中華週報1846号(1998.02.12)
東南アジア経済再生に協力
台湾が必要な支援提供
1月28日は春節(旧正月)。数日前からどこの市場も正月用品の買い付けで大にぎわい
(1月25日、台北市迪化街)
週間ニュース・フラッシュ
◆将来の政府は小さく強力にと李主席が指示 国民党は一月二十二日、「政府の再生を推進し、新世紀を迎える」ことを協議する会議を開催し、李登輝主席は「将来の政府は『小さく強力な』方向に転換し、業務のコンピュータ化を拡大して行政サービスの向上を促進するため、組織の弾力化、構造の明確化、職員の精鋭化と合理化を政府再生の重点方針にしなければならない」と指摘した。《台北『台湾新生報』1月22日》
◆米『ワシントン・ポスト』紙が台湾の「南向政策」を紹介 米『ワシントン・ポスト』(1月22日)は国際面の約半分を使い「李登輝総統は近隣の金融危機解決に協力し、地域への経済と政治に影響力を増大させようとしている」と台湾の「南向政策」を紹介し、「台湾は北京の作り出した国際的孤立の環境を打破するため、東南アジア諸国との経済関係を大きく開拓しようとしており、これがいわゆる南向政策である」と報じた。 《台北『中央日報』1月23日》
◆「韓国への金融支援は了承していない」 政府は東南アジア諸国の金融危機脱出に協力する方針を固めているが、マスコミ界では「政府は韓国に二十億ドルを低利で融資する」との風聞が流れていることに対し、江丙坤・経済建設委員会主任委員は一月二十二日、「東南アジア視察から帰ったばかりで、韓国への支援計画は了承していない」と否定した。《台北『台湾新生報』1月23日》
◆地域の特色生かし離島観光の発展を促進 蕭万長行政院長は一月二十二日、行政院で「観光レジャー施設の拡充は、地域の発展とレジャーの質的向上に有益であり、交通部はとくに地方発展のニーズに合わせた離島地区の観光レジャー施設拡充構想を立て、地域の特色を生かした建設を進めなければならない」と指摘した。 《台北『中央日報』1月23日》
◆穏健な経済政策で国際変化に即時対応 蕭万長行政院長は一月二十二日、立法院で「本年の政府は健全財政の確立、消費者物価の安定、市場経済の尊重を三大目標と定めており、今後関係機関が集中的に協議し、具体的で穏健な政策を確定し、刻々と変化する国際情勢にも対応できるようにする」と明らかにした。 『台北『工商時報』1月23日》
◆デモでの主張を事前許可制にするのは憲法違反 司法院大法官会議は一月二十三日、「共産主義と国土の分裂」を主張するデモは許可しないと規定しているデモ法について、この規定は言論の自由に反し、違憲であるとの判断を下した。デモの事前許可制については言及しなかった。これによりデモ法の改正を待って、デモで主張する内容は制限を受けなくなる。 《台北『聯合報』1月24日》
◆台湾の影響力拡大と英『エコノミスト』誌が報道 英国の経済専門週刊誌『エコノミスト』は最新号(1月24日~30日号)で「台湾が救命艇を発進」と題する特集を組み、「今日の東アジアの混乱した状況は、台湾に外交と経済の影響力を増大させる機会を提供している」と分析し、両岸関係を解説して「台湾は一貫して外交上の孤立から脱却しようとしており、台湾は機に乗ることができるだろう」と結論づけた。 《台北『工商時報』1月24日》
◆県市議員と郷鎮市(市町村)長選挙は国民党勝利 県市議員と郷鎮市(市町村)長選挙が一月二十四日におこなわれ、県市議員選挙では国民党=五二四議席、得票率四九・〇二%、民進党=一一三議席、同一五・七七%、新党=一〇議席、同三・一〇%、その他および無所属=二四三議席、同三二・一〇%。郷鎮市長選挙では国民党=二三三ポスト、得票率五五・二五%、民進党二八ポスト、同一八・六六%、新党〇ポスト、同〇・九四%、その他および無所属=五八ポスト、同二五・一六%となり、国民党が圧勝した。
なお、同時におこなわれた新竹県立法委員補欠選挙では民進党公認・范振宗候補=九万六三〇二票、国民党公認・陳濬全=八万四二三〇票となり、民進党が勝った。 《台北『中央社』1月25日》
◆年末の選挙に有意義と国民党自信示す 章孝厳・国民党秘書長は一月二十五日、今回の選挙結果について「国民党がこの地方選挙に勝利を収めたことは、与党の凋落傾向に歯止めがかかったことを証明しており、本年末の立法委員と台北・高雄市長選挙に直接的な意義がある」と表明した。 《台北『中央社』1月25日》
◆台湾など民主国家のみが金融危機から立ち上がれる 李柱銘・香港民主党主席は一月二十五日、米ヒューストンで「台湾、日本などの民主国家のみが金融危機から立ち上がれる。それらは責任を負う政府だからだ。民主の強さは、韓国、タイなどが金融危機の発生したあと民主的な手続きによって過去の腐敗した政権を放棄したことによって証明されている」と語り、独裁政治を非難した。《ヒューストン『中央社』1月25日》
◆郷鎮市長選挙の停止問題は民意によって処理 一昨年の「国家発展会議」において、選挙の繁雑さから郷鎮市長の選挙を停止することでコンセンサスが得られているが、今回の同選挙の国民党勝利で国民党の判断が社会の注目を浴びている。これについて章孝厳・国民党秘書長は一月二十五日「停止かどうかは立法院での省県自治法の修正内容によって決定されることだ。国民党は民意を尊重し、すべて法的手続きによって決定される」と語った。 《台北『中央日報』1月26日》
◆国民党の台北市長選挙候補は三月下旬に決定 今年末の台北市長選挙に新党からは王建(火+宣氏がすでに出馬を表明しているが、章孝厳・国民党秘書長は一月二十六日「国民党は党内の民主的手続きによって三月下旬までに決定する」と明らかにした。民進党から陳水扁・現台北市長が再出馬するかどうかは未定である。 《台北『中央社』1月26日》
◆両岸問題、ペリー前米国防長官の伝達内容に陸委会が歓迎表明 ペリー前米国防長官は一月十一日から十五日まで大陸を視察し、その後十七日から台湾を訪問したが、同氏は台湾で「北京当局の要人は、前提条件をつけない状況下において両岸交渉の再開を希望している」と明らかにした。これについて行政院大陸委員会は一月二十六日、「ペリー氏は北京で要人らと会見し両岸問題も話し合っている。北京要人が前提条件をつけない交渉再開を望んでいるとわが方に伝えたことを、われわれは歓迎する」との声明を発表した。 《台北『中央社』1月26日》
◆銭其シンの政治交渉呼びかけに陸委会が歓迎表明 中共「中央対台工作指導小組副組長」銭其シンが北京での「江沢民八項目」提示三周年座談会で台湾との政治交渉を望む発言をし、「一つの中国」問題に関しては「一つの中国」の原則は強調したが、これまでの「一つの中国とは中華人民共和国である」との発言はなかった。これに対して張京育・行政院大陸委員会主任委員は一月二十六日、「わが方はすでに両岸交渉を再開する準備はできている。中共指導者が、中断している交渉の再開を願う意志を表明したことを歓迎する」との声明を発表し、記者会見において「われわれは第二次辜汪会談を早急におこない、海峡交流基金会(台湾)と海峡両岸関係協会(大陸)の上層部による各種交流も正常化させなければならないと認識している」と語った。 《台北『聯合報』1月27日》
