中華民国建国103年双十国慶節 馬英九総統祝辞
馬英九総統と周美青夫人は10月10日午前、総統府前広場で開催された「中華民国中枢曁各界慶祝102年国慶大会(中華民国中央および各界による建国103年祝賀大会)」に出席し、馬総統は「民主主義を誇りとし、台湾を光栄に感じよう」と題する演説を行った。
馬総統の談話の全文は以下の通りである。
本日は中華民国の建国記念日です。私は光栄、喜び、感謝の気持ちで、同胞ならびに来賓各位と共に、中華民国建国103年の記念日を祝賀するものであります。
この1年間を顧みますと、世界各地で重大事件が多数発生しました。例えば、2回ものマレーシア旅客機墜落事件、ウクライナ危機、「イスラム国」の暴挙、スコットランド独立の賛否を問う住民投票、エボラ出血熱の蔓延、香港住民による普通選挙実現のための運動など、これらの事件は影響がきわめて大きく、世界各国が注目し、厳粛に対処しています。
この期間中、国内においても3月の学生運動、地下鉄での無差別殺害事件、澎湖での旅客機墜落事故、高雄のガス爆発事故、食品安全の危機など、これらは社会全体を震撼させ、国民が懸念した事件でした。
しかし、国家建設にも多くの新しい進展がありました。台湾鉄道の花東線(花蓮―台東)の電化およびボトルネック部分の複線化が9カ月前倒しで完成して開通し、台北―台東間は3時間半で到着できる一日生活圏となりました。また、税収および公平性を共に考慮した財政健全化法案が実施されています。さらに、全民健康保険費の収入補充が順調に行われ、第二世代保険の財務が安定健全化しました。新兵の募集も順調であり、任期制軍人も任期延長を積極的に希望しており、志願制による軍人募集は安定しています。「王・張会談(台湾の王郁琦・行政院大陸委員会主任委員と中国大陸の張志軍・国務院台湾事務弁公室主任による両岸間の各閣僚級会談)」が2回開かれ、両岸協力はより一層進展しました。12年間の義務教育は「バランスのとれた五育(徳・知・体・群・美)」「適正に応じ才能を伸ばす」の教育理念の下、各方面の成熟した民主主義の素養を通して、総合的に案件を定め、正式にスタートしました。
双十国慶節の本日、我々は重要な問題について直に向き合い、法律に基づき適切に処理し、努力により危機を転機に変えることができたことをより一層明確に見るものであります。こればかりか、国民と政府が共に6年間努力したことにより、国家建設は多くの具体的な成果も示したのでした。
一、経済活性化、幸福への尽力により現在の生活はさらに向上、成果が具現化
私は総統就任後、一貫して「活力ある経済」を施政の重点としてきました。今年の元旦および総統就任6周年の祝辞の中でも、私は「全国民が経済を活性化する」という目標を重ねて表明しました。
今年、中華民国(台湾)の輸出は継続的に拡大しており、経済成長率はたえず上方修正し、株式市場の株価と取引量いずれもこの6年あまりの間で最高を記録しました。経済の景気信号も連続7カ月で「安定」を表す青信号となっています。失業率もこの6年間において最低となっています。消費者の信頼感指数はこの14年間においてこれまでの最高に達しています。今年8月、政府は最低賃金を月給で20,008元(約7万円)に、時給を120元(約430円)に引き上げると発表しました。これは、私が総統に就任後、5度目の最低賃金引き上げです。今後、政府は減税方法も策定し、企業の給与引き上げを働きかけ、それにより一般労働者に対し、より一層の支援をしてまいります。
政府により各家庭の所得格差もこの4年間で最も小さいものとなりました。しかも今年後半に国内の半数近くの企業が、従業員を増やす予定であり、労働力の需要の割合は世界2位にランキングされており、至る所で台湾経済がすでに好循環に入ったことを示しています。
今年台湾を訪れた外国人観光客数は9月末時点で721万人に達し、今年は年間訪問者数900万人突破の目標達成が見込まれています。「国連世界観光機関」(UNWTO)が最近、台湾の今年上半期の国際旅行客の成長率が26.7%に達し、世界1位となったと発表しました。スイス・ローザンヌの「経営開発国際研究所」(IMD)による世界競争力ランキングで、台湾は世界13位でした。国民幸福指数の面では、「経済協力開発機構」(OECD)加盟国などと比べると台湾は18位でした。この2つの評価では、台湾がアジア地域においていずれも上位にあります。全体的に述べますと、この1年近くの間、国内経済は確実に改善されました。しかし、政府は気を緩めることなく、必ずや引き続き努力し、この台湾の土地を「人々が幸せだと実感する」ようにしていく所存であります。
二、喜びや悲しみ、憂いや苦しみを分かち合い、より一層団結し、運命を共にする
