中国の軍事拡張と台湾の防衛戦略⑤
「二〇〇四年国防報告書」概要
第四章 軍事情勢と国家の安全保障
台湾はアジア太平洋地域列島線の中央に位置し、アジア大陸を囲む月形防衛線の戦略的中枢を占め、中国大陸東南沿海部を押さえている。中国が海洋戦略を進めるには第一列島線(注一)を突破しなければならず、台湾はそこに位置し、日本の南方海上防衛戦略とも深い係りを持ち、日米両国の海洋の利益を保障するかたちとなっている。この台湾の戦略的位置は、中国の太平洋進出を阻止し、日米中の西太平洋における戦略的利益と軍事における勢力バランスを調整する役割を担っている。
一、西太平洋情勢
アジア太平洋情勢は目下世界が注目し、米国の国際戦略の焦点ともなっている。この中で台湾海峡は政治的対立も軍事的対峙も緩和されず、今後西太平洋情勢に影響を及ぼす主要な要素となるだろう。
〔台湾海峡の情勢〕
中国は第十六期「全人代」のあと世代交代が進み、江沢民は中央軍事委員会主席の座を去って胡錦濤が後を継ぎ、党・政・軍の権力を一身に集め、これから短期間に今後の施政方針を明瞭にすると予測される。
中国はわが国の総統選挙のあと、党・政・軍の幹部がしきりと外国を訪問し、「一つの中国」を受け入れるよう各国に要求するとともに、「平和的台頭」のイメージを作り出し、わが国の外交活動の場を圧迫し、シンガポールの次期首相の訪台に報復措置をとったりしている。また「平時に台独を圧迫し、長期に統一を達成する」目的のため、軍備増強を進めるほか、武力によらない「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を進めている。同時に、立場の微妙な台湾企業関係者に圧力をかけて取り込もうとしている。さらに国営、半国営、民間のメディアを通じて虚実の情報を流布し、台湾の軍、官、民の士気に影響を及ぼそうとしている。
近年、中国軍は東南沿海部で三軍合同演習を集中的に行い、そこには漁船まで動員されており、活動範囲も次第に拡大している。現在、両岸間に相互信頼メカニズムがないという状況下に、誤判断、過度の反応、突発的衝突などが発生する可能性はきわめて高い。国民は警戒心を高めコンセンサスを凝集し、国家の安全を維持しなければならない。
〔米中台関係〕
米中台三国関係は、近来、台湾政治の多元化、米台軍事交流と兵器売買条件の調整、さらに「日米安保新構造」による台湾海峡の周辺事態への組み込みなどの要素により大きく変化した。中国は「一つの中国と台湾問題」の白書の中で、台湾に対し武力を発動する「三つの場合」を示したが、それは「台湾がいかなる名義であっても、中国分割の挙に出た場合。外国勢力が台湾を占拠した場合。台湾当局が無期限に交渉を拒否した場合」である。中国はこれらを内政もしくは内政干渉の問題と見なしており、また統一工作を今後加速する兆候が見られ、わが国に対する重大な挑戦を形成している。
二、両岸情勢の推移
両岸は政治的立場の相違により五十数年間異なる統治の状況にあり、中国は「台湾への武力使用」を放棄しようとせず、これが両岸関係正常化の主要な障害となっている。
〔海峡両岸の現状〕
中国は台湾の第十一期総統選挙直前に「決してしない五項目」と「二つの道」(注二)を発表したが、それは硬軟両用と「一つの中国」の主張を交差させており、両岸交流と交渉再開には不利益な内容であった。
中国は「反台独、統一促進」を進めるため、しきりに台湾の民間人、団体、企業の代表者らに接触し、民間の対中観念を変え、台湾の防衛意識を瓦解させようとしている。同時に「両岸関係と経済フォーラム」を活用して企業代表者らに「中国の主権」と「統一」を背景とした経済交流拡大や三通開放の声を台湾内部で上げさせようとしている。
