
中華週報1863号(1998.6.18)
今週の写真:今年は5月30日が端午節。苗栗県竹南鎮で県を挙げてのドラゴン・ボートレース
週間ニュース・フラッシュ
◆台湾映画「洞」が「国際批評家連盟賞」を受賞
台湾の著名な映画監督・蔡明亮氏の作品「洞」が五月二十四日、「カンヌ映画祭・国際批評家連盟賞」を受賞した。蔡明亮監督は、以前にも「愛情万歳」と「河流」で、ベネチア映画祭とベルリン映画祭でも同賞を受賞している。 《台北『中国時報』5月25日》
◆台湾と欧州が協力し金融危機解決に努力
李登輝総統は五月二十八日、在台欧州商工会議所の主催する欧州デーの晩餐会に出席し、「貿易、投資、文化交流および科学技術協力が現在の台湾と欧州諸国との関係発展の主軸となっている。両者は互いに協力しあい、東アジア金融危機解決の具体的措置を研究すべきだ」と呼びかけた。 《台北『中央日報』5月29日》
◆台北がワシントンDC、ワルシャワ市と協力関係を強化
台北市主催の「世界首都フォーラム」(5月28~31日)に六十カ国を越す首都の市長、代表団が台北を訪問したが、開催当日の五月二十八日、陳水扁・台北市長はワシントンDC市長、ワルシャワ市長と協力関係強化の合意書に調印した。 《台北『聯合報』5月29日》
◆二二八事件発生の二月二十八日を「和平記念日」に指定
立法院は五月二十八日、戦後の「白色テロ」の犠牲者を補償する「戒厳時期不当反乱審判事件補償条例」を通過するとともに、二二八事件の発生した二月二十八日を「和平記念日」として国定休日にすることを決定した。 《台北『聯合報』5月29日》
◆兵役前の男子の出国自由化七月から実施
立法院は五月二十八日、兵役前の男子の観光や留学による出国を自由化する「兵役法施行法修正案」を通過し、黄主文・内政部長は同日、「六月末より受付を開始し、七月一日より出国自由化が実施される」と語った。 《台北『中国時報』5月29日》
◆香港が台湾からの旅行者入国手続き簡素化
香港特区政府は五月二十九日、台湾からの旅行者の入国ビザ手続きを六月一日から簡素化すると発表した。これにより従来ビザ発給日数が七日間であったのが二日間に短縮され、大陸へのトランジット(通過)は香港滞在七日以内の場合ビザ免除となる。 《台北『聯合報』5月30日》
◆中華民国・台湾の戦略は専守防衛
李登輝総統は五月二十九日、中山科学研究院を視察し「戦略構想で攻守一体はすでに過去のものであり、現在では専守防衛、有効阻止が主流となっている。この変遷に対応し、いかに力を蓄積し国家の安全を確保するかが、わが国の最も重要な国防政策である」と表明した。 《台北『中央日報』5月30日》
◆潜水艦の自力開発すでに多くの技術的問題点克服
国防において潜水艦の需要が高まっているなか、国防部筋は五月三十日、中山科学研究院にディーゼル・エンジン型潜水艦の自力開発を依頼していることを明らかにした。中山研究院の関係筋は「潜水艦自力開発はすでに多くの技術的問題点を克服し、目下ミサイル発射装置や魚雷の開発に取り組んでいる。技術的な問題はない」と表明した。 《台北『中央日報』5月31日》
◆中国石油が苗栗県の油田採掘に成功
中国石油は昨年新竹県宝山十四号井の採掘に成功したのに引き続き、最近苗栗県白沙屯八号井での採掘に成功した。白沙屯八号井の推定埋蔵量は天然ガス三億一千万立法メートル、原油三万八千キロリットル、日産二十八万七千万立法メートルである。 《台北『中央日報』6月1日》
◆日本での市場開拓、効果あらわれる
経済部の発表によれば、この二年来経済部は台湾各地の輸出入組合が日本に貿易ミッションを派遣するのを資金援助する「緊急対日輸出市場開拓方案」を実施しているが、これによる商談成立はすでに一億百万ドルに達した。 《台北『工商時報』6月1日》
◆東アジア諸国の国民一人当たりGDP回復は二~七年必要
東アジア諸国の国民一人当たりGDP成長率が低迷しているが、経済部は最近、これら諸国が一九九七年の国民一人当たりGDPの水準を回復するには台湾は二年、フィリピンは二~三年、タイ、マレーシアは三年、韓国は五~六年、インドネシアは六~七年必要との予測を発表した。 《台北『経済日報』6月1日》
◆大陸当局は台湾ビジネスマンの人権守れ
大陸当局が「スパイ罪」をもって台湾ビジネスマン四人を逮捕した事件について、辜振甫・海峡交流基金会理事長は六月一日、大陸台商協会の座談会に出席し「大陸当局は証拠を明示し、合法的かつ公開の原則に沿って処理しなければならない。最も重要なのは、中共がこの四人の人権を重視することだ」と指摘した。 《台北『中央社』6月1日》
◆中共のスパイ十三人が台湾に潜伏
民進党の蔡同栄・立法委員は六月一日、「最新の情報によれば、台湾に潜入している中共の特務工作員は十三人である。政府は民主国家の法によって監視するのみで逮捕にまでは至っていない。もっと厳重な措置をとるべきだ」と公表した。殷宗文・国家安全局長はこれについて、「中共が台湾に潜伏させたスパイは二ケタ台に達していない。当局はその動向を把握している」と語った。 《台北『自由時報』6月2日》
◆大陸の海協会が辜振甫・海基会理事長の大陸訪問を要請
大陸の海峡両岸関係協会は六月一日、台湾の海峡交流基金会に辜振甫理事長の大陸訪問を歓迎すると連絡してきた。許恵祐・海基会秘書長は同日「理事長の大陸訪問が実現すれば、逮捕された四人の問題を最優先して解決する」と表明した。 《台北『中央日報』6月2日》
◆株価と為替レートの安定に尽力
東アジア金融危機の影響で、台湾でも株価と為替レートの小幅下落が続いているが、蕭万長・行政院長は六月一日、緊急会議を招集し邱正雄・財政部長と彭淮南・中央銀行総裁に「国内の外為と株式市場の動向に十分注意し、必要な場合は政府介入を含む相応の措置をとり、行政院はそれを支持する」と表示した。 《台北『工商時報』6月2日》
◆大陸・海協会は台湾ビジネスマン逮捕事件を直視せよ
大陸・海峡両岸関係協会が辜振甫・海峡交流基金会理事長の大陸訪問を要請してきた件につき、許恵祐・海基会秘書長は六月二日、「海基会と海協会の交流において、もし中共当局が逮捕した四人の問題を解決できなかったなら、各界は両会の機能に対して疑問を持つようになるだろう。大陸の海協会はこの問題を直視すべきだ」と改めて強調した。 《台北『中央社』6月2日》
◆台湾経済の成長率は今年六・三%
太平洋経済協力理事会(PECC)米国分会は六月二日、ワシントンで「太平洋地域経済フォーラム」を開き、中国大陸の経済成長率は昨年の八・五%から今年は八・〇%となり、台湾は同六・四%から六・三%になるとの見通しを発表した。なお、中華民国行政院主計処の最新の予測によれば、今年の台湾経済の成長率は六・〇六%となる。《ワシントン『中央社』6月2日》
◆米国がF16戦闘機の野戦装備台湾輸出を決定
米国防総省は六月二日、台湾に一億六千万ドル相当のF16戦闘機のレーダー誘導装置を輸出することを決定した。この装置を装備すれば、F16戦闘機の夜間および低空での作戦能力が大幅に向上する。 《台北『中央日報』6月3日》
◆中央銀行は台湾元下落を座視しない
中央銀行関係筋は六月二日、現段階での最優先目標は台湾元のレート維持であり、下落を座視することはないと表明し、日本円の動向が台湾元のレートにも直接影響するため、この動向を今後とも見守っていくと指摘した。 《台北『経済日報』6月3日》
国際社会への実質的貢献に注目を
李登輝総統、国際法学会大会で祝辞
李登輝総統は五月二十八日、台北の円山飯店で開かれた「国際法学会第六十八回大会」レセプションにおいて以下の祝辞を述べた。
このたび、国際法学会第六十八回大会が中華民国で開催されることを誠にうれしく思います。
最近十年来、中華民国は経済の高度成長の維持という基礎の上に、平和的に民主改革を完成させ、豊かな「台湾経験」は蓄積いたしました。このことは、国際社会の高い評価を得るとともに、開発途上国の発展モデルとも見なされています。では、「台湾経験」が中華民国と国際社会に対してどのような意義を持つのでしょうか。これについて、中華民国をさらに理解していただくとともに、世界の平和・協力・繁栄のための新しい思考の方向性を示すために、この機会を借りて皆様に簡単にご紹介したいと思います。
「台湾経験」の内容は、実に多方面にわたっております。経済においては、数十年にわたる不断なき努力によって、わが国の個人所得は、第二次世界大戦後の百ドルにも満たない遅れた状況から、昨九七年には一万三千ドルにまで大躍進しました。現在では、GNP、個人所得、経済成長率、外貨準備高、貿易総額、対外投資総額、科学技術力のどれを取っても、わが国は世界ランク上位一〇%の中に入っているのです。
政治においては、多くの外国の学者がすでに指摘している通り、中華民国は近代史上、政治の民主化が経済成長および社会安定の持続の中で達成された希少な成功例となっています。北京の理不尽な圧力により、中華民国と正式国交がある国はわずか二十数カ国にすぎません。しかし同時に、わが国は六十数カ国の無国交国とも深い交流を維持し、三十二カ国に四十四の技術援助チームを派遣して、経済的、人道的援助をおこない、国際社会の一員としての義務を果たしているのです。
こうした成果は、土地が狭く人口が多い上に天然資源が少なく、長期にわたり軍事的圧力と外交的封じ込めを受けている中で達成されたものです。よって、「台湾経験」の最大の意義は、中華民国政府および住民が、困難をおそれず団結の精神を発揮し、絶えず自己調整をおこなって、苦境を打破してきた、その力にあると言えましょう。
いずれにせよ、国連創設メンバーの一国である中華民国は、目下国連に加盟できず、多くの政府間国際組織に参加することも不可能な状況にあります。このことは、国際社会において、中華民国を正しく認識するとともに、「台湾経験」の重要な意義を理解できる人が少ないという状況を作り出しています。これはまた、現在の国際関係においては、「正義」をはっきり示すのが困難であることにも関係があります。国際法は確かに重要ですが、国際社会がある国家を見る場合には、従来の国際法の視点や国際政治の枠組のみに拠らず、国際社会に対する実質的貢献というものも考慮すべきだと思います。
こうした点から言うと、中華民国が今日国際社会に存在するという事実とその広範な影響力は、重視され歓迎を受けるべきであります。台湾に世界秩序における適当なポジションを与えることができなければ、二十一世紀の「地球村」は新たな活力を得ることはできないでしょう。
経済体質が健全である中華民国は、多くの国が深刻な打撃を受けたアジア金融危機にもあまり影響を受けず、また積極的に各国と協力してこの困難な状況を解決したいと願っております。ここでわれわれが特に申し上げたいことは、「台湾経験」は台湾地区住民の血と汗の結晶であるだけでなく、貴重な世界人類の共有財産だということです。中華民国は、国際社会とこの財産を共有し、世界の文明や福祉を向上させるために、力を尽くしたいと思っております。
このたびの大会は、皆様の熱意とご協力のもと誠に順調に進んでおりますが、その成果は、世界の平和発展を促し、大きな影響を生み出すことでしょう。最後に、皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。
《台北『中央日報』5月29日》
台北・高雄両市長選挙候補者出揃う
陳水扁対馬英九と呉敦義対謝長廷各氏の争い
●両市とも一騎打ちの様相
今年十二月五日に予定されている台北、高雄両市長選挙に国民党の候補者選出が難行していたが、党内選挙立候補届け出の締め切り日である五月三十日に、台北市は元法務部長(法相)で現在政治大学助教授の馬英九氏が、また高雄市は現高雄市長の呉敦義氏がそれぞれ立候補届けをし、まだ党内選挙の過程が残っているものの、これで国民党の両市長選挙候補は事実上決定した。
