馬英九総統がNHKのインタビューで釣魚台列島などの問題について語る(全文版)
馬英九総統は8月20日、総統府において「日本放送協会」(NHK)の単独インタビューに応じ、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)の問題について、「領有権は中華民国(台湾)にあり、争議の棚上げ、平和互恵、共同開発」の立場を改めて表明した。また、「台日双方は、話し合いを通して争議の解決を図り、それにより双方の友好関係を維持していきたいという所存であるが、釣魚台列島の問題を中国大陸と協力して処理することはない」と明言した。
最近、釣魚台列島が各国による争議を惹起させていることについて、馬総統は「わが国の一貫した立場は、釣魚台列島は中華民国の領土であり、台湾の付属島嶼である。この領有権の問題について、わが国は一歩たりとも譲歩するものではなく、この立場は確固としたものである。また、わが国の行政院海岸巡防署はこの4年あまりの間に、巡視船を10回出動させ、釣魚台列島付近の海域に赴き、台湾漁船の保護、保釣船(釣魚台列島の領有権を守る活動家の船)、研究船を保護してきており、わが国の漁業を守る任務は必ずや継続して行っていくものである。8月5日に私が提言した『東シナ海平和イニシアチブ』は、関連各国がいずれも自制し、緊張関係を緩和させると共に、争議を棚上げし、平和的方法により争議を解決することを願ったものである」と説明した。
その上で、「わが国は日本との関係をきわめて重視しており、4年前に私が総統に就任後間もなく、台日関係を『特別なパートナーシップ』と位置づけた。この間、台日双方の関係はこれまでの40年間において、最良の時期にあると言うことができる。しかし、日本政府は今日まで、釣魚台列島の争議の存在を認めていないことから、私は日本に対し、争議の事実を直視し、話し合いを通して、必要な場合には、国際法を用いて国際司法裁判所に提訴し、争議を解決するよう呼びかけるものである。また、これまでに16回開かれてきた台日漁業会談も引続き推し進めていくようにし、一定の進展があれば、衝突は必ずや軽減できるであろう」との見方を示した。
両岸間の平和協議締結の問題については、「わが国は中華民国憲法の枠組みの下で、台湾海峡の『統一せず、独立せず、武力行使せず(不統、不独、不武)』の現状維持、ならびに『92年のコンセンサス、1つの中国の解釈を各自表明(九二共識、一中各表)』の基礎の下に、両岸間の平和的発展を推進していくものである。台湾の両岸問題に対する基本的姿勢は、『急ぎのものを先に、その他の問題はゆっくりと・解決しやすい問題を先に、難しい問題は後から・先に経済に対処し、後から政治問題を話し合う(先急後緩、先易後難、先経後政)』であり、現在は平和協定調印の切迫性はない」と述べた。
また、中国大陸による継続的な軍備増強および領海権拡張などに対処する問題については、「わが国は、中国大陸の対岸軍備拡張状況を把握しており、さらには軍隊の編成および防衛実務についても疎かにしてはいない。また、『両岸和解の制度化』、国際社会における『ピースメーカー』と『人道的救済の提供者』としての役割を担う、『国防と外交のリンク』といった3つの防御線を通して、両岸関係の平和的発展を促していきたい」との考えを示した。
経済戦略のテーマについては、「わが国の目標は、『環太平洋提携協定』(TPP)に加盟することである。そのため、私は総統に就任後ただちに、中国大陸、日本、米国といった主な3大貿易相手国と経済・貿易協力関連の協議調印を推し進め、さらに、シンガポールおよびニュージーランドに対しても、わが国との経済協力協議調印への意向を表明した。韓国、日本、シンガポールなどの国々と比べ、わが国の経済協力協議調印への時期は約10年遅れている。そのため、シンガポール、ニュージーランド、さらには日本、韓国、欧州連合(EU)とさえも経済・貿易協力協議調印の方法を通して一歩ずつ、TPP加盟の条件を創出していきたい」と強調した。
総統のインタビューの内容全文は以下の通り:
問1:釣魚台列島(以下、釣魚台)の領有権を主張する香港の活動家たちが最近、釣魚台に上陸したが、現在の釣魚台の状況に対して、馬総統はどのような見方をしているのか
