中国の軍事拡張と台湾の防衛戦略②
「二〇〇四年国防報告書」概要
第二章 アジア太平洋の軍事情勢
アジア太平洋では目下、中国の軍事拡張により地域内の各国が安全保障において米国への依存を高めるところとなっている。米国はイラク戦後復興、北朝鮮核疑惑、東南アジアテロ活動、南シナ海主権紛争、印パ紛争、中国の軍拡などの問題により、アジア太平洋での軍事トランスフォーメーションを進め、グアム島の対応能力を高めようとしている。また日本、韓国、オーストラリア等との安全保障構造、ならびに「台湾関係法」の運営などによって相互関係を強化し、西太平洋の安定を維持しようとしている。
一、アジア太平洋の戦略環境
アジア太平洋地域は大陸、島嶼、海洋と範囲が広く、民族、宗教などもそれぞれに異なり、各国政府は経済発展を第一としているが、安全保障の考え方は多元的である。
〔米国と西太平洋情勢〕
(一)アジア太平洋の安全戦略
米国は先制攻撃の戦略的理念を持ち、国際テロの拡大、地域紛争の激化などに対し、軍事的優勢を保ち、国家の安全と地域における戦略的利益を確保しようとしている。その措置は以下の通りである。
①域内各有力国間の安定と軍事的均衡を維持する。
②域内海上航路の安全を維持する。
③世界および地域の国際組織における指導的な地位を維持する。
④台湾海峡と朝鮮半島問題を平和的に解決する。
⑤大量破壊兵器の拡散を防止する。
⑥インドシナ半島と南アジアの安全を確保する。
⑦テロおよびテロ支援国家に打撃を与える。
(二)アジア太平洋の軍事情勢
中国の軍事拡張が顕著で域内の軍事均衡が崩れつつあり、それが米国のアジア太平洋地域における国家利益に直接影響を及ぼし、同地域は米国の関心の的となっている。この地域での主導的な地位を維持するため、米国は戦略的な重点を欧州から逐次アジアに移し、軍事配置も移転を進行中である。九・一一同時多発テロの教訓から、米国は国際テロを当面の安全に対する重大な危機と見なし、アフガニスタン、イラク戦争を発動し、その根源を絶とうとした。北朝鮮の核開発疑惑については、六カ国会議の推進によって暫時平穏を保っているが、米国が関心を持つ焦点の一つであることに変化はない。
(三)グアム島、ハワイ、ニュージーランド、オーストラリアの戦略的地位
グアム島は第二列島線(注)に位置し、米国にとってハワイと同様に太平洋における重要な軍事基地で、戦略的地位も高い。中国の軍事拡張を牽制し、米国のアジア太平洋における戦略的地位を確保するため、グアム基地の海空軍力を増強している。二〇〇三年十一月にはハワイの空母艦隊基地が完成し、この二地点の戦略的地位はますます高まっている。ニュージーランドとオーストラリアも積極的に国際問題に関与するようになり、米国および国連の要請に応じ、東チモール問題への関与、イラク再建支援、太平洋島嶼国への経済援助等を強化し、国際的影響力と地位を高めようとしている。
〔東アジア情勢〕
(一)軍事情勢
米国はアジア太平洋における軍事的負担を軽減するため、日本の軍備強化、憲法改正、国際平和維持活動への参加を支持し、ならびに日米同盟関係を強化しようとしている。朝鮮半島では南北の軍事バランスを維持する一方、韓国の装備を更新し、戦争の発生に備えようとしている。北朝鮮はミサイル試射を継続し核開発も放棄しておらず、地域の安全に対する潜在的脅威となっている。
(二)潜在的危機
日露間には北方領土問題があり、第二次大戦終結の平和条約もまだ締結していない。日本は北方領土の主権紛争を据え置き、共同開発を提唱しているがロシアは応じず、この問題に対する双方の立場には大きな隔たりがある。中国と南北朝鮮の間には東シナ海での漁業権問題があり、各漁船の越境が頻発し緊張を作り出しているが、それぞれの自主規制によりまだ重大な衝突は発生していない。日中間には東シナ海の天然資源の問題が浮上し、対立が高まっている。日韓間には竹島(独島)問題があり、解決法がない中に韓国はここに埠頭を築いて守備隊を置き、国際宣伝もおこなって実質支配をしている。釣魚列島(尖閣諸島)はわが国の固有の領土だが、日本と中国が主権を主張し、中国は海洋探査と大陸棚調査によって主権を示し、日本は民間に貸し出し、二百カイリ経済専管水域内に組み込み、同島の問題を複雑化させている。