台北市長選挙では、民進党は現市長の陳水扁氏の再出馬が確実視されており、新党からは王建セン(火+宣)氏がすでに立候補を表明しているが、事実上陳水扁氏(民・現)と馬英九氏(国・新)の一騎打ちとなる。高雄市長選挙では、民進党はすでに謝長廷氏の出馬を決定しており、呉敦義・現市長の出馬表明により、ここでも呉敦義氏(国・現)と謝長廷氏(民・新)の一騎打ちとなる見込みである。 《台北『中央社』5月30日》
●台北市、両陣営とも勝算表明
馬英九氏は立候補表明の五月三十日、記者会見で「来年の双十節には台北市庁にかならずふたたび中華民国国旗を掲げる」と自信のほどを示し、「台北市は多くの可能性に富んでいるが、人為的制約でまだ完全に発達しているとは言えない。私が市政を担当すれば、台北市をかならず世界一流の国際都市にする」と抱負を語った。さらに「現市長は法律を学んではいるが、法律を尊重せず、軽視している」と述べ、陳水扁市長による台北市立十四・十五号公園予定地(旧日本人墓地)での違法建築物強制撤去や公娼廃止を例にとり、「弱者への配慮を欠いたもの」として批判した。
なお、現時点における各立候補者への支持率調査結果は以下のとおりである。(調査機関=中国時報民意調査組、調査日=五月三十日、有効サンプル=電話簿から抽出、七百六十一本、誤差± 三・六%)
陳水扁(民・現) 二七・六%
馬英九(国・新) 四七・四%
王建セン(火+宣)(新・新) 三・九%
支持なし 一・七%
未 定 一六・七%
その他 二・七%
また、王建セン(火+宣)氏が立候補をとりやめたと仮定した場合の調査では、陳水扁氏が二八・三%と支持率が微増し、馬英九氏の支持率は五五・五%へと大きく増加する結果が出た。これに対し陳水扁氏は「勝算は十分にある。内部の調査では私への支持率は馬英九氏に劣っていない」と語り、「過去三年間の実績」を強調し「市民がこれを証明するだろう」と語った。さらに「法律軽視」や「弱者への配慮を欠いた」とする馬英九氏からの批判に対しては、「いずれ適当な時期に、強力な反撃を加えるだろう」と表明した。 《台北『中国時報』5月31日》
●高雄市は国民党有利か
現高雄市長の呉敦義氏は六月二日記者会見を開き、「前進のため努力を惜しまず、国民党のため選挙に光栄ある勝利を収め、改めて市政を刷新し、もって市民のために最大の福祉を実現したい」と述べ、これまでの市政の実績を語るとともに、「これからの数年間、高雄市には市区高速鉄道網や高速道路の建設など、重要な公共建設計画が連続している。こうした工事には清廉潔白な市長が推進してこそ成功するものである」と支持を訴えた。
また、民進党の謝長廷氏も同日記者会見をして「もし呉敦義氏が再選され新たに四年間市長に就くとしたなら、その執政期間は十二年八カ月になり、このような長期市政はこれまでの台湾にはなく、世界的にも稀である。法律上問題はないとはいえ、倫理的には八年が限度であり、長期政権は腐敗しやすい」と語り、市長交替を訴えた。
呉敦義・現市長が立候補を表明する前(5月22~24日)にハリス国際リサーチが選挙民の投票傾向を調査したが、結果は次のとおりである。
国民党候補に投票 一二・八%
民進党候補に投票 一〇・三%
未 定 一四・二%
人物本位 五二・二%
そ の 他 一〇・五%
《台北『中国時報』6月3日》
両岸相互連動関係における米国の要素 ③
行政院大陸工作委員会講演(98年5月5日)
国策研究院院長 田 弘 茂
三、米国両岸政策の問題点
今年初頭以来、米国の一部の中国通といわれる学者や政府の元高官らが、中国政策と両岸問題について各種の発言をしており、なかには両岸双方を積極的に訪問してから発表している場合もある。それらの意見は個々に異なるが、およそ米国の現行政策に修正を加えようとするものが多いようだ。
たとえばナイ前国防次官補は「一国三制度」を主張し、ミシガン大学のK・リベザル教授は「中期的な暫定的協議」を、またロバート・マンニン、リュウ・ホワイトといった各専門家らも「暫定的協議の達成」を主張している。
これらのなかで注意を要するのは「一つの中国」の解釈が北京側の主張にすり寄ったものがかなりあるという点だ。ペリー前国防長官やナイ前次官補らは、「一つの中国」の解釈についてはそれぞれに異なった表現をしているものの、台湾のどのような行為が「一つの中国」の原則に反するかについては、北京の主張に近寄ったものになっている。ようするに米国はこれまで「一つの中国」の原則に対して曖昧な姿勢をとってきたが、今かれらは何が「一つの中国」の政策にならないかを議論しはじめだしたのである。同時に明確に分かることは、米国政府における曖昧な部分が縮小されてきたということである。
さらにまたわれわれが注目しなければならないのは、米国の一部において「一つの中国」の政策を明確に打ち出すべきだとする意見が出てきていることである。このなかで、ナイ前次官補の「一国三制度」やK・リベザル教授の「大中国」論などは「一つの中国」に新たな解釈を加え、一見、両岸並立の現状に合わそうとする新たな試みと言えよう。しかしそれらを詳しく見れば、明らかに北京の主張に偏り、台湾における国際活動は「一つの中国」の原則の下に北京と協議し、妥協しなければならないとしているのである。
さらに明確なのは、米国の一部において、両岸問題解決の過程は平和方式でなければならないと強調することに専念している今日のワシントンの方針を逸脱し、実質面での「台湾問題」解決の方策にまで言及する声が出ているということである。もちろんかれらは、台湾にそうした解決策を受け入れよと迫っているわけではないが、それらの意見をかれらは十分に合理的だと強調しているのである。
このほか、政府当局者を含め多くのアメリカ人たちは、両岸交渉回復の必要性を指摘すると同時に、交渉再開の時期が現在すでに到来したと認識している。かれらが交渉の時期が到来したとする理由はまだ不明確で、合理的なものでもなく、それにどのように再開すべきかも、それぞれに異なる見解を示しているが、これらの米国人は両岸交渉の可能性と結果についてはかなり楽観的な見方をしており、交渉再開のなかで実質的な問題に触れる可能性や、またその困難さに対しては、わが方の立場や主張について研究不足であり、あまり言及しようともしていない。たとえば、かれらは「江八項目」については多くの意見を述べるが、「李六項目」に対しては故意にか無意識にかこれを軽視し、「急がず忍耐強く」の政策については、評論しようとすらしないのである。
ふたたび言えば、米国が台湾を守る姿勢には、すでに微妙な変化が現れている。ペリー前国防長官は「海峡両岸間において、もし台湾からの挑発ではない衝突が発生したなら、米国が必要な行動をとることは予期できる。ただし、それが台湾からの挑発であった場合は、米国は行動を保留するだろう」と述べている。ナイ前次官補はさらに明確に「その時になっても、米国は台湾を保護しないだろう」と述べている。
こうした意見は、台湾が「独立」を宣言するか、あるいは外交上においていわゆる「冒険的行為」に出た場合、それは台湾側からの挑発を構成するとするものであり、台湾をトラブル・メーカーとして米国が台湾防衛の行動をとるのを制限しようとするものである。その他の意見においても、台湾に「独立」を宣言しないように要求し、米国政府にもまたその他の国々にも、「台湾独立」を承認しないよう働きかけているものがある。それらも行動の前提条件を曖昧にしておくという政策への挑戦であり、米国の台湾防衛政策に厳しい前提条件をつけようとするものである。
このほか、現在の台湾はすでに十分な防衛力を保持しているとして、ワシントンは台湾への武器提供政策に検討を加えるべきだと主張する意見も、一部において見られる。また別の角度から、台湾海峡両岸がある一定段階の協議に入った場合、自然的に米国が継続して台湾に武器を提供するのは必要なくなるとする意見もある。
そのなかで、K・リベザル教授は「台湾の武器輸入問題は、海峡両岸交渉の政治的対話の一議題を構成する」と主張している。ブッシュ政権時代のダグラス・ポール国家安全補佐官は、「米国が台湾に提供している武器は、すでに北京に抵抗する必要性を満たしており、したがって台湾に潜水艦を提供する必要はなく、さらに台湾をTMD(戦域ミサイル防衛網)に組み込む必要性はない」と述べている。
これらから明確に分かるのは、こうした中国問題専門家や政府の元高官らは、いずれも北京との「建設的な交流」を支持し、「一つの中国」の解釈の範囲をせばめ、さらに「曖昧さを残しておく戦略」に批判的であるという点だ。同時にかれらは、台湾への武器提供に検討を加えるべきであり、基本的に米国は両岸交渉やその接触に介入してはならず、かたわらから奨励するだけで十分だと認識しているのである。
これらの意見や主張が現れたのには特定の背景があり、それらを簡単に述べれば、以下の三点に要約することができる。
まず第一は、一九九六年に「台湾海峡の危機」が発生したとき、米国内部に、台湾海峡での突発的な軍事衝突に自国が巻き込まれるのではないかといった危機感が生まれ、台湾海峡での危機発生の原因を調べ、将来の予防措置を検討するようになったことである。米国の一部のマスコミは、九六年の「台湾海峡の危機」は台湾が過度に北京を挑発したところに原因があり、このため台湾の行為に規制を加える必要があると主張している。
『ニューヨーク・タイムス』は昨年四月、「台湾の要素」と題した社説を発表し、そのなかで台湾側への批判を隠さず、「米国の中国政策は台湾に引きずられてはならない」と主張していた。またスタンリー・ロス国務次官補(東アジア太平洋担当)は上院での公聴会で、米国が李登輝総統の訪米を認めたことは「重大な誤りであった」と批判した。さらに、コーネル大学のクリステセン教授は、季刊『外交問題』に論文を寄せ、台湾が推進している実務外交に対し批判的な立場から、「台湾が一つの中国から乖離しようとしていることにワシントンは規制を加えるべきだ」と主張している。
これらはすべて、批判の矛先を台北に向けたものである。ある学者などは、「台湾海峡の危機」は米国の政策が現実の環境の進展に沿っていなかったところから発生したものだとさえ主張している。言い換えれば、消極的な「一つの中国」あるいは戦術を曖昧にしておく政策では、北京側にも台北側にもその要求や期待に応えることができず、したがってそうした政策に調整が必要だと主張しているのである。
次に、昨年の県市長選挙で民進党の勝利したことが、今後台湾が「一つの中国」の原則に挑戦する可能性が高まったと、一部の米国人に思わせるようになったことである。そこに加え、民進党は今年はじめに中国政策に関する討論会を開催したが、そこで各派閥間において「力強く西(大陸)に進出する」ことにコンセンサスを得たものの、「台湾独立」の主張には変更を加えなかった。
こうしたことから、民進党の影響が日増しに強まっている今日の状況において、一部の米国人は、米国政府の現行の両岸政策の構造では、もし民進党が政権の座についた場合の衝撃を免れず、前もって予防措置を講じておく必要があると認識し、そして現行政策への調整を主張し、米国が台湾海峡の危機、場合によっては発生するかも知れない戦争に巻き込まれるのを防ごうとしているのである。
昨年七月、香港の主権が中国大陸に返還されてから、「一国二制度」の方式がうまくいくかどうかが人々の焦点となり、同時にそれが、中共が国際間において「一国二制度」を宣伝する重要な場ともなった。現在までのところ、香港の行政は一応安定を見せており、同時に北京の後押しで初代の特区行政長官になった董建華が国際舞台に頻繁に登場し、さらに国際マスコミにもしきりと登壇するようになり、それによって一部の米国人たちが「一国二制度」が香港同様に「台湾問題」を解決する方法になるとしだいに受け入れるようになってきたのである。