◆昨年十二月末日の外貨準備高は世界第三位 中央銀行は一月二十六日、昨年十二月末日現在の外貨準備高は八百三十五億二百万ドルになったと発表した。これは日本、中国大陸(香港を含む)に次いで世界第三位であり、二カ月連続で上昇傾向を示している。 《台北『経済日報』1月27日》
東南アジア経済への協力を本格的に始動
金融危機脱出に台湾はできる限りの具体的協力
●東南アジアに必要な支援を
李登輝総統は一月二十三日、総統府において蕭万長行政院長からフィリピン、インドネシア訪問の報告を聴取し「中華民国政府と国民は、現在東南アジア諸国が直面している金融危機の波及に、大きな関心を持っている」と述べ、蕭院長の報告のなかでの建議を評価し「政府は東南アジア諸国に必要な協力をし、積極的に貢献するように」と指示した。
蕭院長はこの報告のなかで「今回のフィリピン、インドネシア訪問の主要な目的は東南アジア諸国の経済事情、とくに目下直面している金融危機の影響を見る点にあった」と述べ、「これらの諸国は関連体制のさらに一歩進んだ改善をしたあと、安定化に向かうだろう」と語った。同時に、国内の経済研究機関が東南アジア経済研究所を設立し、関連資料を広範囲に収集するとともに深く分析を加え、政府に参考意見を提示することを建議した。
蕭院長は「これら諸国の金融危機は、金融体制の問題から派生している。目下IMFがこれら諸国に協力を約束しているほか、各国とも経済体質の調整を進めることになろう」と指摘し、同時に「東南アジア諸国は金融危機に直面しているものの、わが国に借款や金融支援の要求はしていない」と明らかにし「これら諸国の首脳は中華民国が投資を増大させ、相互の貿易と経済交流が強化されることを望んでいる」と語った。 李登輝総統は、蕭院長の東南アジア経済研究所開設の建議に賛意を表明するとともに、関連行政部門の各首長に「今後とも注意深く東南アジア地域の経済状況を観察し、必要な対応をするように」と指示した。
《台北『中央日報』1月24日》
●アジアに経済の活力を注入
アジア金融危機を解決するため、APEC企業諮問委員会が設立した「金融危機主管小組」が一月二十四日、台北で最初の会議を開いたが、蕭万長行政院長は各国代表に対し、「中華民国政府は企業諮問委員会金融危機主管小組が決議したいかなる項目をも全力をあげて支援し、アジア各国がこの金融危機を乗り切るのに協力する」と表明した。
北京は、台湾が東南アジア諸国に協力しようとするのを阻止するためさまざまな手段を講じたが、APECは昨年十一月、わが国に対し特別に「金融危機主管小組」を設立するよう委託し、台湾の辜濂松・中国信託商業銀行理事長を同小組の主席に推挙した。同「金融危機主管小組」は約二カ月にわたる綿密な準備をへて最初の会議が開催されたわけだが、中共のさまざまな圧力にもかかわらず、アジア開発銀行のプラデュナ・ラナ・ア銀最高経済顧問も出席し、そのほか香港、フィリピン、ブルネイ、シンガポール、日本、米国も代表を台北に派遣した。
一月二十四日の第一回会議は、十億から三十億ドルの公債発行、アジア開発基金の設立、各国中央銀行による通貨交換によってアジア市場への資金還流を促進するという三大方針を決議した。この決議は、二月下旬にメキシコで開かれる「企業諮問委員会」で最終確認されたあと、正式に実施されることになる。
《台北『中央日報』1月25日》
●直接的な金融支援はせず
インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンの金融事情を視察した江丙坤・行政院経済建設委員会主任委員は一月二十四日、テレビのニュース番組に出演し、「政府が東南アジア諸国に資金援助をすることはできない。互恵互助の原則により、政府は国内の企業が東南アジア諸国に投資し、現地の労働力など各種資源を活用して国際競争力を高めることを奨励する」と強調した。
《台北『工商時報』1月25日》
李登輝総統が語る今後の両岸と金融問題
独『シュピーゲル』誌のインタビューに応える
李登輝総統は一月十二日、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』の単独インタビューを受け、これからの両岸関係とアジア金融危機の影響などについて所見を語った。以下はその全文である。なお『シュピーゲル』誌は一月二十六日号に全文掲載。
問:過去数年間、アジアの経済奇跡 は世界の模範とされ、二十一世紀は世界経済の中心が太平洋地域に移行すると言われたが、その期待は消えたのだろうか。
答:そうではない。アジア諸国はいま挫折を経験しているかも知れないが、ある国は二、三年で、またある国は四、五年で回復するだろう。これは単に長い過程の一部分にすぎない。経済奇跡についてだが、われわれが本当に必要としているのは、一歩一歩と進む安定成長だ。
問:貴国は金融危機の影響を受けているか。
答:受けていない。さいわい、わが国の経済の基礎は健全だ。今年のわが国の経済は六・六%の成長が見込まれており、しかも物価は安定し、貿易も出超を維持するだろう。このほか、わが国の対外債務は一億ドルにすぎず、外貨準備高は八百六十億ドルに達している。私は、わが国の経済に自信を持っている。
問:台湾元はこの数カ月間で二〇%近く下落したが、これをどう解釈されるか。
答:わが国の経済を見る場合、世界経済の視野から見なければならない。アジアのなかで日本経済が最強で、つぎに台湾、韓国、香港、シンガポールの「四匹の小龍」がつづき、そのあとにASEAN諸国と中国大陸がつづいている。これらの国々はいずれも非常に緊密な関係にある。言い換えれば、一つの国が通貨危機に陥れば、すぐ隣国のレートにも影響を及ぼすということだ。これは流行性感冒のようなもので、一方が風邪をひけば、こちらもクシャミくらいはする。
問:現在のところ、金融危機はまだ中国大陸に及んでいない。この点から見ると、これまで五十年間台湾がしてきた共産制度は崩壊するとの予言は、効果がないのではないか。
答:そんな予言はしていない。中国大陸の政権が変化するかも知れないし、時間が回答を出すだろう。
問:市場経済は勝利するだろうか。
答:中国大陸の経済は以前からそれほど競争力があるわけではなく、一九九四年に人民元は五〇%ほど下落し、近い将来ふたたび下落する可能性もある。こうした状況は東南アジア諸国の輸出競争力にとって圧力となる。最近、中国大陸に米ドル交換のブラック・マーケットが出現したが、これは人民元の公定レートが高すぎることを示している。
問:中国大陸の経済は将来強くなるだろうか。