7月および8月における澎湖での旅客機墜落事故と高雄のガス爆発事故は、国民に深い悲しみと残念な思いを与えるものとなりました。多くの国民は、お金のある人は金銭を、力のある人は力を貸して、被災者が苦難を乗り越えられるよう支援し、「危急の際の友こそ真の友」の同胞愛を示したのでした。
最近の粗悪ラード事件は、台湾の国内1,000社あまりの食品業者に影響を及ぼしました。政府は違法な製造業者と商品の販売先について迅速に捜査・取締りをしましたが、国民のパニックとメーカーの損失をもたらしました。これは美食の問題にとどまらず、海外メディアの報道により、国全体の名誉も傷つけるところとなってしまいました。政府はこれを深く反省し、直ちに8項目の食品安全強化措置をとりました。私は全ての国民同胞と同じように、このような不正行為は断じて受け容れられるものではないと改めて強調するものであり、行政部門に対しても、不正食品の再現を根絶するために、徹底した検討、厳重な調査と重罰を指示しました。
その一方で、粗悪ラードの告発は、検挙までの4年間、一時も手を緩めず調査を続けた屏東の農民と、責任を回避せず、管轄区域の枠を越えて調査した台中の警察官の功績によるものです。彼らの強い正義感と責任感により屏東の不正業者が逮捕となったのでした。この話しは、人間性と良識がまさに台湾の最もすばらしい姿であるということを改めて顕彰したものとなりました。
暗黒の時代になればなるほど、より一層多くの光明の松明が競うように照らし出されるものです。台湾の国民の正直で善良な人間性、さらには中華民国の自由と民主主義による憲政体制により、公民意識を啓発し、人間性の価値観をも実践させたと我々は確信しております。国民による主体的な参加と貢献は、お互いを思いやる心の内から発せられ、一致団結の重要な要素であり、我々が最も大切にする価値のある財産でもあります。
三、民主主義を有し、自由を享受し、中華民国の光にさらなる自信を深める
中華民国の103年間の歴史を振り返りますと、革命烈士ならびに賢人各位は終始夢を持っていました。それは、(三民主義に基づく)民有、民治、民享の民主共和国を建国しようとするものでした。国父である孫中山(孫文)先生から、第二次世界大戦の終戦まで台湾において、民主主義運動に尽力された多くの先輩諸氏は、いずれも夢実現の途上で犠牲を払い、奮闘し血と汗を流したのでした。これらの人々の努力により、中華民国がアジアで最初の民主共和国となり、台湾が民主主義の転換に成功した初の華人社会ともなったことを感謝するものであります。
歴史という長い時間の流れの中では、いずれの国々も国民が高度なコンセンサスのある精神的な基盤を求めるものであり、それにより双方の帰属感を確立しています。現代社会において、この精神的基盤がすなわち「自由と民主主義の憲政体制」なのです。台湾において、1人1人が国の主人であり、憲法の保障を受けているのです。
台湾は現在、総統選挙と国会(立法院)議員選挙を以前から定期的に実施してきており、合法的に登録された政党数は255もあり、中央政府は2度の政権交代も経ており、新興の民主主義国家にとり「確固たる民主主義」の重要な手本となっています。
また、国民がメディア、ネット、集会、デモ行進を通して公共実務に対する意見発表が、活発かつ多元的に行われており、いかなる弾圧も受けることはありません。彼らの活躍と広がりは、人々の情報量を豊かにしたのみならず、政策の検討をもより一層深化させたのでした。米国の「フリーダムハウス」のランキングにおいて、アジア各国の中で、台湾と日本のみが「報道の自由がある」国としてランクインしています。民主主義の政治は異なった意見を受け入れ、対話を促し、紛争を解決し、社会の安定をもたらすのです。この点から述べると、中華民国は最高の範例を提供しているのです。
四、国際化、多元化といった多元性をさらに受け入れ、台湾を豊かに
この30年あまりの間、40数万人以上の東南アジアおよび中国大陸からの人々が、婚姻により台湾に定住しています。また、52万人の外国人労働者が、来台し、台湾の公共工事、企業、一般家庭のために労働サービスを提供しています。新住民と外国人労働者の姿とお国なまりは、次第に我々の生活の中で身近で見慣れた光景になってきています。これらの人々も同様に、台湾の憲法の保障を受けているのです。
かつて、新住民は十分な配慮と尊重がなされておらず、当時の法令はこれらの人々に対しあまり公平ではありませんでした。このような境遇に直面し、これらの人々は民主主義のプロセスを用いて、運命を変えることを学んだのでした。各地からの新住民の人々、台湾の民間団体、専門家が連携して協力し、法律改正連盟を設立し、積極的に関連立法を推進してきたのでした。多くの人々の努力により、現在、台湾の新住民が置かれている環境は当時と比べ、より一層好意的なものとなりました。
