馬英九総統、2008年国慶節祝辞
馬英九総統は10月10日、総統府の大講堂で行われた中華民国建国97年国慶節祝賀式典に出席し、以下の祝辞を述べた。
○ ○ ○
本日は中華民国97年の国慶節であり、我々は喜びの心情をもって我々の建国記念日を祝賀するものであります。また同時に我々は厳粛な態度で国際経済情勢の厳しい挑戦に立ち向かい、国家建設のために遠大なる目標を立案しなければならず、それにより台湾のために将来の青写真を計画することができるのであります。
過去97年間の歴史を顧みると、中華民国は厳しい試練を何度も経てきており、我々は分裂割拠の年代を歩み、世界大戦の烽火に直面し、内戦流離の疲弊に遭ってきましたが、終始国父(孫文先生)による建国の理想を堅持し、台湾において確固として揺らぐことのない地方自治を推進し、民主改革を行ってきました。今年3月、台湾は2度目の政権交代を成し遂げ、民主主義は安定、成熟の段階に向かって歩んでおり、「反汚職、清廉」は台湾共通の価値観となっています。台湾はアジア地域の民主主義の手本であるのみならず、中華民族の「民主主義の灯台」にもなっており、これは台湾の国民2,300万人の共通の歴史的な成果でもあります。
今年5月の執政後、我々は社会全体が平和を望んでいることを深く理解していますが、この4カ月あまり、我々による数多くの方策と大衆の期待にはまだ落差があり、それを謙虚に自省し、改革の進行プロセスを絶えず加速させ、経済競争力を引き上げ、かつての繁栄の姿を回復させ、自信を取り戻してこそ、国民の期待に沿えることができるものであります。
まず、我々が直視しなければならないのは、現在の台湾がかつてない経済的な挑戦に遭っていることです。米国連邦準備制度理事会のグリーンスパン前議長が発言されたとおり現在の金融ショックはこの百年間において稀有の大衝撃であり、台湾はグローバル化の時代の中で、これを回避することはできず、政府もたえず多方面にわたる方策を講じて民間に協力し、この難局を乗りきるようにしていきます。
新政府は発足後、ただちに内需拡大、低所得者支援などの方策を推し進め、それにより経済の景気を活性化させています。また、省エネ、減炭措置も大いに推進しており、この短い数カ月の間に使用オイルの節約幅は5分の1に達しましたが、より重要となるのは、展望的な見識をもって長期的な新設と改革を行うことです。
現在の石油危機は台湾建設の転換の契機と同じであり、現在、我々は大建設、大転換により国力を高め、体質を転換することで世界の挑戦に立ち向かっていかなければなりません。政府は世界的な変化の局面に対応するために、規制緩和の開放政策を採り、それにより自由な進出が可能となり、資金も自由に流れ、企業はさらに世界に進出して拠点を置くようになるのです。
インフラ建設面では、政府は台湾の環境改善の建設に大いに投資し、河川整備、道路や橋梁の架け替えおよび整備、公共交通のリンク、地方産業の振興といった公共的なインフラ建設はいずれも「愛台(台湾を愛する)12建設」に含まれており、明確に計画されています。我々はさらに多くの資源を投入し、一歩ずつ実行し、次の景気の循環のために、良好な基礎を構築していきます。
経済転換面では、政府は民間のために良好な投資環境を構築していくものであり、それには必要なインフラ建設、優秀な人材育成システム、民間の発展を奨励する産業政策などが含まれています。我々は省エネ・減炭産業、文化創造産業、ハイテク産業、バイオ産業、観光産業など産業転換を重点的に支援していき、伝統的な産業においては政府もただちにその資源とサービスを提供し、経済の活力を振興させるようにしていきます。これらの転換と長期的なインフラ建設の努力は、ただちに効果が現れるわけではありませんが、30数年前の10大建設が台湾の発展の基礎を築いたのと同様に、現在、政府による政策の方向性と未来の青写真はきわめて明確であり、子孫のために未来を建設し、21世紀の台湾のために繁栄した基礎を構築するものであります。
