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  台湾週報2147号(2004.6.17) - 台北駐日経済文化代表処 Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan :::
主要ニュース
:::


台湾週報2147号(2004.6.17)

游行政院長が施政方針示す㊤
行政改革を進め三大建設を鋭意推進

游錫堃・行政院長は6月1日、立法院において、2期目のスタートを切った陳水扁政権のもとに、行政改革を引き続き強力に進めるとともに、新たな経済、社会、文化の三大建設を継続推進する意思を明確に示した。また憲法については「台湾の背丈に合った憲法」の策定に意欲を示した。今回の施政方針演説は内政、外交から環境、労働まで20項目にわたり、それぞれについて台湾の未来像が示された。以下はその全文の㊤である。

 陳総統が国民多数の支持を受けて中華民国総統に再選されたあと、内閣も信任され、行政院長続投を拝命し、新たな内閣によって国家のため尽くすこととなった。私はこの二年余において、陳総統が指示した「経済第一、大改革」の使命に邁進し、景気の回復、行政効率の向上について、国民の期待に応えられた喜びを感じるとともに、国民は内閣が新たな思潮と改革の決意によって、グローバル化による国際競争の激化とわが国の歴史的および社会的な問題に対処することを期待しており、そこに大きな責任を感じている。

 二〇〇三年ワールド・エコノミック・フォーラム(WEF)が発表した「今後五年~八年の経済成長率」の競争力評価によれば、わが国は連続アジア第一で世界第五位、スイスローザンヌ経営開発国際研究所(IMD)が本年発表した国際競争力評価によれば、台湾の総合競争力は二〇〇三年の十七位から〇四年は十二位に上昇し、アジアでは三位となったが、これらは喜びとともに自信を持ってよいものである。また、スイス・ビジネス環境リスク・インテリジェンス(BERI)の評価では、台湾の投資環境は世界第四位であり、リスクが低く投資に適した国と報告されている。近年、国民の努力により国際的評価の高まったことが、ここに示されている。

 皆様承知のごとく、「経済発展」と「民主化の達成」は台湾が国際社会に生存するための二大生命線である。中国経済の強大な吸引力、文化的な誘いかけ、さらに軍事的な恫喝に直面するなかに、われわれは経済発展と民主主義の深化を進めることを前提に、「台湾優先、国際化、互恵と相互利益、リスク管理」の基本原則を堅持し、安定し秩序ある両岸交流と相互協力を進め、新たな段階の両岸相互連動の推進を加速し、平和で安定した相互連動メカニズムを確立しようとしている。また、市民社会における権利と義務意識の向上は、国民の参政権を深めるばかりでなく、非政府組織へのわが国の参加を促進し、わが国の国際活動の場を拡大し、国際社会におけるわが国の尊厳を高めるものになると認識する。

 政府は今後とも、陳総統の提示している「台湾の団結、安定した両岸関係、安定した社会、経済の繁栄」の四大方向を施政の総合的目標となし、六カ年国家発展計画と新十大建設を政策の主軸とし、積極的に「経済、社会、文化の「三大建設」を進め、そこへ行政の「一大改革」を推進し、市民生活がさらに快適になるよう努力する。

 まず、経済建設の面では、国際経済の景気回復のなかに国家発展の契機をつかみ、すでにある基礎の上に成長への力を強化し、積極的に「挑戦二〇〇八年:国家発展重点計画」を推進し、企業が台湾にオペレーションセンターや開発研究センターを開設することを奨励し、さらに投資における台湾優先の具体的措置を確実に実施し、企業の投資障壁排除に協力し、投資への信頼を高める。将来、社会のコンセンサスをさらに凝集し、新十大建設への投資意欲を高め、民間による投資を呼び込んで景気の全面的回復を刺激し、就業の拡大を促す一方、地域のバランスのとれた発展を促し、市民生活のレベルを高め、国家の永続的発展の実力を深化させる。政府は全力をあげて国家経済の転換を加速し、投資と経営に優れた環境を創り出し、台湾の企業が国際競争に打ち勝つ条件を整えるのを支援し、台湾の新たな経済奇跡を生み出すようにする。同時に、政府は知識と刷新の来源は科学技術の研究開発にあることを認識し、その分野への投資を引き続き強化し、一流の人材を育成し、研究開発能力を高め、知識産業への投資を強め、国際競争力を高め、生活の便利さを高め、生態保護を永続的に進め、もって国民の生活レベルと国家の総合競争力を高める。

 次に、社会建設の面では、政府はすでに社会福祉政策を立てており、先住民の権利保護を持続させ、客家文化の保護と発揚を進め、高齢者擁護を強化し、女性福祉のサービスを充実させ、労働者の就業保障と安全、福祉措置を強化し、わが国の人権のレベルを向上させる。政府は少数のエスニックの擁護に各種努力をし、台湾社会を構成するあらゆる人々が政府の福祉政策を享受し、法による平等の新社会を創造する。

 第三に、文化建設の面では、社会と科学技術、経済の結合を進め、文化創意産業の発展を促し、地方と民間が地域の総合的運営を進めるのを支援し、文化建設のネットワークを拡充して地方文化産業の振興を進め、地方での就業の機会増大を促進する。また優秀な芸術チームを育成し、伝統芸術の再興を促す。文化の相違を尊重し、多元的教育の環境を創り出す。国際文化組織に積極的に参加し、文化外交を展開し、国際文化交流を促進し、わが国の文化芸術の地位を高める。このほか、「エスニックと文化発展会議」を開催し、社会の各界が共同で、どうすればエスニックを超越したコンセンサスが得られるかを討議し、各エスニックがそれぞれの異なる文化の相違を尊重し、多元的文化の発展を促す。

 最後に行政改革の面では、徹底して暴力組織と収賄行為を排除し、社会治安の法整備を整え、国民に透明化された明るい社会環境を提供するほか、全力をあげて憲政改革を推進し、台湾の背丈にあった憲法を整え、国家の長期的安定の基礎を築く。同時に、国際競争力を備えた活力ある政府を確立する。われわれは行政改革の理想を堅持し、組織改造四法の成立を進め、分権と管理緩和の潮流に沿い、責任の明確化、地方分権化、外部機関への行政委託などを検討し、具体的計画を立て、効率的で責任ある臨機応変な政府を確立する。

 前述の施政報告を基礎に、私は内閣の長として改革、効率的、有効管理ならびに公平な精神と原則を堅持し、台湾のすべての人が望む経済の繁栄、社会の進歩、優れた文化と平和の確立のため尽力する。この理念に基づき、内政、外交、国防、財政金融、教育、科学技術の発展、文化建設、法務、経済建設、農業建設、交通建設、公共業務、先住民問題、客家問題、モンゴル・チベットと華僑、両岸関係、衛生医療、環境保護、労働問題、一般行政などについて、現段階における施政方針を以下に説明する。

一、内 政 

①権力の分散を進め、地域間の合作を進め、地方自治を拡大し、中央と地方の良好な関係を確立する。政治献金の管理を強化し、請願活動の透明化を進め、不当利益の取得を防止し、公明な政治環境を確立する。

②健全な選挙と公民投票の法制化によって民主憲政のルールを確立する。第六期高雄市議会議員補欠選挙と第六期立法委員選挙について、十分な準備を行う。

③宗教関連の法整備を進め、宗教の人の心を浄化する効果を発揮させる。優良な葬儀サービスを提唱し、現代の需要に合った葬儀意識と環境を整える。古跡の維持管理を確実にし、古跡の保存と地方の発展の相互連動関係を確立する。

