雇用と国民所得の向上を増加させるようにしなければなりません。外資を誘致する政策は、過度な租税減免や労働コストの圧縮に依存する伝統的な思考から脱し、開放的で人間的な経営環境、先進的に完備されたインフラ設備へと改革し、高付加価値の製造業とスマートなサービス業の優位性ある条件を整えていかなければなりません。
台湾企業の台湾へのUターン投資を例にすると、われわれの重要なポイントは、台湾企業が台湾で生産できる競争力の優位性を構築していくことを支援していくことです。このような優位性は自己の新しい価値を創造していくべきものであり、生産コストを安価にするのではなく、まして環境の犠牲を代価とすべきではありません。
第2に、われわれは保護主義的な思考を打破すべきであり、台湾を一歩ずつ自由貿易島へと進めていかなければなりません。われわれは「自由経済モデル地区」を設置すると同時に、平等互恵の条件の下で、新興市場を開拓してまいります。現在、シンガポールは、ほとんどの貿易パートナーと自由貿易協定を締結しており、これらの国へ輸出する多くの製品が関税減免待遇を享受しています。わが国の主な貿易競争相手の一つである韓国は、現在も積極的に貿易パートナーと自由貿易協定の締結交渉を進めており、韓国から輸出する製品は、わが国よりも多くの関税優遇を受けています。それと比較して、われわれはこの面において、遠く及びません。わが国の産業が貿易競争相手と公平に競争できるようになるには、ただ急いで追いつくしかないのです。
対外的な開放は産業構造の転換をもたらし、新たな貿易チャンスを創出しますが、それには一定の代価を支払うことが避けられません。長期的に保護を受けてきた産業は、開放の衝撃を受けないわけにはいきませんが、政府はこれらの産業の転換をサポートします。適応化を経た産業は、その体質がより強くなります。一方、競争にさらされない産業の体質は逆に弱くなります。私は、台湾の産業の活発なイノベーション能力が、台湾の経済的活力を取り戻し、持続可能な発展を守るバイタリティーになるものと深く信じています。
第3に、われわれは、教育を産業技術の研究開発の強固な後ろ盾とすべく、科学技術の研究開発体制を再構築し、産学連携を強化しなければなりません。苗栗県竹南の台湾保来得(ポーライト)公司は、そのよいモデルです。ポーライトが生産する小型モーター含油軸受は、生産額および生産量いずれも世界ナンバーワンです。同社は大学との産学連携を進め、学校ではカスタマイズされたカリキュラムを開設し、会社の総経理(社長)クラスの幹部が学校で講義するほか、学生の青年たちに産業ニーズを明確に理解させ、工程技術を習得させると同時に、企業が優れた専門分野の技術者を補充できる体制を構築しております。
こうした課題に効果的に対応するため、行政院国家科学委員会、経済部、教育部は「産学大連盟」および「産学小連盟」などのプランを積極的に検討し、学術と実用の落差を縮小させると同時に、大学の転換発展を推進するための評価システムを調整し、大学が各自の特色を構築できるようにしています。大学が常に世界ランキングや論文の発表本数を追求するような古い思考を、われわれは打破しなければならず、大学は自己の強みを生かして、教学、研究、実務技能に対して、適切な発展戦略を立てていくようにしなければなりません。大学は社会と緊密に連携すべきであり、学術、研究機構、産業の連結を促し、大学の社会的責任を果たし、台湾全体の競争力を引き上げていかなければなりません。
第4に、われわれは同じ船に乗る共済の精神で年金制度を改革していかなければなりません。台湾はわれわれのふるさとであり、われわれは運命共同体なのです。われわれは互いに包容力を持ち、許し合い、協力、互助の精神を持ち、強者は弱者を支え、現世代が次の世代を支えていくべきであり、これこそが持続可能な発展の精神なのです。これまで長期にわたり、わが国の年金制度は、「財源の不足、業種間の不公平、世代間の不均衡」の3大問題がありましたが、われわれは今後、「全面的、実務的、漸進、透明」の原則で年金制度の改革を進め、この制度をより公平にして、未来の世代が子々孫々より多くの保障を得られるようにしていきます。
