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  中華週報1864号(1998.6.25) - 台北駐日経済文化代表処 Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan :::
主要ニュース
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中華週報1864号(1998.6.25)



中華週報1864号(1998.6.25)

今週の写真:台湾鉄道起工111周年を記念し、6月9日に台北-基隆間にSL走る

週間ニュース・フラッシュ

 ◆アジア金融危機打開に両岸協力必要
 中米訪問中の程建人・行政院新聞局長は六月三日、パナマ市で同国のマスコミを通じ、「台湾海峡両岸が共に東南アジア諸国の政府と話し合い、金融の安定と経済成長促進の道を探ろう」と、北京当局者に呼びかけた。 《パナマ『中央社』6月3日》

  ◆老朽団地の改築促進で内需拡大を
 国内株式市場の下落傾向を踏まえ、蕭万長・行政院長は六月四日、邱正雄・財政部長と緊急会見し、株式市場の成り行きを注視して必要な措置をとるとともに、BOT方式(一定期間営業後の引き渡し)による老朽団地改築工事を加速し、内需拡大策の一環とするよう指示した。老朽団地改築工事は全国四十一カ所、二万五千戸、資金六百億元(約二千四百億円)が予定されている。 《台北『工商時報』6月5日》

  ◆劇団「新宿梁山泊」が台北で公演
 台北芸術節の行事に日本の劇団「新宿梁山泊」が参加し、国立芸術学院で六月五、六、七日に現代人の迷いを風刺した「夜の一族」を公演し、好評を博した。 《台北『中央日報』6月5日》

  ◆ロシア版「台湾関係法」否決でも両国の実質的関係影響なし
 ロシアの「台湾関係法」が議会で六月三日に審議されたが、北京の圧力によって否決された。これについて烏元彦・外交部スポークスマンは同四日、「挫折ではあるが、実質関係を強化したいとするわが国とロシアの意志が影響を受けることはない」と表明した。 《台北『中央日報』6月5日》

  ◆海峡両岸の競争は双方の制度の競争
 「六・四天安門事件」九周年にあたる六月四日、張京育・行政院大陸委員会主任委員は台北ロータリー・クラブで両岸関係について講演し、「大陸は制度の改革が必要だ。両岸間の競争は、軍事や外交ではなく、民族や文化の争いでもなく、全中国人がどちらを選ぶかという制度上の争いである」と強調した。  《台北『聯合報』6月5日》

  ◆今年の国内民間大型投資は前年比七四%増の見込み
 王志剛・経済部長は六月五日、「経済成長を持続させるには、輸出を刺激し内需を拡大しなければならない」と強調し、「今年の民間による二億元(約八億円)以上の国内大型投資は前年比七四%増の四千五百六十三億元(約一兆八千億円)となる見込みだ」と明らかにした。 《台北『工商時報』6月6日》

  ◆米国は台湾の利益を犠牲にしてはならないと李総統が強調
 李登輝総統は六月五日、米誌『タイム』の単独インタビューを受け、海峡両岸関係の将来的な発展について楽観的な見通しを示すとともに、「米国が中共と緊密になるのは歓迎するが、その過程において台湾の利益を犠牲にしてはならない」と強調した。この記事を掲載した『タイム』は、クリントン大統領の訪中(共)前の六月中旬に発売される。  《台北『聯合報』6月6日》

  ◆製造業は依然成長持続
 経済部が六月六日に発表した「製造業調査」によれば、今年一~五月の製造業生産指数は昨年同期比四・九八%の成長であった。このうち最も成長率が高かった業種は、電力および電子器材業の一六・一二%と基本金属業の一三・三八%であった。 《台北『中国時報』6月7日》

  ◆第一回アジア大学バレーボール選手権大会、台北で開催
 第一回アジア大学バレーボール選手権大会が六月三日から同七日まで、台北市立体育学院体育館を中心に台北市内数カ所の体育館でおこなわれた。参加国の成績は、男子は韓国、台湾、日本、香港、スリランカの順で、女子は日本、台湾、香港、スリランカの順であった。日本チームは日体大、筑波大、法政大、東海大、近畿大、亜細亜大の選手で構成され、台湾チームは台湾師範大が中心となった。  《台北『民生報』6月8日》

  ◆早急に金融、証券市場での先物取引開始を
 アジア金融危機のつづくなか、財政部は外資にリスク回避の道を提供して外資の吸引力を増すため、先物取引市場の確立を急ぎ、段階的な方法で金融および証券市場にこれを拡大していく方針である。先物取引税条例はすでに立法院を通過しており、株価指数商品先物が市場に出る準備はすでに整っている。 《台北『中央日報』6月8日》

  ◆今年の固定資産への民間投資一兆元(約四兆円)越す見込み
 今年の台湾経済は「外冷内熱」すなわち貿易不振、内需拡大の状況となっている。台湾経済研究院と中華経済研究院の予測によれば、今年の民間による大型から小型にいたるまですべての固定資産に対する投資総額は前年比二二・三%増となって一兆元(約四兆円)を越す見込みである。なお、この額の投資は経済成長率を三・一%引き上げる効果がある。 《台北『経済日報』6月8日》

  ◆テコンドー世界選手権で台湾女子、優秀な成績
 六月六日から八日まで、ドイツで開催されたテコンドー世界選手権大会で、台湾女子は金メダル二、銅メダル三を獲得した。男子は銅メダル二にとどまった。  《台北『民生報』6月9日》

  ◆蕭万長・行政院長が七月上旬トンガとソロモン訪問
 蕭万長・行政院長は六月八日、南太平洋の友好国トンガとソロモン諸島を七月上旬に訪問すると明らかにした。訪問予定は七月三日からで、トンガではタウファハウ・ツポウ四世の八十歳の誕生祝賀式典に、ソロモン諸島では建国四十周年記念式典に出席する。なお、このとき無国交国であるフィリピンとフィジーを通過する予定である。  《台北『聯合報』6月9日》

  ◆陳水扁・台北市長が連立内閣に意欲を示す
 次期民進党主席に決定した林義雄氏は六月九日、台北市庁舎に陳水扁・台北市長(民進党)を訪問した。このとき陳市長は「年末の立法委員選挙で連立内閣の可能性が強まるだろう。政党間の協力関係は国家にも国民にも有益であり、ダメということはない」と語り、「次期主席の林義雄氏が民進党にとって最後の野党としての主席であると同時に、最初の与党としての主席になることを期待する」と語った。 《台北『自由時報』6月10日》

  ◆台湾鉄道百十一周年記念で蒸気機関車走る
 台湾の鉄道は今年で起工百十一周年になるが、これを記念して鉄道節の六月九日、台湾で最初に鉄道が敷かれた基隆│台北間(一八八七年起工)を蒸気機関車のCK一〇一が列車五輌を引っ張って走った。CK一〇一は台湾鉄路管理局が去年から修復作業を進めていた。  《台北『聯合報』6月10日》