当然ながら彼らの主張するところでは、台湾は香港よりもさらに多くの権利や活動の場を得るべきだとしている。ナイ前次官補が主張している「一国三制度」などはその代表例であるが、それによって台湾は香港方式を受け入れるべきだと主張しているのである。
最後に、北京が大騒ぎに騒いだ結果によるものである。北京側は「台湾問題」が米中(共)関係の障害になっていると何度も主張していたが、「台湾海峡の危機」のあと、北京はさらに一歩進んで「米国の態度」が両岸関係解決の重要な要素になると認識するようになった。このことから北京は、海峡の両岸当局では解決が困難であり、台北当局と交渉するのを飛び越え、ワシントンを通して台北に影響を及ぼそうとし始めたのである。これは一見迂回した方法ではあるが、北京当局はそれが最も効果的で、台湾問題を解決するための最短距離の方途であるとも考えるようになったのである。
北京は基本的に他国が「内政」に干渉するのを望まないという立場を公言している。だから北京は米国政府当局と両岸関係に関する問題を論じ合うのが憚られ、そこで米国の学界や元政府高官を、統一戦線工作の重要な対象とし、さかんに働きかけ始めたのである。
ここで注目すべきは、北京は米国政府当局との交流を強化するほか、さらに積極的に主だった政界、学界の人物に北京訪問を要請し、それらの口を通じて台湾への圧力を構成し、さらに「下から上へ」あるいは「内から外へ」といった方式をもって、米国政府当局に台湾問題に関して現行政策や方針を変更させようとしている点である。そうした人々の提示する意見というものは、もちろん米国政府の立場を反映したものではなく、場合によっては一部の経済利益団体を背景に持ったものもある。しかし、それらは政界や学界で相応の影響力を持っており、マスコミにおいても取り上げられやすく、長期的には米国の世論に一定の影響を与えることも可能だと考えられる。
同時にそれが、台湾にとって不利な外交環境を作り出し、場合によっては米国政府の政策に影響を及ぼすようになる可能性もある。したがって、われわれとしてはそうした動きが両岸関係に衝撃を与えることを防ぐため、必要な反論を加えると同時に、然るべき対応措置を講じなければならない。 (以下次号)
中共がまた台湾企業家逮捕
再度「スパイ罪」を捏造か
台湾ビジネスマン二十人の不当拘禁により、台湾で大陸での企業活動に不安が高まっているなか、北京の中央テレビは五月二十八日、また台湾ビジネスマン四人を「台湾の国防部情報局から派遣され諜報活動をおこなった」として、「国家安全局」が逮捕したと顔写真入りで報じた。
許恵祐・海峡交流基金会秘書長は同日、「わが国のビジネスマンが大陸で被害に遭うのを座視できない。中共は具体的な証拠を出さねばならず、故意に人を罪に陥れてはならない」と中共の措置を非難した。また国防部スポークスマンは「派遣」を否定するとともに、「中共は毎年六四事件記念日の前になると、民主運動家への見せしめに容疑を捏造し逮捕劇を演じる」と非難した。
《台北『聯合報』5月29日》
今年の経済成長は中程度 経済部は六%達成に自信
最近、行政院経済建設委員会(経済企画庁に相当)は景気対策に厳しい見方を表明したが、経済部(通産省に相当)の研究発展委員会は五月二十八日、「経建会の見方はあくまで短期的なもので、中長期的なものではない」と表明し、「今年一~四月の資本設備輸入は成長率二二%の高水準を維持しており、二億元(約八億円)以上の民間投資も逐次増えており、今年の投資実施ベースは四千億元(約一兆六千億円)になる見込みである」と発表した。
さらに「東南アジア諸国の金融危機はすでに底打ちとなり、今年下半期には沈静化に向かい、輸入力も逐次回復する見込みであり、加えて政府が積極的に輸出拡大政策を推進しており、また南北高速鉄道(新幹線)起工、空港拡張工事、公共住宅の改築などで内需も拡大し、台湾の今年の景気は中程度を維持し、六%の経済成長目標率を達成するだろう」との見解を示した。
《台北『聯合報』5月24日》
「急がず忍耐強く」はまだ必要 張京育・陸委会主委が強調
大陸で台湾のビジネスマンに対する不当逮捕が続くなか、張京育・行政院大陸委員会主任委員は六月一日、大陸台商協会の座談会に出席し「中共の公安機関が『スパイ罪』で台湾のビジネスマンを逮捕した事件は、大陸の法治制度がまだ不完全であることを如実に示すものだ。大陸では台湾ビジネスマンの安全はまだ確保されておらず、この状況が改善されていない今日、産業界は大陸に対する投資リスクを十分に考える必要があり、『急がず忍耐強く』の精神を堅持してこそ、平穏で長期的な発展が可能となるのだ」と語った。
さらに「交流と交渉が現段階における両岸関係の中心であり、政府は両岸交渉をさらに積極的に進めようとしているが、大陸は国際社会においてわが方への圧迫を強化して不安定な政治環境を醸成している。このため政府は、大陸に理性的な対台湾政策をとるように呼びかけている」と表明した。
《台北『中央日報』6月2日》
中共の脅威は軽視できない
殷宗文・国安局長が指摘
殷宗文・国家安全局長は六月一日、政治大学で「国家安全情勢の分析」と題した講演をおこない、「旧ソ連の崩壊後、中共は北方の国境地帯に配備していた兵力を大量に東南沿海部に移動し、すでに戦略的配備を完成させている。そのなかにはスホイ27型や殲8型などの主力戦闘機も含まれており、わが方への脅威には大きなものがある。さらに注目すべきは、目下中共軍の演習が台湾侵攻を想定している点であり、国家安全局はその資料を掌握している」と明らかにした。
さらに「中共は湾岸戦争後、台湾への作戦を五段階に分け、それは①電子戦でわが方の戦闘機、レーダー網、電子連絡網を撹乱、②ミサイル攻撃で地上の軍事施設を破壊、③戦闘機出動で制空権掌握、④艦船出動で制海権掌握、⑤最後に上陸開始というものである」と説明し、国民は中共軍の台湾攻撃能力を軽視してはならない」と強調した。
《台北『中央日報』6月2日》
台湾経済国際競争力は六位
来年はさらに上昇の可能性
スイスの「世界経済フォーラム」(WEF)は六月三日、「一九九八年国家競争力年度報告」を発表したが、そのなかで台湾は前年の第八位から英国、スイスを追い越し第六位に上昇した。今回の報告で目立ったのは、昨年十五位のインドネシアが三十一位に転落したことである。
薛キ(王+奇)・行政院経済建設委員会副主任委員は同日、「わが国の競争力向上は、東アジア金融危機の影響をさほど受けなかったためだろう。わが国の経済は安定しており、来年はさらに向上するだろう」と語った。
スイス「ローザンヌ国際管理研究所」(IMD)の調査でも、台湾は前年の二十三位から十六位に上昇しているが、この六位と十六位の相違について、薛キ(王+奇)副主委は「IMDは当面の経済状況のみを順位の根拠としているのに対し、WEFは将来への発展潜在力を重視しているための相違だ。長期的に考えれば、WEFの方が正確だ」と表明した。
《台北『経済日報』6月4日》
民主化された台湾の現在と未来 ㊦
淡江大学大陸研究所客員教授 阮 銘
新時代に反する共産体制
今日、中共は、中華民国のWTO(世界貿易機関)への加盟を阻止することなどできない。なぜなら、WTOは、従来の世界秩序の維持を目的とした国連などとは異なり、「世界的な経済貿易の自由化が、国境や一部の強国によるコントロールを超えて新たな歴史を創造する」という新時代の到来を示すものだからだ。
中共が進めているいわゆる「中国的特色を持つ社会主義」とは、政治上は閉鎖的な全体主義体制を堅持し、経済上は市場開放をおこなうというものである。しかし、中共の「市場開放」は、一般の自由市場経済とは別物だと考えなければならない。 江沢民の「十五大」での発言によると、大陸の経済体制改革は、「公有制の主導的地位を体現し、戦略上から国有経済の構造を調整し、国家によって国民の経済の流れをコントロールして、国有経済のコントロール能力と競争力を強化するもの」でなければならない。これは、明らかに党や国家権力のコントロールや干渉のもとで、「総合的国力」を強化するために、「ハイテクによる軍強化」により軍事覇権的な市場経済を実現するということである。このことは、自由、民主、人権などの普遍的な価値観と対立するものだ。
中共は、「天安門事件」と旧ソ連崩壊の後、自由民主を共産政権に対する根本的な脅威ととらえ、趙紫陽を「ゴルバチョフ式」の危険人物と見なした。江沢民がクリントン米大統領に示した「自由・民主・人権相対論」は、「反自由・反民主・反人権」が中共の「命の綱」であることを示すものである。クリントン大統領は、江が大陸の民主運動家を「国外での病気治療が必要な刑事犯」として米国に送り込むのを受け入れ、人権問題について譲歩する形となった。よって、中共が自主的に民主、自由あるいは民主化された台湾に対して、「善意」を示すのを待つなどというのは、現実ばなれした幻想にすぎないのである。
江沢民は、「指導幹部は政治を語らなければならない」と言っているが、この「政治を語る」とは、つまり民主を敵視することであり、つまり民主化された台湾を敵視することである。なぜなら、大陸に民主が根付けば、江の専制統治は終わりを告げ、台湾に民主がある限り、中共の覇権的統一も実現できないからだ。江の辞書においては、台湾の「民主・自由・改革」は「台独」と同義語である。総統民選も、憲法修正も、実務外交もすべて「台独」であり、江は、台湾の民主・自由・改革がさらに進めば、中共の考える「一国二制度」による併呑が実現不可能になることを知っているのだ。
全方位で世界に向かう台湾
台湾住民は、特殊な環境の中で存在、発展し、今日の誇るべき奇跡を創造した。そのより所となったのは、民主政治と自由な経済である。台湾が今後、いかに困難を克服して進んでいくかは、やはり民主政治と自由経済の堅持にかかっている。 筆者は、王永慶氏(台湾プラスチック会長)の「台湾は、世界の一流国としての条件を備えている」との言葉を引用したことがあるが、台湾は今後、この条件を現実のものとするため、国中が一致団結して、世界の一流国になるよう努力すべきだ。台湾住民の歴史的使命とは、近代的な自由民主国家という目標に向かって邁進していくことなのだ。
こうした台湾の目標を実現するために最も基本的なことは、台湾自身の発展を立脚点とすることである。 まず第一に、自分自身に意識を向け、始終他人の顔色を見て、一喜一憂することは避けるべきだ。無意味な机上の論議、たとえば「大陸政策と外交政策はどちらが優先されるべきか」とか「大陸政策では誤りは絶対に許されない」といった論議も避けるべきだろう。なぜなら、目下大陸は中共の手の中にあり、われわれがいくら論議しても、何も決めることはできないからだ。
台湾住民に決定権があるのは、この三万平方キロあまりの土地に二千百余万人が住む台湾・澎湖・金門・馬祖だけなのだ。台湾の経済、政治の奇跡は、この小さな「フォルモサ」で成し遂げた。台湾の未来は、この小さな美しい島を世界でも一流の自由民主国家にすることにあるのだ。これは、台湾の安全を保障するものでもある。かつては、土地がすなわち財産であって、国土の大きな国がつまり強国であった。しかし現代社会では、住民の知恵と意志こそが国の力である。知恵と意志は国境を超えて地球上に広がり、土地よりももっと大きな財産となりうるのだ。自由民主制度は、住民の知恵と意志を強めるが、共産主義体制は、これをを根こそぎ奪ってしまう。民主化された台湾の中共に対する優位性は、まさにここにあるのだ。
