「台湾資料」展、期間を延長し開催中
日本統治時代、台湾の先住民の言語や文化について調査研究した二人の言語学者が残した資料を公開、展示した「台湾資料」展が先月、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で開催されました。テキスト、音、映像などを通して当時の台湾社会の様相が詳しく紹介され、予想を上回る反響がありました。そこで、東京外国語大学では開催期間を延長することを決め、4月28日まで開催中です。同展の開催目的や意義について、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の三尾裕子さんから、以下の文章を寄せていただきました。
……………………………………………………………………………………………
台湾に生きる人々へのまなざし
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所主催『台湾資料』展から考える
三尾裕子
先月東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(以下、AA研)で行われた「臺灣資料:テキスト・音・映像で見る台湾~1930年代の小川・浅井コレクションを中心として」と題する展覧会(通称『台湾資料』展)は、私たちに台湾の過去から現在を考える多くの手がかりを残してくれた。展覧会は台湾の報道機関の関心をも呼ぶ好評で、この四月十五日から二八日まで再度開催されることになった。
『台湾資料』展の目的は、以下の二つである。(一)主に小川尚義・浅井恵倫両教授(ともに旧台北帝国大学言語学教室)の収集による台湾原住民に関する資料を公開して、一九三〇年代を中心に日本の言語学者が行ってきた台湾原住民研究、当時の台湾社会の諸相を明らかにすること、(二)本研究所所蔵資料と現在の台湾の人々にとって身近なアイテムとを通して、今日の台湾社会を考える機会を提供することである。
小川と浅井の残した資料は、日本植民地期の台湾において、既に消滅あるいは消滅の危機に瀕していた言語や文化についての一次資料である点で比類なき価値がある。実は、これらの資料は、一九七〇年にAA研が譲り受けたのだが、手書きのノート類、撮影地点などの解説の不十分な写真や動画、音源が多いため、書籍以外は整理することもままならなかった。ところが、数年前、台湾の中央研究院語言学研究所の李壬癸教授が、これらの資料を研究に利用するために来日され、ようやくノート類の整理と分類が始まった。また、近年長足の進歩を遂げている情報処理技術を駆使して、AA研では約四年の歳月をかけて、全資料のデータベース化を完成させた。平行して、李教授や土田滋教授(平成帝京大学)などによって、パゼッへ語の辞典、ファボラン語の語彙集なども出版され、台湾の貴重な文化遺産がよみがえった。今後もバサイ語などの研究や、原住民言語教科書から見た日本による台湾統治の実態解明などの成果が期待される。
さて、台湾原住民は、清朝期以降、漢族、日本などに同化を迫られ、独自の言語や文化を徐々に失ってきた。しかし、一九九〇年代に入り、台湾の民主化とともに、原住民の権利回復運動が勃興している。本展では、今日の台湾原住民が、研究者などが残した記録や日本が構築したインフラという「過去」を利用して、力強く自らの文化や言語を蘇えらせ、そこに新たな息吹を吹き込もうとしている姿を見ていただくことに努力した。
今回の展覧会には、もう一つ隠れた意図がある。最近中国では「反国家分裂法」が全国人民代表大会で可決され、また中国国民党の訪中団が中国のトップクラスの政治家と会談する、といった動きがある。台湾は、中・米或いは日本を含む国際的な政治力学に基づく均衡の中で危うい安定を維持してきた。しかし、国際政治の力学からは、台湾に生きる人々の意思や世界観は全く見えてこない。かつて台湾を支配し、彼らの生活の細部にまで関与してきた日本こそ、こうしたマクロな政治ゲームの中で忘れ去られた、台湾に根ざして生きる人々の視点を汲み取り、彼ら自身が自らの将来を選び取れるような国際環境を作ることに貢献できるのではないだろうか?本展から見えてくる台湾の人々の姿が、台湾をまなざす私たちの視線を少しでも変えることに役立つことを願う次第である。
日時:2005年4月15日-28日 午前10時-午後6時(土日休) 入場無料
会場:東京外国語大学AA研1階 〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1
問い合わせ先:「台湾資料展」制作実行委員会事務局
e-mail:gicadj2@aa.tufs.ac.jp
tel:042-330-5608 fax:042-330-5607
ホームページ http://www.gicas.jp/taiwan/