馬英九総統が「共同通信社」のインタビューで語る
馬英九総統は6月6日、総統府において、「共同通信社」の単独インタビューに応じ、台日関係、文化交流、東アジア情勢、地域経済の統合などのテーマに関する質問に答えた。
インタビューの内容は以下の通り:
Q:現在、東アジア情勢において、台湾の存在はきわめて重要であり、とりわけ台日関係は、アジア情勢にとり鍵となる地位にあると言えます。台日関係および台湾が今後担っていく役割について、馬英九総統にうかがいたいです。
馬総統:中華民国にお越しいただき、台日関係について取材されることを大いに歓迎いたします。両国関係は北東アジアの安定にとり、きわめて重要なものであるという質問者の見解に同感です。
Q:馬総統は、今年の5月20日、総統再任の2年目に入りましたが、今後の3年間における台日関係の発展および課題について、どのような抱負をお持ちでしょうか?
馬総統:私は5年前に就任して以来、中華民国と日本との関係を積極的に推進してきました。双方間には国交はありませんが、日本はわが国にとり2番目の貿易パートナーであり、わが国も日本にとり4番目の貿易パートナーです。また、双方は観光および文化などにおける交流もきわめて密接であることから、私は台日双方の関係を「特別なパートナーシップ」と位置づけ、台日関係はこの枠組みの下で発展を図ってきました。
私は就任1年目に、日本と『青年ワーキングホリデー制度』に調印し、続いて、北海道に台北駐日経済文化代表処札幌分処を開設しました。日本側も、日本に居住する台湾人の居留カードの国籍欄記載方法の問題を解決しました。次に、わが国と日本は航空面に関する協議にも調印し、台北の松山空港と日本の羽田空港間はチャーター便の相互運航が可能となり、双方間の往来に大きなプラスとなりました。さらには、オープンスカイ(航空自由化)の実現により、使用空港は90%増加、航空便も45%増加しました。これは中華民国と日本の航空交流の分野における革命的な変化でした。現在、台湾の嘉義および台南など比較的小規模な空港からも、チャーター便が日本の静岡、金沢市などに飛んでおり、これらはかつては見られないことでした。
過去において、台湾の訪日観光客に訪台した日本人観光客を加えた数が250万人を超えることは少なかったですが、2012年には300万人近くとなり、これまでの記録を更新したと言えます。また、2011年9月に台湾は日本と投資協議に調印しましたが、これは日本が台湾に投資してきたこの60年間において最大の変化でした。調印後、2012年から今年までに、日本からの来台投資の企業数は大幅に成長しました。これは双方の緊密な貿易により、また一方で、台湾が3年前に中国大陸と『両岸経済協力枠組み協議』(ECFA)に調印したことにより、日本と台湾が協力して中国大陸市場を開拓するために、積極的な条件を創出したからでした。
投資協議のほかにも、双方は経済・貿易分野において、『台日特許審査ハイウェイ覚書』など、そのほかの協議にも調印し、従来は42カ月間を要した特許申請のプロセスが2.5カ月間へと大幅に短縮されました。これは革命的な発展であり、双方の特許交流の促進にとり、きわめて大きな意義がありました。
また、文化交流面においては、2011年に日本の国会において『海外美術品等公開促進法』が法制化されました。同法案は、国立故宮博物院の文物を東京で展示する際に発生するであろう制限を排除するところとなりました。そのため、台湾の故宮博物院の文物は2014年6月に東京国立博物館において展示が予定されており、同年10月には九州国立博物館においても展示される予定です。さらには、東京国立博物館も収蔵している重要な芸術品を台湾において展示する予定となっており、これは両国の文化交流史における時代を超えた発展であります。また、最近では「宝塚歌劇団」の台湾公演が行われ、成功し大きな反響がありましたが、これも両国の文化の領域における発展の上で、歴史的な記録を創るところとなりました。
2年前に東日本大震災が発生し、台湾の国民はきわめて積極的且つ空前といえる思いやりの心を示し、多くの支援を行い、日本の人々に感動を与えるところとなりました。しかも日本の人々はこの2年の間、絶えず台湾の国民に対し感謝を表しており、これも台湾人を感動させました。双方はまさに、以前双方間で調印した「絆(厚重情誼) イニシアティブ」の内容と同様、双方の国民による深い感情を体現化しているのです。