台湾の2,300万の人々は、出自、地域、職業、世代に関係なく、同じ船の上にいます。災いも幸福も、栄光も屈辱も一緒に共有しています。4年前、われわれはリーマンショックによる金融危機の深刻な衝撃を受けましたが、「政府が銀行を支え、銀行が企業を支え、企業が労働者を支える」の3つの支援政策を通じて、台湾は経済危機を無事に乗り切りました。ここで、私が皆様に呼びかけたいのは、われわれは、無益な対立を回避すべきであり、敵対心を煽る挑発をしてはならず、絶対に社会の分裂を続けてはならず、直ちに空転と内部消耗をやめなければならないということです。
いま政府の最も重要な任務は、経済の活力を再生し、国民の自信を取り戻すことです。私は、政府が国民の自信を取り戻すカギは、行政チームの政策が明確であり、確固とした立場で、果敢に決断し、実行することであると深く認識しています。大胆さと行動力により、国民の自信と信頼が生まれ、社会的コンセンサスが導かれ、社会資源を統合し、全力で共通目標へ集中して邁進することができるようになるのです。
この重要な一年に、政府の各省庁は、産業構造の転換、地域自由貿易ブロックへの参加、科学技術研究開発の産業需要との結合、年金制度改革の4つの核心的問題に対して、難題を突破する決意と力強さを示さなければなりません。各省庁および政府・自治体は、これまでの慣習や旧習を打破し、全面的に政府資源の配置の合理性を見直し、1元レベルから切り詰めていく必要があります。民生に関わる重大政策については、より行き届いた計画を立て、より十分な意思疎通を行い、よりきめ細やかに執行しなければなりません。
政府は一つの集合体であり、それぞれバラバラであってはなりません。各省庁は必ず省益主義を捨て、自主的に身を挺して政策広報に努め、疑問点を解き、コンセンサスを形成していかなければなりません。各省庁は全力で行政効率の向上に取り組むべきであり、各首長は果敢に任務を遂行していかなければなりません。私がここで特に強調したいのは、政府は自発的に国民の利益のために働かなければならないということです。これまで、一部の公務員の「仕事を多くすれば、ミスも多くなるが、仕事を少なくすれば、ミスも少ない」という発想が、政府の効率向上の足を引っ張っていると、国民から批判を受けることもありました。今後、政府は上から下まで「仕事を多くすれば、多くの成果が生まれ、仕事を少なくすれば、少ない成果しか生まれない」という観念を堅持していかなければなりません。合法であれば、国民の利益を図ることを恐れず、積極的に努力し、国民に対して、国に対して有益なことをやっていく。例えば、一部の会計や調達法規のような不合理な法規制をわれわれは徹底的に見直して改正していく。そのようにして初めて、公務員が積極的に仕事に取り組むようになり、能力と柔軟性を持って人々の問題を解決することができるのです。法規制の緩和の幅と効果に対しては、行政院とその所属する省庁が特に貫徹して実施し、定期的に見直していく必要があります。
劇的に変化する世界の政治・経済の情勢に直面し、すべての公務員は使命感、さらには危機感、緊迫感を持って、全体が心を一致させ、全力で取り組む必要があります。行政チームも、釜に穴が開けば船が沈んでしまうとの決意と勇気を持って前身する行動力が必要であり、経済の活力を再生させ、国民の自信を取り戻さなければなりません。
両岸の平和はアジア太平洋の平和の基礎の一つとなるものであり、経済発展の促進と投資マインドを高める必要条件となっています。過去4年半の間に、両岸関係の改善と国際空間の開拓が両立するものであることが事実として証明されました。今後、中華民国は東アジアの平和を推進し、繁栄を促進する建設的な役割を引き続き果たしてまいります。
同時に、国際社会においては、われわれは常に米国との長期にわたる友情を大切にしており、オバマ大統領が再選後すぐにアジアを訪問し、東アジアの安全保障における秩序の維持に重要な作用を発揮したことを肯定的にとらえています。われわれは米国との「貿易・投資枠組み協定」(TIFA)の下での協議再開に向けて加速し、両国の経済・貿易関係を拡大、深化させていきます。最近、わが国が釣魚台列島の争議に対して提起した「東シナ海平和イニシアチブ」は、「主権争議を棚上げし、資源を共同開発する」との原則の下で、東シナ海を平和と協力の海にすることを主張するものです。わが国が日本と漁業交渉を進めているのは、その重要な一つのスタートなのです。中国大陸、日本、韓国と、次々と新しい指導者が生まれ、われわれは今後各方面との協力を望んでおり、緊張情勢を緩和し、東アジアを経済協力の正常な軌道へと戻していきたいと期待しています。