答:中国大陸も同様に、不景気の波に呑まれている。大陸の成長率は二ケタ台から八、九%に落ち込んでおり、もし高い成長率を維持しようとすれば、大量の外資が必要となってくる。だが実際には、かなりの外資が損失を恐れて大急ぎで撤収しはじめている。
問:残っている外資も結構ある。もし中国大陸の市場が有利ということになれば、他の外資も帰ってくるのではなかろうか。
答:中国大陸は国内経済にも問題がある。国営企業の状況を見ればよく分かる。かれらの総資産は七千億人民元で、そこへ毎年四千億人民元も補填している。このほかにも中国大陸はエネルギーや食糧問題も抱えており、これらの解決には膨大な時間がかかるだろう。
問:北京は行政改革を進めているが、あの国はやはり共産国家だろうか。
答:現在の中国大陸で政府のイデオ ロギーを信じている者はいない。この政権の浮沈は五千八百万共産党員の肩にかかっている。実際に民族主義がすでに共産主義に取って代わっている。
問:一九四九年以来、北京と台北に二つの中国人の政府が存在するが、過去数十年において一種の台湾の自我意識のようなものは形成されただろうか。
答:われわれは台湾で中国の文化と伝統を維持してきたばかりか、同時に欧米文化も取り入れ、近代化された自由な社会を打ち立てた。
問:台湾は定義上すでに一つの国家となっているだろうか。
答:中華民国はすでに八十七年間存在している。台湾は中国の一部分だが、われわれはわれわれの道を進んでいる。今日の台湾は民主的であり、この価値観はすべての中国人が持たねばならないものだ。
問:総統は台湾の国際的地位を高めるとともに、国連にも加盟しようとしておられるが、これは密かに「二つの中国」を進める政策だろうか。
答:違う。われわれは現在一つの国家のなかに二つの政治実体が存在するという状態なのだ。中国は平和と民主と社会的正義の前提下にのみ統一が可能なのだ。
問:あなたは中華民国という国名の使用を堅持されるか。
答:台湾というのは地理上の名称であり、われわれの政治上の名称は中華民国だ。この国は一九一二年以来すでに八十七年間存在しつづけており、一つの主権を備えた国家だ。中共は一九四九年に中国大 陸で建国され、この状況は現在なお変化がない。中華民国はますます充実してきている。これは世界の誰もが否定できない事実だ。
問:しかし、あなたがたはますます孤立を深めてきており、南アフリカが最近貴国と断交し北京と国交を結んだ。北京の外相は、台湾はさらに外交上の挫折を味わうだろうと言っていたが、どう思うか。
答:その件は非常に残念なことだ。わが国と南アフリカ政府は緊密な関係を保ってきたが、アフリカ民族会議(ANC)が常に中共と往来を保ち、しかも北京がマンデラ政権に圧力をかけた。いつかまた状況が変わるかも知れない。
問:現在では二十九カ国が貴国と外交関係を結んでいるだけだが、これはどう思うか。
答:われわれは継続して状況の推移を観察しつづけており、北京もその結果を見るべきだ。
問:現実面と法理論の面から見て、現在台湾は主権を持った独立国だと宣言する適切な時期にきているだろうか。
答:中華民国は建国されて以来、一貫して存在しつづけている。統治管轄の範囲に変更はあったが、主権国家としての地位に変更はない。このようにわれわれは存在しているのであって、国名を変える必要性など根本的にない。もしわれわれが独立を宣言したなら、非常に大きく長期的な災いを招くことになろう。そうしたことは台湾にとって得るところは少しもない。
問:かならず混乱し不安な状態となるだろう。たとえば、一九九六年に中国大陸がミサイル演習をやったようにだが。
答:遺憾なのは、北京の当局者は台湾における中華民国の存在を認めようとせず、またわれわれの民主化の達成を受け入れようとしないことだ。このため、われわれの総統直接選挙の期間中に、武力による威嚇を強めたばかりか、われわれが一九八八年以来、数十年つづいた敵意を解消しようとして進めた両岸交渉を一方的に中止してしまったのだ。
問:近いうちにまた接触はあるだろうか。
答:われわれはそう願っている。観光 、文化、貿易、文化などの面における交流の継続は可能だ。当然ながら、中共は海峡両岸が異なる政治実体によって分割統治されているということを実務的に認識しなければならない。
問:現在のところ、北京はまだいわゆる武力による台湾統一の可能性を放棄していないが。
答:中共当局は一貫して「一つの中国」の立場を堅持しており、わが方を省レベルの低い地位に落とそうとし、われわれに多方面から圧力をかけているばかりか、武力的恫喝までかけている。
問:そうした脅威に、どのような対策を立てているか。
答:もし中共が台湾に対し武力を使用しようと意図したなら、アジア太平洋地域全体の安全に影響を及ぼすだろう。一九九六年に北京の軍事行動は世界からの非難を浴びた。中共の軍事的脅威に対し、われわれは国防力を整備する以外にも、自由と民主の力によって対抗するだろう。
問:どのような状況下なら、あなたは北京の国家主席江沢民と会談できるだろうか。
答:私を中華民国総統の身分で招待すれば、私は北京を訪問するだろう。いつでもよい。場合によっては、北京大学で自由と民主について講演してもよい。
問:江沢民を台湾に招くことはできるか。
答:形式上したことはある。ただし台湾ではなく第三の場所だ。
問:一九九七年七月に香港の主権が 中国大陸に移行してから、北京は「一国二制度」を将来の中国統一のモデルにしているが、この「一国二制度」は台湾に適用できるだろうか。
答:それは意味のないことだ。わが方は植民地ではなく、主権を持った国家だ。だから主権移行の問題は存在しない。そうしたモデルは討論の必要もなく、中共による香港での「一国二制度」の実験がどのような結果を出そうとも、台湾の住民はそのようなものは決して受け入れない。
問:北京は香港の制度に干渉しないと表明すべきだろうか。
答:香港の主権が移行してから、ど のような変化が生じただろうか。 観光客は減ったし、株価も暴落した。報道の自由も後退し、『アジア・ウォールストリート・ジャー ナル』などの外国メディアは発行 業務を台湾に移行している。共産党は見えざる手によって香港人の口を封じている。
問:双方の国民レベルの接触は問題ないと思う。貴国と北京の政治体制が異なるにもかかわらず、中国大陸に三万五千社もの台湾企業が投資している。これをあなたはどう見ているか。
答:台湾から中国大陸への投資はすでに百六十億ドルを越えている。過去五年間、台湾企業による大陸への投資は、わが国の外国への投資総額の四三%に達している。こうした状況がつづけば、中華民国経済は非常に大きなリスクを負うことになる。とくに大陸経済が周期的な下降線をたどった場合はそうだ。このため私は一九九七年九 月に「急がず忍耐強く、ゆっくり 進む」ことを原則とした。だが、五千万ドル以下の投資、インフラ関連やハイテク関係以外の投資には制限を加えていない。