新政府は過去の汚職が国民の怨嗟を引き起こしたことを深く戒めとし、公のために力を尽くし法を守るだけでなく、より高い道徳の基準を自己に課し、台湾のために清廉、正直、誠実、相互信頼の核心的価値観を取り戻すようにします。我々は「公務員廉政(清廉な政治)倫理規範」の実施をスタートさせており、公務員の交際上の飲食、贈答品受け取り行為を厳格に規定しました。五権(行政、立法、司法、考試、監察が分立)の憲法精神を護持するために、新政府は発足後、監察院の運用をただちに回復させ、憲政体制回復の常態化により、この独立した機関が監察の役割を発揮できるようにもなったのでした。
社会正義を守り、弱者家庭を支援するために、政府は社会保険年金制度の実施をスタートさせ、これにより880万人の労働者が恩恵を受けることとなりました。また、国民年金および弱者救済案、「馬上関懐(馬総統就任でただちに支援)」案、「若者が安心して家庭を持てる」案、健康保険費の支払い困難者への支援、給食補助の拡大案などいずれも次々にスタートさせています。政府は孤独な弱者すべてを支援し、台湾が安全、安定、安心の美しい郷里となるようにする決意でおります。
両岸関係では、「海峡交友基金会」と「海峡両岸関係協会」は「92年のコンセンサス(「1つの中国」の解釈を各自が表明する)」の基礎の下で、十年間にわたり中断していた協議を再開し、両岸の対立状況を和解させ、平和の新局面を切り開き、東アジアの情勢を安定させたことにより、国際社会から評価されたのでした。我々は「台湾を主軸、国民にプラス」の原則を堅持し、政策の規制緩和による開放政策の指導の下で、週末チャーター便の運行、大陸旅行客の来台、小三通の拡大、中国大陸で創業している台湾企業の台湾株式市場へのUターン上場など、海峡両岸のために開放による安定した新局面を創出したのでした。
外交面では、我々は「のろし外交」をやめ、「活路外交」を主軸とするように改め、それにより中華民国の主権を護持し、既存の友好を堅固なものとし、対外的な実質関係を改善し、とりわけ台米両国の相互信頼を再構築し、双方の安全協力を増進させるようにしています。さらに我々は釣魚台事件(尖閣諸島で台湾の遊魚船が日本の海上保安庁の巡視船に接触し沈没した事件)も適切に処理し、これは台湾国民の公の正義と尊厳を勝ち取り、台日の「特別なパートナー関係」構築のためにも基礎を築いたのでした。また同時に、我々は一歩ずつ多元的な関係を発展させていき、さらに多くの国際組織と活動に柔軟性をもって参加し、より広い国際的な活動空間を獲得していきます。また、国防面では、「防衛固守、有効的な牽制」を原則として現代的な国防力を充実させ、志願兵制を一歩ずつ推進していき、軍人が「誰のために戦い、何のために戦うか」の信念を再構築し、国家の安全を確保していきます。
我々は台湾に対して強い自信があり、それは先の北京オリンピックのテコンドーにおいて蘇麗文選手が試合中11回も倒れてはまた立ち上がった奮戦精神や、「海角七号」の魏徳聖・監督の映画にかける夢を実践した勇気、明華園が台湾の歌仔戯(台湾オペラ)を世界の舞台に向けて広めていこうとする雄大な志および無数の夢を持ち、イノベーションを図り、台湾のために将来の人材を創出しようとしている努力、このような毅然として勇敢な「台湾精神」を至るところで示しており、これこそが、我々の最も貴重な資産であり、共同で奮起する力でもあります。台湾には最も勤勉で実務的な国民と世界に最も拠点を置こうとする企業があり、我々の経済体質は良好であり、産業の基礎は強固であり、奮闘精神は高く、台湾経済が再び立ち上がることに自信を持っており、台湾が繁栄する姿を再構築するものであります。
危機は勇者の挑戦であり、転換の契機でもあります。中華民国は97年間の歴史において、現在の苦難よりはるかに大きな苦境をこれまで克服してきているのです。我々はしっかりと地に足をつけて揺らぐことなく、アジアにおける経済の奇跡を創建し、民主主義の手本を確立していくようにしていきます。現在、我々は歴史上の転換点に立っており、比類なき勇気と知恵を堅持しつつ、共に奮闘し挑戦に立ち向かい、経済ショックを克服し、共に「子孫のために幸福を図り、全世界のために平和を築いていくものであります。」
最後に、中華民国の国運の隆盛を祈念すると共に来賓各位の健康とご多幸をお祈りいたします。
【総統府 2008年10月10日】
写真提供:中央社