  ◆通信事業国際化への初期案定まる
 交通部は世界貿易機関(WTO)加盟に向け、通信事業国際化への作業を進めていたが、六月九日に初期の案がまとまった。それによれば、これまで国内通信事業に導入できる外資の比率は二〇%以内であったが、それが六〇%以内まで拡大される。 《台北『経済日報』6月10日》

  ◆円安傾向、台湾は対日貿易赤字拡大を懸念
 経済部工業局は六月九日、台湾の工業部品はほとんど日本から輸入しており、円安傾向がもし百五十円台から百六十円台へと推移したなら、輸入価格も下降し、企業の輸入が増大して対日貿易赤字が拡大するのではないかとの懸念を表明した。今年一~五月の台湾の対日輸出は前年同期比二二・五%減で輸入は同一・〇%増となり、赤字幅はすでに七十六億二千万ドルとなり、前年同期比一九・九%増大している。 《台北『工商時報』6月10日》

  ◆アジア経済、今年後半には景気回復
 行政院経済建設委員会は六月十日、東南アジア諸国の貿易収支は徐々に改善に向かい、今年後半には景気が回復に向かうだろうとの見通しを表明した。 《台北『中央日報』6月11日》


米下院が中共に対台湾武力不使用宣言を要求
四一一対〇の圧倒的多数で大統領を促す

 クリントン大統領の北京訪問を近くにひかえた六月十日(現地時間、九日午後)米下院は超党派で、クリントン大統領が中国大陸を訪問した際、中共に台湾に対して武力を使用しないと宣言することを要求すべきだとする二百七十号決議案を採択した。同案は民主党からも共和党からも一人の反対者も出ず、四百十一対〇という圧倒的多数で下院を通過したものである。

 この決議案は正式名を「中共に台湾への武力不使用を宣言することを要求する決議案」というもので、米下院が台湾を支持する決議案を圧倒的多数で通過したのは、これで四度目になる。最初は一九九五年、李登輝総統の米コーネル大学を訪問することを支持する決議で、つぎは一九九六年、台湾の安全を支持するというもので、三度目は一九九七年、米国と台湾が広域ミサイル防衛網を共同で設置することを支持する決議である。このうち、李総統のコーネル大学訪問を支持する下院での決議は三百九十六対〇で、今回同様全員一致によるものであった。六月十日の米国下院における討論で、共和党からはギルマン、ソロモン、ピラット、ラロパックの各議員が同案を支持する発言をし、民主党からはフェリオア議員とブラン議員が、それぞれ党を代表して同様の発言をした。

 下院を通過したこの決議案は、政府に対する拘束力はないものの、全議員が超党派で賛成したという背景があり、政府に対する大きな圧力を形成するものと思われる。このためクリントン大統領も中共首脳部との会談に際し、米国内部のこうしたコンセンサスを反映せざるを得ないであろう。

 米下院におけるこの決議に対し、胡志強・外交部長は六月十日、中華民国政府を代表して歓迎の意を表明するとともに、「米国下院が北京に台湾への武力不使用を公開の場で宣言するよう求めたことは、わが方と意見が期せずして一致したことを示すものである」と述べた。

 同時に胡部長は「根本的に、両岸間におけるいかなる問題も、平和的な方式によって解決されなければならない。しかもそれらは、中国人同士で解決されるべきものだ。これがわれわれの確固たる不変の意見である」と強調し、「米議会におけるこの決議は、本質的にわれわれは歓迎するものであるが、これは米国人自身のことであって、米国下院における意見の表明であり、それがわが方と意見が一致しているため、われわれとしては参考とする範囲のものである」と指摘した。

 さらに「クリントン大統領の中国大陸訪問において、米国の方から台湾海峡問題を議題にすることはないだろうが、中共側がかならずこの問題を持ち出すだろう。だが、米国が最も関心を持っているのは地域の平和と安全であることをわれわれは信じる。米国はすでにこのことを中共側に表明しており、今後も必要があれば重ねて表明するであろう。なぜなら、この地域の平和と安定は、この地域のすべての国に共通した利益となるからである」と語った。

 また蕭万長・行政院長は六月十日、外国記者団との会見に応じ、「米国と台湾海峡両岸間との関係は平行的なものであり、わが政府は六月下旬に北京で開かれるクリントン・江沢民会談に高度な関心を持っており、その会談がわが国の国益を損なうものにならないよう望んでいる」と表明した。同時に「私がよく東南アジアの無国交国を訪問するのは、主として財政、貿易、経済などの実務的議題についてそれら諸国の指導者と意見を交換するのが目的で、政治的な意図を持ったものではない」と明らかにした。  
《台北『中央日報』6月11日》

民進党の新主席に林義雄氏  党内投票60%越える得票率

 民進党の第八期主席を選出する党内選挙は五月二十四日であったが、当日高雄市内の投票所に暴徒が乱入するという事件が発生し、その投票所での投票が六月七日に繰り延べされ、当日一斉に全投票所の開票がおこなわれた。六人が立候補したものの、当初から実質的には党首席顧問の林義雄氏(無派閥)と立法委員の張俊宏氏(美麗島系)との一騎打ちと見られ、結果は林義雄氏が投票総数の六〇%以上の票を得て圧勝した。各候補の得票数は以下のとおり。

 当 林義雄  31,674票
 次 張俊宏  14,923票
    陳文茜   2,084票
    呂秀蓮   1,038票
    顔錦福    396票
    黄 富     248票

 民進党は七月十八、十九日に党大会をおこなうが、この約二週間後に許信良・現主席の任期が満了し、林義雄氏が第八期民進党主席に就任することになる。   
《台北『聯合報』6月8日》

 李登輝総統が軍を督励  「国軍自強会議」で訓示

 李登輝総統は六月九日、国防部の主催する「国軍一九九八年度工作検討会」に出席し、軍を督励する訓示をおこなった。今年度の検討会は、「国軍自強会議」と名付けられ、軍の幕僚や高級将校など約五百人が参加した。

 同会での訓示のなかで、李総統は「時代の変化とともに軍の装備、作戦方針、管理体制が適宜に調整されるのは必要だ。『精実案』に沿って軍の組織を再編して以来、すでに所期の効果をあげたが、いま必要なのは、諸君が努力を継続し、さらに大きな成果をあげ、国防建設の新紀元を創造することである」と述べた。

 なお、今年度の議題は電子戦の重視と空軍における「電戦大隊」の創設、ならびに部隊管理の強化、突発事件の防止、「精実案」実施の成果点検などであった。また、唐飛・参謀総長は「軍事費が経済発展を阻害するものであってはならない」とも指摘した。  
 《台北『中国時報』6月10日》