また、ますます多くの中国大陸および香港、マカオからの学生、海外からの華僑籍の学生、欧米からの若者など、台湾留学に訪れており、今年は8万5,000人を超えると予測され、これは6年前の2.8倍となります。これらの人たちはキャンパス、レストラン、電車、書店、観光地、コンサート会場などで見受けられ、積極的に行動し人目を引いており、台湾は本当にますます国際化してきたと思わず感じさせるものです。これらの留学生たちは台湾の文化面を豊かにしており、我々もより一層包容力のある友好的な姿勢とさらなる幅広い多元的な見方を学んだのでした。「台湾が世界に向かって歩み、世界も台湾に向かって歩んで来ている」は、すでにスローガンではなく、我々の毎日の生活の一部分になっているのです。
五、より積極的且つ主体的に本分を尽くし、友と交わり、世の中を往来する
中華民国の民主主義の成果は、内政上で示されているのみならず、外交面においても重要な進展がありました。たとえば、2013年4月に日本と「台日漁業協議」に調印し、釣魚台(日本名:尖閣諸島)海域における40年あまりにわたった漁業争議が平和的に解決され、「主権は譲歩することなく、漁業権が大幅に拡大」し、国際社会から幅広く、大いに評価されました。ジョン・ケリー米国務長官、デビッド・ジョンストン・オーストラリア国防大臣など、いずれもこの協議は地域の平和に寄与すると述べられました。
2013年5月の台湾漁船「広大興28号」事件(フィリピン公船の隊員による台湾の漁民射殺事件)では、我々は平和的な交渉により、フィリピン側の正式な謝罪、賠償、犯人の処罰を実現させると共に、法執行の3項目のコンセンサス、さらには台湾漁民の正義をも取り戻し、台湾・フィリピン間において30年間にわたった海域の法執行争議も解決したのでした。また、英国の裁判所は、台湾で罪を犯した後、英国へと逃げ戻った英国公民のザイン・ タージ・ディーン被告の身柄を台湾に戻し、刑に服することに同意しました。台湾の政府代表は30~40年ぶりに国連の専門機関の会議に正式に出席することができました。中華民国のパスポートは世界140の国と地域でノービザ措置あるいはランディングビザの待遇を受けており、使いやすさのレベルは、世界22位にランキングされています。これらは台湾の国民が海外旅行の際に、これまでにはなかった尊厳と利便性を享受するものとなったのです。自由と民主主義の中華民国は、すでに国際社会からの信任を得ているのです。我々のパスポートは、文明と法治を象徴する国際ブランドとなっているのであり、これは紛れもなく台湾の栄誉であります。
両岸関係において、この6年間、台湾海峡両岸は衝突から和解に、対抗から話し合いへと達し、我々の民主主義の憲政も役割を発揮したのでした。「中華民国憲法の枠組みの下、台湾海峡の統一せず、独立せず、武力行使せずの現状を維持する」あるいは「92年のコンセンサス、『1つの中国』の解釈をそれぞれが表明する」というのは、いずれも、中華民国憲法に基づいて定めた政策です。とりわけ、「92年のコンセンサス、『1つの中国』の解釈をそれぞれが表明する」については、両岸がこの6年間、平和的に発展してきたキーポイントであり、台湾側のこの堅持は揺るぎないものです。このような主張は、これまでの民意調査において、多くの人々の支持を得ています。最近2回の総統選挙の結果も、このような政策がすでに台湾の民意の検査を通過したものであることを証明しています。我々は中国大陸と調印した21項目の協議は立法院の審査の参考あるいは審査に回され、国会の監督を受けています。今後、両岸政策は引き続きこの民主主義のメカニズムに従って運用されていくものです。しかも、今年2回開催された歴史的な「王・張会談」は、両岸関係の大幅な進展を反映したものであり、台湾の政府が平和と繁栄を維持していく決意を顕彰したものでもあります。
本日、我々は海峡対岸に対し、現在まさに中国大陸は民主主義の憲政に向かって歩む最も適切な時期であると改めて呼びかけるものであります。現在の中国大陸は、経済が急速に発展し、人々の生活の改善も顕著です。古人は「倉廩(穀倉)満つれば礼節を知り、衣食足れば栄辱を知る 」と述べていますが、中国大陸13億6,000万人の人々は小康社会に入っていると同時に、当然ながら、より多くの民主主義と法治を享受することも願っています。これはこれまでずっと欧米人の特許であったのではなく、人類全体の権利であるのです。