私は中国大陸の新しい指導者である習近平先生が「1992年のコンセンサス、『一つの中国』の解釈を各自表明する」を基礎に、引き続き両岸の平和発展を推進し、両岸交流を全面的に拡大し、深化させていくことを望んでいます。われわれは今後、「両岸経済協力枠組み協議」(ECFA)の後続協議を加速し、中国大陸資本および中国大陸からの留学生および個人旅行者の来台条件を緩和し、近いうちに「両岸人民関係条例」の全面的見直しおよび改正を進め、時代に合わない規制や差別的な規定を撤廃します。政府は今後、両岸の両会(台湾の海峡交流基金会と中国大陸の海峡両岸関係協会)の事務機関の相互設置を積極的に推進し、毎年増え続ける数百万人に及ぶ両岸間を往来する人々を保護し、両岸の平和発展のための制度化を通じて、より一層強固な基礎を築いていきます。
両岸の人々は同じ中華民族に属し、みな炎帝・黄帝の子孫であり、両岸の指導者はいずれも台湾海峡の恒久的平和を守っていくことが最優先任務となっています。両岸交流がますます制度化されるほど、両岸の人々のお互いの認識はますます深まり、両岸の平和もますます強固になっていきます。これは私が忘れることなく全力で追求している目標なのです。
過去数年間、私が台湾のさまざまな街角を訪ねたとき、われわれ台湾人が創意と決断で共に手を携えて頑張った、心を動かす物語があります。私が台中市梧棲で深く知った宏全公司は、直接生産ラインを顧客の工場内に設けて輸送コストと包装コストを削減したことにより、台湾最大の食品飲料包装材供給メーカーに躍り出たのです。また、雲林県崙背の欣昌公司が、いかにして台湾の錦鯉を高級な生きる芸術品にレベルアップさせ、全世界に輸出するようになったかを、私は自らの目で確認しました。台東県の美農社区では、帰郷して農業に従事する若者が創意を発揮して、台湾のパイナップルシャカトウ(鳳梨釋迦)に光を当て、世界唯一の「パイナップルシャカトウ・アイスクリーム」を誕生させ、国宴のデザートにも選ばれました。私が訪問したことがある台南市新営の栄剛公司は、航空宇宙、エネルギー等の産業に特殊鋼を提供しており、カスタマイズされた製品はすでにこれらの産業に欠かすことのできない材料となり、その市場シェアは世界で十位以内に入っています。これらの例が示しているのは、まさに政府が進めようとしている産業の新しい方向性であり、つまり製造業のサービス化、伝統産業の特色化なのです。
われわれの台湾の土地の上で、私は人々がいかに勤勉に進取し、民間の活力がいかに活発で、若者世代の創意がいかに豊かで、中小企業の向上心がいかに旺盛で、心の中が常に感動と希望に満ち溢れているかを見てきました。これらはいずれも、われわれが台湾経済を再生させるにあたっての最大の資産なのです。
皆様、過去一年間は、厳しい一年でしたが、われわれは手を携えて乗り越え、共に数多くの誇るべき成果をあげてきました。例えば、海外からの来台旅行者数は過去最高の700万人を突破し、昨日までの時点で730万人を超え、4年半前と比較して88%増加しました。また、世界の131カ国・地域がわが国にビザ免除または到着ビザの措置を付与し、その国・地域数は4年半前の2.5倍となりました。これらは国際社会がわれわれに対してより一層友好的、肯定的となったことを示すものです。これらの貴重な成果は、台湾人の実力を低く評価してはならないことを証明するものでもあります。
皆様ご安心ください。今後、国際環境にどれだけ多くの困難や険しさがあっても、われわれが断固とした自信を持ち、手を携えて前進し、改革の熱意を堅持し、進歩の原動力を凝集すれば、必ずや中華民族の新たな局面と未来を切り開いていけるでしょう。
「われわれ台湾人は景気だけに頼るのではなく、やる気と勇気をより信頼している」、「人はやる気を必要とし、虎は威を必要とする。人々が心を一つにしてこそ、実際にできる」
新年の始まりに、私は皆様のご健康とご多幸、心願成就を祈念いたします。皆様、ありがとうございました。
【総統府 2013年元旦】
写真提供:総統府