問:そのためにあなたは、直接的な 「通商せず、通航せず、通信せず」を維持しておられるのだろうか。だが、そうした三不政策はすでに崩れているのではないか。
答:表面的にはそうだ。だが、中共が台湾をかれらの一つの省に落とそうとしていることを、われわれは決して見過ごせない。かれらはいつでも投資を接収することができるのだ。そうした状況だから、「直接通航」の問題にしてもそれほど単純なものではないのだ。
問:いくらかの勢力やあなたの近辺においても、早期の両岸統一を希望している者がいるが、台湾の大企業家などは北京の側に立った発言をしているのではないか。
答:中共はあらゆる手段を用いてわが方の企業家を利用しようとしている。わが方のある有力企業家が日本に、台湾から大阪に飛ぶ路線を申請した。日本は中共に睨まれたくないものだから、中共の意見を聞いた。北京が同意するにはさまざまな条件がある。たとえば、わが方の企業家に対しては、わが政府の大陸政策を公の場で批判するといったようにだ。そこで遺憾なことに、わが方の企業家がそうしているのだ。私に言わせれば、国家の安全はなによりも増して重要なのだ。
問:米国は貴国にとって最も強力で重要な国だ。去年、北京の国家主席江沢民が米国を訪問し、盛大な歓迎を受けた。最近における米国と北京の接近によって、貴国は被害を受けているか。
答:米国は一貫して公約を守っている。江沢民とクリントンの会談においても、それは証明された。私はそのことを非常に嬉しく思い、感激している。このほかにも、米国は「台湾関係法」のなかに「いかなる非平和的な手段によってでも台湾の前途に影響を与えようとする試みは、経済的抑圧あるいは封鎖を含め、西太平洋地域の平和と安定に脅威を与えるものと見なし、米国は重大な関心を持つ」と規定している。米国はこの立場を放棄していない。
問:現在米国は明らかに現状の安定に新たな努力をしており、北京には武力で台湾に脅威を与えることを放棄するよう意見を述べ、台湾には台独の可能性の放棄を進言しているが、それへの感想は。
答:武力による脅威の問題は、北京側の問題であるはずだ。台独の件については、わが方の野党の問題だ。台独は野党の民進党が主張していることであって、与党の国民党がそのような主張をしたことはない。最近では民進党の代表でさえ、明らかにそのような主張はしなくなった。選挙で票が取れなくなるからだ。
問:目下、民進党の気勢は上がっている。中国大陸を撤退し台湾に来てからの五十年にわたる国民党の時代は、もう過去のものになるのだろうか。
答:県市長選挙は地方選挙だ。それに得票数からいえば、国民党と親国民党候補者の得た票の合計は、野党より多く、ただ民進党はポストを多く得たにすぎない。
問:万一、西暦二〇〇〇年の総統選挙で民進党の候補者が勝ち、かつ独立を宣言した場合、本当に中共が軍事干渉しはしまいかと心配にはならないか。
答:そのことに関し、私は行きすぎた臆測は望まない。ただ言えることは、わが国の国民に独立の傾向はなく、同時に早急な統一も望んでいないということだ。そのように考えているのは両極の一部の人にすぎない。しばしばおこなわれている民意調査でも、七割から八割という大多数の者が、自由と民主と繁栄の現状を維持する傾向を示している。
《ベルリン『中央社』1月24日》
国家の安全がなによりも重要
シュピーゲル誌の総統インタビューを論ず
李登輝総統は先日、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』の単独インタビューに応じ、台湾の有力企業家が北京の代弁を務めているのではないかと質問したのに対し、「わが方のある有力企業家が日本に、台湾から大阪に飛ぶ路線を申請した。日本は中共に睨まれたくないものだから、中共の意見を聞いた。北京が同意するにはさまざまな条件がある。たとえば、わが方の企業家に対しては、わが政府の大陸政策を公の場で批判するといったようにだ。そこで遺憾なことに、わが方の企業家がそうしているのだ」と応じ、国家の安全がなによりも重要なのだと語った。
ここでいう「ある有力企業家」とは、長栄企業集団(エバ・グリーン)の張栄発氏のことである。かつて李登輝総統と張栄発氏が無二の親友で、張栄発氏の支援したある基金がかなりの学者や専門家を招聘し、それが李総統の「シンクタンク」となったことは誰もが知っている。これまで李総統が提示してきた多くの方針も、このシンクタンクで案出されたものが少なからずある。両者の関係は深く、長栄航空が離陸し発展したのも、李総統の支持があったからに他ならない。両者がいっそう協力しあわなければならない今日、かえって反発しあっているのは、いずれに責任があるのだろうか。
李総統はインタビューで「遺憾ながら」も明確に「国家の安全はなによりも増して重要」と応えている。長栄集団は今日非常に成長し、とくに海運、航空部門では冠たるものがある。それゆえに政府が「急がず忍耐強く、ゆっくり進む」という大陸政策を堅持し、両岸直航がまだ開放されないことに、企業家として張栄発氏は大きな痛みを感じているのだ。しかし李総統には「国家の安全」こそ重要であり、ビジネス・チャンスがあるからといって、台湾二千百五十万住民の安全を放棄することはできないのだ。
「台湾」は地理的名称であり、政治的名称の「中華民国」は主権独立国家であり、自己の道を進んでいる。旧友や有力企業家の心情より、やはり国家の安全が第一なのだ。
《台北『自立早報』1月26日》
1997年中華民国・台湾国情統計㊦
4、両岸交流
①両岸貿易総額:237億8710万ドル(1996年)
②対大陸貿易黒字:160億8850万ドル(1996年)
③両岸の主な輸出入品目(1997年1月~8月)
・輸出
1、電気設備および同部品
2、機械工作用具および同部品
3、プラスチックおよび同製品
4、人造繊維糸
5、工業用紡織物
・輸入
1、電気設備および同部品
2、鉄鋼およびボイラー
3、機器および機械工作用具
4、鉱物燃料、木および木製品
④対大陸間接投資金額(1996年)
68億7372万ドル(中華民国経済部資料)
149億200万ドル(大陸対外公布資料)
⑤両岸住民の出入境延べ人数
大陸住民の来華者:延べ5万8010人(1996年)
中華民国住民の大陸訪問者(身分証明書申請者数):延べ152万6000人(1996年)
5、教育状況
①1996年学校数:7357校
幼稚園2660校、小学校2519校、中学校717校、高校(職業学校を含む) 421校、専科学校70校、大学67校、特殊学校17校、航空大学および補習学校886校
②15歳以上識字率:94.01%(1995年)
③児童の就学率:99.4%(1996年)
④卒業生の進学率:小学校卒業98.89%
中学校卒業90.70%
高校卒業58.88%
職業学校卒業17.71%
⑤各学校における教師の学歴(1996年)
小学校:師範以上95.97%
中学校:専科以上99.04%
高校:学士以上91.96%