今年4月10日に双方は『台日漁業協議』にも調印し、この40年間、双方が憂慮していた問題は暫時解決され、双方は7万平方キロメートルあまりにわたる広さの海域において、共同で海洋保護と管理を行うことができるようになりました。また一方で、双方は常設の台日漁業委員会も設立し、双方がまだコンセンサスに達していない問題について、引き続き対処していくことになります。このような全体的な取り組みは、この地域にとり重要なモデルとなるものであり、それは平和的方法を用いて争議を解決できることを証明したからです。しかも、私が把握しているところでは、同協議の調印後、米国、欧州、ラテンアメリカなどいずれもきわめてプラスの反応を示しています。それは、世界の中で、戦争や動乱を希望する国はないからです。台湾と中国大陸との関係改善は国際的な評価を得ており、同様に台湾と日本との同協議調印は、東シナ海における争議の大幅な軽減となり、国際社会において多くの評価も得るところとなり、これは日本とわが国いずれにとっても、きわめてプラスのできごとでした。
今後の3年間において中華民国と日本はどのようにして双方の関係をより一層発展させていくかについては、その中で重要な一環は東アジア全体の情勢変化にあると考えており、双方の経済貿易面での関係は大きな発展の余地があります。この5年間において、台湾は最大の貿易パートナーである中国大陸とECFAを調印し、台湾の3番目の貿易パートナーである米国とも、1994年に双方が調印した『貿易および投資枠組協定』(TIFA)の基礎の上に、各種の経済・貿易のテーマについて段階的に話し合いを始めています。この間にあり、わが国の2番目の貿易パートナーである日本のみが欠けていることから、この分野において、日本と同様の協議を締結できるようにし、双方の貿易関係促進をより一層発展させていきたいと希望しています。
投資協議調印後、日本の来台投資は増加しているはずであり、台湾から日本への投資も増やすことができるようにしたいです。たとえば、台湾が2012年9月に推進をスタートさせた『経済動能推升方案(経済力アッププラン)』では、中国大陸で操業する台湾企業(台商)のUターン投資を歓迎しており、現在までにすでに30社近くが1,700億元(約5,500億円)の投資を予定しており、これにより2万7,000人の就業の機会を創出することができることになります。日本側も海外で投資している一部の企業を台湾に移す意向であることも聞いており、この中では大いに発揮できるでしょう。
台日双方の関係は良好なスタート、良好な基礎ができており、このレールの上で引続き邁進し、前に向って探究し、より多くの協力の空間を見出していくべきです。2011年に日本が『環太平洋パートナーシップ協定』(TPP)への参加を発表した際、台湾も参加の意向を表明しました。日本はすでに準備実務の専門グループを設立し、積極的に取り組んでいますが、台湾は参加条件の上で完全に整っていないことから、条件作りの段階にあります。そのため、この分野において双方は協力の余地かないわけではありません。日本が一旦加入したならば、台湾と経済・貿易関係のあるTPPのメンバー国は、4分の1から30%以上へとアップし、TPPメンバー国の重要性はより一層増すことになり、台湾が参加するメリットもより一層多くなるのです。そのため、今後、2国間貿易で成長できるのみならず、台湾が地域の経済統合に加わることができるようにもなります。これは東アジア地域の安定と繁栄いずれにもプラスとなるのです。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)、日本、韓国、中国大陸が主導している「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)に台湾も参加できるようにしたいです。台湾も地域経済の重要な一員なのであり、日本とこの分野において提携し、日本の協力が得られるよう希望しています。
Q:安倍晋三首相は現在、日本国内で70%の支持率があり、その提言している「アベノミクス」も大きな反響を呼んでいます。馬総統はこの「アベノミクス」をどのように捉えておられますか?
馬総統:この数カ月間、安倍晋三首相が提言された新しい経済政策を見たところでは、多くの人が高い関心を寄せており、この政策は日本のこの10年あまりにわたるバブル経済に対する活性作用を明確に起こしており、株価の数千ポイントの上昇、円安も日本の輸出を促進しています。我々は引き続き、この政策が日本、周辺地域、台湾経済にもたらすであろう影響について見守っていくものです。とりわけ、欧州債務危機が未だ解除されず、米国の経済回復も緩慢な状況の下で、日本の現段階の方法は世界的な注目を引き起こしていると言えます。
安倍首相は台湾の古くからの友人であり、安倍首相による施政が順調であるのを喜ばしく思っています。
Q:2014年に国立故宮博物院の文物が日本で展示される予定ですが、馬総統はこの件について、どのような期待あるいは日本側に対し何かアピールすることがありますか?