④国民身分証を全面的に改め、戸籍行政を改善する。出入国管理を強化し、外国籍と中国籍の配偶者への福祉政策を継続し、妥当な移民政策を策定する。

⑤高齢者、心身障害者、女性への福祉サービスを強化する。国民年金制度を推進し、老後の経済的安定を保障する。男女平等と女性の社会参加を促進する。ボランティアによる地域運営を促進する。

⑥児童福祉を充実する。知的障害児の早期治療を推進する。青少年関連業務を促進する。

⑦国土計画を健全にし、適切な土地計画を進める。離島開発計画を強化する。行政区域の調整機能を完備する。公有地管理を強化し、土地の合理的利用を促進する。沿岸管理を強化し、領土の主権を維持する。

⑧農村部の環境の近代化を継続し、都市部の再開発を続け、新たな地域開発の効果を高め、若年層のマイホーム購入への低金利貸付を実施し、総合住宅政策を企画する。下水道建設工事を加速する。環境にやさしい建築および科学技術研究開発の促進を加速する。

⑨警察のレベルとイメージを高める。警備用防護装備ならびに警察官の教育と訓練を充実させる。刑事事件の鑑識能力を向上させ、事件の解明および防止能力を高める。テロ防止のメカニズムを厳格にし、国内の安全を保障する。防災体制を厳密にし、航空支援体制を強化し、立体的な救援体制を増強する。

⑩密輸、密航の捜査を厳密にし、沿岸の治安維持を厳にする。海難救助能力および海洋の環境保護活動を高める。海洋管理メカニズムを健全化し、海洋資源の保護と永続利用を促進し、海洋国家としての未来像を確保する。

⑪緻密な消費者保護ネットワークを構築し、安全で公平な消費社会環境を創造する。消費者への啓蒙宣伝活動を強化し、正確な消費者保護理念を確立する。

 二、外 交

①友好国への援助と相互協力関係を継続して発展させ、相互協力のレベルを向上させ、友好国の経済、社会の発展を支援する。政府高官の相互訪問を積極的に推進し、友好関係を強化する。

②無国交国との国家的な実質関係を積極的に高め、各種交流と協力関係を推進し、米国、日本、EU、ASEAN、独立国家共同体との実質関係開拓を優先させる。

③世界貿易機関(WTO)のメカニズムと機会を活用し、加盟各国との交流と相互協力関係を増進する。APECなど、わが国が加盟している政府間国際組織に積極的に関与していく。友好国からの支援とわが国の力量を結合させ、国連、世界保健機関(WHO)など国際組織への加盟を促進し、国際社会でのわが国の活動の場を開拓し、わが国の国際的地位を高める。

④国内の非政府組織(NGO)が国際活動に参加し、国際問題を処理する能力を高めるのを支援する。台湾をアジアの国際NGOの拠点にする活動を継続する。

⑤国際テロ防止活動に協力し、国際安全協力を強化する。国会外交、民主外交、人道支援などの多元外交を促進し、国際協力を積極的に進め、国際友好関係を拡充する。

⑥国内外の学会、シンクタンク、その他のNGOの力を活用し、民間の外交活動参加を促し、国民外交を拡充する。

⑦海外業務のレベルアップを進め、わが国国民の外国ビザ申請に対する待遇改善を勝ち取る。駐外機関の指揮系統の統一と各セクションの協力関係強化を貫徹し、協調および総合運営の効果を発揮する。

 三、国 防

①「国防二法」の立法精神を遵守し、「国防の法制化」を貫徹する。「十年建軍計画」を確実に推進し、現代化、効率化、専門化された国防力を確立する。

②全民国防理念を継続して強化し、全民防衛動員システムを後備支援の主軸とした「国土安全ネット」を確立し、国民全体の総合力を運用し、後備動員体制を強化し、国防支援を効果的なものとする。

③三軍の戦力および武器系統を整合し、統合作戦の効率を高め、さらにテロ、無差別攻撃など新たな脅威に対するリスクならびに危機管理の効力を向上させる。

④「国防と民生の合一」政策を貫徹し、作戦能力および軍事施設の効力とその防御に影響を及ぼさないという原則の下に、管制区域の削減を継続して検討する。

⑤兵役改革を加速し、現行の兵役制度を検討し、志願兵制度の導入を引き続き研究する。

⑥後方支援を拡充し、軍と民間の科学技術協力および軍需工場経営の民間委託を積極的に進める。

⑦軍関係者の住宅改善を進める。

⑧退役軍人の就学、就業、医療などのケアを拡充する。

四、財政金融

①財政改革を推進し、財政収支のバランスを図る。地方財政の改善を支援し、中央と地方の財政関係制度化を確立する。

②国庫制度と管理を健全化し、政府の財務管理効率を高める。酒たばこ市場の合理化を強化し、酒たばこ企業の民営化を進める。

③税務構造の合理的調整を進めて税基盤を拡充し、税収の安定、課税の公平と効率的な税制を確立する。脱税行為を鋭意阻止し、税の公平を維持する。

④関税制度を適宜調整し、税率の合理化を進め、通関効率を高め、わが国の経済貿易と産業の発展を深化させる。自由貿易港区の設置を進め、通関手続きの簡素化を図り、効率的な物流の環境を整える。

⑤国家資産の一元的管理を強化するとともに、国土の多元的活用を進め、各種国家資産の運用効率を高める。

⑥金融監督の一元化を貫徹して金融市場の規律を維持し、わが国金融業の競争力を高める。金融機関の不良債権整理を継続して督促し、不良債権比率を低める。経営不良の金融機関の整理を継続して行い、効率的に金融犯罪を防止する。

⑦国内外の経済金融状況を見極め、適切な通貨政策を推進する。台湾元のレート安定を維持し、外為市場の健全な発展を図る。物価と金融の安定を維持し、経済発展に有益な金融環境を創造する。

⑧証券と先物市場の規模拡大を継続して進め、投資家に多元的な理財およびリスク回避の道を提供する。株式発行および取引制度の健全化を図り、市場管理のシステムを強化して取引の安全と公平を維持し、投資家の権益を保障する。

⑨金融情報の公開と透明化を強化し、自主管理制度確立を推進する。金融商品の刷新と専門的人材の育成を奨励し、金融サービス業の発展に好ましい環境を整備する。

⑩両岸の金融往来を計画的に推進する。国際金融組織およびその活動に積極参加し、国際金融協力と交流を強化する。

五、教 育

①国際的一流大学と専門研究所の発展を期し、大学の自主性と競争力を向上させる。教育と研究の特色を打ち出し、国際化教育と研究の環境を強化する。科学技術、設計、人文、芸術など特色ある分野を重点的に発展させ、産学専門的交流のベースを確立する。大学の評価機関を設置し、高等教育のレベルアップを図る。

②技術教育政策と体制に検討を加え、学生・生徒が技術ライセンスを取得するのを奨励する。各学校が特色を打ち出し教育のレベルアップを図るよう指導し、技術教育の多元化と専門化を促進する。

③高校、専門学校、高専の多元的入学制度を改善する。上記学校の地域密着を促進し、地方教育のベースとなす。義務教育の期間延長を検討し、生徒の進学圧力を低減するとともに国民の素養を高める。普通科高校の質と量を検討し、高校と高専の生徒数比率を適宜に調整する。