アフリカ諸国との友好強化   
胡志強外交部長OAU参加

 アフリカ統一機構(OAU)の第三十四回年次総会が六月四日から十日まで西アフリカのブルキナファソで開催されたが、胡志強・外交部長は六日から八日まで同総会での外相会議および首脳会議の開幕式に参加した。同総会にはフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、インドなど非アフリカ諸国四十余カ国がオブザーバーとして参加したが、中華民国もそのなかのひとつとなった。このなかで胡部長は、アフリカの友好七カ国の外相と経済問題などで意見交換するとともに、その他の国々の外相、元首とも歓談した。

 胡志強・外交部長は六月十日に所期の日程を終え帰国したが、同日外交部で記者会見をおこない、「収穫は多かった。今回の会議で、友好国をのぞき握手をし歓談したアフリカ諸国の元首や外相は、ほとんどが初対面であったが、いずれもわが国に好意を示し、経済関係を強化したいとの意思を表明した」と語った。   
 《台北『聯合報』6月11日》


両岸交渉で人身の安全を  
「急がず忍耐強く」は継続

 「一九九八年度行政院所属各機関大陸工作検討会」が六月十日から開催されたが、張京育・行政院大陸委員会主任委員はこの開幕式で、「大陸政策は政府の各政策の主軸を成している。国民の強固なコンセンサスがあって政府も両岸関係の政策を順調に進めることができるのだ。だから今後、与野党のこの問題に対する協調姿勢がいっそう必要とされなければならない」と語り、「政府は今後も『急がず忍耐強く、穏やかに遠くまで』の政策を継続する。また、これからの両岸交渉では、わが国ビジネスマンの安全と権利の保護が優先課題となろう」と表明した。

 また、許柯生・陸委会副主任委員は「両岸の経済貿易関係の促進のなかで、まず必要なのは『根は台湾に置く』ことである。そうしてこそ、台湾の大きな経済力をもって大陸経済の発展に協力することができるのだ。これが『急がず忍耐強く』の政策の意義である」と語った。  
 《台北『中央日報』6月11日》


対外投資は国家安全を犠牲にできない
     台湾大学経済学科教授  陳 博志

 最近のインドネシア暴動および北京当局による台湾ビジネスマンの不当拘束などにより、対外投資におけるリスクが問題視されるようになっている。しかし、この問題に関する言論には、こうしたリスクの本質を正しく理解せずに誤った主張をおこなっているものも少なくない。

 ●不可欠な市場の分散
 投資には、そもそもある程度のリスクはつきものである。とくに対外投資の場合、異なる法律体系および通貨に関わり、情報も概して不足しているために、そのリスクは国内投資よりさらに大きいものとなる。また国外でリスクが発生しても、本国政府は、管轄権などの問題のために企業に十分な支援をおこなうことは困難であるため、政府はもちろん対外投資をおこなう自国民の安全をできるかぎり保障すべきではあるが、実際には国内投資と同じような保障を期待することは難しい。よって、企業は、自ら客観的なリスク評価をおこなってから投資の方向を決定するとともに、その結果についても自己責任を負う必要があるのだ。さらに、政府と相手国政府による保障に頼る以外にも、企業自身がリスクを低減させるために適切な対策を講じるべきであろう。

 しかしながら、さまざまなリスクが、すべて必然的に発生するというわけではない。また通常、リスクが大きければ大きいほど、期待されるリターンも大きく、ビジネスという観点から言うと、リスクが高いからといってすぐにあきらめるわけにはいかず、リスク低減のための方策を考えるべきなのだ。たとえば、あらかじめ投資を分散すれば、全体のリスクを低減できるはずだ。国全体で考えると、投資分散の効果は個別の企業よりもさらに大きく、よって企業に投資分散を指導することは、わが国が直面するリスクを低減する重要な方法と言える。南向政策は、経済における主要目標の一つであり、またリスク分散対策の一つなのだ。

 ●大陸進出の政治的リスク
 しかし、東南アジア金融危機およびインドネシア暴動の発生後、政府の「南向政策」は国民を誤った方向に導くものだとして批判するとともに、大陸への投資を主張する者が出てきた。しかし実際には、どんな国にも経済的な変動が起こる可能性もあり、政治の民主化が遅れた国にはつねに政治動乱のリスクがありうる。こうした事実が変わらない以上、対外投資をおこなうには、やはりリスクを分散するしかないのだ。また、リスクが発生してから、「あのとき、なぜ投資先として他の地域を選ばなかったのか」などと非難することは無意味だ。なぜなら、事前に、リスク発生の確率を正確に当てることは不可能だからだ。中国大陸でも、数年前には大幅な通貨下落があり、政策が急転換した。さらに天安門事件などの政治問題もあり、今後こうした事件が起こらないとは断言できない。よって、東南アジアやインドネシアで起こった状況は、むしろリスクというものが確実に存在することおよび市場分散の重要性を示すもので、決して、われわれが今後、投資を中国大陸もしくはある特定の地域に集中すべきだということを示しているわけではないのだ。

 ●両岸の経済貿易は慎重に
 実際、万一中国大陸で問題が起こった場合、北京当局のわが国に対する敵意のために、被害に遭った住民を救うことすら難しいだろう。たとえば、一九九三年の「千島湖強盗殺人事件」では、北京当局は、われわれの被害者遺族への協力を妨害しようとした。最近では、インドネシアの台湾住民を帰国させるための軍用機派遣が北京に阻止されてしまった。こうしたことから見ると、大陸投資のリスクは、東南アジアよりもさらに大きいものと言えるだろう。

 北京は最近、多くの台湾ビジネスマンを逮捕したが、このことは大陸投資のリスクをより際だたせるものとなった。北京は、わが国と敵対状態にあり、またその法制度は不完全で、政治の民主化も他の国よりさらに遅れている。よって、大陸投資の政治的リスクは非常に大きいのだが、残念なことに、一部の人は、この事実を認めようとせず、かえって誤った調整方向を主張している。

 「台湾ビジネスマンは、大陸で言行を謹むべき」という主張は、原則としては正しい。どこの国へ行こうとも、その国の法律はもちろん遵守しなくてはならない。しかし、わが国と大陸は特殊な関係にあり、こうした「言行を謹むべき」範囲には、通常の関係では問題とはならないようなことが多く含まれている。場合によっては、大陸だけでなく国内においても言行を謹まない限り、北京の非難を避けることはできないだろう。つまり「言行を謹む」よう求めることは、北京の怒りを避けるために、国民に政治的自由や言論の自由の多くを自己規制させることに等しい。大陸との経済貿易交流は、間接的にわが国の政治にも影響を及ぼすのだ。

 ●北京の武力恫喝に潜む危機
 このほか、罪のないビジネスマンを巻き込まないために、政府はビジネスマンを装って諜報活動をおこなうべきではないという主張もある。しかし諜報活動をおこなうには、本来さまざまな方法で身分を隠す必要がある。まさかビジネスマンや観光客を装わずに、正々堂々とおこなえとでも言うのだろうか。こうした主張は一見道理があるようだが、実際にはわれわれに諜報活動を放棄させることに等しく、そうなると北京の軍事行動の動向さえも探れなくなってしまう。