馬総統:台湾の国立故宮博物院の文物は、この20年の間に米国のニューヨーク、ワシントン、シカゴ、サンフランシスコの4都市で展示を行っています。また、フランスのパリ、オーストリアのウィーン、ドイツのベルリンなどでも展示しており、きわめて良好な反応があり、これらの収蔵品が宮中の文物であることから、展示により全世界が中華民国台湾にある故宮博物院の収蔵品は過去3,000年あまりにおける逸品中の逸品であることを理解するところとなりました。また、この展示の機会は、各界が中華民国は文化および伝統をきわめて重視している国家であることを理解することにもなりました。これは日本も同じ見解となることを確信しています。
故宮の文物がこれまで米州および欧州で展示されてきましたが、アジアでは最初であり、その第一歩を日本に選んだものであり、この意義はきわめて大きいと感じています。さらには、この展覧会は双方向的なものであり、故宮博物院による展示が終わった後、東京国立博物館も同博物館収蔵の貴重な芸術品を台湾で展示する予定であり、両国の国民および社会がより一層深い交流が促進されるものと確信しており、これはきわめて重要な歴史的意義があります。
Q:東シナ海の緊張情勢を緩和するために、「東シナ海平和イニシアチブ」を提起しましたが、同イニシアチブの今後の見通しはいかがですか?
馬総統:私は昨年8月5日に「東シナ海平和イニシアチブ」を提起しました。その目的は、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)をめぐる争議による各方面の緊張関係を緩和させ、平和的方法による紛争の解決を図るためです。提起した当初は、多くの人にまだ十分理解されていなかったかもしれませんが、4月にわが国と日本が『台日漁業協議』に調印してから、同イニシアチブが実は現実的に問題を解決できるものだということが人々にだんだんと理解されるようになったと思います。今後もわれわれは、この方向で引き続き努力していきます。主権をめぐる各種争議の解決は容易ではありませんが、資源をめぐる争議が含まれている場合なら、実は資源の共有により入手することができないわけではありません。これは主権の争議を解決しないのではなく、小さな問題から取り組むことで、相対的に処理しやすくしているのです。われわれは今、この方法で取り組んでいるところであり、「東シナ海平和イニシアチブ」のきわめて重要な一環となっています。
東アジアは、きわめて特殊でまれな情勢となっていて、争議のある3者(台湾、日本、中国大陸)の関係は他にあまり類を見ないものです。われわれと日本は外交関係がありません。われわれと中国大陸は互いに主権を承認しておらず、互いに治権を否認しないところまでにとどまっています。日本と中国大陸の間も一定の緊張関係があり、このような複雑な状況の下で問題を解決するには、争議となっている各者が強い意志と決意を持っていることと、そのほか適切な方法が必要となります。われわれは、いきなり3者協議を行うよう主張しているわけではありません。それは現時点では実現できないことです。われわれが提案しているのは「3組の2者協議」であり、その成果が出たあとに「1組の3者協議」を検討するというものです。われわれと日本は漁業の取決めに合意できました。日本も中国大陸との資源に関する問題の協議ができます。同様に、われわれと中国大陸も漁業またはその他の問題で協議を進めることができるのです。実際には、日本と中国大陸の間にはすでに漁業協定が締結されており、東シナ海における一部の油田についても協定があります。われわれは日本と「漁業協議」を締結したほか、中国大陸とも台湾海峡における石油に関する協力や海上救難の合同演習を実施しています。つまり、それぞれ2者間の基礎があり、この基礎から出発すれば、釣魚台列島の争議に関連する資源問題の争議の範囲を縮小させ、争議を解決させるチャンスを増やすことができるのです。このような争議はすでに40年余り続いており、争議の各者はいずれも天然資源が特別豊富な国・地域ではありません。資源を海底に40年余り眠ったままにしておくのは、一種の浪費ともいえるものです。そこで、われわれの出発点は、「主権は分割できないが、資源は共有できる。主権争議は棚上げしても、資源の開発は進められる」と、発想転換することを望んでいるだけなのです。われわれは、緊張関係を緩和し、衝突を減らすことができるかどうか、40年間見つけられなかった方法をこの角度から試そうとしているだけなのです。中華民国は「ピースメーカー」となることを望んでおり、この役割を変えることはありません。
Q:台湾政府は2月8日に、台湾が釣魚台列島問題で中国大陸と連携しないとの声明を発表しましたが、そのタイミングで声明を発表した目的は何ですか?