④小中学校の教員育成を強化し、教員養成機関の調整を進め、教員のレベルアップを図る。

⑤小中学校のクラス人数削減と老朽校舎の改築を進め、校区の環境改善を継続推進する。文教区計画を推進し、地域教育の発展を支援し、外国籍と中国籍配偶者の子女教育の指導を強化し、教育の機会均等の理想を実現する。幼稚園、託児所の発展を期す。

⑥生涯教育の体系を整える。地域学習体系を確立し、地域住民に多元的学習の機会を提供する。民間活力を導入し、生涯教育活動を拡大する。方言の研究とその活動を強化し、多元的文化伝承を増進する。

⑦国際学術交流を拡大し、留学生の来台を促し、国際文教交流と教育の国際化を促進する。

⑧文化の相違を尊重し、多元的文化教育の環境を整える。エスニック文化の教育を強化する。教育機関の競争力を増進する。僻地通信教育のインフラ強化を図り、地域間格差を縮小する。

⑨青年の就業および起業を支援する。青少年の社会活動参加を奨励し、ボランティア精神と指導力を育成し、青年の地域活動のレベルアップを進め、国際的視野を育成する。

⑩国民スポーツ活動を拡大しスポーツレベル向上を図る。スポーツ人材の育成を行う。国際スポーツ活動への参加と主催を強化し、国際および両岸のスポーツ交流を拡大する。
(以下、次号)

【行政院 6月1日】

台湾の「経済第一」にチャンス到来
四大シンクタンクが語る当面の情勢と課題

 五月二十日の総統就任式が終わり、新内閣もスタートを切った。游錫堃・行政院長は「経済第一」を政策の第一に掲げているが、台湾経済の回復力はどうか、どのような問題に直面しているか、改革すべきはどういった点かについて、台湾四大経済シンクタンクのトップが述べる内容を、以下のようにまとめた。

●今年の経済に悲観の理由なし 

 まず国策顧問でもある陳添枝・中華経済研究院院長は「二〇〇四年の台湾経済の発展に、悲観すべき理由はない」と語った。一方で、中国経済の大幅調整、米国の金利引き上げ、国際石油価格の上昇、国内政治情勢の不安定などが指摘されているが、これらについては「台湾の今年の景気回復に阻害要因とはならない。あったとしても短期的で、かつ心理的なものにすぎない。台湾経済にとって、昨年より今年のほうが好材料が多い。政府がこれをどう活用するかが、今後の課題だ」と述べた。

 元行政院経済建設委員会主任委員である陳博志・台湾シンクタンク理事長も「米国の金利引き上げも中国の大幅調整も背景は同じで、これまで景気がよすぎたためで、熱を下げるためのものだ。言い換えれば、経済は衰退に向かうのではなく、これらは必要な調整であり、これを見誤ってはならない」と語る。 

 最近一時的に外資が台湾を撤退し、株価が下がる現象があったが、台湾経済研究院の龔明鑫・所長は「外資は当然、利のあるところに赴く。台湾の第二期・三期の経済統計が明らかになれば、台湾の株式市場は十分な投資価値のあることが明確になるだろう」との楽観論を見せる。

 ●国民の自信が必要

 台湾総合研究院の戴肇洋・副所長は「すでに出ている経済統計数字はいずれも、台湾の景気が明確に回復していることを示している。だが、潜在的に憂慮すべき点もある。中央大学(台中)台湾経済研究センターが今年五月に調査した消費者意識では、消費者の警戒感がまだ強いことを示している。消費者のこうした意識は、かなりの度合いで消費の落ち込みを呼び、景気の回復に影響を及ぼすものだ。今後いかに市民意識を改善するかが今後の政府の責任だ」と指摘した。

 陳添枝氏は政府の責任として「第一は国際貿易であり、各国との自由貿易協定(FTA)交渉をさらに活発に行うことである。第二は国内の税制問題であり、税制度に全面的検討を加え、政府の税収不足問題を解決しなければならない」と語る。さらに陳氏は「FTAの調印は、国と国との経済関係の拡大を保障するものであり、台湾も世界経済市場の一部分として、これを重視しなければならない。だが残念ながら、政府のFTA交渉の努力はまだ足りない。経済部門だけでなく、外交部門もここに努力を集中しなければならない」との注文をつけている。また税制については、陳氏は「台湾の国内税率は諸外国に比べて低く、これが国庫収入を低くしている」と増税やむなしの意見を提示し、「経済部は産業への優遇税制などで景気刺激を望んでいるが、財政部は優遇税制を少なくし、税収低下を防ごうとしている。これには総量評価が必要であり、政府はバランスを保ちながら一つひとつを解決していく必要がある」と指摘する。

 ●金融改革と公共建設強化 

 龔氏は景気回復について「現在の景気回復傾向は、かなりの部分が政府の金融改革に支えられている。この面で政府は一定の成果を上げているが、不良債権がなかなか減らない銀行もあり、一層の努力が必要だ」と指摘した。さらに「新十大建設計画を積極的に推進し、公共投資とインフラ建設を強化すべきだ」と提議し、「現在大きなチャンスが来ている。中国経済は不安定に陥ろうとしており、この機に台湾は全力をあげて外資への吸引力を発揮すべきだ」と強調し「台湾はこれまで中国の吸引力に翻弄されてきたが、中国経済の軟着陸が成功するかどうかは現在未知数だ。外資はいまこの点を注視しており、新内閣はこの機に全力発進すべきだ」と指摘した。
《台北『自由時報』5月31日》

中国の台湾企業への政治的圧迫は遺憾
台湾にとっては逆にリスク分散のチャンス

 ●今後はリスク分散推進 

 中国当局は「文攻武嚇」の一環か、中国共産党機関紙の「人民日報」を通じて、台湾企業への「文攻」を開始したようだ。中国は陳水扁総統が就任演説で「新憲法」に言及したことを「台独への動き」などと非難したが、さらに最近「人民日報」は総統府資政(上級顧問)の任にある許文龍・奇美実業グループ総裁の名をあげ、民進党のシンボルカラーである緑色をもじって「われわれは緑の台湾企業を歓迎しない」などと表明した。 

 奇美実業グループは許氏が創業し、現在社員数は約一万人で日本との関係も深く、合成樹脂では台湾最大手で、IT分野でも急成長している台湾屈指の国際企業である。中国進出については、江蘇省鎮江に合成樹脂工場を持ち、浙江省寧波にも液晶パネル工場建設を計画している。 

 こうした中国の動きに対し、呉釗燮・行政院大陸委員会主任委員は六月一日、マスコミのインタビューを受け「台湾企業の経済活動が政治干渉を受けるようなことがあってはならない。そうでなければ、中国は民心を失うばかりとなる。国務院台湾事務弁公室は以前、両岸経済交流は政治の影響を受けないと述べたが、今回の許文龍氏への名指し非難は言行不一致だ。現在のところ、まだその他への非難にまでは発展していないが、政府は注意深く見守っている」と表明した。 

 また游錫堃・行政院長は同日、立法院での答弁において「中国は台湾企業の投資を歓迎しないなどと言っているが、これこそ台湾にとってはチャンスではないか。今後、インドシナ半島諸国と積極的に相互関係を強めていく。行政院はすでにそうした政策を立てている。タマゴを一つのカゴに入れてはいけない(リスク分散の比喩)」と表明した。 

 民進党立法院党団は同日、許文龍氏を声援するとともに、蔡煌瑯・同幹事長は「中国は『商を以て政を圧迫する』手段に出ている。台独問題を口実に数十万の企業関係者を俎上に乗せているが、こうしたやり方は台湾の感情を害するばかりだ」と指摘した。