 また、両岸交流が進展しないのは敵対状態のせいだと非難する人もいるが、こうした非難は、わが方はとっくに「動員戡乱(反乱平定)時期」を終結させているが、北京側が一貫して武力使用を放棄しないために、やむなく防衛のための対抗措置を採っているのだという事実を無視している。こうした事実を無視し、北京を非難せずにわが政府だけを非難するという心理は、まったく理解しがたい。まるで、われわれが北京へ「投降」することによって、ビジネスマンの投資の安全を確保しろと言わんばかりではないか。

 ●国全体の利益は犠牲にできない
 政府は、たしかに対外投資をおこなう企業により多くの情報と保護を提供し、また国内の投資環境を改善することによって対外投資の必要性を低める努力をすべきだ。しかし対外投資をおこなう企業は、政府のこうした努力をふまえた上で、リスクに基づき投資の是非を自ら判断すべきである。北京がわが方に対する敵意を解消して民主化されないかぎり、大陸投資の政治的リスクが減少することはない。投資家個人のリスク低減を求めるために、政府に国家の安全や尊敬を犠牲にさせたり、大陸の民主化促進という目標を放棄させたりすることはできないのだ。 
  《台北『中央日報』6月6日》

インターネットでも情報統制
大陸で台湾・香港情報の妨害

 最近、中国大陸の個人向けインターネット・サービス「チャイナ・ネット(chinanet)」で、北京当局による情報妨害が起きていることがわかった。北京在住のある台湾出身の研究者によると、最近インターネット上で香港や台湾の新聞のページが見つからないという現象が頻繁に起こっているという。この研究者は、北京官製の「チャイナ・ネット」を通してインターネットに接続しており、この特定のページが「消える」現象は、時事性の強い新聞でとくに多く見られ、娯楽性の強い新聞ではほとんど問題がないことから、北京当局による何らかの妨害がおこなわれているものと考えられる。

 「チャイナ・ネット」は、大陸の「郵電部」が開設したインターネット・サービスで、一九九五年五月より北京と上海で個人向けサービスが始まり、目下、北京と上海のインターネット接続者はすべてこれを利用している。利用者は、利用開始後三十日以内に所轄の公安局に報告することが義務づけられている。

 北京当局は、インターネットを開放するに当たり、国外からのさまざまな情報が「悪影響」をもたらすことを恐れ、取り入れ口で情報をふるいにかけるために「チャイナ・ネット」を利用しているものと思われる。北京は、「国務院」の許可なしにはいかなる機関も個人も勝手にインターネットを利用できないと規定しているが、技術的には抜け道も多く、「有害な」情報を完全に阻止するのは困難であろう。         
《台北『中国時報』6月7日》 



両岸相互連動関係における米国の要素 ④
  行政院大陸工作委員会講演(98年5月5日)    
      国策研究院院長 田 弘 茂

四、米国の政策が両岸の相互連動に及ぼす影響

 総体的に言えば、ワシントンの当局者たちは、台北、北京、それにワシントンという三角関係のバランスを注意深く処理しようとしており、基本的にはまだ従来の構造から離れていない。かれらは中国大陸との対話や交流の過程に一定の透明度を持たせ、それによってその他の国々、たとえば日本やロシア、ASEAN諸国などに疑念や不安を生じさせないようにしようとしている。この交流政策はクリントン政権の対中国政策の方針ではあるが、それが完全に共和党と民主党のコンセンサスを得たものになっているとは言えず、とくに台湾は依然として議会において広範囲な支持を得ているのである。このほか、米国東部海岸地域のマスコミ、人権団体、宗教団体などは、基本的に中国大陸に対してある種の敵意をいだいている。こうしたことから、米国の外交政策を長期的な目で見れば、交流政策はまだ安定した政策とは言えない。具体的な政策の推進において、発生するかも知れない障害によほど慎重に対処しなければならないだろう。

 米国は中国大陸に対し「建設的な交流」を展開し、それも透明化と信頼感をもって推進し、アジア太平洋地域の平和に有益なものにしようとしているが、北京とワシントンとの交渉が制度化され定期化していけば、それがわが方に対する有形無形の圧力になっていくであろう。ここで重要なのは、世界戦略における台湾の重要性を、ワシントンに対し的確に評価するよう促すことである。さらにまた、われわれとしては北京とワシントンのあいだで「台湾問題」が話し合われ、場合によってはわが方にとって不利となる秘密協定が結ばれるかも知れないことに留意しておかねばならない。ワシントンは一再ならず、台湾への武器提供政策に変更はなく、台湾への武器輸出について事前に北京と協議することもないと表明している。しかしこれはいずれも、北京側から米国に質問を提示し、米国が受動的にそれに応答したものにすぎない。だがこれまでのところ、米国は「台湾問題」の実質面において北京にいかなる譲歩もしていない。つまり台湾が存在することは、米国のアジアにおける国家利益に合致しているのである。

 実際問題として米国は、「台湾問題」は北京とワシントンのあいだに衝突を起こす可能性のある一部分であって、それが決してすべてではなく、その他にも人権、核拡散、チベット、貿易、軍事など、双方にとって火種となる問題が横たわっていることを十分に認識している。「台湾問題」の解決と米中(共)間のすべての問題の解決とは決してイコールではなく、台湾海峡の問題の解決は、場合によっては米国にとって、北京との交渉におけるカードの喪失ともなるのである。いわゆる「三つの不支持」は別段新しいものではなく、既存の政策の産物であり、これまでの主張を具体化したものにすぎないのである。ワシントンはこの「台湾問題」に対し、基本的に平和解決の立場を堅持しなければならず、両岸の衝突の可能性については、曖昧な立場を残しておくことが、衝突阻止には効果的なのである。

 また一方、米国は現段階において両岸が交流を進め、交渉しはじめたことに多大の関心を寄せ、その経過に期待しているのである。この点について、米国の官民および若干のオピニオン・リーダーたちのあいだにおいて、一定のコンセンサスが徐々に形成されはじめている。それは、両岸間に対話のルートが通じ、経済や文化交流が進展すれば、台湾海峡の平和と安定につながり、そのことが米国のこの地域における利益にも合致するというものである。米国がこの問題について調停人の立場に立つことを願わず、消極的な傍観者になるということは不可能である。九六年の「台湾海峡の危機」によって、米国は消極的な傍観者の立場に立っていたのでは衝突の再発生を防ぐことはできないということを認識したはずである。現在のところ、両岸情勢は遅々として良好な進展をせず、両岸の対話が順調に進むのには非常に困難なものがあり、ここにワシントンが積極的に両岸交渉を進める雰囲気を醸成する必要があるのだ。このことから、米国はさまざまな場合において、またさまざまなルートを通じ、台湾海峡両岸が積極的に対話と交渉を推進するよう呼びかけ、これによって将来、米国が両岸交渉の斡旋者になる政策に転じる可能性はきわめて高いのである。

