新刊紹介:『私のなかのよき日本』~台湾駐日代表夫人の回想五十年


新刊紹介:『私のなかのよき日本』~台湾駐日代表夫人の回想五十年

 「一九五五年、十八歳の私は国際基督教大学(ICU)に留学するために、はじめて日本にやってまいりました」とのまえがきで始まるこの本は、日本における台湾の外交窓口機関である台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)の許世楷(コー・セーカイ)駐日代表の夫人、盧千恵(ロー・チェンフイ)さんの筆によるものだ。

 まえがきは、「それから三十数年、台湾の独立と民主化運動にかかわったことから国民党政府のブラックリストに載せられ、台湾に帰ることができませんでした」と続く。なんと、かつて「ブラックリスト」に載せられた夫婦が、いま駐日代表と代表夫人を務めている。盧千恵さんはどんな女性で、台湾とはいったいどんな国なのか。

 ICUの四期生として日本に留学し、卒業後に助手として大学に残った盧千恵さんは、早稲田大学に留学してきた許世楷青年と知り合う。台湾を思う心に共鳴した二人は、台湾の民主化を求め、台湾独立運動と係わるようになった。その活動によって1962年に当時の中華民国大使館からパスポートを没収され、台湾に帰れなくなってしまった。

 当時の台湾は戒厳令の真っ只中、苦難の時代を台湾のために許世楷・盧千恵夫妻が正義と信念を貫き通せたのは、日本で影から支えてくれた厚い友情があったからだった。その間にも盧千恵さんは政治受難者の救援活動や渡米して「独立運動の声」アナウンサー、「台湾公論報」の記者などを務めた。

 1972年に許世楷氏が日本で書いた「台湾共和国憲法草案」が、戒厳令が解かれて間もない台湾で鄭南榕氏が主宰する「自由時代」という雑誌に掲載され、それが引き金となって「叛乱罪」に問われた鄭南榕氏は100%の言論の自由を求め、壮絶な焼身自殺遂げる。この事件がきっかけとなり、世論が高まり、1992年に刑法100条(内乱罪)が改正され、言論の自由が確保され、ブラックリストが解除され、許世楷・盧千恵夫妻は30数年ぶりの帰国を果たす。

 台湾に帰国後、盧千恵さんは玉山神学院、台湾文化学院などで児童文学を教えていた。ところが、2004年、突然「大使」夫人となって再び来日することに……。台湾は時代も政権も変わり、民主的な国となり、新憲法制定は政府の目標となっていた。

 いま盧千恵さんは駐日代表夫人として、「東京フォルモサ婦人会」の会長を務め、代表処の女性職員と館員夫人らをまとめ、台日交流に励んでいる。

 本書第一章では、台湾人から見た日本の魅力と、日本人に見てほしい台湾の魅力が非常に簡潔かつ豊富にまとめられていて、そこには台日両国への親しみが湧いてくる。盧千恵さんの女性らしい優しい語り口調から聞く、台湾と日本の交流は、こんなに温かいものなのかと感じられることだろう。

 そして、本書の最後を盧千恵さんはこう締めくくる、「たとえ嵐が吹き荒れていても、海の深いところでは、水は変わらぬ速さで流れていると言います。表立った政治的な波とかかわりなく、深い海のなかの水のように、台湾と日本の親しい関係を、途絶えることなく繋げていくことができればと、自らのなかに日本的なるものを発見した私は切に願っております」と。

『私のなかのよき日本』~台湾駐日代表夫人の回想五十年
著者:盧千恵…ロー・チェンフイ
出版社:草思社 
定価:1600円+税
2007年4月16日 初版発行

《2007年4月17日》