 ●政治と経済は別問題

 許文龍氏は六月一日、「人民日報」の記事についてマスコミのインタビューを受け「中国には中国の立場があり、こうした表明があっても不思議はない。だが、かれらは台湾企業の中国に対する大きな貢献を軽視している。政治は政治に帰るべきで、経済も経済に帰るのが正しい。これは中国に限ったことではない。私は国内でも何度も政府に、両岸三通の開放は大勢の利益につながると言っている。安全保障問題は三通と分離して考慮すべきで、台湾経済の国際競争力に影響があってはならない。経済は本来自由に発展するものであり、政治的な干渉や圧迫があってはならない」と語った。

 中国への進出については「十数年前、奇美が中国に工場を開設した主たる要因は、台湾での土地取得が困難で、大陸市場での需要が多かったからだ。かれらは本来奇美電子を歓迎しており、今になって歓迎しないと言う。奇美は賃金の安いベトナムなどへの投資を考慮することになろう」と表明した。

 今後の影響については「短期的には奇美の中国の工場に影響があるかもしれない。ただし、その他の中国に投資しようとしている企業をも威嚇したことになる。長期的に見れば、かれら自身にとっては逆に不利となる。中国はもっと冷静に考えるべきであり、一時的な感情であのような痛烈なことを言うべきではない」と指摘した。
《台北『聯合報』6月2日》

ニュース  

陸委会:汪道涵会長の訪台を要請
「一つの中国」も討論できる

 呉釗燮・行政院大陸委員会(以下、陸委会)主任委員は五月二十七日、汪道涵・海峡両岸関係協会(以下、海協会)会長の台湾訪問を再度要請する意向を明らかにした。呉主委は「汪道涵会長の訪台は辜振甫・海基会会長の以前からの希望であり、われわれはそれに応えるため、再度訪問を要請したい。議題に制限は設けない考えで、汪道涵会長の訪問を台湾の国民は歓迎すると信じている」と述べた。陸委会によると、汪道涵会長の訪問要請は、陳水扁総統の就任演説における両岸関係の戦略的枠組みの構築に合わせ、その可能性についてすでに協議済みという。 

 邱太三・陸委会副主委は同日「中国の五月十七日の声明と五月二十四日の記者会見の談話内容から、中国側も両岸交渉の再開を強く希望していることが伺えた」とし、汪道涵会長の訪問を要請するのが最も自然で適切な方法だとの考えを示した。さらに邱副主委は翌二十八日、「中国がわれわれの要請を正式に受け入れるなら、海基会、海協会双方の副秘書長クラスの会談をすぐにも開催できる。汪道涵会長の陳総統との会見の可能性も排除せず、『一つの中国』を含むあらゆる議題を討論できる」と述べた。 

 これに対し中国は「一つの中国」を前提としなければ会談には応じられない考えを示してきた。これを受けて邱副主委は五月二十九日、「台湾は年末の立法委員選挙以降二年間、大きな選挙がないため、政治環境として両岸の交渉と対話再開にプラスとなる。中国が「一つの中国」を堅持することも理解できるが、過去の多くの会談の経験に基づき、両岸が政治性を伴わない事項について相互理解を深め、交渉の早期回復を目指すべきだ」と呼びかけた。 

 また游錫堃・行政院長も同日、両岸の交流と対話の必要性を指摘したうえで、「『一つの中国』について討論してもよいが、それを前提とすべきではない。台湾の主権独立は否定できない事実であり、それを棚上げする必要はない」と、台湾の立場を改めて強調した。
《台北『自由時報』5月28~30日》

中国への偏向投資は危険
世界を視野にした投資を

 中国国務院台湾事務弁公室がさきごろ中国に進出している台湾企業に対し「中国で金儲けをしながら台湾独立を支持するのは歓迎しない」と発言したことについて、何美玥・経済部長は五月二十七日、「この発言は中国に進出している台湾企業の投資を中国が勝手に左右できることを示している。こうした政治リスクを回避するため、企業は中国に偏った投資を抑制し、世界を視野に投資すべきだ」と強調した。 

 経済部国際貿易局の統計によると、世界主要国の中国への輸出依存度は年々高まっており、台湾のそれは今年第一・四半期、輸出全体の約四分の一に達している。
 
地域 1998年 2004年第一四半期
台湾  一六・七%  二五・一%
韓国   九・〇%  一八・六%
日本   五・二%  一二・三%
米国   二・一%   四・六%
タイ   三・二%   二・三%
EU   二・三%   四・一%

《台北『自由時報』5月28日ほか》

米が台湾のOAS参加を支持
常任理事会で議案を提出

 バウチャー米国務省報道官は五月二十七日、「米国は台湾が非国家の資格で国際組織に加盟することを支持する」と述べ、台湾が米州機構(OAS)に永久オブザーバーとして参加する案を、すでに次回の常任理事会の討論議題に盛り込んだことを明らかにした。台湾が同組織に参加するには、OASの規定により、三十五の常任理事国メンバーのうち三分の二に当たる二十三カ国以上の支持が必要となる。台湾はすでに十三の友好国と米国の支持を得ており、残り九カ国について支持獲得に全力を尽くす。だが五月二十六日の同常任理事会で、台湾の国際組織加盟を強力に阻止する中国の常任オブザーバー参加が可決された。 

 これに対しバウチャー報道官は「非国家の資格での参加の前例があり、これに倣って台湾の参加を実現させる。台湾がOASに対し積極的、建設的に貢献することを期待している」と述べた。
《台北『中国時報』5月29日》

台湾は軍の抑止力を高めよ
米の中国軍事力報告書から

 米国防総省が五月二十八日に発表した中国の軍事力に関する年次報告書(二〇〇四年)について、民進党の前政策会執行長の林濁水・立法委員は「台湾が指揮系統や兵器体系といった旧来の問題改善にばかり注意を払い、軍隊に対する観念の見直しや戦力の全体向上を疎かにしてきた点が浮き彫りになった」と述べ、「軍隊の精鋭化と国防法の修正を再度見直し、三軍の連合作戦能力を強化し、台湾海峡と東アジアの軍事的アンバランスを改善しなければならない」と指摘した。 

 林立法委員は米国が同報告書のなかで、①中国の軍拡が東アジアの軍事バランスをより不安定にさせている②中国の新たな作戦状況に対し、台湾は抑止力を高めるべき③台湾の軍備購入予算、財政能力の低下に対する懸念④台湾の連合作戦能力の強化、の四点を指摘していると述べ、台湾の国防について改めて見直す必要性を強調した。
《台北『自由時報』5月30日》

中国は軍事脅威を緩和すべき
台湾の防衛力強化は改善に有益

 ランディー・シュライバー米国務次官補代理はさきごろ香港のメディア取材に応え、「米国の声明や行動が台湾民衆の自己意識に与える影響は中国のそれに遠く及ばない。もし中国が台湾の独立意識の高揚を心配するのなら、統一したくなるような環境を提供すればよく、ただ中国はそれに成功していない」と述べ、両岸関係の緩和には中国の軍事的脅威を緩和すべきだとの考えを示した。