次に重要なことは、この小さな島に住むわれわれは、決して孤立することはできず、小さな島に封じ込められることなく、世界に向かって、全方位的な発展戦略を選択して進んでいかなければならないということだ。
「西進」、「南向」などの論議はこのさい重要ではない。世界市場は絶えず変化しており、あらゆるところにビジネス・チャンスがころがっている。もちろん、それに伴うリスクも存在する。よって、国家の果たすべき役割は、一定の方向性を定めることではなく、迅速にあらゆる方面の情報を掌握し、それらを分析して、企業を導くことである。台湾が経済奇跡を達成した秘訣は、多くの中小企業が各自の産業の優位性と国際市場の変動に基づき、ビジネス・チャンスを見つけ出す非凡な判断力を有していたことにあるのだ。政府は、企業家の知恵と意志を信じて、その判断や選択を尊重し、最大限に企業家の力を発揮させ、台湾経済の全地球的戦略を実現させるべきだ。
また、台湾の実務外交は、経済貿易における世界戦略に寄与すべきである。政府の外交部門は、外交工作の重点を経済貿易の領域に移し、経済貿易部門やさまざまな産業との協力を強化して、外交の新局面を共同で開いていく必要があろう。
三つ目は、中共に対しては、協力と対抗という両方の戦略を採る必要があるということだ。共産覇権体制が消滅するまでは、中共は、台湾にとってやはり警戒、対抗するだけでなく、できるだけ平等互恵の関係を築くべき相手なのである。警戒と対抗は、中共の台湾併呑の意図を阻止するものとなる。
「対抗」と「交流」が必要
「武力使用を放棄せず」という脅しによって外交的に台湾を国際活動の場から締め出し、台湾に彼らの言うところの「一つの中国」を受け入れさせようという、中共の覇権的統一方針は変えようがない。このため、台湾の中共に対する外交闘争と政治交渉は、持久戦となろう。これは、二つの異なる体制の長期戦なのだ。中共が台湾に外交の場を「与える」などという期待は持つべきではない。
しかし、政治、外交面以外の経済、文化、教育などの分野では、確かに双方が平等互恵の協力をおこなう必要がある。これらの分野では、連戦副総統の「平和・交流・双方に利益」という方針に基づき、こうした基礎の上に協議をおこない、平等な交流、協力を達成し、両岸の経済貿易交流を台湾の経済貿易の世界戦略の一部となすことが可能であろう。このことは、台湾が将来近代的自由民主国家となるためにプラスとなる。
世界の経済貿易が自由化、一体化に向かう時代の流れの中で、台湾と中共という共産覇権体制との間には、「警戒・対抗」と「交流・協力」のどちらもが不可欠である。政治交渉および外交分野において対抗を維持してこそ、双方の平等な協力関係が保障されるのだ。また、双方の平等互恵の交流や協力を維持することは、外交闘争や政治交渉の長期持続にプラスとなる。 時間というものは、総じて、歴史の進む方向に立つ者に有利である。台湾が世界の一流国になる日には、中共の軍事覇権はすでに消滅しているに違いないのだ。
《台北『中央日報』5月20日》
台湾新事情
京都新聞東京支社 水腰 英樹
一、産学連携の拠点整備
台北市から南西に七十キロ、高速道路を走って約一時間の新竹市にある新竹科学工業園区。街路樹に囲まれた園区内には、コンピュータや通信機器などのハイテク工場が立ち並ぶ。
●シリコンバレー並み
コンピュータのハード分野で、米国、日本に次いで世界第三位の生産高を誇る台湾の「シリコンバレー」だ。
台湾政府が同園区の建設に着手したのは一九八八年。敷地は五百八十ヘクタール、京都御苑の約九倍にのぼる。
九七年末現在、コンピュータ・周辺機器百四十社、通信・光ファイバー七十二社、精密機械十八社、バイオテクノロジー十五社など日系企業も含め計二百四十五社が進出している。 園区内には、住宅地があり、学校や病院などの公共施設も完備する。近くには理工科系の二大学、原子力や精密機械などの国立研究所もあり、産学連携の拠点だ。
政府は、園区内の企業には税の優遇や二十四時間通関業務などの特別措置をとる。九七年の出荷額は四千二億台湾ドル(約一兆七千億円)で、前年比二五・六%増。五年前の九二年と比べると、四・六倍もの急成長を遂げている。
園区で働く約六万八千人(外国人を含む)のうち、大学や専門学校で学んだ経営、技術者が五八%を占め、平均年齢も三十一歳と若い。なかでも米国の大学や企業に留学、勤務した経歴を持つ人は三千人に達し、各企業の先頭に立つ。
米国シリコンバレーからの転身組で、コンピュータ・メーカー「大衆電脳」で総経理室特別助理を務める日本人の住友克行さん(四八)は「完全分業や投資のやり方などビジネスの手法がアメリカとほとんど同じ。違和感はない」と話す。
昨年来のアジア通貨危機で、ASEAN(東南アジア諸国連合)などに向けたハイテク製品の輸出は、ややかげりが出ている。しかし、住友さんは「世界のコンピュータ部品の二五%は台湾で生産しており、今後もまだ伸び続ける」とみる。
●台南園区も建設へ
同園区はすでに手狭になっている。行政院(内閣)の国家科学委員会は昨年、台湾南部の台南市で、新竹より広大な台南園区(計画面積六百三十八ヘクタール)の建設に着手した。今年中に一部完成する予定だ。
「ハイテク産業はすでに台湾の基幹産業になっている。これまで海外、とくに米国に流出していた若い頭脳を取り込むことで、柔軟性のある強い体質の最先端企業が育っている」。 園区を案内してくれた科学工業園区管理局助理研究員の陳淑儀さんは、そう言って胸を張った。
昨年夏以来、アジアを襲った通貨危機の中で、台湾は六%を超える力強い経済成長を続けている。海峡を挟んで大陸との距離を保ちながら着実な発展をとげる台湾。その最新情報を産業、環境、経済の分野で見た。
二、独自の削減目標設定へ
「地球温暖化はいまや台湾にとっても重要かつ緊急の課題です」。台北市内の繁華街にある行政院(内閣)環境保護署。日本の環境庁にあたるオフィスの一室で、空気品質保護及騒音管制処の蕭慧娟副処長は、こう切り出した。
海面上昇や植生変化を引き起こす地球温暖化の防止に向けて、昨年十二月、地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組み条約第三回締約国会議)が開かれた。
同会議で採択された京都議定書は、先進国に対し二酸化炭素(CO2)やメタン、亜酸化窒素、代替フロンなど六種類の温室効果ガスを、二〇〇八年から二〇一二年までに、一九九〇年レベルから少なくとも五%削減するよう義務づけた。
国連に未加盟の台湾は、同条約に参加していないが、独自に温室効果ガスの削減目標を近く設定する段取りだ。
●漁業にも影響懸念
海面上昇による沿岸地域のエビ、ウナギ養殖漁業への打撃や伝染病のデング熱の流行拡大など、台湾でも温暖化の影響が懸念されている。
蕭副処長は「急な削減は困難。より早い段階で対策に着手し、温室効果ガスの排出が少ない産業構造をつくる必要がある」と、独自の取り組みに意欲的だ。国連への加盟を熱望する台湾として、削減に積極的な姿勢を売り込もうとする思惑もうかがえる。
高い経済成長を続ける台湾にとって、削減は容易ではない。九〇年は一億一千三百万トンだったCO2の排出量は、九七年には一億八千四百万トンと六〇%以上も増加した。二〇〇〇年には九〇年のほぼ二倍になる見込みだ。
●産業界など猛反発
削減計画の策定に当たって、政府内は一枚岩でない。日本と同じ図式で、通産省にあたる経済部と産業界は猛反発。当初は今年三月に予定していた削減目標の設定は、両者の反対で今月二十六日から開く全国エネルギー委員会に結論を持ち越した。今も激しい議論が続いている。
政府は削減の具体策として、原子力発電所の増設を打ち出す。が、国内の環境NGO(非政府組織)からは「温暖化防止を口実に、安全性に疑問の残る原発を増やすべきではない」との批判が根強い。
蕭副処長は「発展の後戻りはできず、九〇年を基準年に設定するのは不可能。二〇二〇年段階で二〇〇〇年レベルに排出を抑える目標設定が精いっぱいだと思う」と話す。
日本がいま国会で議論している地球温暖化対策推進法案などを参考に「将来の法整備を検討していきたい」という。経済を最優先して発展を続ける台湾。いま高度成長にブレーキをかけるかもしれない温暖化対策のジレンマに揺れている。
三、影響は最小限、経済堅調
昨年夏に始まったアジアの経済・金融危機。インドネシアや韓国では通貨が五〇%近くも切り下げられるなど混迷が続く中で、台湾ドルは約一五%の下落と影響は最小限にとどまった。台湾経済は堅調だ。一九九七年の輸出額は千二百二十一億ドル(前年比五・三%増)、輸入額は千百四十四億ドル(同一一・八%増)と、いずれも過去最高を記録した。
貿易黒字額は七十六億ドル(同四三・七%減)で、八四年以来最低になったものの、九七年末の外貨準備高は八百三十億ドルを超え、世界第三位だ。経済成長率も六・八%を確保した。
政府スポークスマンの張平男・行政院(内閣)新聞局副局長は「十分な外貨準備に対して対外債務は一億ドルと少ない点が台湾ドルの実力の裏付けになっている。国民貯蓄率も高く、企業は国内で十分な資金を調達できる」と、堅実な台湾経済の背景を説明する。
産業構造は全企業の八割以上が中小企業。小回りがきき、国内外の需要の変化に素早く対応できるのも強みの一つだ。
●進む金融の自由化
日本の大蔵省に当たる財政部の陳冲・金融局長は「自由化が進み、銀行を始めとする金融機関の体質が強化されていたことが混乱を最小限にくい止めた」とみる。
台湾でも投機ブームでバブルが発生した。しかし、金融機関の不動産融資に規制があり、日本に比べ不良債権の発生は少なかった。三年前には不良債権の定義を米国なみに厳しく改定して償却を促し、情報開示も義務づけた。外国銀行の市場参入も進んでいる。
「今年秋に向けて、小規模な金融機関の合併を進めるほか、アジア・太平洋金融オペレーションセンターを設立し、金融システム改革をさらに前進させる」。陳局長の口ぶりには自信があふれる。
●人民元切り下げを心配
台湾経済に不安定要因があるとすれば、中国の人民元の切り下げだ。陳局長は「いまのところ兆候はない」とみるが、中国への投資が多い台湾にとって、切り下げは大きな損失を発生させかねない。
日本の経団連や商工会議所にあたる中華民国工商協進会の辜濂松理事長は「日本円が一ドル百五十円近くまで下落すれば、各国通貨の切り下げで国際競争力の低下している中国に人民元切り下げの口実を与えることになりかねない」と不安視する。
「日本は十六兆円の総合経済対策を決めたが、景気の浮揚の効果は疑わしい。減税も将来に不安を抱く国民の貯蓄に回るだろう。日本の政治は五年間の連立政権で互いにけん制するばかり。経済再生の手を打たなかった」。辜理事長の日本に対する見方は厳しい。
台湾経済の持続的な発展のカギとなるアジア経済の再生には、日本の金融システム安定や景気回復が欠かせない。経済優等生の台湾は、経済大国ニッポンの動向を注意深く見つめている。 (完)
《『京都新聞』5月21日、22日、24日付より原文通り転載》
台湾海峡に「橋」を架けたい
台湾は今月二十日、李登輝総統の民選総統就任から二周年を迎えた。民主改革に力を注ぐ李総統に対し、台湾の各種世論調査は軒並み及第点をつけている。
唯一最大の課題は中国との関係改善だが、日本が仲介の労を取って汗をかくときではないか。
「記念日を平常心で迎えたい」という総統の意向で、就任二周年の公式祝賀行事はおこなわれなかったが、記念日を前にした記者会見で総統は、一九八八年の蒋経国総統死去に伴い副総統から昇格して以来の十年間をこう総括した。
「最大の成果は主権在民の理念を実現したことであり、今後は教育、司法、行政などの改革を推進し、二十一世紀にさらに大きく発展することを希望する」
李総統が十年前に示した具体的な政策は①経済体質の改革②民主化の徹底③中国との関係緩和④外交の強化-の四点だ。