 今後、米国国内において、どのようにして台湾海峡の危機の再発を防ぎ、どのようにして両岸の対立を解決するかといった問題について、ますます激しい討論が展開され、それが米国の現行の中国政策に新たな波を巻き起こし、大きな争点を形成することになるだろう。この六月のクリントン大統領の北京を訪問、そしてその後のワシントンにおける中国政策は、ふたたびマスコミや学界の注視の的となるであろう。もちろん訪問の結果がどうであれ、それがいきおい両岸関係に影響を及ぼすことは必至である。

 昨年以来、わが国は国際社会から、とりわけ米国から両岸交渉をうながす圧力を受けている。これらの圧力は、短期間に収まることはないだろう。ここにおいて、米国側といかにして各レベルによる多元的なルートを通じて積極的な対話を進め、もって米国各界のわが方の立場と境遇に対する理解を増進するかが、今日におけるわが国全体の急務となっている。将来、両岸問題をどのように解決するかは、必然的に国際的な要素の影響を受けるものである。「中国の問題は、中国人がみずから解決する」とはいうものの、北京の当局者も含め、自己の立場に対する国際社会の理解と支持が絶対必要であることは認めざるを得ないだろう。そうであるから、台湾側としてはさらに大陸政策と外交政策が一体両面を成すものであり、外交の場での努力と成果が大陸政策へのカードになることを認識し、両岸関係において国際外交の成果を有効に使わなくてはならないのである。

五、結論として

 将来を展望すれば、台湾海峡の情勢の進展と変化は、いきおい国際社会が注目する焦点となるだろう。もちろん政治面においても経済面においても、注目を集めるはずである。それが全中国大陸における政治と経済の前途にかかわることは無論のこと、アジア太平洋地域の経済貿易の発展、さらに東アジアの安全と安定にも、それぞれ大きくかかわっているのである。このことからも、国際社会は台湾海峡両岸情勢の平和的な発展を望み、いっそう注目することになろう。そうした国際社会の関心が、わが国にとって助力にも圧力にもなるだろう。同時にそれが両岸関係の接着剤ともなり、問題を複雑にもさせ、また問題解決に有益な場を提供することにもなろう。

 これから先、わが国の大陸政策と実務外交はますます密接に関連しあい、この二つが相互に原因結果を生みつつ、表裏一体を成していくだろう。この二つは共にわが国の生存と発展に深くかかわっており、どちらが重くどちらが軽いといった評価はできない。重要なのはそれらを巧みに配合し、最大の国家利益を勝ち取っていくことである。対外関係においては、国際社会のわが方の大陸政策に対する理解と支持を勝ち取り、進んでそれをわれわれの両岸相互連動における有効なカードとしなければならない。両岸関係においては、両岸の和解の雰囲気を醸成し、対話と交流を通して善意を示し、もって敵対感情を鎮め、そしてさらに多くの国際的な支持を勝ち取り、なお多くの国際間における生存の場を獲得していかねばならない。総合的に言えば、国際情勢の変化は台湾の生存と発展に対し、有利ともなりまた不利な要因ともなるのであって、いかにそれらを調整し有利な状況に持っていくかは、国防、外交、経済、内政、そして大陸政策すべてにかかわっているのであって、各部門が努力し協力し合ってこそ大きな成果をあげることができるのである。 (完)


台湾ハイテク産業の新拠点 ①
     台南科学工業園区を見る
      行政院国家科学委員会

Ⅰ環境と資源

 ●地理的位置
 台南科学工業園区(以下、園区)は台南市の北東約十二キロの台南県の新市郷と善化鎮の間に位置しており、この二地域を総合的な「生産」「研究」「住居」のハイレベルの科学技術園区として開発中である。園区の第一、第二用地は、面積約六百五十ヘクタール、大部分が以前の台糖公司と善化農場の地所であった。さらに園区の周囲約二千ヘクタールを、台南県政府が「台南科学技術園区特別地区」として開発しているのである。

 ●交通機関
 園区は、中山高速道路まで車で約二十分、国立成功大学と台南市内まで約三十分、台南空港まで約四十分、高雄港・高雄市内・高雄小港国際空港まで約一時間の所にあり、高速道路や縱貫鉄道および飛行場を使えば、外との連絡にも非常に便利な場所である。

 交通建設計画によると、五年以内に南部の第二高速道路と台南環状線が完成する予定で、また園区の周辺では、南部の第二高速道路に善化出口、台南環状線に新市出口、中山高速道路に安定出口を設け、このほか高速鉄道(新幹線)が通過するようになれば、交通がさらに便利になっていくだろう。

 ●科学技術資源
 ◇学術研究機関
 園区の周辺地域は、学術および研究機関が以下のように非常に多く、良好なハイレベルの科学技術産業の発展基礎構造と環境を有しており、そこで技術資本や製品の研究開発および人材の育成などの支援とサービスを提供することができる。

大学と専科学校:成功大学、中山大学、中正大学、雲林技術学院、高雄技術学院、高雄工学院、屏東技術学院、嘉義農業専科学校。

研究機関:台湾省水産試験所東港分所、台湾省畜産試験所、糖業研究所、アジア野菜研究発展センター、金属工業研究発展センター。

 さらに工業技術研究院が、南部に分院を設立する計画を進めており、やがて園区の産業発展に適した研究とサービスを提供することになっている。

 ◇産学研究センター
 行政院国家科学委員会(以下、国科会)は、園区のハイテク産業発展の需要に応じるため、園区内に産学研究センターを設立し、貴重な機材設備を共用して製品の研究開発への支援と人材育成サービスなどを提供する予定である。

 さらにまた、中・南部地域には前述のように研究開発の基礎となる研究・教育機関が多いため、国科会が中心となって重点範囲を選び、研究開発と施設を強化し、優れた研究と実験室の発展、ならびに共同方法などによってハイテク産業の発展を促進することになるだろう。

 ◇支援的産業
 台南アジア航空機研究施設および南部の自動車部品加工業、工作機械、精密機械、コンピュータシステムなどの工場が台南地区に多く分布しており、とくに精密機械業は台南地区がかなりの比重を占めている。

 それにより、台南県政府と台糖公司は現在、園区周辺の工業地帯の各工場と協力し、園区の産業発展と連結するようになる計画を促進している。

 ●自然環境と人的資源
 ◇自然環境
 園区は自然環境の優れた嘉南平原にあり、面積が広く、物も豊富である。また、気候が温暖で山水の風景も素晴らしく、そこに住む人々もみな素朴である。

 ◇人的資源
 台南の人口は百七十六万人、専科学校以上の学歴がある者は約二十万人、高校、職業学校以上の者は約三十万人で、十分に技術要員と労働力を提供できる。

 ◇水力と電気の供給
園区の水の需要は、阿公店ダム、曾文ダム、烏山頭ダム、南化ダム、白河ダムなどから引くことができ、用水に恵まれている。電力は台湾電力公司と協力して送電線と変電所を設置し、この面においても問題はない。

