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  台北週報2102号(2003.7.3) - 台北駐日経済文化代表処 Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan :::
主要ニュース
:::


台北週報2102号(2003.7.3)

台湾はWHOのよきパートナー
台湾のSARS抑制経験は世界の参考に

 クアラルンプールでのWHO国際会議への参加は、医療・防疫面における台湾の国際協力にとって大きな一歩となった。加えて、WHOが台湾への渡航延期勧告を解除したことは、台湾に大きな安心感を与えた。しかし政府関係者と衛生当局は、次の目標を「感染地域」指定の解除に置き、マスク着用、体温測定の継続を国民に呼びかけ、気を抜くことなくWHOの防疫に関するルールを厳格に履行することを強調した。

 ●WHO勧告解除は初期的成果

 WHOが六月十七日に台湾への渡航延期勧告を解除したとのニュースは、台湾現地で喜びをもって迎えられた。陳水扁総統は翌十八日、予定通り彰化県工業区を視察したが、現地財界人との懇談会においてWHOの渡航延期勧告解除に言及した。

 陳総統は懇談会の冒頭で「私は昨日、WHOがわが国への渡航延期勧告を解除したとのニュースを、非常に嬉しく聞いた。これはSARS抑止の第一線に立っている医療関係者ならびにSARS対策の行政各機関の努力による初期的な成果であり、これらの努力を高く評価するとともに、心より感謝の念を表明する」と述べた。

 同時に「われわれにはまだ大きなハードルがある。それはWHOによる台湾へのSARS感染地域からの解除を勝ち取ることである。われわれはいま安堵の念を抱いているが、気を抜いてはならない。私は国民の皆さんに、これからも毎日の体温測定と手洗いを欠かさず励行することを呼びかけたい」と語った。

 また産業振興については、「昨年十月に開始した『産業振興新投資多額融資計画』により、現在まですでに十二万社への融資を行い、中長期の貸付は九百五十一億元(約三千三百億円)に及び、民間の千百三十八億元(約四千億円)の投資を誘発した。このほかにも、政府は中小企業のレベルアップを支援するため『中小企業融資基金』の効果を高めるよう努力している」と表明した。

【総統府 6月18日】 

●台湾はWHOのパートナー

 林佳龍・行政院スポークスマンは六月二十日、マレーシアのクアラルンプールで同十七、十八日に開かれたSARSに関するWHO世界専門家会議に、蘇益仁・行政院衛生署疾病管制局長を団長とする台湾の代表団が参加したことについて説明会を開き、次のように見解を述べた。

--------------------

 この会議は、WHOが初めてわが国政府の代表に参加を正式に要請した国際会議である。蘇局長を団長とするわが国代表団は各種の機会をとらえ、各専門家の委員会等において台湾のSARS防止の経験と成果を各国と分かち合い、WHO加盟各国、専門家、ならびに各国際メディアの高い評価を得て多岐にわたる国際協力を促進するなど、この会議への参加は台湾の国際SARS防止協力への重要なステップとなった。游錫堃・行政院長は「蘇益仁局長を団長とするわが国代表団は十分な活動を行い、豊富な成果をあげた」と語り、代表団を高く評価した。

 われわれは、WHOが今後とも「医療と防疫に国境はない」との立場を堅持し、ふたたび中華人民共和国の妨害工作と反対によってわが国を排斥し、わが国二千三百万国民の健康に悪影響を及ぼさないことを希望する。われわれは中華人民共和国に対し、汚染だけでなく、WHOの理念を曲解し、国際社会の声を無視し、両岸人民の感情を傷つけたりしないよう呼びかける。中国の台湾圧迫はわが国民の反発を惹起しているばかりでなく、国際社会の正義の人々の支持も得られないことは、事実の証明しているところである。

 わが国政府は今回のSARS問題において、WHOおよび米国疾病管制センターからの支援、ならびにわが国医療関係者の努力と国民の協力によってSARSの蔓延を抑止しえたことを感謝している。わが国のとった各種の措置は、WHOの最も厳格なルールに沿ったものであり、現在も実行しており、今後もそうするであろう。特にわれわれは、WHOが専門家をわが国に常駐させ、わが国政府と緊密な連携のもとに、わが国の伝染病防止専門家らと協力しあい、防疫および各種伝染病予防の研究を進めることを希望する。われわれは、台湾は必ずWHOにとって最も理想的なパートナーになれるものと確信している。

【行政院 6月20日】 

●実り大きかった国際会議

 蘇益仁・衛生署疾病管制局長を団長とする台湾の代表団一行四名は六月十九日、クアラルンプールでの一連の会議を終え帰国した。桃園国際空港での記者会見で、蘇局長は「SARSの発生によって台湾は国際間の友情を勝ち取り、また新たな防疫体制を確立することができた。これは台湾にとって、SARS禍における最大の収穫だった」と語った。

 今回の国際会議参加については、「台湾が今回のWHO会議に参加したことは、世界から高度の関心を受け、国際社会ならびにWHO上層部との好ましい接触の場となった」と述べた。同時に「今回、SARS防止の国際会議に出席した成果をあげるため、とどこおりなく台湾のSARS防止の経験を参加各国の代表団と分かち合った。それらの中には、SARSの感染防止やSARSへの定義も含まれており、これらは今年の秋か冬にSARSがふたたび発生した場合、欧米をはじめ世界の参考となるだろう」と語った。特に「今年の秋、冬にかけ、台湾はSARSの防止と抑制をどのように行うべきか。感染を防止する能力を高めるため、世界の感染防止システムが連携することも、今回の議題となった」と明らかにした。

 また、発生源とされる中国については、「私は中国のSARS情報の透明化を要求した。広東の一部の動物の身体にSARSウイルスが生息しており、たとえばハクビシンに類似のウイルスがあると見られている」と指摘した。さらに「台湾はSARS防止の過程において、早期にSARSと断定する措置をとったが、これは非常に重要なことである。世界の専門家らは、SARSウイルスは地球上から消滅することはないだろうと認識している」と指摘した。予防ワクチンの研究については「世界が研究しているが、まだ初歩的な範囲にある」と述べた。

《桃園『中央社』6月19日》 

 ●今後も警戒が必要

 WHOによる台湾に対する渡航延期勧告解除は、台湾の社会に大きな安堵感を与えたが、一般生活としては、日常化していた公共交通機関でのマスク着用が必要かどうかが注目されるところとなったが、これについて行政院衛生署の陳建仁署長は六月十七日、「公共交通機関でのマスク着用解除は、台湾に対する集中感染区の指定が解除されるのを待つのが妥当だ」と表明した。

 交通部はSARSが最も警戒されていた四月二十五日に長距離バスの運転手、乗客のマスク着用と体温測定を義務付け、五月八日には台北市公用車とタクシー運転手のマスク着用を義務付け、乗客には着用の勧告をした。五月十四日には都市交通システムを含む列車乗客のすべてにマスク着用と体温測定を義務付け、違反者への罰則も設けた。