うち経済に関しては、コンピュータに代表されるハイテク工業を軸に、産業構造改革を成しげた。既にASEAN(東南アジア諸国連合)に対する投資額は、日本に次いで二位の座を占める。
民主化では、憲法を改正して与党・国民党の永世議員を一斉に引退させ、総統、台湾省長、台北・高雄市長などの直接選挙を実施した。大陸との関係でも憲法の「動員かん乱時期」という規定を廃止し、敵視政策を終了している。
教育現場ではこれまで「国語」として通用していた北京語に加え、台湾語を積極的に教えるところも出てきた。国立の芸術学校では、中国の京劇を基礎に台湾固有のメロディーや振り付けを加え、台湾オペラとして独立した文化を築こうとする人々もいる。台湾はいま限りなく「台湾化」の道を歩んでいるように見える。 こうした流れは「一つの中国」を標ぼうする中国にとって独立に向けた動きとも映るだろう。だが、台湾政府のスポークスマンは「平等で互いに尊敬し合う立場で交流を深め、将来の中国の統一を考えることが双方にとってプラスになる」と語り、独立とは一線を画しながら台湾化政策を推進する姿勢を強調している。
アジアの経済危機の打開策は、アジア開発銀行のメンバーで、アジア太平洋経済協力会議(APEC)にも加わる台湾の力を抜きに考えることができない。
日本は一九七二年の国交断交後、台湾からの渡航者に対し当初は香港の、中国への香港返還後はバンコクにある日本の在外公館が発行する渡航証明書を求めてきた。
しかし、今国会で出入国管理および難民認定法を改正し、台湾政府発行のパスポートも有効とした。来月八日から施行される。台湾側はこれを「小さな一歩だが大きな変化だ」と評価している。
日台関係に中国は神経をとがらせてきたが、その中国も朱鎔基首相の下で改革・開放路線を加速している。台湾海峡に率直な対話の橋を架ける好機ではないか。
日本政府は双方の隣人として、もっと積極的に仲を取り持ち、極東の平和に貢献する義務がある。 (完)
《『河北新報』5月25日付社説より原文通り転載》
「日本台湾学会」設立大会開催
去る五月三十日、東京大学本郷キャンパス内において「日本台湾学会(The Japan Association for Taiwan Studies:JATS)」設立大会記念シンポジウムが開催されました。昨今、台湾の目覚ましい発展にともない内外の学術界では台湾に関する関心が日増しに高まっており、台湾研究に関する組織を増やし、研究者のネットワークを形成するために同会が設立されました。これに先立ち、昨九七年七月に日本台湾学会準備委員会の名で「設立趣意書」が起草され、関係者に配布し発起人を募ったところ、三十名余りからの賛同を得て、同会が設立する運びとなりました。
[趣意書(一部)]
①日本における学際的な地域研究としての台湾研究を志向する研究者の潜在的なネットワークを顕在化させ、相互交流の密度を上げ、研究資源の有効利用をはかることを通じて、日本における台湾研究の充実・発展につとめる。
②他地域における台湾研究との交流の窓口の一つとしての役割を果たすことを目的として、日本台湾学会の設立を呼びかける。
また、同会の主な活動は、①会員間の交流を促進するための、定期研究集会・随時の研究会の運営、インターネットのホームページの開設・維持、②研究のインフラストラクチャーの改善のための文献目録、関連事典、研究案内などの編纂、③他地域の台湾研究者との交流などです。 設立大会当日は予想を上回る二百名以上の参加者があり、急遽会場を変更するほどの盛況ぶりでした。午前中には創立会員総会がおこなわれ、休憩時に暫定理事会会議があり、理事長に若林正文氏(東京大学教養学部教授)が選出されました。
午後から「『台湾研究』とは何か?」と題した記念シンポジウムが開かれ、瀬地山角、佐藤幸人、呉密察、塚本元、山口守の各氏が講演をおこなったほか、フィナーレには陳其南氏が記念講演をおこないました。設立大会閉会後は、場所を学士会館本郷分館に移して、懇親会がおこなわれ、参加者が交流をはかりました。
お 知 ら せ
「新日台交流の会」第十八回研究・懇親会のお知らせ
今回は、台湾アミ族のルギィさんをメインゲストに「ルギィさんを囲む会」を開催します。ルギィさんは台湾東部にある花蓮のハラワン部落の生まれで、現在は武蔵野音楽大学大学院声楽科に在籍中です。
当日は、ルギィさんに先住民との交流活動について語っていただいた後、歌を披露していただくことになっています。日程等は左記のとおりです。
日 時 7月4日(土)午後3~6時
テーマ 「台湾原住民族との交流会」の活動について
会 場 日華資料センター会議室
〒108-0073 東京都港区三田5-18-12 TEL〇三(三四四四)八七二四 FAX〇三(三四四四)八七一七
交 通 JR山手線/京浜東北線田町駅西口または都営浅草線三田駅A3出口から、都営バス渋谷駅行(田87系統)に乗り魚籃坂下にて下車徒歩一分(詳細地図FAX送付可)
「福岡市総合図書館映画会」
東京の「台湾映画祭」でも好評だった「武侠映画の巨人」キン・フー(胡金銓)監督の作品が上映されます。
日時 7月1日(水)~7月5日(日)
会場 福岡市総合図書館映像ホール・シネラ ℡092-852-0608
[上映日程]
7/1(水) 14:00「龍門客棧」 19:00「忠烈図」
7/2(木) 14:00「侠女(上下集)」 19:00「空山霊雨」
7/3(金) 14:00「天下第一」 19:00「龍門客棧」
7/4(土) 11:00「龍門客棧」 14:00「忠烈図」 17:00「空山霊雨」
7/5(日) 11:00「天下第一」 15:00「侠女(上下集)」
料金 大人:八百円/大学・高校生:六百円/小中学生:四百円 (定員制・全回入替制)
春夏秋冬
日本の社会で常に奇異に感じられるのは、なにかにつけ外国の政府から抗議があれば政府は敏感に反応して腰砕けになり、マスコミ界も抗議のあったことを大きく取り上げるという点である。一方、貿易摩擦になるとそれは「外圧」だといって政府もふんばり、マスコミもそうした政府の姿勢を支持する。いずれにせよ、日本のマスコミは「外圧」に敏感なのだ。たとえば、日本が台湾との関係をすこし改善しようとすると、決まって北京からの「外圧」がある。このとき日本のマスコミは、ニュースの中心であるはずの台湾との改善よりも、北京からの「外圧」の方を大きく報じるのである。
こうした姿勢が、国際間の平穏を願って外国の声を重要視するというものであるのなら、一応理解はできる。その真意はいずれにせよ、ともかくこのように日本のマスコミ界は外国からの抗議に敏感なのだ。ところが、コトが自分たちの身を守るか、あるいは利益を得ることになる場合なら、少々問題あることでも各紙とも全員一斉に右へならえ式に黙視してしまう。これも奇異なことだ。
ここに外国では報じられたが、日本では一行も報じられなかった事実をひとつ紹介したい。いま日本では官官接待とか官民接待などが特定の業界や業種によるもたれ合いが話題になり、糾弾されているが、マスコミ界もその業界同士でもたれ合いをしているのだ。
インドが原爆実験を強行したとき、首相官邸で首相の記者会見があった。日本の慣例として新聞記者協会に加盟していない新聞社は、内外を問わず排他的な扱いを受けていたのだが、ようやく原則として外人記者もオブザーバーとして会見に臨場することが認められるようになった。ところが、日本政府がインドに対する制裁を発表するというとき、外人記者には門戸を閉じてしまったのである。このとき、たまたま米国の経済ニュース専門のラジオ局「ブルーンバルグ・ニューズ」の記者のみが記者会見の前に官邸に入っており、この記者は官邸から外に出るよう求められたが拒否した。結局、日本国首相のこの日の記者会見に出られた外人記者は、「ブルーンバルグ・ニューズ」一社となってしまったのである。
これに対し在京の外人記者クラブは、スティブン・ハーマン会長(CBSラジオ)の名をもって官邸に抗議した。官邸が提示した理由は、これは一般の記者会見ではなく、あらかじめ決められた特定の記者のインタビューだからだというものであった。ところが日本の記者クラブは、これはあくまでも一般の記者会見であったと証言している。
ここで問題なのは、二百五十名もの会員を擁する外人記者クラブから正式抗議を受けたにもかかわらず、それを日本のマスコミは一行も報道しなかったという点である。コトは報道の自由に関するものであり、ニュース・ソースに近づくことを拒否されるということには、マスコミ関係者ならことのほか敏感であらねばならないはずなのだ。この件に関して日本のマスコミのすべてが頬かむりしてしまったことは、すなわち身内にはなんの痛みもないからであろうが、ここにさきほども述べたように、官官接待や官民接待に準じるような歪んだ社会現象の一つが見られるのである。
この意味から、マスコミ界から見れば、インドの原爆実験よりもこの歪んだ現象の方が由々しき重大ニュースといわねばならないのではないか。もちろん国際的には、日本国首相官邸から外人記者が締め出されたニュースは、五月十五日のAP電で世界に報道された。
(CY)
第28回 読売新聞国際経済シンポジウム
行政院経済建設委員会主任委員 江丙坤博士講演集
( 1998年5月22日 東京)
東アジア金融危機の原因とその影響
本日、第二十八回読売新聞国際経済シンポジウムに参加でき、光栄に存じます。まず主催者の方々に感謝の意を表明いたします。昨年七月に東南アジアに金融危機が発生して以来、今日いくぶん小康状態に戻っているものの、インドネシアにおける最近の状況などを見れば、短期間内に危機が回復するとは思えません。読売新聞社がこの時期において、東南アジア金融危機発生の原因ならびに解決の道を探るため、各国の専門家を招いてシンポジウムを開催されましたことには、非常に意義深いものがあると存じます。
私は以前、台湾の経済部長(通産大臣に相当)の任にあって、対外経済貿易および投資政策の推進に責任を負い、一九九六年に経済建設委員会主任委員(経済企画庁長官)に転任して以来、わが国経済の企画および政策の立案に責任を負うこととなり、アジア各国の経済問題に深く関心を持つようになりました。今日、実務的な角度から個人の意見を提示したいと思います。
① インドネシアの安定を望む
昨年七月二日にタイが為替レート固定制を放棄したが、そのとき私は招きによってタイを訪問し、台湾における経済発展の経験を、参考としてタイ政府ならびに産業界に提示した。今年一月には、わが国の政府関係者および産業界の代表など約八十人から組織された代表団を率い、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシアの四カ国を視察した。
また今年三月三十日、東京において日本が国を挙げて株価と為替レートの変動に注目しているのを見て、金融危機の東アジア地域に対する影響の大きさを改めて痛感した。さらにまたインドネシアの混乱した状況を見るにおよび、まったく憂慮に耐えないものが感じられてくる。金融危機とは流行性感冒のようなもので、避けようのないものだとも言われている。もちろんそうだろうが、体質がしっかりしておれば、その被害も軽減させることができるものである。いわば体質とは栄養と運動によって作られるものであり、体質が強健であればあるほど、影響も軽微に押さえることができる。
これを国家で言えば、健全な産業と金融政策が重要で、政策が安定していなかったなら、損害もそれだけ増加することになる。今回の金融危機の発生は、東南アジア諸国の金融管理と政策の不適切さによるものであるが、政治の安定も重要な要素と言えよう。最近のインドネシアの混乱は、政治と経済情勢安定の重要性ならびにその関連の深さを示している。われわれは、インドネシア政府が政治経済の改革において迅速な措置を講じるよう望むものである。
