馬英九総統が「東アジア平和と安全保障」国際シンポジウムで、「東シナ海空域安全声明」を提言
2月26日、馬英九総統は「東アジア平和と安全保障」国際シンポジウムに出席し、あいさつを述べた。以下はその要旨である。
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一、はじめに
本日、遠い世界の四大陸から10カ国、15名の代表および国内の関連分野の研究者と一堂に会し、共に地域と世界の平和および安全保障のために貢献できることは喜ばしい限りである。
東アジアは古より文明の揺りかごであり、世界で最も早く、また最も興隆した陸上および海上交通と貿易があった。第二次世界大戦後、東アジアは40年間にわたる東西冷戦の主戦場にもなった。今日まで、東アジアの戦略的重要性は増えこそすれ減ることはなく、世界経済においては、成長を導く牽引役でもある。
しかし、東アジアは未だに冷戦の遺産を引きずっており、島嶼と海域の主権争議については、依然としてこの地域を悩ませている。誤った判断により衝突がエスカレートし、主要な覇権を巻き込み、これにより地域さらには世界さえも危機を引き起こす可能性が常にある。2013年以来、各国は「防空識別圏」(ADIZ)の問題によって、空域の安全問題が、東アジア地域におけるまた1つの争議の焦点にもなっている。
中華民国(台湾)は、東アジアにおける地理上の中心に位置し、北東アジアと東南アジアをつなぐ中枢であり、重要な戦略的地位にある。そのため、東アジア地域の経済発展あるいは、地域の潜在的衝突いずれにも台湾は深く影響を受けることになる。現在、世界の焦点はこの地域の安全保障問題に集中しており、関係各国は軍備を強化せざるを得ず、実力で危機に対処するよう考えている。このような中で、中華民国は関係各国に衝突が絶えずエスカレートしている危機を直視し、冷戦の悪性競争を捨て去り、理性と創意性を兼ね備えた考え方と方策をもって共に地域の平和と繁栄を図るよう呼びかける責任があると考えている。
二、両岸の平和
実際において、地域の不安定さと衝突を平和と繁栄に転換させるのは、決して不可能な任務ではない。歴史は我々に、多くの貴重な経験を提供している。例えば、欧州は覇権により100年間にわたり相互に戦い合った大陸から、地域統合のモデルへと転じたのだった。北海は、各国が海域の主権を奪い合う問題の海域から、各国が資源を分かち合う協力の海へと変化し、世界的に有名な「ブレント原油」(Brent crude oil)が誕生したのだった。
同様に元来、世界で最も衝突が引き起こされる可能性があると見なされていた台湾海峡は、過去5年余の間に徐々に変転し、平和と繁栄の象徴となった。また同時に、衝突の潜在的可能性があるその他の地区のために、参考となる範例を提供したのだった。
私は2008年、総統に就任以来、両岸間の和解推進に尽力し、中華民国憲法の枠組の下、台湾海峡の「統一せず、独立せず、武力行使せず(不統、不独、不武)」の現状を維持すると共に、「92年のコンセンサス、1つの中国の解釈を各自が表明する(92共識、一中各表)」の基礎の上に、両岸間の平和的発展を推進してきた。現在までに、両岸間では19項目の協議に調印し、これらは、経済・貿易、金融、交通、社会、食品の安全、司法の相互協力などの面が含まれ、いずれもが国民生活と深く関連している。双方の交通を例にすると、両岸間を往復する定期便の本数は、私の総統就任以前のゼロ便から、現在は1日当たり118便以上となっている。中国大陸から台湾への訪問者数は、2007年の29万人から、2013年の284万人にまで増加し、10倍近い成長を示した。台湾で学ぶ中国大陸からの学生数も2007年の823人から、2013年の2万4,787人へと増加し、30倍もの大幅成長となった。両岸間は2013年に1,622億米ドルの貿易額と、累計1,500億米ドル以上の投資額に達した。さらに、『両岸経済協力枠組み協議』(ECFA)および関連協議の調印により、制度化された保障も獲得したのだった。
2週間前、台湾の行政院大陸委員会の王郁琦・主任委員(閣僚級)と中国共産党の国務院台湾事務弁公室の張志軍・主任は、南京において歴史的な会談を行った。これは両岸が台湾海峡を隔て分割統治して以来、65年ぶりに双方のトップレベルの政府関係者が初めて正式に会談したものであり、双方は正式な政府官職で呼び合い、両岸の交流史上、重要な一里塚であったと言うことができる。この「王・張会談」は、国際社会から幅広い関心を集め、普遍的な評価を受けた。米国、欧州、アジア、中東など世界の主要メディアは今日までに465もの報道と評論を行い、いずれもが高い評価を示し、両岸のトップ級政府関係者による直接交流は、象徴と実質的な意義を兼ね備え、双方の関係の大幅な進展を反映すると同時に、台湾の政府が平和と繁栄を護持する決意をも明らかにしたと認識したものだった。台湾の国内での最新の民意調査においても、「王・張会談」を評価した国民は、6割を上回った。
三、東アジアのチャンスと問題
両岸和解により具現化された安定した状況のほかにも、東アジアは世界の中で、経済成長が最も速い地域となり、人々の生活レベルもすでに大幅に向上した。各国は経済改革に尽力するのみならず、『環太平洋パートナーシップ協定』(TPP)および『東アジア地域包括的経済連携』(RCEP)など、地域の経済統合についても積極的に推進しており、それにより友好的な繁栄の大環境を共同で構築しようとしている。