 WHOによる渡航延期勧告解除とともに、これらへの措置の解除が社会の注目するところとなり、交通部はWHOの解除当日の六月十七日、さっそく検討会を開いたが、特に長距離バスについては、長時間密閉された空間に身を置くことになり、まだマスク着用と定期的体温測定は必要との意見が大勢を占めた。さらに一部の規制解除は他への影響が大きいとの意見も強く、その他の交通機関に対する措置の義務解除についても、SARS専門委員会の意見を聴取するまで解除決定の発表を保留することになった。

 陳建仁・衛生署長は「もちろん早く解除されるのが好ましい。だが、これまでの感染防止の経験から、少なくともあと十七日間の忍耐が必要だ」と表明した。

 また陳署長は同日、多くの台湾企業関係者が中国に駐在していることを指摘し、「中国が早く感染地域の指定から解除されることを希望する」と述べた。

《台北『聯合報』6月18日》

動き出したポストSARSの再建計画
三段階に分け推進、経済成長率四%以上に

●ポストSARSの再建計画

 台湾は今ポストSARSに向け動き出したが、行政院は六月十八日、ポストSARS台湾再建計画草案を通過し、短中長期の三段階にそれぞれ目標を設定し、推進することになった。この計画案は政府各部門の提示した計画案三百四十一項目をまとめたもので、総予算額は五百七十六億元(約二千億円)となり、来年の経済成長率は四%以上、失業率は四・五%以下に抑えることが目標として設定されている。

 これについて林佳龍・行政院スポークスマンは同日、「ポストSARS再建計画の主たる内容は、社会秩序の再建、公衆衛生および医療体系の改善、産業の振興、国家イメージの向上の四分野に大別できる。これらを三段階に分け、短期は今後一カ月、中期は今年末まで、長期を来年末までとして推進される」と説明した。

 このうち産業振興の分野を見れば、第一段階(短期)では信用回復を主とし、国際観光客誘致活動が中心となる。同時に二百億元(約七百億円)SARS困窮者救援措置を始動させ、公共建設三年間三千億元(約一兆円)計画の詳細を決定する。さらに輸出市場の開拓に着手し、財政部は投資誘致のため専門の証券センターを開設する。

 第二段階(中期)では経済成長率三%を維持し、公共建設実行率九〇%以上を達成し、海外からの観光客年間延べ三百万人を達成する。さらに公共建設三年間三千億元計画特別予算案の審議を完了する。国際的な産業展示会等の活動を拡大活発化させる。

 第三段階(長期)では第一年度の一千億元(約三千五百億円)新興公共建設を完遂させる。来年の予測経済成長率は現在二・八九%に下方修正されているが、これを四%以上にまで引き上げ、失業率を四・五%以下にまで抑えこむ。

 公衆衛生と医療体系の改善については、類似の新型ウイルスの予防に対処するため、検査および判定に関する現在の構造を一新させる。また院内感染の防止を含め、社会衛生運動と衛生啓蒙活動を強化する。

 以上の計画推進の一環として、内政部が中心となって各省庁と連携し、民間の参加もうながし、「台湾社会再建」運動を展開し、社会互助意識、国民学習、地域自治の精神、リスク管理など社会的価値観の喚起を促進する予定である。

《台北『聯合報』6月19日》 

●国際観光客誘致活動を活発化

 WHOが台湾への渡航延期勧告を解除したことを受け、交通部観光局の蘇成田・局長はただちに各国政府に対し、その国の国民が台湾に旅行する場合、熱烈に歓迎すると明記した書簡を発信した。

 日本政府は六月十七日、すでに台湾を対象とした「渡航の是非検討」(不要不急の渡航は延期勧告)の危険信号を、最も低い「十分注意」に引き下げ、日本の大手旅行社も台湾への団体旅行募集を再開する動きを見せ始めている。

 蘇局長は同十八日、「わが国への渡航をまだ制限し、あるいはわが国国民の入国に規制を加えている国は、WHOの勧告解除を踏まえ、それらの措置を早急に解除し、相互の観光旅行を活発化させることを望む」との見解を表明した。

 同時に蘇局長は「台湾はこれまでの三カ月にわたるSARS防止の過程において、一度は経験不足から蔓延の兆候を示したが、健全な医療体系と高度な医学水準とによって迅速に経験を重ね、効果的にSARSを防止するようになった。WHOが台湾に正当な評価を示したことを感謝する」と述べた。

 また黄栄村・教育部長は十八日、各学校と社会教育機関に出していた大型集会、各種発表会、運動会、卒業式、各種式典などの自粛勧告ならびに禁止令を解除すると発表した。小・中学校の卒業式は六月二十日から二十九日に集中しており、これらは正常に行われる見通しがついた。黄部長は高校生の六月二十一日の学力検定試験については、試験場での体温測定は実施すると表明し、まだ完全に安心できない点を強調した。

《台北『民生報』6月19日》

ニュース

問題ある香港基本法第23条  
米下院が香港の自由擁護決議

 香港基本法第二十三条は、思想、集会、言論、報道などの基本的自由を制限しており、制定当初から問題視されていたため、これまで同条に示された制限を具体的に定める法律がなかった。だが香港特区政府はいま、同二十三条の立法化を急いでいる(本誌二一〇一号参照)。

 これに対し米下院国際関係委員会は六月十七日、「香港の自由を支持する決議案」を可決した。同決議は、「香港立法局は直接民選によって構成されるべきで、民選された立法局によって香港基本法第二十三条の立法化の是非を討議すべきだ」と呼びかけるのが骨子となっている。さらに同決議は、基本法第二十三条は「基本的自由を制限するもの」と認定し、同条の廃止を呼びかけ、米国政府は香港の自由擁護のため、中国に圧力を加えるべきだと促している。

 香港特区政府は七月に同条の立法化を完成する予定だが、立法化されれば基本法第二十三条に定められている通り、国家の分裂扇動、反逆、中央政府の転覆、国家機密の窃取などが具体的に禁止条項となり、罰則が設けられる。さらに香港の政治的団体が外国の政治的団体と連携することも、外国の政治的団体が香港で活動することも禁止される。

《台北『聯合報』6月18日》


後藤前交流協会理事長に勲章  
両国関係レベルアップに貢献 

 中華民国政府は六月十九日、後藤利雄・前交流協会理事長に大綬景星勲章を授与した。授与式は東京都港区の台北駐日経済文化代表処において、羅福全・駐日代表の主催によって挙行された。後藤氏は九五~九八年まで交流協会台北事務所長、九八年三月~本年三月まで交流協会理事長を務めた。

 羅代表は祝辞の中で、後藤氏の台湾に対するビザ待遇の改善、日本政府のWTO、WHOなど国際機関への加盟支持、外務省課長クラス以上の訪台禁令解除、WTOやAPECでの両国代表団の懇談実現など、日台関係レベルアップへの努力と具現に感謝の意を表明した。