職業学校:学士以上84.56%
専科学校:修士61.24%、博士9.37%
大学・独立学院:修士30.7%、博士48.15%
⑥1000人中、高等教育を受けている学生の総人口に占める割合:31.5%(1996年)
⑦教育経費がGNPに占める割合:6.95%
⑧政府の歳出に占める割合:19.50%(1996年会計年度)
⑨中華民国に留学している外国人:5431人(1996年)
⑩帰国就学の華僑学生:9135人(1996年)
6、文化面とレジャー状況
①新聞普及率:55.48%(1996年)
②書籍・雑誌普及率:12.85%(1996年)
③新聞の発行種類数:361紙(1996年)
④雑誌の発行種類数:5480誌(1996年)
⑤図書出版種類数:2万9252種(1996年)
⑥テレビ局数(1993年開放、118チャンネル)
公営10局、民営55局(1997年11月)
⑦有線放送数:148局(1997年11月)
⑧中華民国で登録されている外国通信社:11社(1997年11月)
⑨出版社数:5325社(1996年)
⑩毎年1人平均レジャーにおける支出が消費総支出に占める割合:7.5%(1996年)
⑪毎年1人平均文化活動に参加する回数: 3.1回(1996年)
(完)
軍事交流を通した協力の重要性
コーエン米国防長官、大陸で講演
中国大陸を訪問したコーエン米国防長官は一月十九日、北京の「軍事科学院」で講演をおこなった。この中で、コーエン長官は、米中(共)戦略交流の重要性を強調するとともに、米国はアジア地域における戦略配置を縮小することはないと言明し、さらに、アジアにおける米国の強大な軍事力維持の最大の受益者は中国大陸であると指摘した。「米国│大陸│台湾」の三者関係に関心のある読者の参考のために、以下コーエン国防長官の講演全文を紹介する。
●米国のアジアでの軍事力配備
今回の訪問で、私はまさに変化の「嵐」の渦中に入ることになった。この変化は、一年前に遅浩田「国防相」がワシントンを訪れた際に指摘したより、さらに深刻かつ複雑なものになっているようだ。私はこうした予想外の「嵐」に直面している国家の指導者と会談するたびに、「米国はこれまでと同様、アジア地域に対する公約を順守する」とはっきり伝えている。現在も未来も、米国は、こうした「嵐」の中で安定を維持する「いかり」の役を果たしているのだ。
東アジアの急速な経済成長には多くの理由が考えられ、まず第一にアジア人の勤勉さが挙げられるが、もう一つの重要な理由は、大量の資金投入である。そのほとんどが外国資本であり、こうした資金は、東アジア諸国の生産能力を向上させただけでなく、経済インフラ建設を助けた。しかしながら、外資の投入は、過去数週間の事実が示すように、通常不安定な地域を避けるものだ。なぜなら外資とは「魚群」のようなもので、投資家は「温暖で静かな水域」を選び、そこに大波が起これば、魚群はたちまち逃げてしまうだろう。
過去半世紀の間、米国の軍事力は、一貫して東アジアの安定維持に貢献してきた。米国の軍事力があったからこそ、環太平洋地域は平穏を保ち、外国資金の投入も促進されたのだ。この意味から言うと、半世紀にわたる米国の東アジアにおける軍事力配備の最大の受益者は、すなわち中国大陸なのである。
私の国防長官就任後の最初の仕事は、米国の国防戦略および軍事力配備の全面的な検討であった。この検討により、米国のアジア太平洋地域に対する戦略的公約の保持が再度評価され、これを実現するのに必要な政府予算が与えられた。これによって、われわれは軍事に関する新たな科学技術および思想、組織を十分に発展させることができるようになり、米国の軍事力はさらに強大に、さらに効率的になるのである。
米国のアジア太平洋地域における軍事力配備は、米国の同地域に対する政策とも合致し、これには、二国間の同盟関係の強化や安全保障関係の確立、多国間安全フォーラムへの参加、さらには中国大陸との戦略パートナーシップ関係も含まれる。 米国の同地域における安全保障の第一の柱は、日本、韓国、豪州、タイ、フィリピンとの同盟関係である。これらの同盟関係は、すべて冷戦時代に成立したものであるが、今日における役割は、「対抗」のためではなく防衛性のものである。またこうした同盟関係の存在は、いかなる第三国に対しても影響を与えるものではなく、関係各国は共通の目標、すなわち平和繁栄のための安定した環境作りを目指している。米国は一貫して、こうした二国間関係を、新しい時代にふさわしい、新たな環境の要求に応えるものにするために努力してきたのだ。
●中国大陸との軍事交流
遅浩田「国防相」の昨年のワシントンにおける講演と同様、米国もまた中国大陸との摩擦を避け、安定持続した交流関係を発展させたいと願っている。今日では、中国大陸はすでにアジアにおける強国であり、また当然そうあるべきである。米国はこのことに対し憂慮もしていなければ、大陸を敵視してもいない。それどころか、米国は大陸が相応の責任を持った協力的な大国となることを望んでいる。われわれは、大陸が独自の認識を維持する一方で、安全事務をさらに透明化し、法治をさらに尊重するようになること、さらに国際規範に従う国家になることを期待している。これには、国際紛争の平和的解決、大量殺傷兵器の制限、海域自由航行の開放などが含まれる。また、大陸が米国と協調して、「ゼロサム・ゲーム」的観点によらずに安全問題に対処し、繁栄を促進する安定した環境作りを共同で目指すことを望んでいる。
また、中国大陸の経済発展と安定は、アジア太平洋地域の安定や繁栄にもプラスとなる。逆に言えば、同地域の安定は大陸の経済発展にプラスになるともいえる。ここでとくに説明しておきたいのは、中国の経済発展は、同地域の安定だけでなく、ペルシャ湾の安定にも大きく左右されるということだ。ペルシャ湾地域は、大陸の経済発展に必要なエネルギーの主な産地であり、大陸の近隣諸国のエネルギー供給地でもある。ペルシャ湾で何か問題が起これば、中国の経済発展が深刻な打撃を受けることは疑いようもない。さらに、もし同地域の動乱に、大陸の提供した軍事科学技術が関わっていれば、米国を含めた多くの国が北京に対する反発を強め、大陸は政治的にも深刻な影響を受けることになる。
昨九七年十月、クリントン大統領と江沢民「国家主席」の会談において、一つの重要な合意に達し、北京は今後ミサイルおよび核に関する技術を輸出しないことを確約した。ペルシャ湾情勢の大陸に対する影響を考えると、この合意は大陸の利益とも一致している。この合意および関連協議を通して、昨年十月のクリントン│江会談は、米中(共)両国がさまざまな方式で協力し、「安定・安全・繁栄」という共通の目標に向かって邁進することに希望をつなげるものとなった。
この面において、米中(共)両国は、すでに相互信頼を増し誤解を減らすために多くの措置を採っている。昨年の遅「国防相」のワシントン訪問以降、われわれは数の上では前例のないほど活発に、各レベルの政府関係者の交流をおこなっており、今年の計画では、こうした交流を引き続き拡大し、双方の国防政策決定者および軍関係のトップが一堂に会する予定もある。