しかし、東アジア地域の発展した状況にも心配がないわけではない。地域の緊張情勢は各国の経済の相互依存度が高まることにより緩和されるものではなく、却って高まる傾向にある。近年、海域争議はより一層、潜在的な衝突の導火線となっている。
南シナ海については、高度な戦略的価値に加え、豊富な天然資源があることから、各国が主権を主張して争奪し合う焦点となった。関係各国はその空・海軍事力と開発行為を強化し、今日においても一触即発の可能性のある衝突が潜んでいる。
東シナ海については、日本が2012年9月11日に釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)のいわゆる「国有化」を発表したことにより引き起こされた争議から始まった。中国共産党は直ちに、釣魚台海域において、普遍的かつ長期的な対抗行動をとり、2013年11月23日には、「東シナ海防空識別圏」の範囲設定を発表した。この範囲は釣魚台列島を含め、東シナ海海域の大部分を占め、周辺各国の防空識別圏の範囲とも重複している。中国共産党のこのような行為は、関係各国の強い懸念を引き起こしており、台湾の政府もこれに対し、厳正な立場を表明している。
四、中華民国の平和への主張
現在の東シナ海は、一触即発の情勢にあると言える。釣魚台列島の争議が東アジア地域の安定に影響を及ぼす可能性があることに鑑み、私は2012年8月5日の「中日和約」(日本名:日華平和条約)発効60周年の際に、「東シナ海平和イニシアチブ」を提起し、以下の内容を呼びかけた。関係各国が自制し、対立行動をエスカレートさせない。争議を棚上げし、対話および意思疎通を放棄しない。国際法を遵守し、平和的な方法で争議を解決する。コンセンサスを見出し、「東シナ海行動準則」(East China Sea Code of Conduct)を検討して定める。メカニズムを確立し、東シナ海の資源の共同開発を行うというものである。
「東シナ海平和イニシアチブ」は、関係各国が平和的且つ理性的に争議を解決する創造的な選択肢を提供したものであり、これにより米国、日本、欧州連合(EU)など国際社会における主要メンバー国から重視された。台湾の政府は同イニシアチブに基づき、2013年4月10日に、日本と『台日漁業協議』に調印し、台湾の国土2つ分の広さの海域において、双方は主権争議を棚上げし、過去40年間混乱していた漁業争議を解決し、「主権は分割できないが、資源を分かち合うことができる」の理念を実践した。
また、2013年5月に、フィリピン公船の隊員による台湾の漁民射殺事件が発生し、フィリピン政府の正式な謝罪、賠償、犯人の処罰、台湾との漁業交渉開始の後、双方は8月に「法執行には武力を用いず、事前の相互通報、拘束者の速やかな釈放」といった3項目のコンセンサスを達成させ、争議は平和裡に収束した。
2013年11月、フィリピンは台風30号「ハイエン(海燕)」の被害を受け、死亡者は6,000人以上となった。台湾は5月に発生した事件に拘ることなく、災害発生後ただちに、軍機および軍艦を出動させ、760トン、20万米ドル相当の物資を被災地まで運んだ。これはいずれも、台湾の政府が「東シナ海平和イニシアチブ」の原則に基づき、平和と話合いの方式による争議の解決を堅持し、実現した具体的成果である。しかも、現在は東シナ海あるいは南シナ海を問わず、台湾、日本、フィリピンの漁民にとっては、いずれもがこの40年間の中で、出漁するのに最も平和で安全な時となっている。
現在、混乱がやまない東シナ海空域の問題について、台湾の政府は以下、3項目の主張を提言する。
第1:「東シナ海平和イニシアチブ」の精神に基づき、関係各方面は現行の国際法の原則に照らし合わせ、平和的方法で、双方の争議を解決し、それにより東シナ海の空域の安全を確保し、飛行の自由を維持すると共に、地域の平和を促進していく。
第2:空域の安全に直接影響を及ぼす防空識別圏の範囲重複問題については、関係各方面が速やかに二国間の話し合いを行うことができるようにし、それにより解決の道を図る。必要時には、暫定的措置をとることができ、それにより衝突および誤った判断の発生を回避し、飛行の自由と安全に対する影響を少なくする。
第3:関係各方面は、相互信頼およびウィンウィンを基礎とし、海域および空域を含む「東シナ海行動準則」を共同で話し合い、制定する。また、地域の多国間による話し合いメカニズムを速やかに構築し、それにより東シナ海の永続的な平和と長期的な協力を促進し、地域の安定と繁栄を強化していく。
五、結び
我々は現在、チャンスと課題に満ちた岐路に立っている。東アジアは、平和と繁栄に邁進していくのか、あるいは紛争と混乱に陥るのか。これは関係各国のリーダーと国民が出しあう知恵と決意により、賢明な選択がなされるのである。
出席された研究者各位が、本日の会議において提起される優れた見識と、行われるその話し合いは、必ずや台湾の政府の関連した方策のために、有利な基礎を提供し、その上で地域の平和と安定のために重要な貢献を果たすものと強く確信している。
【総統府 2014年2月26日】