香港住民が最近、行政長官の直接選挙を求めている活動については、私も揺るぎない支持を改めて表明する次第です。中国大陸と香港の民主主義の発展は、指導者が改革の智恵と度量に向き合うことにより決まるのです。30年前、鄧小平氏が「改革開放」を推し進めた際に、「一部の人から先に豊かになるようにする」の名言を残しました。17年前に中国大陸が香港に対し「香港人による香港統治、高度な自治、行政長官の普通選挙、50年間は現状を維持」という公約を十分に果たすためにも、現在の香港にもこれを準用し「一部の人から先に民主化していく」ことが出来ないものでしょうか?そうなれば、危機を転機に変え、中国大陸と香港がウィンウィンとなるのです。また同時に、台湾の国民も必ずやその実現を好意的に見るものであり、両岸関係の発展に大いに寄与するものです。我々は国父、孫文先生が生涯をかけて求めた民主主義の理想を香港、マカオ、中国大陸が一歩ずつ実現していくことを心より願っています。
民主主義の発展には法則はなく、憲政制度を植え付けるのも難しいと認識していますが、方向性が確かでありさえすれば、中華民族の知恵により、必ずや安定的な発展および民主主義と自由を共に考慮した道を見出すことができるものと我々は確信しております。血縁、文化、歴史を共有する基礎に立ち、我々は中国大陸および香港、マカオの人々が手を携えて協力し合い、経験を分かち合い、中国大陸が推し進めている政治、経済改革の最良の方案を共に見出すことを期待しています。台湾の国民2,300万人も民主主義の経験を分かち合い、中華民族の子孫の成功が世界に光輝くことを歓迎するものです。
六、自由と民主主義 台湾の永続
目を台湾に転じますと、台湾の民主主義の発展が近年直面した問題について、当然ながら我々も率直に向かい合うべきであります。民主主義は尊いものでありますが、きわめて脆弱なものでもあり、大切にして守る必要があり、平和的且つ理性的な方法で示すものでなければならず、そうでなければ、後退してしまう可能性があります。
この1・2年来、著しい非合法、さらには政府機関を占拠する抗議手段さえも見られ、意見の異なる人の合法的権利が否定されました。このような非民主的な行為は、社会に不必要な対立をもたらすのみならず、多くの法案も国会において少数のボイコットにより審議不能となっているのです。世界各国により経済、貿易の盟約締結と地域経済統合の速度に拍車がかかっている時に、台湾は足踏みし、国際メディアからは「自ら落ちこぼれていくのに甘んじている」と見られてさえおり、気が急くばかりであります。
台湾経済の最も重要な活路は、産業構造の調整、イノベーションによる付加価値加速、さらには法規の規制緩和、市場開放、二国間あるいは多国間の各種経済連携協定の締結および「自由経済モデル区」の設立などです。これらの「台湾を主体とし、国民にプラスとなる」の解決方案は本来、理性的に討論できるものですが、繰り返しボイコットに遭い、わずかの歩みもままならない状況です。もし、反対する人たちが話し合いに参加せず、代替方案も出すことができないのであれば、これは正に、議会制民主主義の精神と乖離するものであり、台湾は優位性が失われていくのをみすみす座視することになり、国民の多くは受け入れることができないでありましょう。
しかし、民主主義の欠点は、より一層の包括的な民主主義によって矯正することができるのです。憲法遵守を誓った中華民国総統として、私は理性的、平和的、包容性のある民主主義のプロセスの重視は、これらの意見相違を処理する最も効果的な方法であると固く信じております。
建国記念日の本日、私は全ての野党関係者に対し、民主主義の憲政体制に回帰し、制度に従い、誠意をもって話し合い、与野党が共に主張している「自由経済モデル区条例」および「両岸協議監督条例」などの重要法案を速やかに審議するよう呼びかける次第です。私はこの場において、私個人あるいはすべての行政部門が民主主義の堅持を願い、胸襟を開き各界と意思疎通、対話を図る所存であることを改めて強調するものであります。民主主義の制度は決して完全なものではありませんが、理性的、平和的、包容性を堅持しさせすれば、対話、意思疎通、問題解決を必ず促すことができる制度であります。我々は民主主義、法治をコンセンサスとしているからには、お互いに尊重し合い、民主主義のプロセスに従い、争議を理性的に処理していくべきです。
多くの皆様の努力と支持により、今日の台湾に活気が満ち溢れ、経済が繁栄し、温かい社会であることに感謝します。しかし、我々は中華民国の民主主義の憲政がより一層発展し、完全なものとし、我々の後の世代の貴重な財産となり、華人社会の輝かしい手本となるようにしていく責任と義務があります。私は中華民国総統として、必ずや全力で中華民国の民主主義の憲政を守ってまいります。
皆様、ご唱和ください。
中華民国万歳!
台湾の民主主義万歳!
ありがとうございました。
【総統府 2014年10月10日】
写真提供:中央社