 ◇レジャー
 台南はもともと「文化の古城」として名を馳せており、億載金城や赤嵌楼など、台湾の歴史、文化、民俗を偲ぶには最適の地である。

このほか、台南市内にはデパートや商店、スーパーマーケットが林立しており、国際級のホテルもある。台南市の周辺地域には、曾文ダム、関仔嶺、月世界、南部横貫道路など有名な景勝地があり、温泉、滝、渓谷、森林、渓流、高山などレジャーに適した自然が豊富である。また、海水浴場、レジャー農園、ゴルフ場、キャンプ場など多くのレクリエーションの活動の場にも恵まれている。

 Ⅱ計画と開発

 ●園区の発展計画
 園区の用地は、国科会と台糖公司が共同開発の方法で土地の使用権を取得し、国科会がハイテク産業の専門地域を設置する計画を立てる。

 第一段階は「電子精密機械」、「半導体」、「バイオテクノロジー」の三つの専門地区を設置する予定である。また、投資者の申請を受けつけ、審査をして認可するかを決定する以外に、貴重な機材設備を共用して新技術と新製品を開発するため、友好的にハイテク産業の発展を促進する。

 そのほか、産学の共同計画を推進し、また、投資の優遇措置などの奨励もおこなって、産業の発展への良好な環境を構築する。さらに、同園区の計画、開発、産業の導入と運営管理は、国科会がおこなうことになっている。

 ●園区の土地使用計画

 同園区の第一期土地面積は、約四百ヘクタール、第二期の面積は、約二百五十ヘクタールである。第一期に開発される場所は、上述の三つの専門地区のほか、産業開発センター、管理センター、貨物運送区、環境保護センター、住宅区、道路、公園などである。

 ◇給水システム
 園区付近の潭頂浄水所から主に園区に運ばれ、また、近くのダムから水をひく。

 ◇電力システム
 台湾電力公司と共同で変電所を設置し、また、独立した発電所を設けて安定した電力の供給を確保する。

 ◇電信システム
 電信局と協力して電話サービス業務をおこなう以外に、通信ネットワークを確立して、インターネットのサービスをおこなう。

 ◇排水システム
 整備された土地の高さは、過去五十年間に発生した洪水による水位より高いことを原則とする。

 ◇汚水と廃棄物
 園区の計画的に決められた処理場でコストを押さえた処理をおこなう。
(以下次号)

 
台湾における放送政策の変化㊤
NHK放送文化研究所主任研究員 橋本 秀一 

一、台湾の民主化とメディア

 台湾を論じる際に直面するのが「省籍」問題である。これは蒋介石とともに大陸から台湾に渡ってきた「外省人」が、蒋介石・経国父子二代にわたる国民党政権下で台湾を事実上支配し、人口の八五%を占める台湾生まれの「本省人」が被支配者の地位にあったことを指している。今日いうところの台湾の民主化は、一面では本省人の権利回復運動である。

 台湾では、一九七九年一月の米台断交で緊張が高まったなか、同年十二月、高雄市で警官隊と市民が衝突する高雄事件が起き、国民党政権が国内の引き締めを強化した。そうした国民党政権の強圧下でも民主化を求める動きは徐々に表面化し、戒厳令下の八六年九月、初めての野党・民主進歩党(略称・民進党)が結成された。翌八七年七月には、三七年余りも続いた戒厳令がようやく解除された。

 そして、八八年一月、台湾は戒厳令解除後のメディアに対する最初の規制緩和措置として、日刊新聞の新規発行が認められた。

 同じ一月、蒋経国総統の死去によって副総統の李登輝が台湾人として初めて総統に就任し、台湾の民主化が始まった。

 李登輝の登場は本省人から歓迎されたが、外省人が中心の国民党上層部は、当初李登輝を国民党主席につけることをためらい、李登輝がようやく国民党主席になったのは総統就任から半年後であった。国民党は中国大陸の共産党に似た組織で、党主席の地位は国家元首の総統の上位にあり、たやすく台湾人に明け渡すことができなかったのだ。

 その後、九〇年五月、李登輝が第八期の総統に就任するに当たっても、外省人の長老を中心とした保守派は激しく抵抗した。 李登輝を副総統時代から取材してきた女性ジャーナリストの周玉コウ(くさかんむり+冦)によれば、この時には主な新聞や地上波テレビは、反李登輝陣営に通じていたという。 その理由は、主なメディアの幹部は大部分が外省人を中心とする軍や公務員の子弟で、党と蒋介石・経国父子に特殊な感情を抱いていたからだ。さらに政治の台湾化の脅威と不安感が、李登輝総統に非難の矛先を向けさせた。

しかし李登輝総統は、国民党を外省人中心のものから、台湾の国民党に変えるという「静かなる革命」をねばり強く続け、九三年三月にようやく党、政府、軍、それに特務の国民党政権の「四頭馬車」の手綱を握る御者となり、真の「李登輝体制」が整った。

 二、李登輝の放送改革

 李登輝総統は、憲法改正、行政改革、教育改革と並んでメディアの改革も実行しつつある。

 メディア改革のうち放送の分野の改革目標は、①ケーブルテレビを合法化する、②国民党系以外の地上波テレビ局を開局する、③公共テレビ局を開局する、④国民党系の地上波テレビ三局の株式を公開し民営化する、の四つである。

 これらの目標は、その時々の状況に応じて出されたものである。ケーブルテレビの合法化を別にすれば、主な狙いは、国民党系の地上波テレビ三局の民営化と体質改善にある。そのためには地上波に新規参入を認めて国民党系の三局と競争させ、その刺激によって三局を、外省人を中心とした「国民党のテレビ局」から、普通の「台湾のテレビ局」に変えようというものである。

 ここで地上波三局の定義であるが、後述のように台湾の地上波テレビは長い間、中視(中国電視台)など三局だけであった。三局は株式会社組織であるが、株は公開されていない。また経営は、それぞれ大株主の国民党、軍と教育部、台湾省によって事実上おこなわれており、いずれも広い意味で国民党の影響下にあるので、本稿では「国民党系」と一括して呼ぶことにする。

 ●ケーブルテレビ

 (1)合法化から集約化へ
 台湾のケーブルテレビが急速に普及しだしたのは、NHK衛星放送のソウルオリンピックの中継をケーブルテレビが競って再送信した八八年九月ごろからである。 その後、九〇年頃から国民党系の地上波三局に対抗して、野党・民進党の主張を支持し、その政策を一般に伝える目的で各地に「民主台」が誕生した。

 これによってケーブルテレビは、それまでの違法コピーによるテープを流したり、外国衛星放送を勝手に再送信したりするといった「海賊放送」のイメージから、政治的主張の道具としての性格を強めた。