両岸の経済、社会、文化、宗教関係の交流は日増しに頻繁となり、特に経済は大陸に対する依存度がますます高まり、台湾海峡有事の際には国内経済に衝撃を与える可能性がある。近年、大陸民衆が偽装結婚、親族訪問、密航、就業などの手段で台湾に入るケースが増えており、中国の台湾に対する情報収集や破壊活動の機会を押さえ込むため、台湾は入国管理を厳重にせざるを得なくなっている。さらに国内与野党の対立、対中危機意識の曖昧化、ならびにその他の潜在的不安定要素なども、わが国の安全保障と発展を阻害する要因となっている。
〔中国の対台湾策略〕
現段階の中国の対台湾策略は、大体において鄧小平、江沢民路線に沿っており、以前よりも活発化している。外交面では「米国を通して台湾を制御する」策略を用い、国際間では「一つの中国」をますます浸透させようとしている。政治面では「平和統一、一国二制度」の基本方針に沿い「台湾同胞に期待する」といった統一戦線工作を進めている。文化面では多額の資金を投入し、国際的に「反台独、統一促進」の観念を広め、「台湾独立への歩み」を押し潰そうとしている。心理面では甘言を弄して台湾人の対中警戒意識を瓦解させようとしている。それらの詳細は以下の通りである。
(一)外交的圧迫‥中国は各国に「一つの中国」遵守を強要し、国交樹立、相互訪問などには「中国が唯一の合法政府」と「台湾は中国の一部」の承認を前提とし、両岸関係の国際問題化を阻止し、「一つの中国」を国際間での主流観念にしようとしている。近年では北朝鮮の核問題対策、イラクとアフガニスタン再建問題、国際反テロ活動などにおいて、中国は台湾への圧迫を対米協力への交換条件としている。米中高官の相互訪問の際、常に米国に対し台湾の制御を強烈に要請しているのがその策略の証明となる。
(二)政治的矮小化‥中国は台湾の政治的地位を矮小化し、「一国二制度」による「台湾問題」の解決を当面の目標としている。中国は台湾に対し「一国二制度」を受け入れれば「台湾通貨の使用、軍隊の保持、独立関税区の維持、現行政構造の維持」などが認められると宣伝しているが、その真意は台湾から「中華民国」の国号を奪い、台湾政府を中国の一地方自治体とし、台湾の国際活動を封殺しようとするものである。最近の北京の対台湾工作会議では「米国の台湾問題干渉排除、両岸交流の積極的拡大、対台軍事攻撃の準備強化」を三大優先項目とした。今後中国は「一つの中国」をベースとし、わが国に「一国二制度」の受け入れをさらに強く迫ってくるだろう。
(三)経済面での策略‥中国は改革開放政策によって経済を急速に発展させ、すでに世界の主要経済体の一つとなっている。WTO加盟後は外資導入の機会が増大し、外貨準備高を大幅に増加させるとともに軍事支出を拡大し、軍事力を急速に高めている。これらを背景に、台湾の銀行の中国支店開設の緩和、投資保護措置、台湾企業の保険業務と物流関係への参入緩和などによって、さらに国内経済の活性化を図っている。二〇〇四年七月に制定した「マカオ台湾経済関係長期発展戦略」では、広東における台湾企業の投資範囲を徐々に拡大することを定め、杭州で開催した「二〇〇四年両岸関係と経済貿易交流フォーラム」では、国務院台湾事務弁公室が「台湾が明確に三通を国内問題として受け入れてこそ、相互の交渉が進められる」と表明した。現段階の対台経済策略は、投資奨励、高等科学技術の吸収、台湾経済の空洞化、さらに台湾企業を使っての台湾政府圧迫であり、表面は「政経分離」を謳いながら、その実体は「商を以て政を包囲」し「経済を以て統一を促進する」というものである。
(注一:第一列島線=日本列島・台湾・フィリピン。第二列島線=小笠原諸島・サイパン島・グアム島)
(注二‥中国共産党中央台湾工作弁公室と国務院台湾事務弁公室が二〇〇四年五月十七日に発表。五項目は「われわれは、一つの中国の原則を堅持し決して妥協しない。平和交渉の努力を決して放棄しない。台湾同胞と諮って両岸の平和を追求する誠意を決して変更しない。国家の主権と領土保全の意思は決して動揺しない。台湾独立は決して容認しない」。「二つの道」は「台湾が分裂活動を停止し、一つの中国を認めてこそ、両岸関係を発展させられる」「台湾が中国から離れようとすれば自滅の道があるのみ」というもの)
【国防部 2004年12月14日】