 また、米国が台湾に武器を売却することについてシュライバー次官補代理は「台湾の防衛力を強化することは台湾の自信を高め、両岸の政治的対話の可能性も高めることになる。つまり、米国の武器売却は台湾の独立志向や主体意識とは関係なく、両岸の対話を促す環境を創造するためだ」と強調した。さらに欧州連合(EU)の中国に対する武器売却禁止解除問題について、「人権問題など、さまざまな角度から検討する必要がある」と述べた。
《台北『自由時報』5月30日》

二年内のWHO加盟を目標
各国に広く支持呼びかける

 高英茂・外交部政務次長は五月三十一日、立法院で「台湾の世界保健機関(WHO)加盟の最大の障害は中国の圧力だが、われわれはこれに怯むことなく、二年以内のWHOオブザーバー参加を実現させることが外交部の目標だ」と述べた。これは中国がさきごろ「台湾のWHO加盟は永遠に不可能だ」と発言したことに対し答弁したもので、高政務次長は「外交部は今後も引き続き各国に支持を求める一方、中国に対しても台湾のWHO参加の意志を尊重し、国際社会での活動の場を封鎖しないよう呼びかけていく」と述べた。二年以内のWHO加盟実現は陳水扁総統もさきの就任演説で言及した。

 さらに台湾のWHO加盟のメリットについて「両岸の国民感情を好転させ、両岸の自信の確立に役立ち、さらに世界が共同で疾病の予防を推進できるという三方面でメリットがある。中国はこれに善意で応えるべきだ」と強調した。
《台北『自由時報』6月1日》
 
両岸経済は市場統制下に開放
金融監督を強化し規制緩和

 胡勝正・行政院経済建設委員会主任委員は六月二日、「政府は今後金融業務と資金の流出入にともなう規制を全面的に開放し、金融監督を強化し、台湾を金融サービスセンターとして発展させたい」と述べた。

 現在台湾から中国へ資金を送金するのに一定の制限が設けられているため、外部から「台湾のアジアにおける資金調達の中心としての役割に大きな影響を及ぼしているだけでなく、中国に進出している台湾企業の台湾での株式上場の開放も遅れている」と指摘されている。これについて胡主委は「資金の送金の自由は今後ますます開放される」と言明し、「台湾を金融サービスセンターとして発展させるには金融監督の強化が重要で、それは企業管理の徹底にかかっている。今後は市場統制のもとに両岸の経済、資金交流、および人的往来を処理し、従来の国家の安全保障を優先した考え方を改める」と強調した。
《台北『経済日報』6月3日》


パリ外文論壇副主席に廖仁義主任
台湾文化センターの功績示す

 パリに事務所を置く三十五の外国文化センターで構成される「外国文化センターフォーラム」はさきごろ、廖仁義・台湾在パリ文化センター主任を同フォーラムの副主席に推薦した。同フォーラムは二〇〇二年、カナダ外国文化センターの呼びかけで設立され、同年には「第一回外国文化ウィーク」が開催された。台湾文化センターはこの際、もっとも活躍している在パリ文化センターとしていち早く公認されている。同フォーラムの文化外交に対する重要性は、徐々に諸外国の注目を集めるようになったが、特筆すべきは、中国もこのフォーラムの参加国であり、台湾との政治的衝突や、台湾と他の加盟国間の交流に対する妨害もなく、純粋な文化交流が実現していることだ。今回、同フォーラム副主席に台湾文化センター主任が推薦されたことは、台湾の文化外交のうえで大きな成果となった。
《台北『中国時報』5月21日》


景気回復で就職市場は好転
「ネット就職博覧会」も盛況

 行政院労務委員会(以下、労委会)が今年、インターネット上に開設した「全国就職ネットワーク」の分析によれば、国内景気が回復するなか、今年一~四月における企業の求人数は、月平均三千人以上増加しており、求職者に対する求人枠比率は毎月上昇し、すでに一人あたり平均二・五社の就業機会が創出されていることが分かった。労委会職業訓練局では、「台湾は高失業率時代から抜け出しており、二〇〇四年は新卒学生にとっても就職難とは無縁の年となるだろう」とコメントしている。 

 また、中高齢者および心身障害者など社会的弱者に対しては、政府は「公共サービス拡大就業法案」により、予算七十億元(約二百十億円)を投じて四万七千件の就業機会を創出する予定としている。第一次公共サービス拡大就業者数については十万人を見込んでおり、職業訓練など社会参加の支援策もおこなう。

 労委会によれば、就業機会の増加が顕著な地域は新竹、台中、台南で、求職者に対する求人枠比率はそれぞれ四・五七、三・八八、三・六八%であり、求職者一人あたり三~四件の就業機会がある。三都市の主要産業はいずれも通信、精密機械などIT関連事業であり、ハイテク人材の需要の高まりが伺える。

 労委会では、「全国就職ネットワーク」の開設とともに、現在「二〇〇四年ネット就職博覧会」を開催中で、二千社以上の企業がこれに参加し、六万五千以上の就業機会を提供している。
《台北『民生報』5月24日》

呂秀蓮副総統プロフィール㊤
台湾を愛し、戦い続ける初の女性副総統

 台湾女性、呂秀蓮氏は一九四四年、ノルマンディー上陸の日に桃園に生まれた。幼い頃から成績がよかった。父親がいつも偉人の物語を話して聴かせたことは、彼女の政治意識を育んだ。父親はまた、話をする能力の訓練を特に重視した。

 母親は忙しく家事をこなしながら、夫の商売を手伝って台湾各地を奔走していた。男性に負けずによく苦労に耐え、不満を漏らしながらも誇らしそうに、「我が家の女で、男並みの仕事をしないものはいない」と話していた。

 呂秀蓮は保守的な時代に育ったものの、常に自分を励まし、女性も男性に負けないことを事実をもって証明しようと努力してきた。小学校卒業時には県知事賞を受賞し、生まれて初めての進学試験では、衆望にそむくことなく、台北第一女子中学に合格した。この時の桃園からの合格者はわずかに六人だけだった。

 十代の呂秀蓮は、とりわけ孫文(孫逸仙)の先見と革新的な思想に惹かれ、また胡適(胡適之)の自由で開放的な姿勢を敬愛していた。そのため逸仙と適之から一字ずつ取って「逸之」をペンネームとし、自分の思想や感情を文章にしていた。文学にも深い関心を持ち、多数の名著を読んだ。

 高校生の呂秀蓮はいくつもの国にペンフレンドをつくり、いちばん多い時には、米国、カナダ、英国、ドイツ、ベルギー、日本、ナイジェリアなど九カ国のペンフレンドと文通していた。こうした友情は広い視野と国際感覚を養うのに役立ったほか、興味を持ちながら英語を実地で学ぶ機会にもなった。呂秀蓮は自分が民間外交を行っているという誇りを感じ、世界を駆け巡る外交官になることを夢見るようになった。

 一九六三年の大学入試では、国立台湾大学法学部司法学科に一位の成績で合格、後に大学院に相当する台湾大学法律研究所にもトップの成績で入った。その後、台湾大学李氏奨学金の唯一の対象となって米国イリノイ大学に留学し、修士課程で比較法律学を学ぶこととなった。

 初めて海外に出た呂秀蓮は、東京に一日滞在し、東京が繁栄した近代都市であることに強烈な印象を受けた。同じアジアの隣の国に、便利な地下鉄があり、近代的な高層ビルが立ち並び、公共施設が完備していることを羨ましく思った。このような成果はどのようにして達成されたのだろうか、私たちの「美麗島」台湾がこれに追い付き、追い越すのはいつのことだろうか、と呂秀蓮は考えた。