 しかし、ケーブルテレビの存在そのものが法律に基づかない非合法なものであったため、当局はこれを合法化して指導し、施設と番組内容の向上を図ることになった。 九二年六月、かねてアメリカが要求していた著作権の保護強化を目的に著作権法を改正し、九三年八月にはこれを受けて有線電視法を施行した。

 これに基づいて、当局は九四年十一月から新規参入を含め、免許取得の申請のあった二百八社の資格審査を進め、九六年八月、全国五十一地域で百三十八局が認可された。これによって台湾のケーブルテレビは、放送界の一員として正式に認知されたことになる。

 この審査の過程で当局は申請した各社に対し、外国の衛星放送を再送信する際には、その権利関係を明らかにするよう求めた。そして権利関係がはっきりしない場合は認可しないことにしたため、これを契機に「違法受信」はなくなったと当局側は説明している。

 ところで、台湾の政治が民主化するに伴い、ケーブルテレビは、今では野党民進党の政治的主張の代弁者としての役割を終えつつある。民進党を支持している各地の民主台のなかからも合法化を申請する段階で、新社名から「民主」という名称を外したところが出てきている。これは、今後のケーブルテレビの発展は、視聴者が民進党の支持者か否かにかかわらず、どれだけ多くの視聴者を獲得できるかにかかわっていることを、「民主台」の経営者も承知しているからだ。

 台湾のケーブルテレビの世帯普及率は、九七年十月現在で七五%余りと推定されている。業界では、認可後もケーブルテレビ局の買収・合併がおこなわれており、今後は「力覇」、「和信」といった大手の番組供給会社によるグループ化が進むものとみられている。かつての民主台も、独立を維持することが難しくなってきたようだ。

 (2)番組の視聴状況
 台湾は、外国の番組に対する規制が緩く、ケーブルテレビでは日本番組を含め外国番組が全体の八〇%まで、地上波では三〇%まで許されており、また、CNNなど外国の代理チャンネルには制限がない。

 こうした状況の下での台湾のテレビの視聴状況について、石井健一、渡辺聡が、九六年八月に一千人余りを対象に、現地で大がかりな電話調査をおこなっている。 それによると、アメリカの番組と日本の番組の視聴者の比較では、アメリカの番組の視聴日数が多いのは三十歳代と四十歳代で、収入が高い人ほどアメリカの番組の視聴日数が多くなっている。

 一方、日本番組は三十歳未満の視聴日数が最も多く、これは日本語ができるか否かに関係がない。また六十歳以上の高齢者は日本語が分かる比率が高く、本来日本番組が好きであるにもかかわらず、実際にはあまり日本番組を視聴していない。その理由は、現在台湾で放送されている日本番組が主に若者向けのものであり、これが三十歳未満の日本番組の視聴日数が多いことにもつながっているという。

 また、服部弘、原由美子は、九五年九月に台湾で三千人を対象にした同じような電話調査をおこなっている。

 それによると、日本製の番組に対する今後の期待として、「日本の新しい形態の番組を見たい」、「古い番組の再放送はやめてほしい」、「暴力的な番組はやめてほしい」という要望が多かった。

 またニュースの分野では、女性の中年層以外の各層で日本製番組の評価は低く、男女とも中年層では欧米製が、また高年層では台湾製の評価が高かったという。(以下次号)
《『情報通信学会誌』第56号論文より転載》


興味深い台湾映画-「Jam」
 田村志津枝

 台湾からまた新しい監督が登場した。「Jam」の陳以文監督は、楊徳昌監督作品「クー(牛+古)嶺街少年殺人事件」「カップルズ」で助監督を、「エドワード・ヤンの恋愛時代」で俳優を経験したあと、映画監督の道を歩みはじめた。九五年の山形国際ドキュメンタリー映画祭では、短篇「暴力の情景」で奨励賞を受賞している。今回の「Jam」は、日本のプロダクション、リトル・モア社が企画した四作品のなかの一本で、日本の若手監督にまじって起用された。スタッフには台湾の実力派が勢揃いし、台北を舞台にした若々しい恋物語に仕上がっている。タイトルの意味は、あの食べるジャムだ。

 主演の二人には新人が起用されている。少年の初々しさがいっぱいの蔡信弘がカイの役、中性的なすらりとした美少女の六月(ジューン・ツァイ)がジャジャの役だ。この二人の素人臭さが、この映画の魅力のひとつと言えるかもしれない。二人が入ると、まわりの風景はとたんに日常的な匂いを発散し、物語もつい身辺の出来事のような雰囲気をかもしだす。ところが二人はのっけから、べつに大それたことをやるふうもなく、自動車泥棒をやってのけるのだ。しかも、その車が殺人事件に使われたものだと知って、二人は急にあたふたしはじめる。

 その車の持ち主は、映画のプロダクションの副社長の女性だった。彼女は社長の愛人であり、プロダクションが契約した新人監督と恋仲であり、さらに車の盗難事件で出会った主人公の少年カイの気持まで惑わせる。こんな調子で物語はどんどん複雑にふくらむために、作品全体は四章に分けられてべつべつの話が展開し、各章の登場人物や出来事が互いにからんでいく構成となっている。

 カイは、借金苦の友人を救おうとしてヤクザの事務所に乗り込む。そのヤクザというのはなんと、くだんの車を使った殺人犯だ。殺人犯にも恋人がいて、恋の悶着もある。この作品は、登場人物の意外な一面をすくいあげることで現代の複雑な人間模様をあらわそうとしているようだ。けれど時に、物語はひどく荒っぽい展開も見せる。殺人犯は敵対するヤクザに殺され、カイはかたわらにあった大金入りのトランクを手に入れる。そうこうするうちに、ジャジャは、自分以外のことにばかりうつつを抜かしているカイのもとを、黙って去ってしまった。

 一方、車の持ち主の女性は、新人監督と一緒に映画を作りはじめた。久しぶりに彼女に会ったカイは、映画出演を依頼される。するとそこへ突然ジャジャから連絡が入り、二人は、胸おどらせて再会を果たす…。

 とあらすじを紹介してみると、もうおわかりだろう。この作品は、良くも悪くもデビュー作の特徴とでもいうべきものを、たっぷりとそなえている。意気込みが先走って内容を盛り込みすぎ、そのぶんディテールがおろそかになって、深みに欠ける。また盛り込みすぎた内容に手を焼いて、ご都合主義に走る。

 しかしながら、リキが入っているだけに、監督のなまの生活実感が、たくまずして作品にぐいぐいと侵入してきている。登場人物は端役にいたるまで、それなりにかっこよく、キッチュだ。あまり熱くもならず、冷めてもいない。監督独自の世界を表現するスタイルの模索は、いましばらく続くことだろう。

上映館 テアトル新宿
上映日 7月4日(土)~ 連日午後9時20分からレイト・ショー
問合せ リトル・モア
 ℡03-3401-1042 fax03-3401-1052