《東京『中央社』6月19日》

台湾のSARS対策日誌 ④

▼六月一日 十日間にわたって全国民が朝晩二回、体温を測定する「全国民体温測定運動」を開始。このため政府は市町村に耳測型体温計一万八千六百九十三本を配布。

▼六月四日 約一カ月ぶりに感染者ゼロを記録し、死者は七日間連続ゼロとなった。

▼六月六日 日本国政府が台湾におけるSARSをめぐる状況に鑑み、財団法人交流協会を通じて、台湾に医療用防護服五万着、防塵マスク五百個、防塵マスク交換フィルター二千五百袋(計五千六百万円相当)を贈ることを決定。

▼六月十一日 日本からのSARS対策支援物資が到着。外交部において内田勝久・交流協会台北事務所長、簡又新・外交部長ら出席のもとに贈与式。

▼六月十三日 WHOが台湾のSARS感染地域指定を「重度」から「中度」に引下げ。

▼六月十七日 マレーシア・クアラルンプールでWHO世界専門家会議を二日間の日程で開催、台湾からは蘇益仁・行政院衛生署疾病管制局長を団長とする代表団が参加。
WHOが台湾への渡航延期勧告を解除。

 日本国政府は、WHOが台湾への渡航延期勧告を解除したのにともない、台湾に出していた「渡航の是非を検討」(不要不急の渡航は延期勧告)の危険情報を、最も低い「十分注意」に引下げた。

▼六月二十一日 六月二十日午後四時現在、台湾の感染者六九五人、死者八四人、中国の感染者五三二六人、死者三四七人、世界総計感染者八四六一人、死者八〇四人(WHO発表)。

台湾の国家経済再生には何が必要か㊤
危機管理とブランド力強化が今後の課題

 台湾はすでにSARS後に向かって動き出している。特に望まれるのは経済の活性化であり、このため六月十三日、林義夫・経済部長と顔光佑・経済日報編集局長主催のもとに戴勝通・中小企業協会理事長、許士軍・中華民国管理科学学会理事長、柯承恩・台湾大学管理学院院長らが出席し、経済専門座談会が開催された。以下は各出席者の発言内容をまとめたものである。

危機管理メカニズムが必要
林義夫・経済部長

SARSの影響で経営難に陥った企業を支援すべく、経済部は九十三億元(約三百三十億円)のSARS予防対策と苦境救済特別予算を組み、影響を受けた企業に従業員の給与融資や短期運営資金の支援をする。中小企業処の「即時解決センター」の統計によれば、現在、各種専門項目融資や苦境救済に関する問い合わせをした企業はすでに千社を越え、実際に審議メカニズムを通じて金融機関と調整をおこなっているものも四十件以上に達している。

同時に、輸出販売開拓と供給メーカー輸出保険の面では、経済部は、国内参加企業と国外の販売開拓メーカーの負担を軽減することや、海外参加と販売開拓活動の増加、国際市場開発計画の実施、グローバルな購入センター設置の計画を検討している。特に強調したいことは、メーカーが遭遇するであろう輸出リスクを軽減するために、政府は一億元(約三億五千万円)を増加割当てして、中国輸出入銀行にSARS専門の輸出保険手続きへの支援もしているという点である。

今回のSARS問題は、確かに、国内の産業と医療機関に非常に大きな影響をもたらしたことは否定できない。しかし、一部の企業は二、三日のうちに迅速に対応措置をとっており、これはまさに見習うべきものである。したがって、中小企業は「危機管理メカニズム」の確立を学び、「問題を未然に防止し、危機を速やかに取り除く」という目標を達成すべきである。

従来型の市場や商業圏の再興の面では、経済部では地方の特性や資源と整合させた一連の計画を策定しており、地方自治体が商業地の清掃防疫作業を行うことや、売り場の防疫設備の強化、販売推進などの活動を支援し、消費を促してかつてのようなビジネスチャンスの回復を期待している。台北市華西街の販売促進活動などもこの計画の一つである。

現在、SARSの流行はすでにやや緩和してきているとはいえ、国内では実際のところまだSARS危機を乗り切ったわけではなく、今後、SARSウイルスはAIDS同様に我々と共存することになろう。そのため政府と民間は引き続き慎重に、SARSがもたらすであろう衝撃に対応しなければならない。

例を挙げると、シンガポールは最近WHOの勧告から解除されたばかりだが、現地では引き続きすべての警戒対策が続けられ、少しも気を許してはいない。その後も政府はすべての国民に救護袋を支給し、SARSはいつでも襲って来るという警戒感を喚起した。台湾の状況に照らせば、我々こそ未然に防止するという態勢を常に維持していなければならない。そうしてこそSARSのもたらす被害を軽減できるのである。

SARSに関連する産業振興の面では、現在、すでにプランを検討立案し、三段階に分けて、外国企業の台湾への信用の再構築と、民間の消費信頼回復、受注獲得の支援、投資環境の改善を図っており、今後、経済部は各種政策措置によって積極的に業界を支援していく。ここで特に産業界に訴えたい事がある。SARSの衝撃が過ぎた後には、拠点を過度に集中させることによるリスクを深く考え、中国大陸に投資している比重を再考すべきだ。同時に、SARS後の非常に不確定な環境において、企業も個人もリスク管理能力を備えるべきであり、企業は常に「危機対応プラン」を備え、個人もまた、収入と仕事、投資利益とサービスを確保するため、各種メカニズムをよりよく運用すべきである。

ブランド力強化を推進
戴勝通・中小企業協会理事長

現在、SARSは沈静化してきたが、我々にとっての懸念は、外国人がすでにSARSと中国人とを同一視していることであり、こうしたイメージは、おそらく世界中の生産拠点を中国大陸から中南米へと移転させるであろう。政府は、台湾の中小企業がODM(加工設計生産)やOBM(自主ブランド生産)の方向に発展することを奨励するよう積極的に考え、早急に対応すべきである。

政府の各機関は、現在、SARSの情勢にますます楽観的になっている。しかし、我々は非常に憂慮している。なぜなら、SARSがもたらした後続的な影響は、おそらくそれほど容易には終息しないからである。台湾のGDPは八割近くが輸出入貿易に依存しており、貿易はまさに人間の移動に依るものである。しかし、SARSはまさに人間が移動することで伝染するのだ。

こうした状況に加えて、さらに外国人がすでにSARSと中国人を同一視していることを併せると、今後欧米諸国はSARSイコール中国人と想像し、我々との接触を忌避するという心配がある。この状態が長く続けば、貿易に依存している台湾には、当然不利な事態となる。

これは、ちょうど、AIDSと聞けば直ぐに黒人を想像するようなものである。ハイチの人口の三〇%がAIDSだとすると、おのずと、黒人は皆AIDSだという印象が作られてしまう。同様に、SARSが中国人社会に蔓延したことで、外国人はおそらく中国人とみればSARSを連想するであろうし、しかも、SARSは飛沫伝染するため、おそらく欧米諸国はますます我々との接触を敬遠する。接触が無ければ、どうやって商売をすれば良いのか? そのため、SARSのもたらす影響に如何に対処するか、両岸政府は落ち着いて真剣に考えるべきだと我々は提言する。