 一九七〇年九月、米国は女性参政権獲得五十周年を迎えて、女性解放運動が最高潮に達していた。呂秀蓮は大量の報道記事や文章を読んで、父権社会の下で長年にわたって抑圧されてきた女性の苦難を思い、また女性団体がどのようにして社会運動を組織し、展開してきたかに注目した。

 一年後に帰国した呂秀蓮は行政院法規会で専門職兼科長となった。当時台湾では、大学や専科学校などで高等教育を受ける女子学生が増え過ぎないようにするにはどうするべきか、という議論が喧しく、呂秀蓮は男尊女卑の一般的風潮と女性の教育機会を奪おうとするやり方を目の当たりにして、聯合報に「伝統的な男女の役割」と題する文章を投稿、これが七日間にわたって連載された。当時まだ二十七歳に過ぎなかった呂秀蓮は、こうして台湾に新フェミニズムを呼びかけたのである。

 呂秀蓮によると、「新フェミニズム」とは、時代の潮流に順応し、社会の需要に対応する一種の思想である。それは男女の実質的平等を基礎とする男女共同社会の繁栄と調和を主張する一種の信仰である。さらに女性に対する伝統的偏見をなくし、現代的かつ合理的な価値観を打ち立てることで、女性の独立自主の人格と尊厳を取り戻し、男女平等社会の実現を促す一種の力である。呂秀蓮は、三つの基本理念を強調した。第一は、男や女であるよりも前に人間として生きること、第二は、男女を問わず最善を尽くして自己の役割を果たすこと、第三は、才能を無駄にせず、女性もその能力と知恵を発揮して社会に貢献することである。新しい人間的な社会を確立して新フェミニズムの主張を実現するために、呂秀蓮は、パートタイム雇用制度の実施、フレキシブルな就業制度の実施、家政の協力、家事の簡素化と美化、出産と育児に伴う解雇や減給から女性を守る立法措置などを呼びかけた。呂秀蓮はすべての台湾女性の自覚、自愛、自強、自立を心から願った。

 このように厳しい環境の下で女権運動の種子をまくことの難しさは、本人にしかわからない。保守的な台湾社会において、呂秀蓮は絶えず無情な攻撃と侮辱に遭い、心身ともに苦しんだ。しかし、熱心な支持者の支援を受けて「時代女性協会」を設立し、文献研究や書籍出版、各種活動の推進やコンサルティングなどを開始した。また「拓荒者(パイオニア)の家」を作って女権運動の根拠地とし、「拓荒者出版社」や女性のためのホットラインなども設立したが、政府および法務部(法務省)調査局の介入に遭って失敗に終わった。これは国民党政府の特務が至るところにいるという事実を呂秀蓮に初めて認識させ、新たな政治意識を目覚めさせるきっかけとなった。

 一九七八年五月二十日、蒋経国が中華民国第六代総統に就任した。同年十二月、米国は一九七九年一月一日に中共と国交を樹立すると発表した。これは一九七二年の「上海コミュニケ」公布と一九七一年の中華民国の国連脱退に次ぐ、台湾人民に対する無情の打撃だった。当時ハーバード大学で研究に従事していた呂秀蓮は、ただちに多くの学者や専門家から話を聞いて、米国による国交断絶が確実だと知り、深い悲しみを覚えた。多くの人が他国へ移住しようと手立てを考えている時、呂秀蓮は研究の機会を放棄して帰国し、年末の国民大会代表選挙に立候補した。選挙期間中は比較的大きな言論の自由が認められたため、呂秀蓮は人々に真相を伝え、政府に騙されてはいけないと訴えた。選挙では台湾問題をテーマとする演説も行った。呂秀蓮の強い思いと、敢えて台湾に戻ってきた意気は多くの台湾人の心を揺さぶり、大勢の人が感動の涙を流した。呂秀蓮の勢いは桃園選挙区を席巻し、そのために情報当局から監視され警告を受けるほどだった。

 米国との国交断絶は台湾の前途に大きな影を落としただけでなく、呂秀蓮の人生をも変えた。この時から呂秀蓮は党外の民主運動の陣営に加わり、街頭デモに参加するようになった。呂秀蓮は絶え間ない抑圧の中で抗争を続けるうちに政治の渦に巻き込まれていった。そして、一九七九年、高雄で発生した「美麗島事件」で、わずか二十分の演説のために、十二年の実刑と公民権の終身剥奪を言い渡された。この時、三十六歳だった。

 暗い牢獄は呂秀蓮の身体を閉じ込めはしたが、その思想と魂まで封じ込めることはできなかった。呂秀蓮は獄中で読書と著述を続けた。五年四カ月の後、台湾の友人たちとアムネスティ・インターナショナルの努力によって、呂秀蓮は再発した甲状腺癌の治療のために出獄を許された。友人たちは服役中にやつれた呂秀蓮を見て悲しんだが、呂秀蓮は自分に言い聞かせていた。早く立ち直らねば、長く暗い谷を通り抜けた自分は決して素手で社会に戻ってきたわけではない、と。

 再出発した呂秀蓮は驚くべきエネルギーで活動を始めた。一九八五年三月末の仮釈放から一九九〇年までの五年間に、政治的良心犯として欧米各国を訪問して人権外交と講演をおこなった。日本と韓国では野党指導者と交流し、米国マサチューセッツ州教員協会からは人権賞を贈られた。これと前後して「北米台湾婦人会」を創設し、「選挙浄化連盟」を組織した。また「全民民主と憲政改革」のための一連の活動を推進し、民進党憲政小委員会による「民主大憲章」起草に参加する一方、中国大陸を訪問して、国務院や台湾事務弁公室の高官と台湾海峡両岸関係における「人間性、理性、良性」の三原則について意見を交わした。この間も研究と著述を続け、獄中で書いた二つの小説『この三人の女性』と『情』を上梓したほか、「台湾公論報」の時事評論を担当し、『私は台湾を愛す』『海外から台湾を見る』を出版、さらに『美麗島事件再審』を執筆した。

 一九九一年には「私は台湾を愛す」年の活動を発起、その年の十二月には「台湾の国連加盟促進団」を組織してニューヨークで民間外交を展開した。こうして呂秀蓮は、台湾の国連加盟運動の先鋒となった。

 幼い頃から外交官になることを夢見ていた呂秀蓮は、一九九二年末の立法委員選挙で桃園地区から七万票を超える得票で当選し、より明確な役割と使命を持つようになった。国会での三年間、一貫して外交委員会に身を置き、対内的には政府に「台湾と中国の関係正常化」と「台湾問題の国際化」を建議し、対外的にはしばしば国際集会に参加して「台湾は台湾、中国は中国である」という理念を広めた。

 呂秀蓮は、台湾―中国関係の神話と現実を世界の人々に気づかせるのが容易ではないことを知っていたため、諸外国と友好的な関係を築くことで、台湾に「イエス」と言う人々を増やすよう努力した。台湾への理解と関心を高めるために、台湾が国際社会から注目を浴びるよう尽力するとともに、積極的に外国の政府を訪問し、外国メディアのインタビューを受ける時には台湾問題を取り上げた。こうして間もなく、「台湾国際連盟」の名称で米連邦政府に非営利組織(NPO)として登録できたことで、関連事務の連絡や運営が一段と円滑におこなわれるようになり、国際的に幅広い人脈も確立された。