〔東南アジア情勢〕
(一)軍事情勢
東南アジア各国は分離主義活動と国際テロへの打撃を中心課題としており、テロについてはASEANがマレーシアに「東南アジア対テロ・コントロールセンター」を開設し、国際テロ撲滅への決意を示している。二〇〇三年十月に開催されたASEAN第九回首脳会議では、中国とASEANが「東南アジア友好協力条約」を締結し、軍が参加する「安全政策会議」を開催することにも同意し、「中国ASEAN戦略パートナー宣言」を発表し、中国はこれをASEANの「中国脅威論」緩和の一環とした。インドと日本もASEANと友好協力条約の締結を急ぎ、東南アジアがいっそう世界から注目されるようになり、これが地域内の安全保障に有益となっている。
南シナ海の主権問題は複雑で、関係各国は各島嶼に軍隊を駐留させ、そのうちベトナムが二千人と最多で次が中国の六百人である。主権の争いには各国とも「南シナ海各国行動宣言」の精神に則り、相互信頼システムを確立して平和的に解決し、その中に有利な条件を引き出そうと画策している。
(二)潜在危機
地域内のほとんどの国の政情は安定し、ただちに衝突が発生する危険性はなく、一部の国家間においては、たとえばシンガポールとマレーシア間のように島嶼部の主権と給水問題があるものの、ASEAN体制の約束と相互自主規制によって武力に訴える状況は見られない。ベトナム政府は二〇〇四年四月に南沙諸島への観光目的を名義とした旅行団を組み、軍用飛行場の拡張を宣言したが、台湾、中国、フィリピンの抗議を受けている。この水域の問題の平和解決にはまだ変化があり得る。
二、アジア太平洋の軍事動向
アジア太平洋地域は世界で最も多くの紛争地点を抱えており、米国はイラク・フセイン政権崩壊後、アジア太平洋を中心とした兵力配備を積極的に進めるようになった。二〇〇四年八月十六日にブッシュ米大統領は、今後十年で軍のトランスフォーメーションを進め、戦略の中心を欧州からアジアに移し、同盟各国との調整を図り、地域内での衝突を未然防止すると表明した。だが、中国の軍事拡張と台湾への軍事的脅威は重大化しており、米国、日本、韓国の軍事的動向が台湾海峡の情勢に大きな影響を与えることになろう。
日本は航空自衛隊の司令部を、在日米軍が司令部を置く三沢基地に移し、米軍との連携を強化した。米太平洋艦隊も偵察大隊情報センターを二〇〇三年十一月に三沢基地に置いた。韓国でも段階的に駐留米軍の戦力が強化され、情報収集能力も高められている。
総合的には中国の軍事拡張はますます進展しており、地域各国の「中国脅威論」は深まりつつある。米国はイラクの戦後復興問題、北朝鮮の核開発疑惑、台湾海峡問題、中国の軍事拡張等々の問題を抱え、軍事的には「先制攻撃」の戦略理念によって軍のトランスフォーメーションを進め、同盟各国の防衛力を高め、アジア太平洋地域の平和と安定を維持しようとしている。
米軍の配備調整はアジア太平洋の軍事環境に大きな影響を与えるものとなる。中国の軍事拡張は逐次世界の注目を引くようになり、その中に米国と中国の利益は対立し、その行方は世界の動向にも大きな影響を及ぼすことになろう。
台湾は中国が西太平洋に進出しようとする第一列島線(注)に位置し、自国の安全と利益を護るためにも戦争防止、テロ対策に十分な役割を担わなければならない。
(注:第一列島線=日本列島・台湾・フィリピン。第二列島線=小笠原諸島・サイパン島・グアム島)
【国防部 2004年12月14日】