② 一部にマイナス成長の可能性
昨年七月から今日まで、もし各国の通貨と株価の下落幅の合計をもってそれぞれの打撃の度合いをあらわすなら、つぎの資料に見るとおり、インドネシアが最も深刻(一二三・二%減)で、つぎが韓国(八八・七%減)で、そのつぎにマレーシアの八一・八%、タイの六三・一%、フィリピンの五七・五%とつづき、影響の最も少なかったのはシンガポール四七・九%、香港の三六・九%、そして台湾の二六・一%であった。
このなかで日本の下落幅合計は四〇・五%である。こうした金融市場への打撃のほかに、今回の金融危機は企業の倒産、大量失業、それに物価の上昇といった衝撃をももたらし、一部の国においては経済のマイナス成長の可能性さえ予測させている。
資料:一九九七年七月から九八年五月十四日までの各国の通貨交換レートと株価の下落幅、およびその合計
通貨交換レート 株価指数 合計変動幅
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台 湾 一六・八%減 九・三%減 二六・一%減
香 港 〇・〇% 三六・九%減 三六・九%減
日 本 一四・八%減 二五・七%減 四〇・五%減
シンガポール 一三・四%減 三四・五%減 四七・九%減
フィリピン 三三・三%減 二四・二%減 五七・五%減
タ イ 三三・〇%減 三〇・一%減 六三・一%減
マレーシア 三三・八%減 四八・〇%減 八一・八%減
韓 国 三七・四%減 五一・三%減 八八・七%減
インドネシア 七八・九%減 四四・三%減 一二三・二%減
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③ 東アジア金融危機発生の原因
以前は世界から「東アジアの経済奇跡」と言われる経済発展を遂げた国々に、どうして金融危機が発生し、それに非常に深刻な打撃を受け、その一方において台湾への影響がなぜ軽微であったのか。その分析を以下にこころみたい。
一、東南アジア諸国はほとんどが対米ドル・ペッグ制の通貨政策をとり、経済の自動調整が困難となり、米ドルが大幅に上昇したとき、東南アジア諸国の通貨交換レートも同時に上昇し、輸出産品の国際競争力が下降して貿易赤字を生むにいたった。また、外債に頼りすぎていたため、国家および企業の返済能力に問題が生じ、国際投機筋が資金を引き上げ、こうして金融危機が発生した。
二、企業の過度の投資が一転して混乱を招いた。東アジアのこれら諸国は、経済の高度成長を求めるあまり大量投資に走り、国内貯蓄率も高かったが、それでも投資資金に不足し、そこでいきおい外資に頼り、これが対外債務を増大させる要因になった。
三、東南アジア諸国の金融制度が不健全で、生産部門に資金を回すことができなかったことも、主要な原因になっている。近年来、世界は金融自由化の趨勢にあるが、その開放の順序が重要なのである。一部の東南アジアの国の金融機関は、政府の高度な保護と干渉を受 け、証券市場もまた健全さに欠け、急激な資本自由移動の開放が国外の大量の短期資金を呼び込み、それらが長期を要する生産部門にまわらず、ほとんどが不動産や株式市場に流れ、バブル経済を発生させて産業の健全な発展を阻害した。
④ 台湾への影響が軽微であった理由
一、台湾は一九七九年に為替レート相場変動性に移行し、一九八〇年代から逐次金融の自由化を推進し、一九九〇年代には銀行の新設を開放し、外国の銀行を歓迎して近代的な金融サービスを提供する一方、株式市場の発展を促進した。また、一連の金融事件発生のあと、金融監査を強める一方において、金融市場に対する政府の介入と指 導の度合いを低め、資金の配分を主として市場の自由動向に任せ、資金の運用効率を高めて金融市場の体質を強化した。
二、台湾では近年来、総合的経済において貯蓄率がGDPの三%から五%を占めていた(貯蓄率が投資率を上回っていた)。また、公共部門における外債はわずか一億ドルにすぎず、民間部門における外債 は二百五十億ドル(主として銀行取引)に達しているとはいえ、海外資産が対外負債額を大きく上回っている。さらに政府が八百億ドルを越す外貨準備高を持ち、今回の金融危機に対応する能力を保持していた。
三、産業構造の面からいえば、中小企業が台湾経済の骨幹を成し(全企業数の九八%)、それらのすべてが市場競争の洗礼を受け、各企 業がそれぞれ経営対象の専門化を進め、弾力性と作業効率を高め、市場の変化に迅速に対応する能力を持っていた。ここで重要なのは、中小企業が大企業と相互に連携し、専門的分業による生産体制を形成し、産業の総合的な経営効率を十分に発揮していることである。ハーバード大学のポーター教授が指摘するごとく、こうしたカルスター・エコノミー(寄り合い型経済システム)の体質をととのえているのは、アジアでは日本と台湾だけである。
四、台湾の企業の資本構造は健全で、一九九七年の企業における自己資本率は五三・九%であり、韓国の二四・〇%、日本の三二・六%、米国の三八・五%よりも高く、このため流動資金の欠乏による影響が少なく、市場の変動に対応する能力をそなえていた。
以上の分析は、台湾が進めた段階的な金融の自由化は市場の機能を尊重したものであり、それによって台湾が産業の持続的な発展をうながし、産業構造と財務の健全化を促進し、今回の東アジア金融危機の影響を比較的軽微に押さえたことが理解できよう。
⑤ 内需刺激による安定成長の維持
IMFの予測によれば、一九八八年の世界経済の成長率は本来四・三%とされていたのが三・一%に下方修正され、国際貿易の成長率も六・四%に下方修正されている。台湾の昨年の経済成長率は六・八%を達成し、今年の目標成長率も六・七%と設定していたが、このたびの金融危機の影響により、成長率は六%から六・二%の間になると思われる。
今年一~四月の累積貿易総額は前年同期比五・〇%減少しており、輸出は六・七%減少、輸入は三・二%の減少であった。このうちASEAN五カ国への輸出は二七・八%減と大幅に減少しており、東南アジア金融危機の影響が台湾にも及んでいることを明確に示している。だがこの十カ月来、東南アジア諸国の通貨下落はかなり改善されてきており、輸入も逐次回復に向かい、今年下半期にはこの地域への台湾からの輸出は改善されるものと思われる。このほか、台湾は目下公共投資と民間投資を促進し、内需を刺激して経済の安定成長を図ろうとしている。
⑥ もう一つのアジア経済の奇跡を創造
東アジア金融危機が発生してよりすでに一年近くが経過し、大部分の国の株価と為替が回復してきているが、インドネシアはまだ混乱がつづき、日本経済は低迷したままであり、これらの動向が今後の東アジア金融危機が平静化に向かうかどうかのカギとなるだろう。さらにまた、アジア各国が自国経済の弱点と金融構造の欠陥を認識し、それによって経済の自由化と市場の開放を促進すると同時に、なおいっそう経済の規律と金融の秩序を重視したなら、かならず災い転じて福となし、経済の活力を回復し、ふたたびもう一つのアジア経済の奇跡を創造することができるだろう。
つぎに、各国の受けた金融危機の影響と産業構造の関係、台湾はどのように金融の自由化を推進したか、各国はどのように協力しあって早急に金融危機を克服すべきか、さらに大陸経済情勢などについて論じていきたい。
台湾と韓国の産業発展政策を見る
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一、は じ め に
韓国経済の発展は、初期において中華民国・台湾の見習うべき対象となり、近年は日本を追い越すことを目標に、鉄鋼、石油化学、自動車、電機、電子および半導体など重化学工業の発展を促進し、その企業規模はすでに台湾を追い越している。私はこれまで外遊するたびに、各国の空港に韓国の財閥である「現代」や「三星」などの巨大な看板が立っているのを目撃し、心の中で「企業力」すなわち「国力」になるのだなあと思ったものである。国境を越えた大型企業を育成するため、中華民国もまた一九七七年から一連の措置を次つぎと実施し、大商社の設立を奨励したものだが、その成果は思わしくなく、一九九〇年にその政策を放棄した。
台湾と韓国では産業構造も規模も異なり、国民性の相違もあって、それらが両国政府の経済政策を異なるものにした最大の要素になったと思われる。これまでに私は、台湾の産業構造が中小企業を中心としたものであり、自社ブランドを持たず、国際市場で韓国との競争に遅れをとるのではないかと憂慮したことがある。だが、このたびの東アジア金融危機において、台湾が受けた影響は比較的限られたものとなり、民間投資は引き続き活発であり、一方韓国経済は深刻な打撃を受け、財閥は倒産の局面に立たされ、その状況は好対象を成すにいたった。台湾経済はさらに発展する自信に満ち、市場の機能を重視した経済政策が正確であったことを示している。
二、台湾と韓国の経済政策比較
(一)韓国政府の強い市場関与と工業発展の主導
韓国政府は一九六〇年代中期から「機械工業振興法」、「鉄鋼工業育成法」、「石油化学工業育成法」をそれぞれ制定し、さらに一九七〇年代初期には「政策的産業発展計画」を策定し、「重化学工業推進委員会」を組織し、行政主導によって重化学工業発展を促進するところとなった。さらに一九七〇年代後期には、韓国政府は産業能率から最適とする規模の標準を設定し、企業の合併と拡張を奨励して大規模の経済効率を追求し、企業の財閥化を進めた。
一九九七年、韓国では大型企業上位三十社の生産総額が国内総生産額の八〇%を占めるにいたり、経済発展のほとんどを大企業に頼るところとなった。大企業の育成とその発展のため、韓国政府は金融機関が直接的間接的に巨額の外貨信用を裏書きすることを進め、国内の大企業への融通を促進し、それが一部の分野に過剰供給となって効率を下げ、企業の負債が増加し、それが韓国での金融危機を引き起こす大きな要素となった。
(二)台湾の市場機能尊重と民間企業発展への補助
台湾の産業に対する政策は、すなわち経済発展の順序に沿って調整するというもので、一九五〇年代および六〇年代は労働集約型による雇用促進工業、一九七〇年代は重化学工業、一九八〇年代は技術集約型とハイテク工業へと、その重点の置きどころを段階的に調整してきた。こうした産業政策の推進は、およそ初期においては政府が未熟な工業を保護するという措置をとり、そして随時自由化、国際化、制度化を主軸として産業の発展を促進するというものであった。政府の産業政策の推進と市場機能の発揮を回顧すれば、民間企業の投資に優れた環境を確立し、国際間の専門的分業化の潮流にしたがい、民間企業の活力を十分に発揮させるものとなった。
台湾における企業の発展は、中小企業中心に進められてきた。一九九六年に中小企業の全企業数に占める割合は九八%となり、生産 額では国内企業全体の三四%を占め、総輸出額では五〇%に達し、雇用数は六九%にのぼり、活力と時期に応じた弾力的な調整力を持つものとなった。
三、優れた台湾の産業体質
(一)堅実な産業体質
台湾の産業構造は、多数の中小企業と少数の大企業の集合体であり、それぞれが関連しあって分業体制をつくり、ピラミッド型の堅実な寄り合い型システムによるカルスター・エコノミーを形成し、専門的分業体制と高効率を実現して、相互支援と迅速な調整能力を備えたものとなっている。韓国の産業構造は、少数の財閥に集中し、分業は企業内部の整合性のなかでおこなわれ、逆ピラミッド型の寡占型産業構造を形成し、企業の効率と事態の変化に対する弾力性は低いものとなっていた。