これまでに、双方はすでに軍艦の相互訪問をおこなっており、これには大陸の軍艦の初の米国本土訪問が含まれ、北京はまた米海軍の香港訪問の継続にも同意している。昨年十二月には、両国の政策決定者がワシントンで戦略に関する対話をおこない、人道的支援活動に関する情報を交換することで合意した。また本日(一月十九日)、われわれは公海上での偶発的な軍事衝突の回避を目的とした「軍事海上事故防止協定」に調印した。
●交流には公開性が必要
こうした多くの努力は、われわれに希望をもたらすものだ。両国の国防協力は双方にとって有益であるだけでなく、アジア太平洋地域全体にとってもプラスとなる。将来、こうした協力関係を拡大するためには、双方の協力関係を定期的なものにするとともに、相手に対してさらに情報を公開することが最も重要であろう。言うまでもなく、敵に対抗するには、秘密裏に行動し「不意をつく」ことが必要だ。しかし、経験から明らかなように、友人に対しては「公開と信頼」こそが必要なのだ。米国は、自らの戦略、政策、主張、能力、施設などの一切に関して開放的な態度を有しているが、これは国防についても例外ではない。事実、昨年十二月には米国防省の参観者数は過去の記録を更新したが、その記録更新の際の参観者とは、大陸の四川省出身の北京「駐ロサンゼルス領事館員」だったのだ。
われわれは、なぜこれほどまでに開放的なのか。それは、開放こそ米国の利益に合致していると理解しているからだ。すべての人々に、米国の平和追求の意図や軍事力を見てもらえば、誤った理解や思い込みを避けることができ、またこれによって、他国が根拠のない恐れを抱いたり、誤った情報によって衝突が起こる可能性も低減されるのだ。
本日(一月十九日)朝、私は北京近郊の防空指令センターを訪問する機会を得た。私はこのセンターを訪れた最初の外国人だということだ。私はこれに感謝するとともに、こうした機会をさらに開放すべきだと呼びかけたい。そうなってこそ、われわれ双方の交流は、実質的かつ建設的に進めることができるのだ。
また、現在の協力関係を強化する以外に、国防環境専門家の交流、核ミサイル担当者および戦争捕虜問題担当者の交流などの分野における交流や対話を拡大することが双方にとってプラスとなるだろう。
このほか、われわれは、現在の相互信頼の確立を求めた協力関係を、さらに「現実的」なレベルの協力関係にまで進めるべきである。先ほど挙げた人道的支援活動に関する対話がその一例である。絶えまない対話を通して、双方は人道的支援活動の目的を一歩一歩達成することができるだろう。一月にはカナダおよび米国北部で大雪による被害が起こり、中国大陸の河北省では震災が発生した。こうした災害には軍による救援活動が必要であり、こうした例は、双方が軍事協力を通して人道的支援活動をおこなう潜在的価値を示している。
現在の協力関係を強化してから、その協力分野を拡大し、さらに相互信頼確立のレベルから実質的協力に発展させること。これが、われわれが交流を成功させるための決め手であり、これによって、われわれは実質的な成果を得ることができるのだ。 このような協力関係は、アジア太平洋地域全体にとってもプラスとなる。私は今回、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイなど関係諸国の指導者とも会談したが、彼らはすべて、米国と中国大陸の軍事関係問題について触れた。もし、米中(共)が建設的な協力関係を発展させることができれば、こうした問題はさらに容易に理解できるようになるだろう。アフリカには「象がケンカすれば、芝生が踏みにじられる」ということわざがあるそうだ。アジア太平洋地域の諸国が、積極的に米中(共)間の協力促進を望むのは、つまり踏みにじられる芝生になりたくないからだ。よって、米国と大陸には、双方の建設的な協力関係を発展させる責任があるのだ。
●「太平洋の時代」のために
一世紀前には、当時の米国務長官が「地中海の時代はすでに過去のものとなり、今や大西洋の時代となったが、将来は太平洋の時代が来るだろう」と語った。今日、彼の予言はすでに基本的には実現している。問題は、われわれがどのように「太平洋の時代」を築いていくかにある。 われわれは目下、一つの基本的な選択に迫られている。それは、努力によって共通の利益を得るか、それとも対抗するかである。この二つの選択は、米国にとってそれぞれ利益がある。しかしながら、最初の道、すなわち開放、協力、対話を通してこそ、はじめて米中(共)両国ひいては全世界にとって、さらに高いレベルの安全と繁栄を創造することができるのだ。
米国は、共同で努力することが、双方の安全保障にプラスとなると確信している。安全問題は、結局のところ「ゼロサム・ゲーム」的な問題ではない。双方が手を携えて、協力してアジア太平洋地域諸国とパートナーシップ関係を構築することができれば、同地域は将来、「動乱」によってではなく、「平和・希望・繁栄」によって世界中に知られることになるに違いない。(完)
《台北『中国時報』1月22日》
「東京ビデオ・フェスティバル」
台湾からの作品が入選
今年で第二十回を迎える「東京ビデオ・フェスティバル」(日本ビクター(株)主催)の入選作品発表・表彰式が一月二十四日、東京でおこなわれた。開始当初は二百点程度だった応募作品も、二十年目の今年は、国内のみならず世界四十一カ国から約二千百点(国内:千百五十五点、海外:九百四十一点)が寄せられた。
台湾からは二作品の応募があり、そのうち、『WAVES』(Lin tay-Jou/Chiao Wei-Hsuan作)が、「ビデオ活動奨励賞」に選ばれた。作者の両氏は、海外の大学に留学中のため、残念ながら受賞式には出席できなかった。同作品は、アメリカン・コミック風のアニメーションと実写を組み合わせたインスピレーションを感じさせる作品で、斬新な映像と芸術性の高さが評価されたものと思われる。
第四回憲法修正に対する分析③
省組織の簡素化および総統の権限について
中央研究院欧米研究所 彭 錦鵬
省組織の簡素化は「台独」か
昨一九九七年に中華民国憲法が修正されたために、台湾省は今後、民選による省長および議員を有することができなくなった。この修正の基本背景は、一九四六年に憲法が制定された時、中華民国には三十五の省があったことに起因する。しかし、それから五十年を経過した現在、中華民国政府は台湾において二つの省を管轄しているにすぎず、そのうちの福建省は、実際には二つの県を管轄しているだけのいわば形式的な行政機関である。中華民国の中央政府と台湾省政府は、管轄区域において九八%、人口において八〇%が重複しており、こうした不合理な現象に対して、すでに何十年にもわたって論議がおこなわれてきたが、この問題はいまだ解決には至っていない。