旧正月の時、私は大陸の工場に行って従業員と忘年会をしたが、その時に見た中国の病気の流行状況はかなり深刻で、パニックになっていなかったというのは、情報が隠蔽されていたからである。私の見た多くの大陸の人たちは、SARSに感染した後も、治療費が払えないため発病すると帰省するしかなく、実家に戻って静養するが、これによって病気が至るところに蔓延する。こうした状況は、私の見るところ中国政府でも効果的な抑制は難しい。しかし、台湾と中国大陸の経済貿易関係は互いに緊密に依存しているため、中国で抑制できなければ、台湾にもその運命が波及することは避け難い。

このままで行けば、米国の注文は、おそらく中国大陸から中南米に移行し、生産拠点の新たな分布図が出来上がると私は懸念している。私は現在、中国大陸と中米にはどちらもメリットがあると考えている。双方の賃金コストはほぼ同じだが、中南米は米国から近く、輸送時間が節約できる。しかし、中国大陸は生産分野と原材料供給分野のリンケージが比較的整っている。双方にそれぞれのメリットがある状況において、我々は、SARSの流行がもたらすであろう変数に、真剣に対処しなければならない。

そこで、私は政府に対し、国際的商品販売の大変革を積極的に考えることを提言する。つまり、現在の産業の中心であるOEM (委託加工)を、ODMやOBMにレベルアップし、製品の付加価値を高めるということである。

現代は薄利の時代、つまり価格競争の時代である。おそらく三年から五年後にはマイナス利益の時代に変わるであろう。なぜなら、大陸が低廉な人件費を利用してコスト競争を仕掛けるからで、例えば大陸の帽子工場では、帽子一点のコストが三十八元、製品売価は四十元である。このような極めて少ない利益に、我々は対応できるものだろうか? したがって、高利益時代を創り出したいのであれば、政府は国内産業のレベルアップを考えるべきである。

例えば、OEMではわずか四%の粗利益しか得られないが、ODMなら四〇%、OBMなら四〇〇%の利益を得ることができる。こうしてみると、政府は、メーカーのSARS後の時代対応に協力し、商品販売の大変革から行なう必要がある。生じるであろう被害に対し、政府は大所から着手すべきだと提言する。

《台北『経済日報』6月16日》

旅券のTAIWAN表記を評価する
『自由時報』(6月13日)

 外交部はこのほど、九月一日以降に発行するパスポートについて表紙に新たに「TAIWAN」の文字を追加表記すると発表した。台湾のパスポートが中国のそれと似ているために、台湾の国民は長いあいだ出国先で、さまざまな不便とトラブルに遭ってきた。外交部がこの二年間に実施した世論調査結果によると、毎回国民のおよそ六割が「TAIWAN」の文字を追加することに賛成しており、反対の二割を大きく上回った。

 台湾はれっきとした一主権国家である。パスポートは国民の国際社会における通行証であり、これにより国民のスムーズな通行が保障されなければならない。だが台湾は政治的に特殊な状況下にあるため、世界の人びとは中華人民共和国と中華民国の違いを区別できず、その表記も中国語、英語にかかわらず、中華人民共和国と混同されやすい。これは人権と主権の観点から直ちに改善されなければならない。今回の「TAIWAN」の文字の追加表記は、少なくとも世界の人びとの台湾に対する理解を助け、また台湾の国民の尊厳と国家イメージを守る上でプラスとなる。

 多くの国民が「TAIWAN」の追加表記を望んだという事実は同時にいくつかの側面を示している。第一に、国民の多くが「台湾は主権国家であり、いかなる国の一部でもない」と考えていること。第二に、「ここ台湾から出国し、ふたたびこの台湾へ戻る」ことに多くの国民が賛同していること。第三に、「台湾を誇りとし、国際社会に二千三百万の国民の一人として認めてもらいたいと願っている」国民が多いこと、である。与野党はこうした民意の主流をきちんと認識しなければならない。

 ここ数カ月、台湾は中国に端を発した新型肺炎(SARS)の感染拡大防止に全力で取り組んでいるが、中国はこの間もわれわれへの圧力の手を緩めなかった。中国は「一つの中国」の虚構を守りたいがため、世界に公然と虚言を放ち、さらに世界保健機関(WHO)に対しても台湾への渡航延期勧告解除に圧力をかけた。台湾のSARS感染が終息に向かっているなかで中国はあえて台湾の足を引っ張り、中国と一体化させようとしているのだ。こうした台湾の国民の福祉を完全に無視したやり方は、台湾の国民の目にすべて明らかにされた。中国に傾倒している一部の国内の人たちは、それでも中国に幻想を抱き続けるのだろうか。

 台湾は台湾国民の台湾であり、中国の台湾ではない。台湾は世界の一部であって、中国の一部ではないのである。この事実を歪曲するために、中国は手段を選ばず、徹底して台湾に圧力をかけるのだ。台湾はすでに世界貿易機関(WTO)に正式加盟したにもかかわらず、中国は台湾の主権を矮小化しようと企てている。台湾が主権国家である事実は、中国のいかなる圧力によっても覆すことはできない。多くの国が中国の覇権外交によって、「一つの中国」に迎合させられているが、それらの国も台湾とは実質的な外交関係を築いている。こうした状況において、台湾の国民は勇気を出して声を発し、国際社会に対し筋を通さなければならないだろう。

 実際のところ、パスポートに「TAIWAN」の文字を追加表記しただけでは不満だとする意見も少なくない。だが、今回の措置は国民の尊厳と国家イメージを守るうえでプラスとなり、評価できるものである。

今こそ「FLY 台湾 FLY」
 『青年日報』(6月14日)

 三月以降、SARSの拡大によって、国内外の観光関連産業はもとより、経済全体も深刻な影響を受けた。SARSの沈静化に伴い、交通部観光局は国内の観光産業の振興に取り組み、旅行業者らと連携して、六月十一日から「FLY台湾 FLY」キャンペーンを開始した。観光の質を向上させ、国内観光業を再興すると同時に、台湾の「観光の島」というイメージを世界に広げ、台湾の再出発を目指す。質の向上と新しいイメージ作りは、観光業界だけでなく、国家全体の発展の新たな方向であり、極めて意義のある、全国民が参加すべき活動である。

 五百年前、オランダ人やスペイン人がはじめて台湾に来た時、台湾は「麗しの島」と称えられた。世界を知らない人には、台湾がどれほどまでに美しいのか、想像もできなかった。台湾の青山緑水、人と文化は、自然が育んだ美である。古代、台湾はアジア大陸のエリートたちの憧れであり、中世にはヨーロッパ人に「麗しの島」と称えられ、近代では世界の人々から「心安らぐ場所」に選ばれてきた。世界を知る人は、「台湾は自然と文化、西洋と東洋、伝統と現在、都市と田舎が共存するこの上なく美しい場所」と言う。

しかし、これほどの美を誇る台湾も、ディスカバリーチャンネルの「ベストテン」に選ばれたことはなく、「ディスカバーアジア」の番組でも注目されたことがない。

 なぜだろうか。それは「玉磨かざれば光なし」と言えるだろう。自問してみよう。われわれの観光政策と観光業界の経営姿勢は、天が与えた宝物を台無しにしていないだろうか。外国ばかり見て、国内を見ず、自らの伝統の宝をむげにしていないだろうか。