馬総統:わが国の一貫した立場は、釣魚台は中華民国の領土であり、台湾の付属島嶼である。行政区画上は、台湾省宜蘭県頭城鎮大渓里であり、清朝の時代には噶瑪蘭庁に属していたことから、昔から中国の領土であった。1885年(明治18年)に日本の山縣有朋・内務卿は、釣魚台を日本の領土に編入すると主張したが、後に日本は、この3つの島嶼にはいずれも中国により命名されており、琉球の古文書の中でも、それを中国の領土であるとしていることがわかった。そのため、当時の井上馨・外相は暫時、編入することはせず、「他日を待つことが宜しい」と決定し、これについては棚上げとなった。その10年後に中日甲午戦争(日本名:日清戦争)が勃発し、当時の清朝は1894年に大敗した。日本の内閣は1895年1月に、釣魚台を日本の領土に編入する決定を下したが、これは非公開の決議であり、対外的には公開されていなかった。実際の上でも、当時の釣魚台は中国の領土であったことから、この編入行為は秘密裡の不法占拠であり、国際法上でも適用されない。さらには、公告もないため、最初から効力は発生していないのである。しかし、3カ月後に『馬関(下関)条約』が調印され、その第2条に、台湾島および台湾島全ての付属島嶼は一括して日本に割譲すると規定された。そのため、これらの島嶼は1945年以降、中華民国へ返還すべきものである。我々はこれらの島嶼は昔から中国の領土であると認識しており、中華民国はこれらをわが国の領土として見ている。これが、なぜわが国が一貫してこの問題で、一歩たりとも譲歩しないのかということである。
基本的にはわが国の主張は、「主権は中華民国にあり、争議の棚上げ、平和互恵、共同開発」であり、わが国の領有権に対する立場はゆるぎないものであり、いかなる変化もありえない。しかし、わが国は、領有権は分割できないが、資源を分かち合うことができると考えていることから、各国のコンセンサスがある場合には、争議を棚上げし、それにより平和および互恵の方法で、共同開発することができるのである。
最近の日本および中国大陸で発生しているこのような状況について、我々は以前よりこのような状況が発生する予感があったことから、私は8月5日に「東シナ海平和イニシアチブ」を提言した。この主な内容は、関係各国が自制し、緊張を緩和させ、争議を棚上げし、平和的方法により争議を解決するよう希望したものである。そのため、領有権問題において、わが国の姿勢はきわめて確固たるものがあるが、関係各国が争議を棚上げしたいと願う状況の下では、平和的に話し合いを行い、いかにして共同で開発していくかを考えることができるのである。しかし、前提として、双方いずれもこのようなコンセンサスがなければならない。私はこの機会を借りて、日本の皆様にお伝えしたい。わが国は日本との関係をきわめて重視している。この数年間は、双方のこの40年来の関係において最良の時であり、わが国はこの関係が影響を受けることを望んでいない。そのため、我々は日本が争議の存在を直視し、双方が平和的な方法で争議を解決するよう日本側に呼びかけるものであり、これが恐らく唯一できることであろう。
国際関係における処理の上でも、平和的に争議を解決する方法は、そのほとんどが交渉、調停、仲裁、司法訴訟など4つであり、いずれの方法を採るにしても、国連には明確な規定があることから、平和的な方法を用いて争議解決を図るべきである。そのため、我々は8月5日に「東シナ海平和イニシアチブ」を提言した際にも、この方向に向けて努力していくことを希望した。
問2:釣魚台の領有権を主張する香港の活動家たちが先週、釣魚台に上陸したが、彼らは10月初めに再度上陸する予定であると公に発表した。馬総統が提言した「東シナ海平和イニシアチブ」とは、関係各国が自制し、対立を激化させてはならないとしたものであり、彼らのこのような行動は、馬総統が提言した(「東シナ海平和イニシアチブ」)の精神に反するものではないか
馬総統:彼らがこのような行動をとろうとするゆえんは、2日前に150名もの日本の国会議員および地方議会議員が大挙して釣魚台を訪れ(一部の人は)上陸し、島で国旗を広げたからでもあろう。当然、これら日本の当事者たちも、これは先ごろ「啓豊二号」のメンバーが上陸し、両岸四地(台湾、中国大陸、香港、マカオ)の旗を翻していたからであると言うかも知れない。しかし、(緊張情勢)は次第に高くなってきていることが見てとれる。そのため我々の最も重要なことは、ある国側に自制を求めるのではなく、関係各国すべてが、平和を重んじるべきであり、方策を講じ、平和的な方法で争議を解決すべきであると考えている。国際関係の上においても、国家間でこのような衝突がある場合には、臨時的な措置を採り、争議の緊張を緩和させ、その後時間をかけて、より一層効果的で長期的な対処を行うこともできるのである。わが国が提言した「東アジア平和イニシアチブ」は、関係各国が同時に行なうよう希望するものであり、一方だけが行なうものではなく、一方的に行なっても効果はないのである。関係各国がこのようなコンセンサスを持ってこそ、初めて効果が出るのである。