馬総統:私がさきほど述べたように、「東シナ海平和イニシアチブ」に関わる3者は、いずれも排除されてはなりません。ただ、現段階においては「3組の2者協議」を踏まえたうえで「1組の3者協議」へと進めようとしているのです。だから私は最近も、台湾は中国大陸とも漁業面の問題を解決する必要があり、中国大陸とも日本と同じような「漁業協議」を締結して共同の保護・管理水域を画定することも排除しないことを表明しました。われわれと中国大陸は、これまでに18項目の取決めを締結しました。そのうち海洋に関するのは主に海運の分野であり、海洋におけるその他資源の運用に関しては何の取決めもありません。想像がつくと思いますが、われわれと中国大陸の間の海洋の運用面においては、必ず重複するところがあり、われわれがこのような呼びかけを行うことにより、双方はさきほど言及した保護(conservation)や管理(management)などの領域で協力を進めることができないことはないのです。
私は、なぜ大陸が、台湾と漁業協議を進めることが一種の「国と国」の関係になるのではないかと懸念し、時にためらうのかを理解できます。私がこれまでに何度も発言してきたように、両岸関係は「国と国」の関係ではなく、一種の特殊な関係です。したがって双方が締結した18項目の取決めは、いずれも「国と国」を基礎として締結したものではありません。しかしながら、調印後は、双方の管轄地域内で取決めの効力が発生します。つまり、われわれはきわめて実務的な姿勢でこれらの両岸交流の仕組みを設計し、それが実現可能で成功することを証明しています。同様に、われわれと日本の「漁業協議」も、「亜東関係協会」と「日本交流協会」が調印し、調印後は同様に拘束力を持つものであり、過去40年間存在した問題を実務的に解決する方法を見出したものなのです。
ここでわれわれが強調したいのは、「東シナ海平和イニシアチブ」は2者または1者のためのものではなく、3者のために設計されているということです。われわれが用いている表現は非常に慎重で、「3国」とは強調せず、「3者」(中国語では『三方』)を用いています。その狙いは、問題の解決にあり、一通りの形式的な努力をすることだけではありません。問題を解決できれば、3者にとってもプラスになることでしょう。そこで私は各方面に何度も実務的な姿勢で臨むよう呼びかけているのです。そのようにして初めて緊張関係が緩和され、互いの協力が増進され、真に3者の人々の安定と平和がもたらされるのです。われわれの最終的な目標は、東シナ海を平和と協力の海にすることなのです。
Q:最近、台湾とフィリピンの間で漁業をめぐって紛争が起きていますが、貴国は今後どのようにこの問題を解決していくのですか?
馬総統:われわれとフィリピンの間の漁業紛争は、実際には一般の漁業紛争の規模を超えるものです。なぜなら、フィリピンの海岸警備隊は、わが国の漁民を自動機銃で掃射し、漁民を死亡させ、漁船も動力を失って漂流したように、これはきわめて重大な殺人事件なのです。ゆえに、事件が発生した際、われわれは「4つの要求」を提示しました。1つ目は、フィリピン政府による謝罪。2つ目は、漁民への損害賠償。3つ目は、速やかな真相究明と犯人の処罰。4つ目は、同様の事件を繰り返さないために双方が速やかに漁業協定交渉を行うことです。
われわれはフィリピン政府にこの「4つの要求」を提示してから72時間以内に回答するよう求めましたが、当時の回答は誠意あるものではありませんでした。そこで、われわれは、フィリピン人労働者ビザ申請の凍結など11項目の制裁措置、ならびに海岸巡防署と国軍の合同チームによる強力な漁船護衛活動を実施したのです。現時点までに、双方による調査はほぼ一段落し、現在は結論を整理している段階です。この段階で速やかに完結し、双方の関係を正常に戻せるよう願っています。
すでに公表された事件報告によると、われわれの漁船は双方の重複する排他的経済水域(EEZ)上にあり、フィリピンの領海には入っていません。また、漁船は武装しておらず、フィリピン公船に衝突を試みた形跡もなく、しかもフィリピン公船はわが漁船より6倍も大きいのです。第3に、フィリピン側の行為自体がすでに故意の殺人であるとわれわれは認識しており、遺族あるいは台湾の人々はいずれも、遺族が真の正義を取り戻せることを願っています。
われわれが実行したどの行動も、国連憲章および国際法に合致するものであり、いずれも平和的な方法で紛争を解決し、司法およびその他手続きを通して当事者の正義を取り戻そうとするものです。私がここで強調したいのは、中華民国は平和を愛する国であり、必ず平和的な方法で紛争を解決していくということです。これについては、中華民国と日本が締結した「漁業協議」が一つのよいモデルとして、参考にできるでしょう。
Q:総統は今後の台日間の漁業関係についてどのような期待をお持ちですか?
馬総統:われわれは現在、北緯27度以北の水域、並びに釣魚台列島の12カイリ圏内の水域など、日本と調印した「協議適用水域」に含まれなかった水域があります。この部分については当初からコンセンサスがあって、今回合意できない場合は、「台日漁業委員会」で再び話し合うというものでした。「漁業委員会」は設置されたばかりの常設機構であり、運営方法についてはまだ模索が続いていますが、一つの常設機構が設置されたことは、双方の「協議適用水域」の安定にきわめて大きく寄与するものと私は確信しており、この点についてわれわれは大いに期待しています。そのほか、南側の一部の水域も未確定状態であり、今後の漁業協議のなかで議論できればと期待しています。
【総統府 2013年6月6日】