6月12日、馬英九総統の「南シナ海平和イニシアチブ」に関する寄稿が米国の大手日刊経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」に掲載された。以下はその全文である。
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南シナ海平和計画
オバマ米大統領が提起した「アジア回帰(Pivot to Asia)」政策の目標の1つは、アジア太平洋地域のさらなる統合である。しかし、南シナ海の緊張情勢が高まるに伴い、この目標の実現はより一層難しくなっている。
先ごろ、私は台北で開催された会議の基調講演の中で、これらの緊張情勢を確実に解決することができる方法である「南シナ海平和イニシアチブ」を発表した。 この提議の要旨は、焦点を領土問題の解決から資源の共同開発へと移すことにあり、主権は分割できないが、資源は分かち合うことができるというものである。
この方法はこれまでに、台湾において効果があった。過去7年間、中華民国(台湾)政府は現状の安定を維持し、実務的政策で中国大陸との関係に対処してきた。これがすなわち、「統一せず、独立せず、武力行使せず」である。
これにより、台湾は中国大陸とこれまでに、両岸の直行便就航、経済連携、司法協力などきわめて広い分野をカバーする21項目の協議に調印すると共に、台湾海峡にこの66年間には見られなかった平和と繁栄をもたらしたのだった。
東シナ海においても、台湾は同様の建設的な提議を行った。釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)に関する領土争議はすでに40年間を超えていたが、2012年9 月、日本は釣魚台列島の「国有化」を決定した。この行動は、中国大陸の20以上もの都市において、大規模な反日デモを引き起こした。潜在的な衝突が予測さ れたことから、私は2012年8月に、「東シナ海平和イニシアチブ」を提起し、日本に対し共に争議を棚上げし、国際法を尊重すると共に、資源の分かち合い と開発の協力について話し合うよう呼びかけた。
緊張情勢の急速な高まりに直面し、日本は上述の平和への提議に具体的に応え、2013年4月に台湾との漁業協定に速やかに調印した。この交渉は、過去17年間に16回の会談を行っても、解決できなかったことだった。
2013年の協議では、台湾の2倍の大きさに相当する7万平方キロメートルもの争議の海域を範囲とし、尚且つ双方が主権に対する主張に触れずにウィンウィ ンの局面を創出したのだった。これについて、米国、欧州連合(EU)、オーストラリアはいずれも「東シナ海平和イニシアチブ」は地域の平和を効果的に促進 する方法だと評価した。
現在、私は再び「南シナ海平和イニシアチブ」を以て、関係各方面が和解と協力の精神で、不可能に見える任務をきわめて可能な任務へと変えるべく呼びかけるものである。
台湾は1956年より(南沙諸島の)太平島に人員が常駐しており、歴史的、地理的、国際法においても確固たる基礎がある。台湾も南沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、東沙諸島およびその周辺海域は、中華民国固有の領土および海域であると主張している。
南シナ海の争議を平和的に解決するメカニズムを探るため、私はこの地域の関係各方面に対し、以下の主張に同意するよう呼びかけるものである。:
・関係各方面は自制し、南シナ海地域の平和と安定を維持するため、いかなる緊張をエスカレートさせる一方的な措置をとらない。
・国連憲章および国連海洋法条約を含む関連する国際法の原則と精神を尊重し、平和的な方法で争議を解決するため、対話を通して、南シナ海地域の海・空域の航行および飛行の自由と安全を共同で守る。
・当該地域内の各当事者による海洋協力メカニズムへの参加を確保し、共同の行動規範を遵守し、南シナ海の平和と繁栄を促進する。
・主権争議を棚上げし、南シナ海地域の協力メカニズムを構築し、包括的な計画を立て、南シナ海の資源を開発する。
・南シナ海の環境保護、科学研究、海上犯罪取締り、人道支援、災害救援などの非伝統的安全保障問題について、協調および協力メカニズムを構築する。
台湾は島嶼国であり、その海事の安全保障は国家の安全保障と同じである。そのため、私は先ず台湾海峡から東シナ海へ、さらに南シナ海へと、3つの平和の主 張を次々と提起し、これにより地域の平和と繁栄促進を願った。この戦略は、すでに2回もの成果を収めており、今後3回目の成果を収めることができるように していきたい。台湾はすでに、南シナ海の各当事者と平和的に対話と協力を行っていく準備が整っているのである。
【総統府 2015年6月12日】