先ほど私は、釣魚台の領有権を主張(以下、保釣)する香港の活動家たちが、8月中旬に釣魚台に行ったことに言及したが、日本の地方自治体および中央政府が、釣魚台を私有化から国有化にしようとしていることに香港の活動家が刺激され、今回このような保釣行動を起したと考えられる。実際においても過去数年間に、とりわけ私が総統に就任以降、わが国の行政院海岸巡防署(以下、海巡署)は漁民保護のために、日本の海上保安庁の巡視船と10回ほど対峙した状況が発生した。その理由は、釣魚台列島周辺海域は台湾漁民にとり100年来の主要な漁場であり、彼らはその海域で100年あまりにわたり魚を捕ってきたのである。現在、その海域へ出漁できないとなると、彼らは当然打撃を受けることになり、政府に対して漁業の保護を求めてきたのだった。そのため、この問題は恐らくは、ただちにデモ行進を行なうといった方法で、解決できる問題ではないであろうことは理解できる。関係各国が方策を講じて、国際法、国際関係上許容できる平和的方法により、争議の解決を図るべきである。
本音を述べると、東アジア地域は6、70年前に勃発した大戦(中国抗日戦争)により、2,000万人あまりの人が亡くなった。我々はこのような歴史を再び繰り返してはならないと考えている。それゆえ、なぜ私が、『中日和約(日本名:日華平和条約)』発効60周年の日を選んで「東アジア平和イニチアチブ」を発表したかは、衝突の道を歩まないようにし、関係各国の指導者が、知恵を絞り、平和的方法で、争議の解決を図っていくべきであると希望したからであり、こうしてこそ、東アジアは真に平和の道を維持していくことができるのである。わが国はこの機会を借りて関係各国に対し、いかにして緊張を緩和し、自制し、争議を棚上げし、協力を求めていくかを考え、領土問題の争議により発生した緊張情勢を解決すべきであると呼びかけるものである。
問3:最近の台湾においても、保釣活動を行っている一部の人々が、再度の上陸を計画しているが、台湾のこれらの保釣活動について、馬総統は「東シナ海平和イニシアチブ」の精神と考え方にかなうものと考えているのか
馬総統:「東シナ海平和イニシアチブ」とは、「領有権は中華民国にあり、争議の棚上げ、平和互恵、共同開発」である。そのため、平和的なこの路線を歩もうとするならば、関係各国が釣魚台における争議の存在について、一方的でなく同時に理解するべきである。今日までの問題は、日本政府が釣魚台に争議が存在することすら認めていないことであり、これでは問題が解決するはずはない。台湾の漁民が釣魚台海域に出漁し、常に日本の巡視船に追い出されている。これこそが、わが国の海巡署が、同海域に出漁した漁民をなぜ保護する必要があるのかということである。しかし、我々がこの問題を「東シナ海平和イニシアチブ」に基づき解決しようとするならば、関係各国が一緒に行なう必要があり、我々が台湾漁民の出漁を保護しに行かないことを望むだけでは、台湾漁民に対して説明のしようがない。現実においても、この10年あまりの間に、わが国の海巡署は積極的に職務を遂行しており、日本の海上保安庁の巡視船と対峙する状況が発生するのは回避できないことである。もしこの対峙する状況を軽減させようと考えるならば、双方の政府は必ずや平和を念頭に入れ、臨時的な解決方法を考え、その後優先的に、全ての問題についてさらなる策を講じて解決を図るようにしていかなければならない。
世界各国で発生するこのような問題は、いずれもこの方法を採っている。そのため、わが国は関係各国が平和を念頭に入れ、臨時的な措置をとり、先に情勢を安定させた後に、長期的な方法を考えるよう改めて呼びかける次第である。最近私は、日本が韓国との争議について、国際司法裁判所に提訴すると提起したことに注目したが、これも国際法で許容される一種の平和的解決方法である。釣魚台の問題において、国際法および平和的方法を用いて争議を解決するという、同様のチャンスがあるか否かは未知数である。