 注目に値する出来事は、一九九四年二月に呂秀蓮が第三回世界女性サミットを主催したことである。当初、この会議を台湾で開催することはほとんど不可能に思われた。この盛大な国際会議を主催するはずだったスペインが経済的な理由から辞退することとなり、呂秀蓮に打診があったのは開催まであと半年しかないという時期だった。呂秀蓮は躊躇した。自分は野党に属するため、政府から充分な協力が得られない可能性もあり、また台湾は英語圏ではないため言語面での障害もあった。さらに、国交のない国からどのように貴賓を招くかというのも難しい問題だった。万一、北京が圧力をかけボイコットすれば、少なからぬ人が参加を取りやめて会議は成功せず、台湾は面目を失うことになりかねない。だが呂秀蓮は、このサミットを台湾で開催することができれば、台湾にとって大きな利益になるに違いないと考えた。そして、この困難な任務を毅然として引き受けたのである。

 その結果、世界女性サミットは七十カ国余りの政界、企業界、学界、女性団体から二百人以上のリーダーが参加する空前の盛会となった。「女性と政治的リーダーシップ」をテーマとする会議が四日間にわたって開かれ、多様な意見や経験の交流がおこなわれ、十数編に上る論文が発表された。

 これに続く三月三日、呂秀蓮は非政府団体(NGO)代表の立場で第四回国連世界女性会議の準備活動に参加するために堂々と国連に歩み入り、さらに専門家顧問団の立場で公式会議に出席した。これが北京当局を刺激し、北京と台北との間でボイコットと反ボイコット、抑圧と反抑圧の戦いが展開された。近年も、台湾が国際社会で外交と生存の空間を広げようとすると、きまってこのような攻防戦が繰り広げられる。
(以下次号) 

文化・芸能文化情報

白先勇氏が青春版「牡丹亭」完成 

 台湾文学界の重鎮・白先勇氏が伝統崑劇をもとにみずから手がけた舞台「白先勇の青春の夢―牡丹亭」が、演劇界内外の注目を集めている。

 戯曲「牡丹亭」は、十六世紀末、東洋のシェイクスピアと言われた湯顕祖が世に出した崑劇の代表作で、十六歳の杜麗娘と二十歳の書生・柳夢梅の生死を越えた恋愛ドラマである。舞台は、杜家の令嬢・杜麗娘が春の庭園に遊び、夢の中で出会った書生に恋焦がれるあまり病死してしまう上段と、実在していた劉夢梅が登場し、杜麗娘の肖像画に一目ぼれした後、杜麗娘の霊と出会って生き返らせる中段、そして夢梅が科挙試験に合格して二人が結ばれ、大団円を迎える下段に分かれている。幻想的なストーリーは現代映画などにも影響を与えているが、伝統崑劇の衰退とともに、最近では全幕上演されることも少なくなっていた。

 こうしたなか、白先勇氏は両岸戯曲界の精鋭を集め、脚本を改編し新たな生命を注ぎ込んだ青春版「牡丹亭」を完成させた。白氏によれば、従来の舞台では恋のために生死をさまよう杜麗娘が主役として描かれ、書生の劉夢梅は脇役という演出が定着していたが、今回は原作に立ち返って男女ともに主役に据え、二人の主人公が織り成す情熱を強調したという。衣装や振り付け、舞台装置も原作の世界観をより効果的に引き出すよう工夫した。

 青春版「牡丹亭」は四月二十九~五月二日、国家戯劇院での公演を大成功に納めた。今後は香港公演のほか、蘇州で開催される「世界文化遺産大会」でも上演され、世界の眼に触れることになる。

 このほか、白氏は「牡丹亭」の全記録とも言える「奼紫嫣紅牡丹亭――四百年の青春の夢」を特別出版した。青春版「牡丹亭」のシナリオをはじめ、原作の創作背景から牡丹亭の魅力分析、新版「牡丹亭」の制作意義などが両岸三地の専門家により分析され、挿絵や往年の舞台写真などもふんだんに取り入れた貴重な資料となっている。
《台北『中国時報』5月14日》

台湾観光年

 台湾でサイクリングはいかが?

 ●台東はコースがいっぱい 

 徒歩なら疲れる距離も、自転車なら難なく移動でき、しかも風を切って走る爽快感も味わえる。最近旅行でサイクリングを楽しむ人が増えており、豊かな自然の残る台湾の東部地域は、こうしたサイクリングに打ってつけのコースも多い。なかでも花東縦谷と東部海岸は国家風景区に指定されており、国際的な観光スポットとしても知られている。政府はここ数年、この地域のサイクリングロードを積極的に整備した。その代表的なコースを紹介する。

 ①花蓮鯉魚潭一周サイクリングロード:鯉魚潭の周囲全長五㎞にわたってサイクリングロードが整備されている。勾配は全体に緩やかで、沿線には展望台や休憩所、駐輪場などが設置されている。湖畔の眺めはまるでスイスの湖を思わせる美しさだ。

 ②光復郷・馬太鞍賞蓮サイクリングロード:ここは森深い原野の趣があり、河の土手を挟んだ両側は濃い緑に覆われている。遠くには先住民の住む部落が広がり、小川のせせらぎが聴こえ、思わず深呼吸をしたくなる清々しさだ。沿線には木道、展望台、休憩所、蓮の花を観賞するエリアなど、施設が整備されている。サイクリングをしながら沼地の生態を観察し、アミ族の文化を見て周ることもできる。また近くの光復製糖工場では、アイスクリームをはじめ各種スイーツを楽しめる。

 ③瑞穂郷のサイクリングロード:全長八キロにわたるこのサイクリングロードは、産業道路と地方の田舎道に敷設されている。沿線の景色は美しく、標高の高い場所では遠くの渓流や森を一望できる。とくに両側に楠木が林立し、まっすぐに延びた緑のトンネルは深い緑陰を作り、あたり一面は樹木の匂いが立ち込め、森林浴にお奨めだ。

 ④台東池上郷・大坡池サイクリングロード:有名な関山鎮の環状道路や鹿野郷・高台越野サイクリングロードなど特色がある。また太平洋に沿って敷設されている十一線海岸道路は花蓮、台東地域の山と海、両方の自然の風景を楽しめる。
 《台北『民生報』4月14日》

●台北市内も気軽に楽しめる 

 自然の中を走る爽快感とは別に、都会の街中を駆け抜け、岸辺から遠く街の灯りの夜景を眺めるサイクリングも乙なものだ。台北市でもここ数年サイクリングロードが大幅に整備され、各地のサイクリングロードを合わせると、その距離は六十キロに及ぶ。とくに大佳河濱公園、華中河濱公園、観山河濱公園、木柵公園、美堤公園の五カ所には自転車のレンタルサービスがあり便利だ。各コースに特色、見所があり、たとえば大佳河濱公園一帯は基隆河と圓山飯店の眺めが美しく、大稲埕埠頭から基隆河南岸へ延びるコースには川岸の風景とともに観音山や大屯山系、関渡平原が一望でき、とくに夕日を眺める絶好の場所となっている。

 このほか、台北市内でお奨めのサイクリングコースとして、木柵の猫空(約十二㎞)、北投温泉(約二十㎞)、関渡自然公園(約十二㎞)、基隆河両岸(約二十二㎞)、景美渓両岸(約十二㎞)などがある。なお、台北市の新交通システム(MRT)は土日に限り車内に自転車を持ち込むことができるため、愛用の自転車であちこちのサイクリングを楽しめる。
《台北『中国時報』5月22日》