実際、郷土に対する認識は努力不足で、旅行代理店も観光業者も軽視していることを、われわれは認めなければならない。書店の旅行コーナーに、東京やハワイのガイドブックに匹敵するほど、国内紹介が並んでいるだろうか。今後、われわれはより多くの意欲を持って、ハードとソフトを建設し、さらに国際的宣伝も強化しなければならない。

人類のもっともセクシーな器官は「脳」だという説がある。すべての美の追求や衝動ホルモンはすべて脳から発せられ、他の器官をコントロールする。観光も同様である。どこかに旅行するとしよう。景観、交通、旅館、食事、サービスどれも当然重要である。だが、その地を離れて、その地が「余韻」として数日間の思い出に残れば、その味わいは尽きることがない。

 観光の質の向上はハード設備の完備だけではない。ソフト、セールスポイント、特色、歴史、伝統文化など、人と自然との関係を際立たせてこそ、旅行者が価値ある旅と感じ、再訪したいと思うのである。

人は、自分の家庭に満足していなければ、「遊びに来て下さい」とは言わない。外国客の招致には、台湾の特色ある風俗や文化を強調すると同時に、政府が業者の正しい経営を指導し管理する必要がある。SARS終息後、東南アジアの各観光地と競争しなければならない時、観光業者は観光客をカモと見るような経営態度をあらため、健全で正当な道を歩まねばならない。

SARSを通し、われわれは生物連鎖における人類の地位がいかに小さく、全人類の運命がいかに緊密か、また自己と他人との関係を認識することがいかに重要かを知った。すぐれた自然と文化を備えた台湾は、「訪れたいと心から願う場所」とは言えないだろうか。すべての同胞が協力し、台湾の美しさをさらに高め、国内旅行の計画を立て、台湾観光を盛り立てようではないか。


台湾観光よ、よみがえれ ㊦
Fly 台湾 Fly—国内ニーズを掘り起こせ

 国内市場の振興を
荘秀石・台北市観光旅館同業組合理事長

 台北市内には観光ホテルが三十五軒あるが、そのうち一軒を除いて、すべて外国の旅行客を中心に受け入れている。このため、新型肺炎(SARS)の影響で外国からの観光客が激減しているなか、利用率はどこも一ケタ台にまで落ち込んでいるのが現状だ。

 今や国際社会が台湾をSARS感染地と見なしているだけでなく、南部の住民も台北を感染地域と見なしている。SARSはわれわれ観光ホテル業界に、一つの反省を与えてくれた。それは、これまで外国の旅行客だけに目を向け、国内のニーズを軽視していたということである。日本の観光ホテルを見てみると、東京や大阪などの大都市では利用者の七〇%以上が日本人となっており、台湾と大きく異なっている。

 景気が回復するまでは国内市場を活性化させることが重要であり、こうした観点から観光ホテルも積極的に役割を果たしていく。これまで一般の人びとにとって観光ホテルは距離があったかもしれないが、格安の宿泊プランを打ち出している現在、かれらのニーズも掘り起こせると考えている。

 現に、私が経営する六福皇宮では四月から格安の宿泊プランを打ち出しており、七〇%以上の利用率を確保している。利用者の八〇%以上が台北の住民だ。これには私たちも驚いている。つまり合理的な価格なら、国内客のニーズも十分に見込めるということだ。

 国民のSARSに対する認識も徐々に深まり、恐怖感も徐々に解消されつつある。とくに、政府が手洗いや消毒、マスクの着用、体温測定などを呼びかけ、国民がこれらを徹底すれば、SARSは恐れることはないと思う。
 

滞在型フリープランが商機に
厳長寿・台湾観光協会理事長

 私は、台湾の旅行形態はすでに従来の旅行社がリードするやり方から顧客の選択や自主性に委ねる方式へ変化していると考えており、現に旅行業者やホテル業界に、そうした現象が表れている。われわれは今後、これを台湾観光の新たな主張とすることができる。

 これまで、国内旅行であろうと外国旅行であろうと、団体旅行者を受け入れる伝統的なホテルは、子供からお年寄りまで幅広い年齢層の旅行客が集まり、ごったがえしていた。だが、最近のホテルはすべての大衆を対象とせず、ある程度区分される傾向にある。たとえば、若者に人気のある宿と家族向きの宿、レジャー施設内にあるホテル、純粋なリゾートホテルでは、それぞれのニーズに合った形態が生まれている。観光業界に従事する者として、こうした流れをつかみ、新たなPRと提案をおこない、商機をつかむ必要があるだろう。

 またもう一つ最近の現象として、団体旅行であってもパッケージ・ツアーからフリー・ツアーに徐々に移行している点が指摘できる。以前は食事も宿泊先も観光スケジュールもすべて旅行社によりあらかじめ決められていたが、現在は飛行機やホテルが同じでも、旅行客の目的はそれぞれ異なっている。若者は夜になると華西街へ出かけ、パブやショーを楽しみ、年輩者にはかれらに合った楽しみ方がある。観光業界が団結し団体客というメリットを生かし、飛行機代やホテルの宿泊料金について協調できれば、より多くの商機を生み出せるに違いない。

 外国の旅行客が台湾でフリー行動をとれる範囲は限られているようだ。もし、それ以外の場所を訪れる場合は、旅行社が随行するにしろ、ガイドとその足となる車が必要となる。だが、問題はそのコストだ。コースは二十あっても三十あっても構わない。旅行社がどこまで協調し、顧客をそれぞれ融通しあえるかによって選択の余地が増減する。結果的にはこうした方式で旅行社も相互にコストを軽減でき、最終的には旅行客へ還元されることになる。

 また、伝統的な観光旅行がレクリエーション旅行へ変化している点も見のがせない。これまでは多くの観光地を見て回る旅行スタイルが一般的だったが、現在は一カ所に滞在しのんびり過ごす休息型のスタイルへと変化している。台湾でもすでにこうした傾向が主流となっており、インドネシアのバリ島がその代表的な例だ。

 このほか、休日に大挙して出かける従来の旅行のあり方を、平日にリゾート感覚で楽しむ旅行へ転換することをお勧めしたい。平日は利用客が少ないため宿泊代も割安となり、人ごみを避け、静かに過ごすことが可能だ。われわれも、これまでは各シーズンごとに短期の旅行プランを打ち出してきたが、今後は長期休暇を利用して一カ所に滞在するプランも提供していくべきだろう。

 さらに、都会を楽しむ旅行プランもあってよい。現在われわれには都会旅行という概念はなく、南部の住民が台北を訪れるとしたら、子連れで木柵の動物園か、淡水に行くぐらいだろう。だが、仮に夫婦で彰化から台北を訪れ、夜間の催しを楽しむとなれば、そのバラエティーの豊かさに驚くだろう。世界一流の各種舞台を楽しめる国家戯劇院から民族芸術が売り物の紅楼劇場まで、毎晩さまざまな催しが行われており、台北に住むわれわれは普段それらを見過ごしているが、実はりっぱな旅行プランになり得る。しかも都会人は週末には地方に出かけるため、週末の都会は人が少ない。そこで地方の住民に都市旅行を奨励すれば、相互に人の移動が可能となる。われわれは今後こうした旅行スタイルも積極的に見直すべきだと考える。