最近我々は、日本の地方自治体である東京都、さらには中央政府が、釣魚台を私有化あるいは国有化しようとしていることを目にしているが、これらの主張は海峡両岸の保釣運動関係者を刺激させ、彼らに必ずや意見を表明し主張を提起しなければならない理由を探し出させるところとなったのである。それゆえ、根本的に処理するには、双方の当局がいかにして長期的に問題を解決することができるか考える必要がある。しかもこれより以前に、先に過渡的な方法により情勢を安定させていかなければならず、そうしてこそ東アジアの平和にとり重要な第一歩となるのである。
問4:馬総統の「東シナ海平和イニシアチブ」では、資源を共同で開発していくことができるようにしたいという呼びかけと考え方について言及している。現在停滞している台湾と日本の間の漁業会談について、馬総統はどのような期待と見方をしているのか
馬総統:(台日漁業会談)については、すでに16回行なってきたが、現在までに、大きな進展はなかった。もしこれらの問題を解決することができなければ、当然、多くの抗争的な行動が発生するであろう。日本政府がわが国と漁業協定において一定の進展があったならば、衝突の頻度は必ずや減少することができるものと確信している。
海洋の資源とは、漁業においては生物資源であり、無生物の資源では、石油あるいはその他の鉱物であることから、東アジア(地域)においては、日本と韓国、日本と中国大陸はいずれも漁業協定を締結している。欧州の北海(各国)においても、過去には石油問題による紛争が絶え間なくあったが、その後、話し合いにより解決した。現在、北海のブレント原油は世界の石油市場において、重要なプラットフォームとなっている。平和的に争議を解決することは、長期的な目で見ると、関係各国にとり最もプラスとなるのである。そのため、わが国は釣魚台の領有権について堅持するが、その一方で、関係各国のコンセンサスがある状況の下で、領有権の問題を暫時棚上げし、いかにして平和的方法を用いて開発に協力していくか共に研究することも歓迎しており、これは東シナ海の争議を解決する唯一の解決方法であると考えている。
重要な点は客観的に、この問題は争議が存在することを否認することはもはや難しいということである。関係各国は当然、領有権の問題において、いかなる譲歩もすることはできないが、私が述べた通り、関係各国がコンセンサスを持ち、暫定的に争議を棚上げすることもできないわけではないのであれば、話し合いの方法を用いて、平和的手段で争議を解決することができるのである。
問5:台湾は中国大陸と統一戦線の立場で、釣魚台の問題を処理することはあるのか
馬総統:わが国は中国大陸と協力して、釣魚台の問題を処理することはないと、すでに発表している。この問題はわが国との関係が密接であり、台湾東北角の宜蘭、基隆、新北市の漁民にとっては、釣魚台は歴史的にも100年来の漁場であり、わが国にとっての関係はいかなる国よりも密接である。さらには、釣魚台は明朝の時代からすでに台湾の付属島嶼であり、台湾との関係はいかなる国と比べても、より重要であることから、わが国は必ずやこの政策に照らし合わせて処理していく所存である。
問6:総統は今後10年間に、両岸の平和協議締結の可能性を検討したいと述べたことがあるが、今後の4年間の任期中に馬総統は、締結の目標に向けた関連準備を行なう、あるいはその可能性を展開することを希望しているのか
馬総統:わが国が4年前に両岸関係改善を始めた際の政策は、中華民国憲法の枠組みの下で、台湾海峡の「統一せず、独立せず、武力行使せず」の現状維持、ならびに「92年のコンセンサス、1つの中国の解釈を各自表明」の基礎の上に、両岸の平和的発展を推進していくというものであった。平和的発展のテーマにおいて、わが国の基本的姿勢は「急ぎのものを先に、その他の問題はゆっくりと・解決しやすい問題を先に、難しい問題は後から・先に経済に対処し、後から政治問題を話し合う」であり、長期的な計画において、平和協議を提起するものであるが、現在はその切迫性はない。わが国はやはり現在の歩みに基づき、一歩ずつ前進していくようにする。この4年間の発展から見ると、このような方法は、国民の期待に最もかなったものであり、両岸の発展にも最もプラスとなるものである。