新鮮な黄金筍を家庭に 

 いまが旬のおいしい筍。台北県八里の「黄金筍」は、数量、品質ともに全国一を誇る。八里の農協は残留農薬検査の厳格な審査に合格した筍だけを選び、六月一日から各家庭に宅配するサービスを始めた。鮮度を保持できる低温配送で、「黄金筍」の新鮮な香りと柔らかさをそのままに食卓へ届ける。
《台北『中央社』5月31日》

文化ニュース

武夷山茶が約百年ぶりに発見
屏東の山中で二株のみ自生

 これまで文献上では知られていたが標本が一つもなく、長年その存在が探し求められていた武夷山茶の木が、このほどおよそ百年ぶりに屏東の山中で発見され、大きな話題となっている。この発見は国立自然科学博物館、科学人雑誌、行政院農業委員会林務局と林業試験所、台湾大学の生態学および生物学研究所の謝長富所長らが五月二十七日、共同で発表した。 

 謝所長によると、武夷山茶は台湾に十一種類あるツバキの木の変種の一つで、原産地は南洋と考えられるが、その後台湾に伝えられ長い時間を経るうちに、遺伝的な特徴が南洋のそれと異なってきたため、台湾の固有種、あるいは原産種と見なされるという。 

 そもそも、この武夷山茶という名称は一九一八年日本統治時代、台湾総督府中央研究所林業部の技師・佐々木舜一氏によって命名された。ツバキの新種として正式に発表されたが、文献に掲載されただけで、その後まったく採集されることなく、記録もなかった。ところが昨年、ある登山客が屏東の山中で見知らぬツバキ科の植物を採集し、屏東科技大学に鑑定を依頼したことがきっかけとなり、同大学が今年初め、再度同じ屏東の山中を捜索し、同じ植物と思われる木の葉や花を採集し鑑定した結果、およそ百年間、影も形もなく消息のつかめなかった武夷山茶であることが確認された。 

 存在が長い間つかめなかったことについて謝所長は「武夷山茶は海抜の低い場所にあって成長しやすい樹木だが、一九七〇年代に紙を製造するため低地の樹木が大量に伐採され、武夷山茶もそのとき消失したと考えられる」という。

 今回発見されたのはやはり海抜九百メートルに満たない低地の屏東の山中だったが、名称にもなっている武夷山(現在の武蔵山)ではなく、「万金庄」(昔、外国人の住居と礼拝が行われた教会)付近の「真笠山」の中だった。しかも発見されたのは二株のみで、付近をしらみつぶしに捜索したものの、これ以外に武夷山茶の木は見つからなかったという。幸い、この二株とも健康な成木のため、挿し木や組織培養、生息地の保護などを通して、今後絶滅を防ぎ増やしていく考えだ。

 植物学会では今回の武夷山茶の木の発見を機に、国内で絶滅の危機にある植物の採集、保護に全力で取り組むことにしている。専門家によると、「蘭嶼島の野牡丹藤」や「烏来ツツジ」など、およそ五十種類が絶滅の危機にあるという。行政院農業委員会は今後三、四年を目処に台湾の植物に関する調査報告をまとめ、国内の植物の全容を明らかにしたいとしている。
《台北『民生報』5月28日》

第52回新日台交流の会

 五月十五日、日華資料センター3F会議室にて午後三時から約二時間にわたって「第52回新日台交流の会」が開催された。今回の講演者には共同通信社の編集委員、論説委員である西倉一喜氏に「台湾総統選挙をふまえての東アジア情勢」について語っていただいた。 

 今回の総統選挙で、西倉氏は超大国・中国と超大国・アメリカにはさまれた台湾の動向に注目され、それは日本の置かれている立場にも重なることを指摘された。また僅差での陳総統再選は、陳陣営が本来総統としての守りの選挙を、危機感を強めたこともあり、攻撃的な選挙をしてアジェンダ(問題提議)をしかけたため、連戦陣営は守りの選挙となってしまったと分析。その他、西倉氏が一九七九年の美麗島事件を初めて日本に報道した興味深いエピソードを交えつつ、現在の東アジアの情勢について貴重な意見を伺う事ができた。
 《交流の会事務局》


新刊紹介

『異域紅塵』
許 旭蓮 著

 故郷を離れ日本に来て、夢を実現しようとする華僑にとって、仕事同様恋愛も結婚も重大な意味を持つ。在留資格という日本人が経験しない日本国内での難問もある。『異域紅塵(いいきこうじん)』は、横浜中華街を舞台に生きる台湾華僑の人間模様を活写した小説である。 

 若年と壮年の二組のカップルを対比させつつ、言葉、習慣、価値観の異なる異郷での恋、失恋、結婚、挫折、就職、婚外子、事実婚などがからむ人生模様を描き出している。それは単なる「華僑小説」などではなく、人生の不可思議さ、愛の深さを自分の目線で捉え、読む者に人間の原点とは何か、さらに人生の原風景を考えさせる。「人間の心のよりどころは様々な愛です。愛なくして人間は生きられないのです」と作者は語る。高雄師範大学卒業後、日本に留学してきた異色の作家である。
〈山川文化書房刊 ¥1470〉

春 夏 秋 冬

 中国の国務院台湾事務弁公室が5月24日に、陳水扁総統の就任演説に対する論評を発表していた。その内容が国際的な認識とおよそかけ離れたものであることは、先週の本コラムでも触れた通りだが、今週もまたこの問題に触れたい。かれらの主張には、どう見ても正気とは思えない部分があるのだ。国台弁は「中国は『一つの中国』の立場を堅持して絶対に妥協せず、平和交渉の努力を決して放棄しない」と言っているのだ。これは一体どういうことだろう。妥協は一切せずに平和交渉とは、つまり相手に無条件降伏を迫るものであり、これが中国の言う「平和統一」の実体なのだ。 

 さらに奇妙な部分がある。この発言の後には「台湾同胞と共に両岸平和の発展を探る誠意は絶対に変更しない」という言葉が続くのだ。台湾に無条件降伏を迫り、それで「台湾同胞と共に」などとは、これほどヒトを食った言い分はない。そして最後に「一切の代価を惜しまず、台独を粉砕する」と言っているのだ。要するに、相手が自分の思い通りに進まなければ、戦争をしかけると凄んでいるのである。

 この4日後の5月28日に、米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告(2004年度)を公表していたが、それによれば、中国は台湾の対岸に500基以上の短距離弾道ミサイルを配備している。昨年の年次報告では450基であった。相当なスピードで増強していることが分かる。それに、中国が発表した同年度の軍事予算は250億ドルだが、実際には500億ドルから700億ドル(5兆5千億円から7兆7千億円)にのぼり、その規模は米、露につづく世界第3位だというのである。

 当然ながら同報告書は、台湾海峡における中国の脅威が確実に増大しているという認識を示し、中国が掲げる「平和統一路線」に「強い疑念」を抱かざるを得ないとしている。

 もはや「疑念」などではあるまい。米報告書は、陳総統の就任演説に対して見せた中国の領土的野心を明確に裏付けているのである。同時にそれは、現在平和が保たれている台湾海峡の現状を、著しく変更しようとするものでもある。歴史を見れば、国際間の平和が崩れ世界の人々が塗炭の苦しみを味わった原因は、いずれもこうした国の出現に起因している。日本は北朝鮮には敏感だが、台湾海峡の問題には鈍感だという指摘もある。日本は自国のためにもこの問題を注視し、言うべきは言い、とるべき対策もとらなければならないのではないだろうか。 
(K)