 最後に、若者の旅行について一言申し上げたい。皆さんは若者の旅行ニーズをあまり重視していないようだが、実は国内に数多い民宿は若者の宿泊条件にぴったりなのだ。若者の旅行は、部屋を借りるのではなくベットを借りるスタイルが世界では一般的だ。予算も一部屋借りるには一千元(約三千五百円)必要だが、ベットなら一人三百元(約千円)ですむ。こうした若者の旅行スタイルに目を向け、新しい宿泊プランを提供していくのも今後の課題と言えるだろう。
 

パック旅行で国内市場を活性化
 蘇成田・交通部観光局長

 SARS後の観光復興について説明したい。計画では、五百億元(約一千七百億円)のSARS対策費のうち、三億元(約十億円)を観光復興費にあて、そのうちの二億元(約七億円)は今年中に、残りの一億元(約三億五千万円)は来年上半期に消化する予定だ。われわれの目標は一年以内にSARSの影響を完全に払拭し、観光景気を回復させることだ。

 いかにして国民の旅行への安心感を回復させ、台湾観光を復興させるかについてだが、われわれは国内市場の活性化を図りながら、同時に外国からの観光客を積極的に誘致していかなければならない。

 ここで一つ気になるのが、旅行業者間の国外旅行における価格競争が熾烈化している点だ。今日のこの機会に、私は全国の旅行業者の方々にいくつか提案をさせていただきたい。

 一つは、外国旅行の市場は無限ではないということだ。たとえ今年七百万元(約二千四百万円)の業績があったとしても、来年は八百万元(約二千八百万円)、再来年は九百万元(約三千百万円)とはならないはずであり、外国旅行にばかり目を向けていてはダメだと思う。

 第二に、国内旅行はりっぱに市場になり得るという点だ。台湾には実に多くの資源があり、皆さん方はそれをうまく生かせるはずである。それらをどう組み合わせるかは、外国の旅行客のニーズを見て判断しなければならない。それは大きな市場とはならないかもしれないが、小規模の旅行業者にとっては生き残りの一つの機会となるだろう。台湾には外国から野鳥観察団が何度も訪ずれており、かれらは台湾が世界に誇れる多くの自然観察地を有していながらそれを扱う旅行業者が少ないと指摘している。

 第三に、国内旅行市場にはりっぱな商機があるという点だ。ハイグレードで、しかも手ごろな価格の旅行プランなら、消費者はすぐに反応する。このように国内旅行にも多くの商機はあり、ただそれらは多様化、専門化、個性化される必要がある。現在の国内旅行は、ただ景観のすばらしさをPRするだけではダメで、それに専門性と中身が加わらなければならない。

 また、いかにして消費者の旅行への安心感を回復させるかについてだが、日本には現在、台湾からの観光客を受け入れないホテルがある。これについて私なりの意見を述べさせてもらうと、台湾の観光客が日本の旅行業者に健康上の不安を抱かせている間は、日本の観光客も台湾を訪れないということだ。現在、全国民による体温測定が実施されているがこれが習慣として定着したら、旅行業者は団体旅行の参加者に出国前の十日間、自主的に体温を測定させ、これを記録したものを持参し、日本のホテルに示すのも一つの方法だろう。記録の信憑性を疑われるかもしれないが、われわれがこうしたものを準備し、各団体ごとにこれを実践していけば、そのうち受け入れられると私は信じている。

 国内旅行に関しては外国旅行のように事前の計画がない場合も多いため、出発前十日間の体温測定を要求するのは少々無理がある。だが、地方の観光地ではSARSに対する不安が強く、旅行者は道中も体温計を持参する配慮が必要だ。台湾への渡航延期勧告が解除されても、国民の体温測定はしばらく続けるべきだ。

 最後に、観光産業は台湾の経済と密接に関わっており、もし観光産業が復興しなければ、他の産業の回復も期待できない。国民は十分に消費能力がある。この時期に国内旅行を楽しみ、二カ月来の鬱憤を晴らそうではないか。

《台北『中国時報』6月9日》

観光関連ニュース

北部台湾観光が半日無料に  七月から実施 

 SARSの影響で大きく業績が落ち込んでいる観光業界への対応策として、交通部観光局は世界保健機関(WHO)により台湾がSARS感染地域から除外された時点で、ただちに各国に対し台湾観光の宣伝と販促キャンペーンを開始する。その一環として、七月から桃園国際空港を利用する旅行者に対し、北部台湾観光を半日無料で招待するほか、台湾へノービザで入国した旅行者には、四十九ユーロ(約六千三百円)で一泊二日の台湾旅行を楽しめるサービスを提供する。

 台湾はSARS感染地域から除外された時点で、ただちにインターネットを通じて世界に台湾観光をPRし、「台湾の安全宣言」をおこなう予定だ。

 また、日本やマレーシア、タイ、香港、それに欧米各国の主な旅行業者とメディア約三千人を対象に台湾の視察旅行に招待し、台湾の安全性を確認してもらうと同時に、台湾の新たな魅力を発見してもらうきっかけにしたい考えだ。

 なお、これに続く第二弾として、一般の消費者約一千人を台湾旅行に招待することも予定している。観光局では国内の航空会社や旅行業者と協力し、格安の旅行プランを打ち出すなどして観光客の誘致に努める。

《台北『中央社』6月17日》
 

各国に台湾観光をPR  
蘇成田・交通部観光局長

 世界保健機関(WHO)が六月十七日、台湾への渡航延期勧告を取り消すと発表し、これを受けて蘇成田・交通部観光局長はただちに各国政府に対し、台湾の安全性と観光をPRする書簡を送った。

 このなかで蘇観光局長は、「台湾はこの三カ月間、新型肺炎(SARS)の拡大防止への取り組みのなかで、経験不足から感染が一時、急速に拡大したこともあったが、健全な医療体系と優秀な医学技術によって克服し、現在感染の拡大は有効にコントロールされている。台湾は全国民による体温測定を実施中で、国内旅行も徐々に動きだしており、外国の旅行客も安心して台湾を観光できる」と述べ、台湾への渡航を見合わせていた国々に対し「WHOの発表に合わせて規制を緩和し、双方の観光交流がすみやかに正常化させることを期待する」としている。

 台湾観光の最大の顧客である日本は、WHOの発表を受けて同日、台湾への渡航規制を解除し、国内の旅行業者による台湾への団体旅行の受付も六月二十日から再開されることになった。

《台北『民生報』6月19日》

天然痘ウイルスに備える台湾
冷凍保存ワクチンの効果実証される

 SARSがアジア地域で依然猛威をふるうなか、専門家の間では、このウイルスが人為的に作られた生物兵器の一種ではないかとの憶測も流れている。ことの真偽はさだかではないが、敗戦国が生物兵器によって報復テロを起こす可能性は否定できず、なかでも、SARSよりも感染力の強い天然痘ウイルスに対する警戒をよびかける声が、世界的に高まっている。