問7:馬総統は平和協議締結には前提条件があり、とりわけ民意の支持はきわめて重要であると、かつて言及した。しかし、公民(国民)投票をクリアすることはきわめて難易度が高い。そのため、平和協議はその他の形式により、中国大陸と信頼関係を構築することになるのか
馬総統:両岸間が、真に平和発展を推進しようと考えるならば、必ずや相互信頼を確立しなければならない。過去4年間の発展から見てみると、今年8月8日~9日には両岸間において17番目と18番目の協議に調印した。これらの協議は非政治的なものではあるが、ある一定の条件を基礎とすることが必要である。たとえば、台湾は(中華民国)憲法の枠組みの下で、(台湾海峡の)「統一せず、独立せず、武力行使せず」の方向性(現状を維持)、また同時に「92年のコンセンサス、1つの中国の解釈を各自表明」の基礎の上にといったことを採っており、これは実際には、重要な政治的な協議である。「92年のコンセンサス」は20年前にすでに確定しており、「(台湾海峡の)統一せず、独立せず、武力行使せず(の現状を維持)」は私が就任後に提起したものである。(中華民国)憲法の枠組みの下で、このような政策を推進することについて、これらは平和協議ではないが、両岸の平和維持にとり重要な役割を発揮したのだった。そのため、わが国は正式に平和協議を調印しようとすることについては、国として重要であり、高い民意の支持があり、国会の監督の下で進めていくことができるよう希望している。高い民意の支持というものは、我々の解釈では、国民投票を経る必要があり、重要なことは、このプロセスを踏んでいない場合、この支持力は十分なものではないであろう。また、18項目の協議への調印というものは、実際には海峡(両岸)にとり、この60年間において最も安定し、平和な時期が表れたことであり、この平和協議については、その他の方法により目的を達成することができることを示している。
問8:今秋、中国大陸の最高指導者は世代交代となり、習近平氏が中国共産党総書記になると予定されている。馬総統は、新しい最高指導部が組織された後、台湾と中国大陸の関係はどのように変化すると見ているのか
馬総統:今年10月に中国大陸では、中国共産党第18回全国代表大会が開催され、最高指導部の再編が予定されており、我々は関連する展開について一貫して深く注視している。以前より我々の認識では、両岸関係のこの4年来の発展は、基本的には台湾と中国大陸の利益にかなったものであり、これは互恵互利であることから、双方が一貫して努力し前進していく中で、(現在は)中国大陸の最高指導部が基本政策を変えるようには見受けられない。とりわけ、習近平氏は以前、福建において長いこと実務に携わっており、台湾に対する状況について深く理解しているであろう。今後、きわめて大きな変化はないと確信しており、台湾は海峡両岸の関係が安定且つ繁栄した基礎の上に、引続き前に向かって邁進していくことを期待しており、これは今後の中国大陸指導者に対する我々の期待でもある。
問9:現在、中国大陸は引続き軍備増強と領海権の拡張を図っており、周辺国との摩擦も増加している。中国大陸の脅威について、台湾はどのように対処していくのか
馬総統:実際の上でも、海峡両岸の軍事バランスは2005年以降、すでに中国大陸側へと転じている。中国大陸の軍備は過去10年あまりの間、毎年20%近くの速度で成長しており、これらの状況については、わが国も把握している。我々も台湾が中国大陸との関係改善のプロセスの中で、平和的繁栄を努力して促進していくものであるが、軍隊の編成および防衛実務を疎かにするものではないことも理解している。それは国防が、台湾の今後の生存および発展の基礎となるからである。しかし、わが国の戦略はそれを第一線に置くものではない。中国大陸との関係において、第一線はやはり、「両岸和解の制度化」であり、継続的な相互の往来と交流により、相互の敵意を軽減するようにし、中国大陸当局が安易に非平和的な方法で両岸の争議を解決しようと考えないようにすることである。我々はこの4年間に多くの争議に対し、話し合いにより解決することができ、これにより双方も信頼感を確立し始めたのである。次に第2の防御戦となるのは、台湾も「ピースメーカー」「人道支援の提供者」として国際社会において重要な役割を担うことが必要であり、これらの役割は台湾の国際社会に対する貢献を増やすこともできるのである。第3の防御戦、これこそが、「国防と外交のリンク」である。