台湾の産業構造は迅速な調整とレベルアップが進められ、技術集約型製品の輸出総額に占める割合は、一九八六年は一八・四%であったのが、一九九七年には三九・七%になった。とくに情報通信産業の成長は迅速であり、その生産額は、全製造業の四分の一に達している。目下、中華民国は世界第三位のコンピュータ王国に躍進しており、各種ハイテク製品のうちビデオモニターやメインボードなど、十五種類の項目において世界第一位の生産高を保っている。
(二)健全な企業の財務
自己資金の高さ:台湾の企業は自己資金の比率が高く、資本の五三・九%であり、韓国の企業は二四・〇%である。とくに近年、台湾では段階的に株式市場が発展し、通貨および金融商品が多く開発され、企業による金融市場への融資が拡大され、直接的融資の金融市場に占める割合が一九九三年の一二・四%から九七年には二二・六%となり、企業の融資資本の比率を低めた。
負債比率の低さ:台湾の製造業の負債比率は八五・七%で、韓国は融資に頼る度合いが高く、負債比率は三一七・一%であり、両者を同列に論じることは不可能である。
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資料:台湾・韓国・日本・米国の製造業財務構造比較(単位:%)
台湾(95年) 韓国(96年) 日本(95年) 米国(95年)
自己資金比率 五三・九 二四・〇 三二・六 三八・五
負債比率 八五・七 三一七・一 二〇六・三 一五九・七
借款依存度 二六・二 四七・七 三四・八 二六・四
利息負担比率 二・二 五・八 一・三 ---
(出典:韓国産業研究院 注:借款依存度=資本総額に対する借款額)
結論として、過去十年来、台湾では政府が段階的な政策によって民間企業の発展を促してきた。今後とも政府は市場機能を尊重し、健全な投資環境をつくり、専門的国際分業の流れに沿って民間の活力を引き出し、台湾をハイテク・アイランドに発展させるだろう。
金融自由化推進への観点
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一、は じ め に
情報通信技術の進歩にしたがい、各種の規制が緩和され、近年来国際金融の潮流は自由化、地球規模化、電子化に向かって進んでいる。さらに今後、世界貿易機関(WTO)が金融サービスのあり方を定め、各国に市場の開放を求め、金融の自由化がさらに多くの国々の努力目標となり、世界の金融市場はさらに緊密な相関関係を持つようになるだろう。
しかしながら、近代金融市場は技術面における障害とともにリスクも高く、各国の金融体質および管理能力が一定しておらず、経済発展の程度も異なっている。したがって、その開放において自由化の順序を考慮せず、適切な関連措置をとらなければ、かえって金融不安を引き起こすものとなり、一九九四年のメキシコ金融危機や昨年発生した東アジア金融危機などは、その深刻な例といえよう。ひるがえって、わが国は段階的な金融改革を推進し、ならびに金融の秩序と制度化の重要性を重く見て、このたびの金融危機を乗り切っている。
二、わが国と東南アジア諸国における金融自由化の方法とその影響
(一)わが国の場合
1、わが国は一九七九年に為替変動相場制に移行し、さらに一九八〇年から段階的な金融自由化を推進しはじめた。そして一九八九年に利率の上限と下限の制限を撤廃した。一九九一年には十四行に銀行の新設を開放し、市場の競争性を増加させ、また資本市場における健全な株式運用の発展をうながし、人為的な運営による弊害を減少させた。一九八三年からは三段階に分けた外資の国内資本市場への投資開放を実施した(八三年に外国人の国内株式市場への間接投資を認可し、九〇年には外国の法人によるわが国株式市場への直接投資を開放し、九六年には華僑および外国人による国内証券市場への直接投資を認めた。
二〇〇〇年には外国人によるわが国株式市場への投資比率制限を撤廃する予定である)。このほか、何度かの金融事件を経て金融監査制度を強化し、体質の脆弱な金融機関の合併を奨励した。簡単に言えば、政府は銀行および資本市場の改革に対し、一貫して制度の確立を重視し、政府はそのなかで監督、管理者としての責任を負うというものであった。このため企業は自己の経営責任において資金を集め、これによって金融市場の競争が高まり、それが効率的な資金配分の効果を発揮するようになった。
2、台湾金融自由化の具体的成果
●市場競争によって、わが国の銀行マージンは逐次縮小され、IMDの競争力調査報告によれば、わが国は四十六の調査対象国のうち第一位となり、企業融資の比率を下降させた。
●各企業は株式の上場や社債の発行などによる直接金融での資金取得の比率を迅速に高め、企業の安定した資金の獲得に多大の効果をあげた。
資料:わが国における直接融資と間接融資の額および比率の変化(単位:億元、比率:%)
年代 間接融資 直接融資
金額 比率 金額 比率
一九九二年 一七、七〇八 九三・四 一、二五〇 六・六
一九九三年 一五、五〇五 九六・七 五二七 三・三
一九九四年 一四、四四七 八〇・八 三、四三六 一九・二
一九九五年 一一、四四七 八七・六 一、六二四 一二・四
一九九六年 九、五一五 七二・〇 三、六九七 二八・〇
一九九七年 一一、八四一 五四・九 九、七二九 四五・一
(間接融資とは主要金融機関による貸付および投資、直接融資とは株式および社債発行による資金の取得。資料は中央銀行)
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●一九九七年末におけるわが国上場企業の資本調達は、株式および社債発行によるものが七八%にのぼり、銀行からの融資はわずか三・八%となった。
3、台湾では一九八〇年代後半にバブル経済が発生した。八〇年代前半に貿易による出超が年々増加し、外貨準備高が迅速に累積され、加えて当時は国内投資の機会が少なく、銀行預金を受け入れる機関にも不足し、大量の資金が株式市場に流入して株価がわずか三年間 で三〇〇%も上昇し、一九九〇年二月には株価指数が一二、四九五ポイントという市場最高値を記録した。このとき政府は、優良企業の上場や自己資金準備率の向上などの奨励、また信用管理の実施や 外資導入の歓迎など、さまざまな措置によって株価市場の冷却化を 図った。ここ二年の株価指数は八、〇〇〇から九、〇〇〇ポイントの間を維持している。昨年下半期以来の観察によれば、わが国の株式下落はわずか一割程度で、金融危機の影響はきわめて軽微なものとなっている。
(二)東南アジア諸国の場合
一九八〇年代後半より、東南アジア諸国も積極的に金融の自由化を推進しはじめた。タイを例にとれば、一九九〇年に資本導入を開放して利率規制を緩和し、一九九三年にはオフショア金融センターを開始した。しかしレートの自由化が関連措置にかみ合わず、加えて国内の金融機関が未開放で証券市場も発達しておらず、外資の導入が金融関連に集中し、それが不動産、建築、消費の部門に過度に流れ、バブル経済を醸成した。インドネシアの場合も外資導入の開放が早すぎ、株式市場における外資の比率が六〇%にも達し、さらにこれらの国々は金融管理が不十分であり、きわめて容易に金融危機が発生したのである。
三、日本の最近の経済と金融について
1、日本の長期にわたる貿易黒字は、一九八五年に大幅な円高を惹起し、国内経済は沸騰して株価と地価が高値を呼び、バブル経済が形成された。一九九一年に日本のバブル経済はついに破綻し、日本の株価指数は最高値を記録した一九八九年の三八、九一五ポイントから、昨年末には一五、二五八ポイントまで下がり、最高時のわずか四割となった。日本の地価は全国平均で二割下降し、六大都市の平均では六割近くも下落した。
2、日本の金融自由化の速度は比較的緩慢で、一九九〇年代のバブル経済崩壊後、銀行の不動産および証券部門への不良債権の比率が大幅に増えた。日本政府は行政による金融機関の不良債権処理を図るとともに、大幅な金利引き下げ政策の措置をとったが、経済は依然低迷をつづけ、銀行の決算赤字幅は増加し、一部の銀行や証券会社は自己破産を宣告し、日本銀行の不良貸付額は累積し、昨年末にはそれが七十九兆円におよび、債権総額の一四%にまで及んだ。
3、日本政府は一九九八年四月から金融の改革に着手した。この金融改革から見れば、金融危機の解決は決して政府のさらに多くの関与や金融規制によって解決されるものではなく、資本移動の自由化、金融業務の開放、金融監査の強化など、構造的な改革を進めてこそ達成できるものと理解できる。私は、日本の金融自由化は順調に進み、景気は早い時期に回復し、進んでアジア経済の発展を牽引するものと楽観している。
四、結論として
金融自由化の成功には、合理的な自由化の順序、金融監査制度の確立、総合的な税制・通貨政策との配合という三要素が必要であり、この一つでも欠けてはならない。こうした金融自由化が総合的に経済の体質を向上させ、経済の安定と産業の発展をもたらすのである。台湾はこの十年来、段階的な金融自由化とその他の改革を推進してきたが、それが今回の金融危機を回避した最大の要因となっている。
資料:台湾の金融自由化に対する主な措置
年代 主な金融自由化措置
一九九〇年 ①米ドル小額公定レートの規定を排除し、銀行レートの自由化を実施。
②外国証券会社による台湾での支店開設を開放。
③外国投資専門機関の台湾株式市場への投資を二十五億ドルまで開放。
一九九一年 ①銀行の新設を開放し、十五行の新規開設を認可。
②外資(アジア開発銀行)の台湾での債券発行を認可。
③銀行の派生金融商品取引業務を大幅緩和。
一九九二年 ①カード市場を開放し、共同発行・清算の規定を解除。
②証券投資信託会社十一社の新設を認可。
一九九三年 ①年間五百万ドルまでの個人外貨取引を認可。
②保険会社新設を開放し、生命保険六社、火災保険一社の新規開設を認可。
③海外先物取引を開放し、先物取引十一社開設を認可。
一九九四年 ①外国銀行の支店開設を自由化し、毎年三行以内および設立地点の制限を排除。
②外国人の台湾元による口座開設を開放。
③証券会社新設を自由化。
④最初の公営金融機関の民営化を完成。
一九九五年 ①証券会社の新設を開放。
一九九六年 ①銀行外為取引の上限規定を排除し、中央銀行との協議制に移行。
②外資による投資制限を撤廃。
一九九七年 ①先物取引法を通過、国内先物取引を開放。
②企業の年間出来高限度を五千万ドルまで引き上げ。
③外国人の台湾での株式上場と台湾企業の外国での株式上場を自由化。
一九九八年 ①公営の商業銀行三行の民営化を完成。
(資料:行政院経済建設委員会)
東アジア金融危機解決に対する各国の協力
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東アジア金融危機の発生より今日まで、国際間の支援および影響を受けた国自身の調整措置によって、現在すでに平静の方向に向かっている。ただしインドネシアは政治経済ともに不安定な状況下にあり、もし有効な措置がとれず回復が遅れたなら、アジアのみならず世界経済に再度悪影響を及ぼすことになろう。今後の国際間の課題は、金融危機の影響を受けた国々の景気回復のため、どのような支援をするかである。このことから、日本政府が最近十六兆円にのぼる景気振興策をとったことに、私はまず高い評価の気持ちを表明したい。この措置によって日本経済の成長率が二%高まり、低迷をつづけている景気を回復に向かわせる有力な刺激剤になることが望まれる。
日本はアジア諸国にとって最も重要な貿易相手国であり、日本の対外貿易でもアジアに対する比率は四五%である。アジア諸国の経済に対する日本の影響はきわめて大きいのだ。だが昨年下半期以来、日本の輸入は三%減退し、今年一~三月では米ドル換算の輸入額は一三・四%も減退しており、アジア諸国の経済回復に深刻な影響を与えている。アジア諸国が経済を回復させるには、主として輸出の拡大に頼らねばならない。このことからも、日本は国内需要を拡大させ、東南アジア諸国からの輸入を増大させる必要がある。