 天然痘ウイルスは、安定性が高く、ごく少量で空気感染し、ほかの伝染病ウイルスよりも生命力が強く、乾燥しても死ぬことなく、遠くまで拡散する。また、培養、保存が簡単で、感染力が非常に強く、発症率や死亡率も高いことから、「最高の」生物兵器とまで言われている。

 天然痘はかつて、世界中で毎年三、四百万人の命を奪う恐ろしい伝染病であったが、一九七九年、世界保健機構(WHO)は、天然痘が地球上から根絶されたと宣言し、各国の研究施設に対し、天然痘ウイルスを廃棄するよう求め、これ以降、ワクチンが作られることもなくなった。

 台湾大学感染科医師の謝思民氏によると、WHOは根絶宣言当時、世界約二百カ所の研究施設に対し、天然痘ウイルスを廃棄するよう求めたが、当時の米ソ冷戦構造のなか、万一の事態に備えて、米ソ両国の研究施設ではウイルスが保管された。現在、公式には米国とロシアにしか天然痘ウイルスは存在しないとされているが、ひそかに中東に流出し、生物兵器製造に使われたとの噂もささやかれていた。

●ワクチン不足にすばやく対応

 台湾では一九七九年以降、天然痘の予防接種はおこなわれていない。つまり、現在二十三歳以下の住民は、体内に天然痘に対する抗体を全く持たないことになる。また、二、三十年前にワクチン接種を受けた人にしても、その効果がすでに失われている可能性が高い。

 二〇〇一年の米同時多発テロ事件のあと、WHOは、天然痘が生物テロに利用される危険性があると警告し、各国政府にふたたびワクチンを準備するよう呼びかけた。現在、世界中で天然痘ワクチンの深刻な不足が問題となっているなか、台湾を含めた多くの国で、積極的に臨床試験が進められている。

 台湾では、七十万個の天然痘ワクチンが二十年以上にわたり冷凍保存されてきたが、本当に天然痘が発生した場合、十分に対応できる量ではない。

 そこで、行政院衛生署は、台湾大学病院に委託し、冷凍ワクチンの臨床試験を実施した。台湾大学は、三百三十例の臨床試験をおこなう計画だが、このたび第一段階として、六十名の試験結果が発表された。それによると、冷凍保存されたワクチンは、十分に有効であるだけでなく、五倍から三十倍に稀釈しても効果が変わらないことがわかった。さらに、新開発の接種針により、ワクチン接種量を従来の四分の一にできるため、現存する七十万個のワクチンで、約五千万回分のワクチン接種が可能となった。

 同計画の責任者である謝氏は、「冷凍保存されていたワクチンが、有効かつ安全であることが証明されたことから、台湾は万一の場合でも、十億元(約三十五億円)の経費を使って、米国からワクチンを購入する必要がなくなった」と強調した。

●臨床試験に協力呼びかけ 

 今回の天然痘ワクチンの臨床試験は、今年二月から八月まで、三百三十名を目標に実施される計画である。しかし、住民はSARS感染を恐れて病院に足を運ぼうとはせず、現在のところ、協力者は七、八十名にとどまっている。しかも、そのうちの半数は衛生署疾病管制局の関係者だという。

 こうした事態を受けて、行政院疾病管理局では、局員が率先して試験に協力するだけでなく、家族や友人に協力を求めるなど、対応に懸命だ。同局は、臨床試験に協力すれば、無料で健康診断が受けられるだけでなく、三千五百元(約一万千円)の「交通費」が受け取れるとして、住民に協力を呼びかけている。

《台北『民生報』6月5日》

最新台湾シネマ情報

  『運転手の恋』

 「恋愛に興味のないタクシー運転手が婦人警官に一目ぼれしたら?」

 二〇〇〇年の第三十七回金馬奨映画祭で審査員大賞と最優秀助演男優賞を獲得した『運転手の恋』が、ついに日本でロードショー公開される。二〇〇一年の「アジアフォーカス・福岡映画祭」で上映され、観客人気ランキング上位に輝いた傑作ラブ・コメディーだ。昨二〇〇二年、「たそがれ清兵衛」で日本アカデミー賞主演女優賞など主要映画賞を総なめにし、女優としての評価を高めた宮沢りえをマドンナ役に迎えたことでも話題を呼んだ。宮沢りえにとっては、これが海外スクリーンデビュー作となる

 監督は、台湾の巨匠・侯孝賢監督のプロデューサーを長年務め、海外でも高い評価を受ける張華坤と、楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の助監督を経て、長編デビュー作の『ジャム』(98)が日本でもロングランヒットを記録した陳以文の二人。陳監督は、水野美紀主演の日台合作アクション映画『現実の続き夢の終わり』(99)でも知られている。本作での宮沢りえの起用は、「女性に興味のなかった運転手が一目ぼれするくらい美しい人に演じてほしかった」という、陳監督のラブコールで実現したという。

 共演は、タクシー運転手の主人公に、台湾のテレビドラマで人気の屈中恒、主人公の父親役にベテランの太保。太保は、頼りない父親をコミカルに演じて、金馬奨最優秀助演男優賞を受賞した。音楽は、フォークソングから政治色の強い作品まで幅広く手がけ、「台湾のボブ・ディラン」と称されている羅大佑が担当し、力強くもリズミカルな音が、作品の持つテンポの良さをさらに際立たせている。

 台湾映画の新旧の才能が結集して生まれた『運転手の恋』。日本の観客にとっては、宮沢りえのコミカルな演技も見所となるだろう。

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 台北でタクシー運転手をしているアチュアン(屈中恒)は、金の無い乗客に金を貸してしまうほどお人よしで、無類の車好き。新車をアディと名付け可愛がっているが、恋愛にはまるで関心がない。タクシー会社を経営している父親(太保)は、三十年間一日も運転を欠かしたことがなく、車の運転が何よりの生きがい。解剖医でホルマリン漬けが趣味の母や爆発を繰り返す実験マニアの妹、一風変わった運転手仲間に囲まれ、アチュアンの日常は、あわただしくもユーモラスに過ぎていく。妹がめでたく結婚したその日、アチュアンは、「僕は結婚はしない」と両親に宣言するが、それを聞いた父親は親不孝者と怒り、母親は仕事も手につかなくなってしまう。

 そんなある日、アチュアンは、取締りをしていた美しい婚人警官ジンウェン(宮沢りえ)にスピード違反で違反切符を切られる。それが運命の出会いだった。ジンウェンに一目ぼれしてしまったアチュアンは、彼女の気を引こうと、あの手この手で交通違反を繰り返す。アチュアンが恋をしていることに大喜びの両親は、ジンウェンの勤務表を手に入れたり、恋のアドバイスをしたり、息子の恋愛をあれこれ手助けする。ジンウェンの前で何度も交通違反を繰り返すアチュアンにとうとう根負けした彼女は、そっと違反切符とともに自分の電話番号を手渡す。さて、この一途な恋の行方は…? [00年94分]