このたびの憲法修正において、省政府の組織および業務、機能は大幅に簡素化されたが、その趣旨は合理的かつ効率的な行政構造を打ち立てることにある。中華民国政府は、一貫して将来における中国の平和的統一を追求することを主張しており、よって今回の省レベルの選挙の凍結および数年後におこなわれる予定の市町村長選挙凍結の目的は、高度に民主化された効率的な二段階(中央および県・市)の行政組織を構築し、二十一世紀におけるさまざまな挑戦に立ち向かうことにある。省政府組織の簡素化は、すなわち「政府の再構築(Reinventing Government)」の一環であり、決して「台独」に向かうものであると曲解すべきではない。
憲法修正は総統の権力拡大につながるか
今回の憲法修正の重点の一つは、一九九六年より始まった総統の直接選挙に対応して、総統の権限に合理的調整を加えることであった。
総統の権限の一つとして、行政院長の任命がある。しかし、これまでは、任命に際して立法院の多数意見を尊重しなければならなかった。今回の憲法修正後により、立法院(国会)は倒閣権が与えられたが、これに対し、総統は、立法院で行政院長に対する不信任案が通過して倒閣が成功した場合、行政院長の請求に基づき立法院を解散することができるようになった。こうした行政と立法の間の相互バランス機能により、憲法修正によって総統に追加された権限は、大きな制限を受けることになるのだ。
一九四六年に制定された中華民国憲法では、総統の実質的な権限には制限があり、三軍を統帥する以外には、その最も重要な権限は、行政院長の指名であったが、これには国会の同意が必要であった。実際のところ、過去において中華民国総統が大きな権限を持つと考えられていた主な理由は、ごく短い期間を除いて、これまで総統が同時に中国国民党主席を兼任してきたからなのだ。
あと三年の任期を残す李登輝総統が、今回の「微調整」式の憲法修正の核となる精神を全力で推進するのは、近代的な国家憲政制度を打ち立てるためであり、決して総統の権力拡大のためなどではない。過去十年間、中華民国は民主政治への転換を果たした。李総統は戦時の独裁的体質を有した憲法の「臨時条款」を廃止し、制限のなかった総統の歴任に関する規定を変更し、その任期も六年から四年に短縮した。これらの措置は、すべて合理的な憲法制度を推進しようとする李総統の決意と成果の現れである。(完)
《行政院新聞局・97年11月》
「報禁」解除後の台湾マスメディアの動向
―活字メディアの場合― ③
澁 澤 重 和
Ⅳ報禁とその解除(続)
自由時報は一九九六年六月三日付紙面に、閲報率が台湾一であり、発行部数も百万二千百七十九部とトップであるとの記事を掲載した。一九九七年八月七日付紙面にもSRTの閲報率調査で一九九七年第二四半期もトップであることを広告として掲載している。聯合報、中国時報もそれぞれ都合のよい調査のデータを紙面に掲げて自社が一位であると宣伝している。これに対して中国時報社長の黄肇松は次のような説明をした。
「台湾の全所帯は五百三十万世帯あり、その六八%が新聞を購読している。すると、一日の発行部数は三百四十万部しかない。新聞社は全部で五十社もあるので、百万部以上は発行は不可能ということになる。全新聞社の自称発行部数を合計すると、たぶん一千万部以上になる。中国時報は百万部以上といったことはない。台湾には公正なABCシステムがないで、一九八二年からアメリカのABCシステムに個別会員として参加、監査を受けた結果、百万部と認定された。十一年いたアメリカの新聞の例を上げると、新聞の影響力が一番よく分かるのは案内広告だと言われている。台湾では日曜日の紙面の広告を見れば分かる。一九九七年八月二十四日の日曜日の紙面は、中国時報は合計七十二頁だった。このうち案内広告が三十二頁ある。聯合報は総ページが六十頁で、案内広告は十六頁、自由時報は総ページ数が五十六頁で、案内広告は十四頁。数字に話をさせたい」。正確な発行部数の把握は難しいにせよ、今は三つの新聞がしのぎを削る三大紙時代となっていることが分かる。「報禁」時代から続く聯合報と中国時報は百万部近い発行部数を持つ日刊紙を発行しているだけでなく、それぞれ一大メディアグループを形成している。聯合報は他にも経済日報、民生報、ニューヨーク世界日報、タイ世界日報、欧州日報、聯合晩報、香港聯合報と計八紙と中国論壇、歴史、聯合文学の三月刊誌を発行している。初代オーナーの王暢吾会長は一九九六年三月十一日、八四歳で死去、グループの経営は長男の王必成に委ねられた。中国時報グループも工商時報、中時晩報と合わせて三つの新聞、時報周刊、四季報、投資情報周刊、中国時報周刊、美麗佳人月刊(マリ・クレール誌と特約)の五つの雑誌を発行している。プロ野球チームのイーグルスも所有している。
これに対して新興の自由時報は建設業で財を成した林栄三が一九八〇年に台中市に本拠を持つ自強日報を買収したのが新聞界に手を出したきっかけだった。「報禁」解除の年の一九八八年に本社を台北に移して題字も自由時報に変えた。現董事長の呉阿明によると、「発行部数は三万部しかなかった」という。
転機は一九九二年だった。創刊十二周年記念読者プレゼントと銘打って半年間の購読契約を結んだ読者に抽選でマイホームや車、金などが当たる懸賞を始めた。「印刷部数は百十万以上と自称している。懸賞方式が当たって三年間で五十万部になった。しかし、その後百万部にするためには何もしていない。どんな強力な原子爆弾をつくってもミサイルがなければ駄目だ。結局は、紙面で勝負するんだというのがオーナーの考えだ」という。
確かに、懸賞だけが自由時報躍進の鍵だったわけではない。「静かなる革命」という言葉もあるように、台湾化というキーワードでくくられる台湾の人たちの意識の変化がもう一つのキーとなっていることは紛れもない事実だ。台湾の人口二千百三十万人の約八五%は第二次世界大戦以前に大陸から渡ってきて定住していた人たちだ。移住は古くはオランダが支配していた十七世紀前半にまでさかのぼる。福建省の人たちが多く、したがって言語も、公用語は北京語だが、日常語としては多くの人たちが福建省の言葉であるミン南語や客家語を話す。この人たちは本省人と呼ばれる。最近は台湾人と自称することも多い。