新 刊 紹 介  

 台湾をもっと
  知ってほしい
    日本の友へ
         張 超 英 著

 世界で最も親日的な国、しかも日本に一番近い国、この台湾がなぜか日本では正確に知られていない。とくに李登輝時代以降の政治的変貌と経済的変化には大きなものがあり、当の台湾人ですら驚いているくらいだから、台湾情報をなかば遮断されている日本人が詳しく掌握していないのも無理なしとは言えないかも知れないが、いまだに台湾といえばバナナしか連想できない日本人の結構多いのには苦笑せざるを得ない。

 いまや台湾は世界史的にも稀な、民主化への「静かなる革命」を完遂し、権威主義国家から押しも押されもしない民主主義国家へと変貌し、経済的には世界第三位のハイテク産業王国となり、台北と高雄のあいだには毎日二百便の飛行機が飛んでいる。日本との関係で言えば、貿易総額は年間往復四百億ドルを越え、人の往来は年間百四十万人を越える。

 だが日本は、北京に気兼ねするあまり台湾と国交が持てず、いびつな関係をみずからに強いている。これを打破する方法はないか。その方法は唯一、台湾を理解する日本人が一人でも多く増えることだ。本書はそのための、格好のアドバイスを提供している。といっても一般の台湾事情解説書ではなく、さまざまな観点から日台間の関係のあり方を説き、問題を提起するエッセイ集である。

 著者は駐日経済文化代表処の新聞広報部長として、長年日本と台湾の間に立ち、かつ台湾の政府系広報紙である『中華週報』のコラム「春夏秋冬」を手掛け、読者の注目を浴びてきた。本書はそれの約三年間のものを集大成したものである。

中央公論社刊 定価一八〇〇円+税 TEL 03-3563-1431


 「台湾史研究」

 関西大学の石田浩教授を代表に、幅広い分野での台湾研究をおこなっている「台湾史研究会」の機関誌、「台湾史研究」第十五号(鶴嶋雪嶺教授古希記念論文集)が三月末に発行されました。主な内容は以下の通りです。

(論文)戦後台湾経済史研究の意義と課題-「開発独裁論」の妥当性-/戦後台湾の電源開発と工業/台湾の都市化と高齢者問題/在日台湾人の親族意識:日本人親戚との関わりにおける面子の意識

 なお、同誌は日華資料センターで随時閲覧できるほか、ご希望の方に一冊千五百円でお分けしています。バックナンバーは、第十三号(二十周年特別記念号、97年10月発行)、第十四号(第一回台湾史研究学術討論会記念論文集、97年3月発行)がありますので、お問い合わせください。

日華資料センター
開館時間 火~土:午前9時~午後5時(正午~午後1時休憩)
〒108-0073 東京都港区三田5-18-12
 ℡ 03-3444-8724 fax 03-3444-8717


お 知 ら せ

「新日台交流の会」第十八回研究・懇親会のお知らせ

 今回は、台湾アミ族のルギィさんをメインゲストにお迎えします。ルギィさんは台湾東部、花蓮のハラワン部落の出身で、現在は武蔵野音楽大学大学院声楽科に在籍中です。 当日は、先住民との交流活動についてのお話しの他、アミ族の歌も披露していただく予定です。

日 時 7月4日(土)午後3~6時

テーマ 「台湾原住民族との交流会」の活動について

会 場 日華資料センター会議室
〒108-0073 東京都港区三田5-18-12
  TEL03(3444)8724  FAX03(3444)8717

交 通 JR山手線/京浜東北線田町駅西口または都営浅草線三田駅A3出口から、都営バス渋谷駅行(田87系統)に乗り魚籃坂下にて下車徒歩一分(詳細地図FAX送付可)


春夏秋冬

 インドの核実験は遺憾に堪えないが、これを日本のマスコミはすべてパキスタンとの紛争と関連づけて報道していた。だがそれは、一面しか見ない報道と言わざるを得ない。

 二年前、北京が台湾海峡にミサイルを打ち込んだとき、沖縄の漁民は操業不可能となったが、それよりも重要なのは、北京がその気になれば、日本のシーレーンを遮断し得ることを見せつけたことである。この数発のミサイルによって、日本でも「中国の脅威」論が浮上し、言論界で大いに論争されるところとなった。

 日本の場合は、それへの取り組みはまだ言論界の段階にとどまっているが、インドでは国防大臣が「われわれの脅威は北に存在する」と明言した。かれらが核実験をしたのは、それから一カ月後のことである。かれらの核実験は日本のマスコミが言うように、パキスタンに対するものではない。インドとパキスタンの紛争を冷静に考えれば、それは原爆の必要がないものである。

 当然日本から見れば、インドの核実験は愚挙であり、非難されるべきものであり、経済制裁もやむを得ないものである。ところがインドからすれば、経済事情も顧みずに原爆を持ち、新たなミサイルをつぎつぎと開発し、ロシアから新型戦闘機や潜水艦を購入し、ミャンマーにまで基地を作り、さらに空母まで備えようとしている中国(共)の重圧感に悩み、やむにやまれぬものであった、と言うことができる。インド国民の絶対多数が、この核実験を支持しているのだから、かれらの感じている「中国の脅威」とは、まさに国を挙げてのものなのだ。もちろん核実験という愚挙を容認するものではない。ここで言いたいのは、インドは愚挙を敢えて犯すほど「中国の脅威」を感じているという点だ。さらにまた、かれらにとって「中国の脅威」とは、ヒマラヤ山脈をはさんでのことである。それを思えば、海を隔てているとはいえ、元の軍船ではないが中国大陸からの脅威を日本で感じないとは、まことに無神経である。

 もちろん日本はアメリカの「核の傘」のなかにいる限り、他の核保有国からの脅威は免れる。だがその「核の傘」は永遠に続くものではない。すでに日米安保不要論がアメリカ国内から出始めているのだ。そのとき日本はどうする。現在の日本は、政府も国民も原爆反対一色といってよいほどだ。まさに挙国一致平和論といったところだが、アメリカの「核の傘」のなかという前提がなかったなら、それは自前による核弾頭による防衛の可能性を、諸外国は連想するだろう。

 つまり、アメリカの「核の傘」がとれたとき、日本にも核武装の世論が起こる可能性があるということだ。そのような事態を、日本の良識ある国民は望まないだろう。そうならないために、現在の核保有国からの脅威を感じないようにすればよいのである。今日の日本で、狂信的な変質者は別として、アメリカから核の脅威を感じている人はいないだろう。いま脅威があるとすれば、それは中国(共)からのものだ。なぜなら、相手が全体主義国家であるからだ。そこにインドは敏感に反応したのだ。日本の立場から言えば、インドよりも強くそれを感じなければならないはずである。

 この核保有国からの脅威をなくすには、相手を民主主義国家にすること以外にない。中南海の一握りの人物がすべてを決定するような国は、危険でならない。日本の対中援助は、これを改めさせるという観点からおこなうべきであって、それが日本の安保にもつながるのである。         
(CY)