台湾はこれらの問題に対処する際に、きわめて慎重であり、両岸関係の改善を理由に国防を疎かにすることはない。しかし、最も重要なのはやはり、いかなる衝突の発生をも予防することである。私が最近主張した「東シナ海平和イニシアチブ」も同様であり、紛争が発生してから解決を図るようであってはならない。この時にはすでに傷ができてしまっているのである。双方はさまざまな平和的方法により、発生するであろう衝突を予防すべきであり、これは東シナ海あるいは両岸において、いずれも同じ原則である。
問10:東アジア各国は現在積極的に、「自由貿易協定」(FTA)への調印あるいは、「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)への加盟を行なっており、経済自由化促進を願っている。台湾はこの面においては大幅に遅れをとっているようであり、ほとんどの国々は中国大陸に対して一定の懸念を覚え、躊躇している。馬総統はどのようにしてこの現状を変えようとしているのか
馬総統:わが国は、主な貿易パートナーである1位の中国大陸、2位の日本、3位の米国などと、経済および貿易関連の協定への協議・調印の時期については、きわめて遅れをとっており、2010年になりようやくスタートした。韓国、日本、シンガポールなどを含め、先ほど質問の中で挙げられた東アジアの国々は、ほぼ2000年あるいは2001年より協議・調印が始まっている。わが国はこれらの国々と比べ、約10年遅れをとっている。そのため、私の総統就任後、ただちに最も大きな貿易パートナーである中国大陸と「両岸経済協力枠組み協議」(ECFA)に調印した。しかも、2年前に調印したのはアーリーハーベスト(先行実施項目)であり、全体のほぼ20%を占めているのみである。現在、我々はそれ以外の80%について、迅速なる調印実現を図っており、これによりシンガポールおよびニュージーランドなどの国々と、経済・貿易についての話し合いをスタートすることができるのである。
わが国が日本と「台日投資保障協議」に調印したのは、2011年9月のことであった。日本から台湾への投資はすでに60年の歴史があるが、なぜ以前にはこの協議が調印されなかったのか考えていただきたい。これも台湾が中国大陸とECFAに調印後、経済全体の状況に変化が生じたからである。また同様に、シンガポールやニュージーランドもこのような状況の下で、わが国とこれらの問題について話し合いを行うことを望んでいる。台湾は現在、その他の国々とも多方面での話し合いを行なっており、一歩ずつ協議・調印を行なっていくことになる。質問内容の通り、これらについてのわが国のスタートは、遅れをとっている。しかし、早急に進度を速めていきたい。わが国の目標は、質問の中で先ほど述べられた通り、TPPへの加盟を希望している。しかし、現在はまだこの条件が揃っていないことから、我々はこれを目標と定め、国内全体が一致協力し、この条件を創出し、台湾がシンガポール、ニュージーランド、さらには日本、韓国、欧州連合(EU)とさえも、経済・貿易協力協議に調印できるよう希望しており、その暁にわが国はTPP加盟のチャンスが大幅に増大することになるのである。わが国は、数カ月にわたる努力を経て、米国の輸入牛肉の問題を解決しており、米国とも早急に経済貿易面での話し合いを再開したいと希望している。そうなれば、中国大陸、日本から米国までいずれも進展し、台湾が遅れをとった幅も縮小されるものと確信している。しかし、追いつこうとするのは本当にたやすいことではなく、やはり台湾は他国より10年間遅れをとっているのである。
問11:馬総統が言及した中国大陸とのECFA調印は、FTAを調印したことに等しい。しかし、現在、中国大陸の経済発展は活力がやや減退しているようだが、貿易自由化発展の過程の中で、現在の状況にどのような影響があると考えているか