次に多いのが第二次大戦後、国民党政権とともに移住してきた人たちだ。この人たちは外省人と呼ばれる。残りが二%弱の先住民族で、ポリネシア語系の言語を持っている。本省人は約一三%の外省人に対して複雑な思いを抱いている。というのは、台湾に国民党の強権政権を樹立すると、外省人は政・財・官のあらゆる分野で特権を許され、支配的な立場に立ったからだ。このような外省人の支配への抗議は、ときには二・二八事件のように血の弾圧にもつながった。「報禁」下でメディアがミン南語や客家語の使用を禁じられたことからも、本省人の言論を封じ、監督しようという国民党の意図が透けて見えている。国民党はかつてあくまでも本土反攻を唱え、台湾と大陸の二つの政権の統一を錦の御旗としていた。しかし、このような目標はどちらかといえば外省人が強く抱いているものであって、本省人の意思とは必ずしも一致するものではない。本土反攻が非現実的となるにつれて本土反攻には否定的な考え方がいっそう浸透してきた。最近は、台湾の独立という、かつては禁句とされたスローガンも堂々と叫ばれるようになった。自由時報のフロントページ上段の欄外には「台湾優先 自由第一」の八文字が印刷されている。似たようなことは他紙にもないわけではない。台湾時報の題字の下には「無党派 独立報」とあるし、自立早報にも「客観・公正・本土」の文字が題字の上に見える。しかし、自由時報の八文字は本省人の心を適切に表現している。本心は「独立」であっても中国のリアクションを考慮すると、公には叫びにくいという側面もある。そんな現状の下では本省人の気分を自由時報のスローガン「台湾優先」は見事にとらえているのではないか。読者に本省人を強く意識しているのではないか。もちろん、聯合報や中国時報にはそのようなスローガンは掲げられていない。自由時報のオーナーが本省人であるのに対し、二紙のオーナーは外省人である。とりわけ聯合報は国民党右派に近いといわれる。反李登輝路線を明白にしてきた。一九九二年には、こんなこともあった。十月三十日付の各紙に中国共産党の李瑞環中央政治局常務委員会委員への香港、台湾各紙による共同インタビューが掲載された。聯合報は「李瑞環‥‥大陸は、台湾独立を阻止するためには『いかなる方法』をも用いる。『流血の犠牲』をいとわない」などの見出しを付けて、一面トップで報じた。これに台湾独立、台湾人自決などを長らく主張してきた台湾教授協会(林山田会長)やキリスト教長老教会など十五の社会団体、市民団体は「聯合報は過去、国民党に投降して反対派を圧迫し、今また共産党に傾斜して国内対立をあおっている」などとして反発した。「国民の知る権利を封じて民主の発展を阻害したメディアの改造を、新聞不買をもって訴える」と主張し、「新聞不買が台湾を救う」「わが家は聯合報を読みません」といったポスター、ビラなどを読者に配布したり、聯合報に広告を出稿しないよう広告主企業に求める運動に広がった。この騒ぎで「聯合報は部数を減らし、ライバルの中国時報に水を開けられることになった」とされる。「報禁」解除後、多くの新聞が創刊された。しかし、その多くは既成二大紙の牙城を崩すことができなかった。一九九〇年の景気後退の際には停刊する新聞も多かった。一九八九年六月に創刊された首都早報が九〇年八月、創刊わずか十五カ月で停刊に追い込まれたのはその典型だった。「国民党政権に対する批判的姿勢、軍事情報、日本・韓国報道の充実、カラー印刷などを特徴とする高級紙として、知識人読者層に人気があった。同紙最終日の社告で、停刊原因について、景気後退に加え、湾岸危機による投資意欲の低下が重なり、株式を公開しての資金調達を計画していたが、暗礁に乗りあげてしまった、と説明している」。自由時報董事長の呉阿明は「他の二紙(聯合報、中国時報)は大中国思想に毒されている。私たちは台湾人の大多数が求めていること、思っていることを一〇〇%大切にしている」と台湾優先主義を強調した。自由時報がここ数年、飛躍的に部数を伸ばしているのは、台湾の社会で急速にそれでいて静かに進行している台湾化のフォローの風にのったためといえそうだ。 (以下次号)
《昭和女子大学近代文化研究所『学苑』第693号より原文通り転載》
春夏秋冬
日本で「国際化」が叫ばれ始めてから、もうかなりの年数が経過する。だがこのあたりで、国際化とは何かをもう一度ゆっくり考えてみる必要があるのではないか。もちろん英語が喋れるからとか、海外旅行したからとか、そういったものが国際化につながるというものではない。タクシーに乗ったとき、シートの背もたれに「外国製品の購入で国際化」といった標語が貼ってあるのを見たことがある。だがこれは、輸入を増やして外国からのジャパン・バッシングを防ごうとする経済問題であって、社会の国際化を意味するものではない。言葉の使い方を間違っているのだ。
実際の国際化とは、簡単に言えば国際化社会へのなんでもない日常の気配りであろう。たとえば五円玉を見てみよう。あの硬貨には「五」の表示しかない。アラビックの「5」がないのだ。これでは漢数字の分かる人でないと、この硬貨の価値が分からない。もちろん日本人社会では「五」が分かって当たり前なのだが、いま日本に来ている外国人は、漢数字が分かる人ばかりとは限らない。そのことを日本社会は考えたことがあるだろうか。
まだある。日本の玄関口である成田空港で、案内を得ようと近代的なシステムになっているテレビ掲示板を見る。英、仏、独語につづいて中国語の表示も出る。だが中国語の表示を見て指示どおりキーを押していくと、これを理解する中国人は何人いるかと疑問に思えてくるのだ。航空機の名称や発着の都市名は、すべて英語しか出てこないのだ。結局中国語圏の人が成田で中国語の表示を見ようとボタンを押しても、英語を知らないとチンプンカンプンなのだ。
もちろん教育の普及した日本人社会では、小学生でない限りPARISやSAN‐FRANCISCOはもちろん、VANCOUVERやDHAKAでも、ほとんどの人が見当をつけるだろう。つまり成田の外国語掲示板も、五円玉と同じように、日本人の社会を立脚点にしているのだ。日本ほど教育の普及している国は、世界ではむしろ少数の部類に入るということへの認識を忘れ、それへの思いやりに欠けているのだ。そういうところに、その国がどの程度国際化しているかのバロメーターがあらわれてくる。つまり相手の立場を考えないと、国際化をいくら叫んでもそれは「金持ちの遊戯」でしかなくなるのだ。
アジアと付き合うにしても、アジアが何を日本に求めているかをよく考えないと、せっかくの外交も「金持ちの遊戯」になってしまう。日本ではアジアに対し、戦争中の「贖罪」を言い立てて悦に入っている人がけっこう多い。ところがインドネシアに行ってもビルマに行っても、そういう人たちが宣伝しているように反日感情が悪いわけではない。現状認識に欠けるのだ。マレーシアのマハティール首相などは、日本はどうしてそんなに過去にこだわるのかと、逆に首をかしげている。つまり「贖罪」を言い立てている人々は、本当はその人自身、まだ古い軍国主義の観念から抜け切れていないのだろう。
国際化とは、あくまで相手の立場に立って考えることが基本であって、そうでなければ、いくら人道や親切を叫んでも、結果的にそれは自己満足の「金持ちの遊び」に終わってしまうのだ。五円玉に「5」の表記をしようという発想が定着しない限り、東京に地下鉄が縦横無尽に走り、臨海都市が栄えようが、そこは大和民族しか闊歩できない都市ということになってしまうのだ。国際化への道とは、きわめて身近な、きわめて容易なところにある。(CY)