★新宿ジョイシネマ3(新宿コマ劇場前シネシティ 03-3209-6180)にて、6月28日(土)よりレイトロードショー

アークエが「アジアのヒーロー」に
台湾のネットアニメが米タイム誌から表彰

 台湾で絶大な人気を誇るネット・アニメのキャラクター「阿貴(アークエ)」の作者が、米タイム誌アジア版の「アジアン・ヒーロー2003」の一人に選ばれた。

 六月十一日東京で行われた授賞式には、アークエの生みの親であるクリエイターの張栄貴氏が出席した。張氏は今回の受賞について、「インターネットは国境を超越し、アークエは今や、北米大陸や日本、中国大陸などで多くのファンを獲得している。アークエは、台湾の心を代表するキャラクターであり、彼を通して、世界中の人々に、台湾の人々の気持ちや生活を知ってもらいたい」と、喜びを語った。

 アークエは、勉強よりも木登りが好きな、典型的な台湾の十歳の男の子だ。彼がネット上に登場したのは、一九九九年九月二十一日。奇しくもあの台湾史上最大の大地震が起きた日だった。ほのぼのムードのなかに風刺を利かせたアークエは、台湾の人々に受け入れられ、またたく間にお茶の間の人気者になった。以来、ネットの世界を飛び出し、コミックやVCD、音楽アルバム、CM、はては映画にも進出し、メディアの境界を越えた大活躍をしている。日本では、インターネットだけでなく、テレビでも放映され、人気を呼んだ。

 いつまでも子供のままで、冒険心を失わないアークエには、張氏の子供時代の思い出が反映されているという。アジアだけでなく世界に通用するキャラクターとして、今後の活躍から目が離せない。

 タイム誌が今回選出した「アジアのヒーロー」は、大リーガーの松井秀喜選手ら計二十九組で、台湾からは、陳水扁総統夫人の呉淑珍さんも選ばれた。

 《台北『中国時報』6月12日》

文化ニュース

台北霞海城隍廟で芸術祭

 台北の大稲埕にある霞海城隍廟で六月七日、「二〇〇三台北霞海城隍廟芸術祭」が開幕し、あいにくの空模様にもかかわらず、多くの市民がつめかけた。

 城隍廟は、都市の守り神である「城隍爺」を祀った道教の廟で、災害や疫病から人々を守るとされている。霞海城隍廟の起源は、清朝の道光年間(1821‐1850)に、大陸の泉州から神像が運ばれたことにさかのぼる。廟はもともと艋舺(現在の万華)にあったが、のちに大稲埕に移された。四十坪あまりと決して広くはないが、地元の人々の厚い信仰を集め、「城隍爺」の誕生日とされる5月十三日には、多くの参拝客で境内が埋まる。

 開幕式には、馬英九・台北市長もかけつけ、「この二カ月来、SARSのために、市民の生活や経済活動は大きな影響を受けた。現在、状況は収束に向かっており、一日も早く市民生活が元に戻るとともに、今回のような民俗文化活動が予定通りおこなわれるよう願いたい」と語った。

 今回の芸術祭の一番の目玉は、顔に色とりどりの隈取をした「家将」たちが通りを練り歩く「什家将」で、つめかけた人々は、百年前から伝わるという道教の神秘的な踊りに、しきりに拍手を送っていた。

《台北『聯合報』6月8日》 

 台北の保安宮の修復が完了 

 台北市の旧市街地・大同区にある「保安宮」で、このほど修復工事が完了し、六月十三日から三日間の日程で、伝統的な祝賀式典「慶成醮」が挙行された。保安宮は、清代の一七四二年に創建された二百五十年以上の歴史を誇る道教の廟で、医学の神様「保生大帝」が祀られている。一九一〇年代にも三年間にわたる大修復がおこなわれたことがあるが、今回の修復はそれを上回るもので、一九九五年に着工し、創建以来最大規模の修復工事となった。

 《台北『民生報』6月13日》


新刊紹介

『西郷菊次郎と台湾』

佐野幸夫 著

 日本人で西郷隆盛を知らない人はいないが、その子孫となるとほとんど知られていない。菊次郎は文久元年(一八六一)、奄美大島で愛加那との間に生まれ、西南戦争では父隆盛について従軍し、右足切断の重傷を負った。その後も有為転変の末、西郷従道の勧めで外務省の御用掛となり、日清戦争後は台湾総督府参事官心得として台湾に赴任し、澎湖列島行政官を皮切りに、明治三十年から同三十五年まで宜蘭庁長を務めた。その行政哲学は父隆盛の遺訓である「敬天愛人」であり、河川工事、道路整備、農地拡大、樟脳産業振興に取り組んだ。今も菊次郎の離台後に住民によって建立された「西郷庁憲徳政碑」が現地に残る。本書は維新から菊次郎の死までを描いた伝記であり、副題には「父西郷隆盛の『敬天愛人』を活かした生涯」とあり、明治の気概を彷彿させる書である。

〈南日本新聞刊 


春 夏 秋 冬 

 去る6月11日、東京・六本木で米タイム誌が選んだ「アジアのヒーロー」の授賞式があった。同誌の「Asian Heroes」特集号を記念したもので、総勢29名(本誌15頁参照)。日本からは米大リーグで活躍中の松井秀喜選手や、映画「ラストエンペラー」でアカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞し、環境保護の活動に取り組んでいる坂本龍一氏、盲聾者として初めての大学入学を果たし、現在東京大学先端科学技術研究センターで助教授を務めている福島智氏などが入り、モンゴルからは横綱の朝青龍関が選ばれている。

 台湾からは陳水扁総統夫人である呉淑珍氏、それに台湾でいま最も人気を博しているアニメのキャラクター「阿貴」(アークエ)の作者である張栄貴氏が選ばれた。

 タイム誌のグリーンフェルド・アジア版編集長は「タイムが選んだ本年度のヒーローたちに賞を授与できることは、われわれにとっても栄誉なこと。ヒーローたちはそれぞれのやり方で、われわれに希望を与えてくれる。世界情勢は困難な様相を呈しているが、かれらの勇気と偉業はわれわれ全員にインスピレーションを与えてくれる」と述べる。

 福島氏や車椅子の呉淑珍夫人の、社会に与えた勇気には計り知れないものがあり、これからも与え続けていくことになろう。さらにまた、張栄貴氏の生んだ「阿貴」は、思いやりがあって冒険好きな少年に設定され、人々に懐かしさと温かさを感じさせると言われている。作者の張氏はこれを「台湾の風土より生まれたもの」と位置付けている。

 いま台湾では知的財産権の保護が強化されるとともに、行政院に文化建設委員会の他に文化創造産業推進小組が設置されるなど、クリエイティブ(創造)産業の発展に力が入れられている。その台湾で「阿貴」の受賞は朗報であり、日本のアニメが世界に進出しているごとく、やがて台湾のアニメが日本をはじめアジアから世界に進出する日が来るかもしれない。すでに「阿貴」は日本のテレビにも登場して好評を得、香港では大きな人気を博し、その兆候を見せている。   
    (K)