馬総統:中国大陸の経済発展が緩やかになったことにより、わが国の歩みに影響があることはない。貿易自由化はECFA調印の後続面において、重要な柱である。つまり、両岸(香港を含め)間の貿易総額は2011年に1,600億米ドルに達し、台湾と中国大陸は自由化および関税減免の部分では20%のみにとどまっているが、現在はこれによる効果が現れてきている。とりわけECFAのアーリーハーベストに盛り込まれている物品は、まだ盛り込まれていない物と比べ輸出の成長が速い。そのため、台湾は引続きECFAの後続部分の調印を必ずや達成させるようにしていく。現在は全体の五分の一の物品について調印したのみであり、後続部分の調印達成後、台湾はシンガポール、ニュージーランドおよびその他の国々と一歩ずつ進度に追いついていくようにする。台湾のスタートは遅かったが、我々が追いつく足取りを速めさえすれば、台湾のスタートの遅さによりもたらされる傷は軽減できるものと信じている。また、台湾は中国大陸の経済減速傾向を理由に調印を行なわないことはなく、かえって、より一層調印を必要としている。それは、経済・景気は循環するからである。現在は景気がやや下降しているはいるが、今後上昇するかもしれない。台湾は周辺諸国より10年遅れていることから、我々は早急に基礎的なプロセスを成し遂げるものであり、いかなる先延ばしや猶予の余地はない。
問12:多くの民意調査において、台湾人の多くが日本に対して親近感を抱いていることが示されており、台日関係は良好であると思う。馬総統はどのようにして台日関係を発展させていこうとしているのか、具体的には、どのような分野の協力において、ウィンウィンとなるのか
馬総統:わが国の国民は日本とのさらなる関係改善を望んでいることを実感している。日本はこれまでにいくつかの懸念があったが、昨年になりようやく双方間で、「台日投資協定」に調印した。現在までに、日本は双方の自由貿易協定あるいは経済協力協議について、最終的な決定をしておらず、我々はこの分野で一定の進展を希望している。次に、日本の国会で『海外美術品等公開促進法』案が可決され、台湾の国立故宮博物院文物の日本での展示をする際の障害が取り払われるところとなったことに我々は感謝している。2年先の両国における文化交流の実現、すなわち、中華民国の故宮博物院文物の日本での展覧会を希望している。また同時に、日本の規模の大きな博物館の文物も台湾で展示することができるよう希望している。これは、双方の文化交流にとり大きなプラスとなる。
経済および文化交流のほか、台日間ではその他の分野においても協力できる点が数多くある。台湾と中国大陸がECFAに調印以降、日本企業の多くが台湾に投資し、台湾で生産後に中国へ輸出することを希望している。科学技術の協力においても引き続き前に向かってまい進している。特に観光面においては、2011年に日本から台湾を訪れた旅行客がこれまでの記録を更新した。今年上半期に、台湾から日本を訪れた旅行客数も急速に成長しており、昨年同期比で約49%増となった。日本から台湾への旅行客数も約21%増となり、双方の観光交流にはまだ大きな発展の余地がある。2011年に台湾と日本は『航空自由化協定』にも調印し、羽田空港および成田空港のほか、その他の2路線の都市空港も全面開放となり、尚且つ機体および便数も制限を受けることがなくなった。たとえば、台南は石川県金沢市とチャーター便の運航を開放した。これは良好な発展であり、我々は引続き努力し、双方の関係がより前に向かってまい進するよう図っていく所存である。
私はこの4年間、中華民国と日本との関係を「特別なパートナーシップ」と位置付けてきた。双方は正式な外交関係はないが、非政府間の往来はきわめて密接である。例えば、日本の北海道札幌に駐日代表処の分処設置、「ワーキングホリデー協定」の調印、故宮文物の円滑な日本展示のための日本の国会における関連法案の可決などである。また同時に、日本に居住する台湾の国民へのさらなる多くの尊重(居留カードの国籍欄に従来の「中国」表記から「台湾」へと変更)もあり、台湾と日本との関係はこの40年間において最良であると言うことができる。私が総統就任当初、日本の一部の方々は、私を「反日派」であると見ておられたが、私が「友日派」であることが今ここで証明されたと思う。
しかし、友人間においても争いはあるものであり、最も重要なことは、皆が誠意を出し合い、平和的方法で解決を図ることであり、これは友人同士の付き合いの道である。歴史的な恩と恨みについては、私は一貫して、「恩と恨みを明確に分け、事実は事実として、それ自体を評価する」の姿勢を堅持していくものであり、中華民国と日本の今後の関係も、友好関係および協力を基礎とし、互恵互利の関係を発展させていくようにしたい。
【総統府 2012年8月21日】
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