東アジアに金融危機が発生して以来、IMFなどの国際機関ならびにEU、米国、日本などの支援のもとに、およそ一千百億ドルの資金がこの地域に投入され、東南アジア諸国の経済安定に莫大な寄与をした。このうち日本の支援金額は四百二十億ドルに達し、すべての援助国のなかで最高額であった。ただし、アジア諸国が経済を回復するには、金融面における資金援助のほか、いかにして民心の安定を回復するかも必要であり、これが現在関係諸国にとって解決が必要な重要課題となっている。各国の国民が自信を回復すれば、民間資金はふたたびアジアに流入し、それが現地での投資をうながし、打撃を受けた経済をさらに一歩回復に向かって前進させることになろう。
この観点から、APEC企業諮問委員会(ABAC)に金融市場安定のための専門委員会が設立された。わが国代表の辜濂松氏が同委員会の代表世話人となり、設立以来今年一月、三月、四月と、それぞれ台北、メキシコ、シドニーで東南アジアの金融安定のための検討会が開催され、影響を受けた国々がAPECなどの一定機関が保証の裏書をした債券を発行し、国際資金の流入を図り、信用を回復し、早急に金融危機を克服するという案を提示した。この案は私が今年四月初旬に日本を訪問したおり、日本の関係者の方々に説明し、また四月中旬にフィリピンを訪問したさいにはアジア開発銀行の佐藤総裁にも説明し、賛同を得た。本案が五月二十二日のAPEC蔵相会議において、日本が支持することを期待するものである。
このほかにも、一九九七年十一月中旬にASEANおよび米国、日本など十三カ国の財務次官ならびに中央銀行副総裁がマニラで会合を開いたとき、「アジア地域の協力関係を強化し金融の安定を促進する新構造」(マニラ構造)が提示され、地域の監督機能を強化するとともに必要に応じて融資協力協定(Cooperative Financing Arrangement)により、IMFの資金の不足を補うことが提案された。同案はバンクーバー首脳会議の支持を得て、APECにおける金融危機打開のための新構造となった。
こうした構想がAPECで論じられたのは、これが初めてである。この組織がマニラに置かれ、必要に応じて不定期の会合がもたれ、危機の打開ならびに関連事項について話し合われるようになるだろう。この構造はアジア太平洋地域の経済および金融の安定に関したものであり、わが国はAPECの一員であり、また意欲も能力もあるにもかかわらず、この構造およびマニラ委員会の活動に参加できず、わが国の国力をもって貢献する機会がない。このことは、明らかにこの構造における大きな欠点と言えよう。
わが国は、今回の金融危機の影響が比較的少なかった国であり、影響の深刻であったASEAN諸国を支援するため、「東南アジアに対する経済貿易協力を強化する行動方案」を策定し、東南アジア諸国との貿易および投資を拡大する態勢をとり、それに従事する台湾企業への融資と保護、ならびにフィリピン、タイ、マレーシア、インドネシアなどの青年の経済技術訓練計画を強化しようとしている。このほか民間企業が単独で東南アジア地域に投資した場合のリスクを避けるため、わが国政府の主導のもとに、すでに「東南アジア投資顧問株式会社」を設立したが、民間の大きな反響を呼び、目下資本金が九億ドルに拡大されようとしている。
この措置は、ASEAN諸国の通貨安定と景気回復のため、かならず一石を投じるものになると信じている。わが国の李登輝総統は、台湾海峡両岸が協力しあって東南アジアの金融危機克服のため努力しようと大陸側に呼びかけている。目下の情勢を見れば、日本、中国大陸、それにわが国が、今回の金融危機において影響の比較的軽微であった国であり、もしこの三者が力を結集し、もちろん実質面においても、また精神面においても、東アジア金融危機克服のため必ず大きな力になるものと確信している。
中国大陸経済の展望
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一、は じ め に
昨年七月に東アジアに金融危機が発生して以来、東南アジア諸国の通貨は大幅に下落したが、香港ドルのみが多年来米ドル・ペッグ制をとっており、大陸の人民元はそのレートを固守し、場合によっては小幅ながら上昇もしている。だが金融危機の影響は徐々に拡散し、大陸の指導者である江沢民、朱鎔基、李鵬、戴相龍らは何度も、人民元は切り下げないと言明し、そのためには輸出を犠牲にするのも惜しまないという姿勢を示している。しかし、大陸経済はこの金融危機を平穏に乗り切ることができるだろうか。また、人民元は現状を維持できるだろうか。今日これらが国際的関心の的となっており、各方面からの注目を集めている。
二、東アジア金融危機の香港と大陸への衝撃
(一)香港への衝撃
1、香港経済は国際化がきわめて深く進んでいるため、金融センターとしての地位と対外経済貿易の安定を維持するため、為替レートを米ドルに合わせたペッグ制をとっている。大陸は香港の政治経済の安定を考え、香港ドルの安定に尽力している。
2、東アジア金融危機が発生する前、香港の不動産価格と株価は大幅に上昇しており、加えて昨年十月に国際投機筋が、香港が米ドルに対するレートを固定するペッグ制をとっているのを利用して香港ドルの投げ売りに走り、株式も売りとなり、それが金利の急上昇を招き、香港は外貨準備高が豊富であったため、為替レートは固定を維持したが、株価は混乱状態に陥った。今年五月十五日の株価指数は昨年六月末と比較し、三七・二%下落した。
昨年の不動産価格も二五%下落し、香港における金融機関の融資先の一半は不動産関係と関連があり、銀行の信用にも影響を及ぼすところとなった。香港経済はサービス業が中心となっており、GDPの八四%を占めている。
香港ドルの対米ドル交換レートは固定されているとはいえ、米ドルで表示される香港の物価上昇率は異常に上昇し、価格による競争力は大幅に減退し、サービス業は深刻な影響を受けるところとなった。とくに観光客が大幅に減少し、今年一~三月に香港を訪れた観光客は前年同期比約二五%の減少となり、キャセイ航空を例にとれば、昨年の利益は二七%減少した。また金融危機は香港においても失業者を増大させ、今年四月の失業率は三・八%に達し、十八年来の高さを記録して現在なお上昇中である。
(二)大陸への衝撃
1、今年第一・四半期における大陸経済の成長率は七・二%で、前年同期比二・二ポイント下降し、今年の目標成長率である八%を下回った。このように経済成長の速度が落ちた主な原因は、大陸内部の需要の減少と東アジア金融危機による輸出の減退である。今年第一・四半期における消費物資の消費額成長率は前年同期比六・九%であり、昨年の同一一・一%にくらべ大幅に下降し、内需の不振を如実に物語っている。
2、今年一~四月の輸出総額は五百六十一億九千万ドルで、前年同期比一一・六%増加しているが、昨年同期の成長率二〇・九%にくらべれば、成長幅は大幅に減退している。輸入は四百十二億九千万ドルで、前年同期比三・一%の増加となり、出超幅は百四十九億ドルであった。今年一年の出超幅は二百七十億ドルと予測されている。なお昨年の出超幅は四百三億ドルであった。
3、今年第一・四半期の外国人による大陸への直接投資は、契約ベースで前年同期比一〇・一%増、実施ベースで九・七%増となった。だが大陸への投資は七割から八割がアジア地区からのものであり、その地域は目下金融危機の影響で経済は衰退し、信用度も落ちているため、一部の国際投資機関では、一九九八年に大陸に流れる外国人投資の資金は二百億ドルから三百億ドルほど減少するのではないかと予測している。
三、大陸経済の問題点と展望
今年三月中旬に中共「総理」に就任した朱鎔基は、任期中に「一つの確保、三つの到達、五つの改革」の目標を達成すると表明した。このうちの「一つの確保」とは、今年の経済成長率は八%を確保し、物価上昇率は三%に押さえ、人民元の下落を防ぐというものである。また「三つの到達」とは、今後三年間で大多数の大型・中型の国有企業を困窮状態から脱出せしめ、金融体制および政府機関の改革を完成させるというものであり、「五つの改革」とは、食糧流通機構の改革、投資融資制度の改革、住宅制度の改革、医療制度の改革、財政・税収の改革をさす。だが、大陸当局はこれらの目標を達成できるだろうか。そこには楽観できないものがある。理由は以下のとおりである。
(一)一九九一年から大陸の失業率は年々増加しはじめ、一九九一年には二・三%であったのが、九七年には三・一%になった。経済専門誌『経済学人』によれば、大陸では経済成長率が一ポイント下落するたびに失業者数が二百万人から四百万人増え、したがって大陸は 高度経済成長を継続しなかったなら、国有企業の改革や行政機構のリストラもあり、失業問題が深刻化し、それが大陸の政治経済体制の改革に対して最大の障壁となる。とくに朱鎔基は行政機構のリストラと国営企業の民営化を推進すると謳っており、それによって数百万人が職を失い、深刻な社会問題を惹起すると見られている。
(二)大陸当局は今年の目標経済成長率を八%と定め、今後三年間に七 千五百億ドルを投資してインフラ建設を推進し、公共投資をもって経済成長を推進するとしている。これらの資金の多くは外資に頼ることになるが、外資の引き付けを継続するには大幅な誘因作用を作らねばならず、それが財政の健全化を損ない、これも中共にとって深刻な壁となる。
四、人民元交換レートの行方
(一)一九九七年七月に金融危機が発生し、東アジア各国の通貨が次つ ぎと大幅に下落するなか大陸の人民元のみが現状を維持しているのは、一般的に中共当局が政治的な理由から極力人民元のレートを支えているためと見られている。だが経済面から見ても、短期間内に人民元が大幅に下落することはないだろう。その理由は次のとおりである。
1、大陸の金融構造は閉鎖的で、人民元を市場で自由に売買することはできず、外国人が投機の対象にすることができない。
2、現在大陸の外貨準備高は一千四百億ドルであり、導入している外資の約九割が中長期のもので、しかも生産活動に関連するものが大部分であるため、短期内に引き揚げることができない。
3、東南アジア諸国の通貨は大幅に下落したが、人件費は大陸よりも依然として高く、また一九九七年下半期の大陸の物価は前年同期比上昇しておらず、工場の設備利用率は慢性的に六〇%を下回っており、さらに都市部の失業率が一千万人に達しており、それらが大陸製品の輸出価格を下げるのに有利に働いている。このほか、競争の激しい紡績製品の営業税のうち、輸出払い戻し税率を九%から一一%に引き上げており、将来この税の払い戻し制度をさらに拡大し、その他の業種にもこの方法を適用して輸出を刺激する可能性が強い。
4、一九九七年の大陸の出超幅は四百三万ドルに達しており、大陸の経済計画委員会は、今年の輸出の成長率は前年よりも一〇%下がり、輸入の成長率は一五%拡大すると予測しているが、それでも出超幅は二百七十億ドルとなる。かりに輸出総額が零成長となり、輸入総額が一五%増加したとしても、出超幅は百四十億ドルとなる。こうした貿易黒字の多くは米国から得ており、ここでレートを下げれば米国との貿易摩擦を拡大することになり、毎年一回の最恵国待遇継続問題で米議会の反発が強まることになる。このため中共当局は人民元の切り下げには非常に慎重である。
(二)中長期的に人民元が下落するかどうかは、今後の大陸経済の動向ならびに国際収支の状況によって決まるだろう。継続して観察をする必要がある。